――もしも。自分の今いるこの世界とは別の場所があれば、異界なんてものが存在したら。
空の色も、空気も、住んでいる種族も違うそんな世界。
たとえば天界とか、逆に魔
界とか。
でもそんなのみんな人間の想像した迷信で、あるとすればゲームや漫画だけなんだろうな。
中学校に通うメカニックな少年は思っていた。あの時までは。
魔界の隅のまた隅に、その国はあったのだ。
濃い紫色の空。地面は血で汚れたように赤黒く、道にはきゅうりの彫刻がいくつも飾ってある。
建物は岩を切ったようないびつな造りで、いたるところに赤い文字で落書きがしてあった。
その薄暗い空間に、生温い風がゆるりと吹いている。
ここは魔界。すみの国。
そこでは、魔界でも珍しいとても小さな小さな死神達が気ままに暮らしていた。
彼らがなにか喋っているようだ。小さいため姿は黒い点だが、仲間の黒い点に話している。
絵文字にするとまさにこんな感じだ。→#・#
「おい聞いたか!?今度すみ様がご結婚されるんだとよお!」
黒くて小さいゴマのようなものが仲間に話しかける。これでも立派な死神でありこの国の住民だ。
「聞いたに決まってんだろ!?お相手はあのイケメン俳優のひこく様!お似合いだよなー、二人とも残虐的なところとかっ」
仲間の死神が答える。もちろんこいつもとても小さい。
彼らは死神だが狩っているのは生き物の魂ではなく、身長を狩っている。奪った身長を生命力に変えて生活する変わった死神達だ。年を取ったりして身長が縮んだりするのはこいつらのせいなのだ。
「泣く子も黙る女王すみ様もついに結婚かー。式はいつ行われるんだろうな!こりゃ盛大な祭りになるぞ!」
「やっぱりもう町中の噂だよな!結婚式楽しみだなあ!なにが出るんだろうな〜」
ごちそうについて話す彼らの目の前に、ぴょんぴょんと駆け足ではねていく死神が通りかかった。
「おい、おまえどうしたんだ?えらく急いでるようだけど?」
「何言ってんだよ!もうすぐすみ様が王宮で重大発表をされる時間だぞ!?おめえら忘れたのか!?」
「げっ!今日だったっけ!?たいへーん!」
「すっかり忘れてたよ!いくぞ!」
死神達が集まっているのは、廃墟のようなおどろおどろしい城。今にもお化けが出てきそうなこの城にはこの国の王が住んでいる、国で最大の建築物だ。その中庭の席には、現在すみの国の国民達がひしめき合っていた。まるで大量のアリのように。
キュッキュと騒ぐ国民達は、王宮の古くて立派なバルコニーに現れるであろう方を楽しみに待っているようだ。
『スミノガミ・フォン・ミニマム・シュバルツスプラッタ様のお成りーー!!』
力強い声が響き渡ると、それまで騒いでいた国民達は一斉に静かになった。そしてバルコニーに視線が注がれる。
バルコニーの奥のクモの巣のようなカーテンが開くと同時に、演奏隊による死神トランペットで登場曲がデーデーデデーと響き渡る。
そしてその中から姿を表したのは一人の死神。彼女こそがこの国の王、スミノガミ。
王冠をかぶり、紫色のヴェールを纏っていること意外は、一般市民と変わらないような小さくて黒い姿だった。
王の登場により、国民達の緊張が高まる。
王は黙って前に進み、ようやく口を開いた。
「おい…てめぇら……何故オレがてめぇらを集めたか解るか……?」
王は低く、威圧感のある、それでいてよく響く声で呼びかけた。
その呼びかけに対し、静まり返る会場。国王の凄みに民衆の緊張感は最高潮を迎えていた。
息をのみ、王の次の言葉を待とうとする国民達。
だがその空気は一瞬にして破られた。
「おう!それはズバリ!ひこく様の結婚の正式発表だろ!?ニクいぜチクショーっ!」
なんとも明るく能天気な声が一つ、国民席から響いたのだ。
「お、おい……!お前……!?」
隣にいた友人は焦った。急いで発言を止めに入ろうとするが、もう遅かった。
