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マッドティーパーティーへようこそ
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話は一段落した。
ふう、と男爵は一つ息をついて指をぱちりと鳴らした。すると町の往来にテーブルと椅子が人数分出現した。
男爵は誰に気を遣うこともなく椅子に腰掛け、くつろぎモードだ。
元々町へは復元のためにやってきたのだが、それはすでに天山大剣の手で成されている。
ということはもはや男爵にこの町でするべきことはない。
「どうぞ、おかけになってください」
「あれ、
ティシューいたんだ」
と、天山大剣が言った。
控えていたティシューが君の椅子を引いた。促されるまま君は腰掛ける。
「おりました。しかしご主人様の会話を遮るようなふるまいはできませんから沈黙しておりました」
ほとんど男爵しか発言していなかったが、そもそも
マイルスとともに旅人が同伴しているのだからいて当然である。
旅人のお世話はティシューの役目なのだから。
「それじゃうちもご相伴にあずかろうかね」
客分扱いのマイルスが男爵の用意した椅子を自分で引いて座った。位置は男爵と君の隣といったところである。
ティシューはテーブルの下からカートを引っ張り出し、ティーセットを取り出した。
ちなみに町に同行しているのはマイルスとティシューと旅人だけである。
ポットは2つ。片方には湯が入っている。
もう片方は空っぽで、ティシューはそれに茶葉を入れ湯を注ぎ煮出す。
カップを並べる。湯を注ぎカップを温める。煮出したお茶はしばらく蒸らす。
「お茶会するの? いいなあ」
「席は用意できるぞ。なんだったら降りてきたらどうだ、ちょうど私も見上げるのに首が痛くなってきたところだしな」
天山大剣のつぶやきに男爵はそう答え、もう一つ椅子を用意した。
「けらけら、それは悪いね。けどせっかくだけど遠慮しておくよ」
「そうか」
男爵が誘うも天山大剣は短くも明確に拒否。男爵は席を残しはしたものの、さらに誘うことはしなかった。
そういえばと、君は目覚めた初日に男爵と最初に食事をしたときのことを思い出した。
今男爵はあろうことか指ぱっちんで人数分椅子を用意し、さらに追加までしてみせた。
こんなことができるならば、あのとき食堂でティシューを四つん這いにさせる必要はなかったんじゃないのかと思った。
「男爵指ぱっちんで家具出せるの?」
「『
ボックス』に納めてる分ならな」
「じゃあなんできのうティシューを椅子にしたの? 男爵の趣味?」
「それもあるが旅人の反応を見るのが目的だっただけだ」
天山大剣が質問することで君の疑問の回答になった、だからといって納得できるかどうかは別だが。
ティシューが茶をまず男爵の前に置いた。続いて君の前に置く。
「どうぞ、熱いのでお気をつけください」
と言い、次にマイルスの前に置いた。
「熱いので気をつけてくださいね」
するとマイルスはお医者さんカバンから、医者の七つ道具の一つ、ストローを取り出して口にくわえた。
そして自らの頭をカップに近づけるという、何とも行儀の悪い体勢でお茶をすすった。
「アイスのほうが好みなのでね」
と言ってもお茶は煮出さないことには始まらない。
男爵はティシューの立てたお茶に対して手をかざし術を行使して冷やす。お手軽にアイスティーにして一息で飲み干す。
「まずまずだな」
そう言いながら男爵はカップを差し出した。ティシューがそれを受け取り、注いで渡す。
そしてティシューはカートの中から焼きたてのカップケーキと小さな皿(ソーサー)を取り出す。
「ティシュー。それを配ったらお前もくつろぐことを許可しよう」
「はい、かしこまりました」
皿の上にケーキを置いて順番に配り、自身も着席。
一番下座、君の隣だ。
自分の分のお茶に手を伸ばし、カップのぬくもりに手を温める。それはいささかティーカップの正しい持ち方ではないが咎めるものはいない。
他ならぬ主がくつろぐことを許可したのだから。