「あ゛ん……?」
王はその声が聞こえた方向を睨みつける。予想外の事態にざわめきが広がっていく。
「だれだよ今喋ったやつ…」
「これはまずいことになったぞ…」
「何考えてるんだよ…ああ…もうおしまいだ…」
国民達は動揺を隠せなくなる。
「馬鹿野郎!お前……国王様に向かってなんてことを言うんだよ…!」
友人は冷や汗をかきながら小声で責めたが、当の本人は「おれ何か悪いこと言ったか?」と悪びれた様子はなかった。
王はバルコニーの手すりの上に立ち国民を睨んでいる。
「そこの貴様……今、なんつった……」
さらに低い声でゆっくりと、呪文を唱えた。
「へ……?」
そのとぼけた声のあと、能天気な国民は一瞬で黒い風に包まれた。
切り裂くような友人の風が頬を翳めた直後、隣にいた筈の彼は跡形もなく消えてしまった。
王の魔法によるものだった。
「あ……あぁ…!なんて事だ…」
友人はその場にがっくりと倒れ込む。周りの国民達も落胆していた。
「おい…あそこ見ろ!あれさっき騒いだ奴か!?」
近くで聞こえた声に友人はとっさに体を起こし、視線を上げる。
消されたと思った彼は、バルコニーに居た。しかし状況は最悪だった。国王に鎌を突きつけられている。
「貴様……今何を言ったって聞いてんだよ」
「ひぃ…………!」
流石に彼もこの状況はまずいと察し、顔色が変わる。なにしろ国一番の残虐王だ。危険を感じないほうがおかしい。
「言えっつんてんだろ!!??」
「あ…あの……、おう!それはズバリ!ひこく様の結婚の正式発表だろ!!ニクいぜチクショーと言いましたああああ!!」
その言葉を言い放った直後、無情にも鎌は振り下ろされた。
そして、彼の友人はポツリと呟いた。
「……せっかくすみ様に内緒にしてたのに」
ガンッ!!
鎌はまっすぐ地面に突き刺さった。
「おい…………てめぇ……」
「えっ……は、はい…?」
「オレとひこくの結婚発表だって♪照れるじぇねえかっ!キャッ♪」
国王はさっきとはまるで別人のような雰囲気になって高い声で照れた。
「ばかやろー!お前ーー!すみ様のご結婚のことはまだ知らない振りをしとけって皆で決めただろーー!」
国民席から声が飛んでくる。
「あぁーー!!そうだったなー!悪い悪い!うっかり口がすべっちゃって!お前ら珍しく静かだからびびったよー」
「すみ様が発表なさってから皆で思いっきり驚いて祝福しようって計画を台無しにしやがってー!」
すまんすまんと国民達に詫びていたが、皆ちょっと怒っているようだ。怒りマークを出しながらきゅっきゅと跳ねている。
「なんだてめぇら、もう知ってたのかよ!?なんだよ……変に気ぃ使いやがってー!」
国王もぴょんぴょん跳ねる。これでも感激しているようだ。
そう。これが彼らのいつもの姿。気さくな国王と仲の良い国民達だ。
「それにしてもすみ様の脅しはホント怖ぇーなー!いくら脅しがご趣味だからってやりすぎですよ!」
「へっへ、脅しをするとスカッとするもんでな! おい!てめえら!もう一回あの言葉を言ってみな!」
「ちぇっ、もうばれちゃったら仕方ないなー……」「まったくだぜ」「あのやろうめ」「いくぜ皆」
『すみ様、ひこく様とのご結婚おめでとうございまーーす!!』
「聞こえねぇな!もっと大きな声で!」
『すみ様、ひこく様とのご結婚おめでとうございまーーーす!!』
「サンキューてめぇら!それじゃオレからも改めて発表するぜ!……この度、オレとひこくは結婚することになったー!キャーー!!」
『すみ様、万歳!』『おめでとうございまーす!』
「キャーー!てめぇら最高だぜーー!!よーし!じゃあスピーチとして馴れ初めでも教えてやるよ!聞きたいか!?」
『いえーーーい!』
こうして、国王すみによる婚約発表は大盛り上がりで終わったのだった。
その夜。王宮すみの部屋
「すみ様。今日は素晴らしいスピーチでしたよ。やはりすみ様は国民全員に愛されておられますね。私も嬉しゅうございます」
落ち着いた口調ですみに血の味ドリンクを注いでいるのはじいや。すみの古くからの執事だ。
「まったくだぜ!あいつらってば変に芝居うちやがって。まぁオレも脅しちまったけどな!」
はは、と笑って答えるじいやだったが、その表情は曇っていた。
「……ところですみ様、ひこく様の事ですが……」
じいやがひこくの名を口にした途端、すみの笑顔が消える。
「…なんだよ」
「言いたくはありませんが…あのお方は婚約発表にも現れませんでしたが大丈夫なのでしょうか。いくらすみ様が選んだお方とはいえ良くない噂も耳にしますし…」
「おい!ひこくのことを悪くいうんじゃねえ!いくらじいやでも許さねぇぞ!?」
「わ、私はなんてご無礼を……!申し訳有りません!」
とっさに謝ったじいやだったが、すみはじいやと目を合わそうとしない。
「……ああ。もういいから一人にしてくんねぇか」
「すみ様…………では失礼致します」
じいやが部屋からでていくと、すみはため息をつきながら禍々しい模様のベットに倒れこんだ。
「ひこくは……素敵な男なんだ…悪い噂なんてありゃしねぇよ…」
すみは額に飾られた婚約者であるひこくの写真を見つめていた。
「でもひこく……今日は忙しいからって婚約発表にもきてくれなかったなんて……オレも国の連中も楽しみにしてたのによぉ。何でだよひこく…」
すみは大きなため息をつき呟いた。やはり死神の王でもその姿は恋する乙女そのものだ。
「……まだ起きてるかな…………よし、ひこくのとこ行こうっと!」
すみとひこくは婚約が決まってから一緒の城で暮らしている。ひこく専用の部屋を職人達に作らせているがまだ完成が間に合っていないため、現在ひこくは城内でも一番豪華な客室を借りていた。
すみは自分の部屋をでて、廊下を進む。
ひこくの部屋はすみの部屋の隣の部屋だが、現在は工事中のため作業員しかいない。客室はすみの部屋から少し遠くにあるため移動するだけでも数分かかるが、一緒の城に暮らしているというだけでもうれしくて気分が上がる。
そして目的の目玉模様のドアの前に到達したすみは、いつものように扉を開けようとした。
「いやまてよ、今日は静かにこっそり開けるとするか」
いつもすみは勢い良くひこくの名前を叫びながら急に入っていくため、毎回彼をびっくりさせていたのだ。そのことについて一応反省はしていたのだろう。
気を取り直して扉に手をかける。
「ひー……こー……」
彼を驚かせないようゆっくりと声をかけるすみ。すると部屋の中からひこくの声が聞こえてきた。
「愛しているよ……君はなんて綺麗なんだ…」
……ん?オレのことか?さすがはひこく、愛の力でオレが静かにしててもわかるって訳かーー
「くー…」
「ああ。こんな城すぐに抜け出してみせるさ。そしたら君と結婚式をあげよう。二人だけのね」
オレに言ってるんじゃない…!?すみは一瞬でそう気づいてしまった。嫌な予感が小さな全身を駆け巡る。
「えっ……どういうことだ…!?」
まさかひこくには他に好きな女がいるのか?オレがいない間そいつと合っていたのか?今日の婚約発表に来てくれなかったのだってーー
「ぁ……あ…………」
じいやの言葉を思いだす。嘘だ。信じたくない。まさか、ひこくが浮気をしているなんて
「うっ……ひ、ひこくの……」
頭の中がどんどん真っ白になっていく。
「ひこくのばかーーーーー!!!」
すみは感情を抑えられず涙を流しながらその場から走り出してしまった。
「えっ、すみ……!?」
その声に気づいて扉を開けたひこくの前には、もうすみの姿はなかった……
自室に戻ったすみは、乱暴に荷物をまとめていた。