男爵は口を大きくを開けてぱくり。もごもごとまるで子どもみたいに頬を膨らませて味わう。
マイルスは、お医者さんカバンからメスと鉗子を取り出して細かく切ってちまちまと長く味わう。
ティシューは、両手でケーキを持ち上げ、そのふんわりとした見た目や甘い香りを楽しみながら、少しずつ味わっていた。
そんなティシューの表情は、まるで「休め」を命じられた『軍人』のように緩んでいる。
リラックスしたティシューの表情は喜色満面、館で見たものとはまるで違い、まるで少女のようだった。
とは言ってもティシューは満年齢にして16歳。花も恥じらうお年頃なのだが。
「ところでふと疑問に思ったことがあるんだけどさ、ティシューに質問」
とつぜん天山大剣がそんなことを言い出した。
視線がティシューに集まるが、当のティシューはむきゅむきゅと租借中。私に? と言わんばかりに首をかしげた。
質問の心当たりはありません、と言わんばかりにふるふると首を振りつつ、紅茶をひとくち含み、口内を潤す。
質問ってなんなのでしょうか、とティシューが思いつつ口内のお茶を飲み込もうとした、その時。
「ティシューって生娘?」
「ぼはっ」
ティシューが盛大に吹いた。
「げほっ、げほ、げほっ。い、いったい何を聞くのかと思ったらなんてこと聞くんですか!」
含んでいたお茶を、口やら鼻から吹き出してテーブルを濡らす。椅子を蹴飛ばして立ち上がる。
「あーあー、はごーさぬ」
マイルスがそんなことを言って医者の七つ道具からガーゼを取り出してふきふき。
「ああああ、すみませんんん。私がやります」
「いいっていいって、それより質問に答えなよ」
「えっ」
ティシューの顔が、さっきまでの喜色満面から一転、茫然自失に陥った。
「答えなきゃダメですか? え? え?」
ティシューが男爵を見る、男爵はあまり興味がなさそうにケーキを頬張っていた。
ティシューが君を見る、しかし君はそれに対する助け船は出せそうになかった。
「え? ちょ……え? なんなんですかこの状況」
しかもこの会話は町の住人に筒抜けである、男どもが耳をそばだてている。
「いやああああああなんでええぇぇええええ?」
「いや、知りたい人がいると思って」
町の男衆がうなずいているようだ。
「だってティシューお年頃だし、そういう関係の人はいないのかなって。あるいは男爵のお手つ「家具に欲情する人間はいるまい」になったり。ふーん?」
天山大剣の発言を、男爵はなんともない口調で否定した。
男爵にとって
メイドは所有物でありペットであり道具でありアクセサリーのような認識らしい。
「ティシューの容姿は整っているし美人の分類に入るだろうが欲情はせんよ。少なくとも私はな」
男爵がきっぱり断言したことで、町のあちこちからちらほらと「いよっしゃああああ!」と喜ぶ男の声が聞こえた。
他ならぬ男爵のお墨付きだ、これを超える説得力を持つ言葉などあるはずがない。
ちなみに現在積み木の城で暮らすメイドで、町の男に二番目に人気があるのはティシューなのだ。
その容姿もさることながら、被服室の長という立場もあるし、その立場上町に来ることも
ベルウッドに次いで多い。
ヴァンデミールは防衛の要なため外出はあまりしない。
ベルウッドは人気はあるが、幼い上に色気より食い気で野菜にしか興味がない。
ちなみに一番人気は
シャワータイムだ。その理由は彼女が給湯室、いわゆる浴場の管理人だからである。
「はぁ、はぁ、はぁ。えっと、すいません頭が混乱してて、えっと、あの、その、はぁ、はぁ」
「息が荒いよ、興奮してるの?」
「ティシューは好き者だからな。もしもティシューが男をとっかえひっかえだとしても私は全然驚かんよ」
「私だって相手は選びますよ! あ、申し訳ありません……」
思わずティシューは声を荒げたが、主にしていい発言でもなかった。すぐさましゅんと萎縮して縮こまる。
しかし休んでいいと言われたのにこの仕打ちとは、ティシューにとってはとんだ災難である。
「だから好奇心なんだってば。それでどっちなの?」
「その話まだ続けるんですかぁ……?」
ほんの数分足らずのやりとりだが、ティシューは一日働いたあとのような疲労感に包まれていた。
今すぐ帰りたい、しかし旅人を置いて帰るわけにもいかない、そもそも男爵がそれを許さないだろう。
ティシューにとって男爵は命の恩人であり、保護者であり、支配者だ。
相手を選ぶとティシューは言ったが、普段の男爵からの扱いは慣れていて嫌ではないが、不特定多数の人間にこのような醜態を晒すことに関しては戸惑いが勝る。
そして、そんなティシューに追い打ちがマイルスから放たれる。
「何でそんな答えかんてぃーしてんの。言えばいいじゃん、減るもんじゃないし」
「だって恥ずかしいじゃないですかああぁぁ」
確かに答えるだけでは減ることはない、減らないけど恥ずかしいものは恥ずかしい。
「あんたが答えにくいならあたしが言ってあげよか」
「えっ、ちょ、ま……」
「生娘だよ」
待って、と言う間もなくさらりと曝露。唖然とするティシューと、そしてこれまで以上の男たちの歓声に町の大気が激震した。
「な、なんで知って……あ、いや。えっとその、何が私が断言できるって証拠ですか!」
語るに落ちたようなティシューの支離滅裂な発言に、マイルスはさらりと言い放つ。
「なんでって、あたしは『医者』だよ?」
男爵のお墨付きを上回るほどの説得力だった。
「さて、長居するのもなんだしそろそろぼくは去るよ。最後に話したいことはあるかな」
思うままにティシューをいじって満足したのか、テーブルに突っ伏すティシューを無視して天山大剣はそう言った。
「結局なんで私は曝露されたんですかぁ?」
「さっき言ったようにただの好奇心だよ」
「そんなぁ……」
犠牲となったティシューは、優良物件であることを男爵と医者のお墨付きをもらえたのはいいことか悪いことか。本人は羞恥に耳まで真っ赤にしている。
頭には白いフリルのメイドカチューシャがゆらめき、男爵自らの手で「好評発売中」と魔術文字で書かれている。ティシューには消せない。
もっとも、着用を義務づけられたわけではないので館に戻って取り替えればいいだけなのだが。
「そうだな……ではティシューにふさわしい男はどんなやつか話そうか」
「もうやめてくださいいいぃ……相手は自分で見つけますからあああぁ……」
男爵の発言にティシューは突っ伏したまま懇願した。男爵は笑って話題を取り下げる。
「では別の話だ、そうだな……科学と魔術について話そうか」
Q:科学のメリット、魔術のメリット
「『誰にでも、何処ででも』の科学と違い、血統や才能に依存する魔法使いや魔術士は選民思考に陥りやすいね」
「力のある者が支配するのは当然のことだろう」
それはあちらの世界でも同じことだ。
「そうするとその能力を持つ者が居なくなってしまうとただそれだけで構築された世界は破綻してしまう。 男爵の居るこの町が男爵が居なくなると町としての体裁を保てなくなってしまうようにね」
「勝手にできた町だ、私の与り知るところではないな」
「町には元メイドの人やその子供達もたくさんいるのに?」
「それらは元メイドだ、メイドではない。納得済で出て行ったのだからその後のことは私には関係ない」
ちなみに今男爵がいる場所は町のほぼ中心で、この会話は町全体に聞こえるようになってるのだが、町を見限るのに一切躊躇しない発言をした。さすがである。
「そもそも一人の人間が居ないと成り立たないような町は早々に滅んだ方がマシだろう」
「ん?能力のあるものが支配するのは当然ってさっき言わなかったかい?」
1つの力で維持している状況というのはきわめて危うい。
それはたとえるなら細い糸の上で綱渡りをしているようなものだ。
それを続けるくらいなら、さっさと断ち切って地に足をつけたほうがよい。
「……問題は構築された世界の破綻ではないな。天山大剣」
「どういう事?」
「能力のある者が支配するのは当然のことだが、そうするとその者の存在に世界が依存する。衣食住をそれに支配されて、奴隷の如く存在に成り下がってしまう事が問題なのだ」
「メイド達のように?」