「もう!もう!出ていってやる!ひこくなんか知らない!」
王冠とヴェールを脱ぎ捨てる。もうこんな所いたくない。結婚が決まって浮かれていた自分が嫌になってくる。
すみは最低限の荷物をまとめ終わると、普段はしまっているコウモリのような黒い翼を広げ、部屋のバルコニーから飛び立ったーー
今日あれだけ賑やかな婚約発表をしたこの中庭も今は誰もおらず、夜の闇に静まり返っている。
「……ふん」
高く飛んでいては誰かに気づかれるかもしれない。こういうことはこっそりがいい。そう思いすみは降下し姿勢を低くする。
すると、見覚えのある者が目に入った。
「すみ様!!」
「……じいやか」
すみは舌打ちをし、浮遊したままでじいやを見据える。
「すみ様、城の者から様子がおかしいと聞き探してみれば……そのお荷物…まさか出て行かれるおつもりでは…」
「流石じいや、情報が早いな……ああそうさ。オレはこの国を出るつもりだ。…ひこくはじいやのいう通りの男だったのかもしれねぇ…」
「すみ様…!」
そんな悲しそうな顔すんなよ。じいやの忠告をもっとよく聞いていれば、こんなに悲しい気持ちになることもなかったのかな。
すみは心の中でそう呟く。
「そんな…どこに行かれるというのですか!お考えなおしください!」
行き先?そんなものは一つに決まっている。
「下界。」
「に…人間界ですか!?お止め下さい!あのような所…すみ様が行くような場所ではありません!」
「うるせぇな!もう決めたんだよ!」
「すみ様もご存知でしょう!人間界へ降りた我々の仲間が、沢山命を落とした事を…!」
「ああ。…人間界は全てがとんでもなくでけぇ。塵と間違えられて掃除儀に吸われた奴、虫だと思われて殺虫剤を撒かれた奴……色々だ」
「そうです…我々は長らく人間界には行っていません。もうあのような犠牲を出さないよう魔界と人間界を繋ぐ魔の神殿は封印されたのです。今ではこの国にいながらでも人間共の身長を吸い取ることも可能ですからね……もう誰も人間界には行ってはいけないのです!!」
じいやの口調が強くなる。この男は心からすみの事を思っているのであろう。
「すまねぇな。じいや……でもオレは行くんだよ……」
「あの男はすぐにでも追い出します!すみ様が出て行かれる必要はないのです!それにあなたがいなくなれば国民達が悲しみます!!」
「っ……」
国民達。常にすみに憧れ、口調まで真似する者も多い、国王すみを慕ってくれている彼ら。すみもそんな国民達が大好きだった。
「…でも、じいや……オレはもう……」
「すみ様…?」
「こんな事になるなんて情けなくてあいつらに顔向け出来ねぇんだよーー!!」
すみは涙声になりながら言うと、またバサバサと飛び立っていく。
「ああ、すみ様ーー!」
じいやは走りながらすみを追いかけるが、すぐに息が切れてしまう。
「私も…もう歳だ……あまり野蛮な事はしたくないがやむ終えん……」
通信機をどこからか取り出し、じいやは連絡棟に繋ぐ。
「第一から第六部隊……すみ様が国を出て行かれるおつもりだ…全力で阻止せよ…」
「まったく……少しはほっといてくれよじいや……」
すみはじいやを撒いてからしばらく飛んでいると、ようやく目的の神殿が見えてきた。
「よし、もうすぐだぜ…………ん?」
前方に見えたのは、自分の様に飛翔する者達。手には槍のような物を持っている。羽虫の大群のようなその数はおおよそ百を超えていた。
「チッ、兵士どもか。このオレの邪魔をしようっていうのか?」
すみは構わず神殿に近づく。神殿の上を守っている兵士達とも距離が近くなる。
「国王様!魔の神殿は我々が包囲しております!無駄な抵抗は止めて城に帰って下さい!」
「ふん。無駄な抵抗を止めるのはてめぇらの方だ。武器を捨てて降伏しな!」
「そういう訳にはいきません!全軍、突撃せよー!」