「そうだな、まぁそれも納得ずくで従っているのだ、不満ならいつでもやめたらいい」
そう言って男爵はティシューを示した。好評発売中はなにもティシューだけではない。
「そうして出て行った者達が町に居ると?」
「さてな、私には貴様のようにいつも人の心を読んでるわけでもないのでな、全ては把握してないしあまり興味もない」
「ふぅん、今ちょっと読んでみたけどべつに不満で出て行ったわけでもないみたいだよ」
「そうか」
「興味なさそうだね、話題を変えよう。あちらの世界の強さについて」
「『誰にでも、何処ででも』の科学のことか、興味深い」
Q:あちらの世界の人間は
「さっきも言ったけれど、あちらの世界にも男爵のように魔術でもって奇跡を起こした人はたくさんいる。それでも彼らは独りなんだ。持たざる者の方がたくさんいる。そして、一番重要な事は、それは天敵がいないと言うことだ」
「おおかた予測はついていたが。こちらで言う魔獣のようなものは居ないのか」
魔獣とは世界のいたるところに生息する生き物だ。数が多いしどこにでもいる。
穏やかな草原にも、荒れ狂う嵐の海にも、枯れ果てた不毛の大地にも、険しく連なる霊峰の果てにも。
どれもこれも人に対して敵対行動をとるかといったらそういうわけでもないのだが。
冒険者という存在が受け入れられているのも魔獣に対抗するために必要不可欠だからだ。
男爵ほどの実力者が100人や200人いたところでどうしようもない、魔物の支配領域の規模が大きすぎる。
「居ないよ、さらに言えば亜人種も居ない、知能を持つ動物は人間だけだ」
「人は魔力を持たぬ進化を選択した。その進化の道は他の人種の台頭を拒んだ。おおかたそんなところか」
それは必要なかったからだ。
この世界では慢性的な人手不足。
冒険者ギルドがその門戸を広く開放しているのは前述した魔獣に対抗する人材の確保のためだ。
こちらの世界ではかつての実力者が使い魔として動物たちに人の身を与えた。人の身を与えられた獣たちは、そして子を成し確固たる種族として今の繁栄を築いている。
ベルウッドのようは『半獣』はそうやって人の姿を与えられた獣の子孫だ。
「神話にもあるよね。神々の恩恵は人にしか宿らなかった。その恩恵を身に宿した人々が、共に立ち並ぶ同胞として、虎目や牙狼を選んだのさ。ちょっと話がずれてきたかな、元に戻そう。
たまに人とおしゃべりをすると、ついつい楽しくて余計なことまで喋ってしまうよ」
「だが脱線がひどいな、この会話を文章にしたら読者に『こいつらはなにを喋ってるんだ』と思われかねないぞ」
「そうだね、要点だけまとめて話すとしよう。そろそろ話を切り上げないと|ブラウザバックされ《壁に投げつけられて》てしまいそうだ。まあ今更だけど」
「なんの話だ」
「こっちの話さ。
さて、あちらの世界。地球と呼ばれる青き惑星を中心とした世界には百を超える国々が大地にへばりついて生活をしている。国を作った生き物は人間、人間はマナを使わない進化を選択した。
血統や才能に依存する魔術ではなく、練習次第で誰でも使える技術と科学による発展の道を選択した。
そして今、万能の科学は高速で大地を走る車と、空を駆ける飛行機と、海を泳ぐ船を造り出した。
それは、馬のように速く走ることのない人間が、鳥のように空を飛べない人間が、魚のように海を泳げない人間が。それでも誰もが何処へでも行けるようにと編み出された技術。そして、人々は残すべき種の選択肢を増やすことにした。
選択肢の増加、それは種の保存として遥かに大きな意味を持つ。たとえば、狩りもできない、力も弱い、だけど記憶力だけは誰にも負けないという人間が居たとする。その人間は獲物を捕ることもできない、食料の調達ができない、もしこの世界では魔獣に真っ先に喰われてしまうだろう人間だ。
だが、あちらの世界ではその人間の能力を別の分野で発揮させることができるようになった。見聞きした物を覚え、書に記すことで後生に引き継いでいくと言うこと。
そうすることで、技術は一代限りで絶えず、脈々と受け継いでいくことが可能になった」
「話が長い」
「手厳しいwwwww。魔術を使わず試行錯誤を繰り返して今の科学力に到達したのさ。最近よく言われるのが『PDCAサイクル』だね」
「なんだその言葉は」
「計画(プラン)。実行(ドゥ)、評価(チェック、改善(アクト)をruby(サイクル){繰り返す}仕組みだよ」
「なるほど把握した。だがその程度ならこの世界の人間だって行えるはずだ。実際に私も魔術の構築は試行錯誤の繰り返しだしな」
「その結果があの『|だるまさんがころんだ《戯遊魔術》』かい? 悪ふざけにもほどがあるよ」
「効率のよい魔術の行使は術士に取って必要不可欠なのでな」
君が質問する、『だるまさんがころんだ』ってなんですか。
それに対しては天山大剣が答える。
「男爵が構築した魔術の一つで、10音の詠唱に8つの魔術を同時に放つことができる魔術だよ。効率がいいか悪いかはコメントを控えるけど」
「なぜだ、たった10音の詠唱で最大8つの術を任意で発揮できるんだぞ」
「コメントは差し控えるよ」
男爵の抗議も天山大剣は取り合わなかった。どうせこの話は平行線になるのが決まってる。男爵基準の話は一般の術士には当てはまらない。
「話を戻そう。また脱線しそうだ」
「そうだね、あぶないあぶない。種の選択肢の多さというのはただそれだけで大きな利点がある。例えば重篤な病気を持った人間がいるとしよう、男爵、この世界だとそういう場合どうなる」
「そうだな、生まれた時にわかれば間引かれるか、そうでなくとも長くはないだろう。病気の程度にもよるが」
「そうだね。しかしあちらでは技術が進歩している。よっぽどの難病でないかぎり治療・不活性化・延命は可能だ。もちろんそれなりに治療費はかかるけども。難病とは、人類が超えるべき困難としてある」
一昔前は不治の病と言われていた『|後天性免疫不全症候群』も、治療法が確立されている。
同様にガンや生活習慣病も今となっては罹患(りかん)するものは稀だ。
「病があればそれに目を背けず、乗り越えるために全力を尽くした。それこそが君たち人間が選んだ、種の選択肢を増やすということだ」
見捨てない、見殺しにしない。今目の前にある選択肢は、後に大きな意味を持つかもしれない、そのために残す、そういう理屈だ。
「だれが決めたわけでもない、『人間』という種が選択した生存方法さ」
「たいしたものだな」
「まったくだよ」
男爵と天山大剣が口々に褒め称えた。
君は驚きだった、まさか自分たちの世界の人間をここまで率直に評価されるなんて思っていなかったからだ。
「んで、実は科学力をもってすれば世界中から貧困をなくすことだって可能なんだけど」
「あぁ、それはムリだ」
天山大剣の発言を男爵が一刀両断した。
「でwwwすwwwよwwwねwwwー。けらけらけらけら」
男爵の断言と、それに同意する天山大剣の言葉。
なぜ、あれほどまでに評価したのに、人間には『貧困』をなくすことが無理なのか。
それは今ある環境がどれほどすばらしいものかを理解していないからだ。
正当な理由なく手に入れたものは天から降ってきた物と同義で、それがどういう意味を持つものかを人は理解しようとしない。
生まれたときからそこにあったから、それを持っていることが当たり前だったから、
それを手に入れるために己の父や母や遠い先祖がどれ程の苦難を乗り越えてきたのか知りもせずに、
誰にでも簡単に力を与えてしまう科学は、矜持も自負もない、無責任で面白半分な輩を大量に排出する。
「いわゆる『普通の人々』のようにね。まぁそれでもなんとか生活をやっていけているって状況は、積み重ねてきた生活基盤がそれほど盤石だってことなんだけれどね。
特に日本はそれが顕著さ。
国の支配者である彼らがあれほどまでに鈍重にもかかわらず未だに国としての体裁を保てている事実を見ればね。
でもね、誰であろうと同じなのさ。トップの首が変わっても変わらない。
だから、君が居なくなったって誰も困りはしないのさ」
と、天山大剣は君たちに向けて言って、その場から消えた。
最終更新:2016年02月04日 01:39