ぶわっと一斉にすみに飛びかかってくる兵士達。だがすみはニヤリと笑みを浮かべていた。
「――漆黒の風よ、我が刃となりて従え、死神の王の名において…」
呪文を唱え始めると、すみの体は紫色のオーラに包まれていく。そんな王に兵士達は苦しそうな表情で槍を向け襲いかかっていく。
「暗黒魔法ーー、死神風!!!」
すみの魔法が発動する。魔力により強力な風が吹き、飛んでいる兵士達を勢い良く蹴散らしていく。
「ぎゅーーーーっ!?」
兵士たちはあっけなく遠くまで吹き飛ばされてしまった。
「へっ、王であるオレに逆うなんざ一千万年早いんだよ!さて、降りるとするか…」
すみは、赤い木々の茂る森の中に降り立った。
目的の神殿目の前だが、やはりここも兵士達に囲まれている。さっきの二倍程の数だ。
「おまえら、そんな総出に来て城の方の警備は大丈夫なのか?」
すみは皮肉っぽく兵士に問いかける。
「どうでしょうか…あなたを連れ戻すことが先決ですからね……」
すみはいつの間にか前も後ろも完全に兵士達に囲まれていることに気づく。
「ほう…オレの後ろをとるとはやるじゃねぇか。だが痛い目みたくなかったらそこをどくんだな…」
「すみ様!早く帰りましょう!俺たちだってこんなことしたくないですよ!」
別の兵士が泣きそうな声で言う。
「いや…オレは帰らねえ」
「うう…皆、すみ様を捕えるんだ!」
迫ってくる兵士達にも動揺せず、すみは落ち着いた様子で呪文を唱える。
「……ブラッディ・キュウカンバー」
「……!!」
突如現れた赤いきゅうりは大きく円を描き、すみの周りの兵士達を薙ぎ払っていく。
「ぐあぁっ……!」
またも魔法でそこにいる者達を吹き飛ばすと、森は元の静けさを取り戻したのだった。
邪魔者が居なくなると、すみは神殿の前に近づいた。
「さて…オレもここにくるのは久しぶりだな…小さい頃に近づいてじいやに叱られたんだっけ」
至る所にきゅうりの彫像があるこの神殿は、入り口に立っているだけでも重苦しい雰囲気が伝わってくる。
神殿の扉は固く閉ざされていたが、試しに魔法で攻撃してみると扉は簡単に壊れた。
神殿はそこまで広くはなかったが、まっすぐ突き当たりまで進む。すると床一面に古びた魔法陣が描かれた部屋に行きついた。
「ほう…こいつを発動させれば人間界へ飛べるんだったな」
すみは封印の解き方を知っていた。前にホラー小説と間違えて読んだ禁断の書に記してあったのだ。
荷物から記憶の通り道具を取り出していく。
「さて…まず、蝋燭に悪魔の炎を灯し……暗黒の炎よ!来たれ!ダークファイアー!……よし、汲んできた暗黒水をまいて……と。あと生け贄が……用意してくんの忘れたな…あっ、丁度いい所に魔界トカゲが乾涸びてるからこいつでいいか」
すみはやや適当に儀式の準備を進めていく。すると、遠くで騒がしい声が聞こえてきた。兵士達の声だ。
「あいつら!もう戻ってきたのかよ!…ここでは暴れたくねぇな。さっさとすませちまわねぇと…あとは…」
ドクロ柄のリュックから丁重に箱を取り出す。それは真っ黒だが宝箱のような形をしていた。
すみは一旦深呼吸をしてから箱を開けた。
そこに入っていたのは、小さなきゅうりの切れ端だった。この国ではとても貴重な植物である。
「おお……神聖なきゅうり…オレの大事なこいつを使う時がきたのか…」
きゅうりを布に包み、すみは魔法陣の中心にそっと置く。
「今年は二本しか採れなかったからなぁ…国の奴らに分けたらオレの分がこれだけになったけど食べずにとっておいてよかったぜ…っと、よし最後に…」
すみは魔法陣の外に出ると、意識を集中させる。
儀式に最も重要な物。絶大な魔力のエネルギー。
「はぁああ……!」
紫色のオーラにすみの体が包まれる。オーラはどんどん広がっていき、空間全体を染め上げる。
「うおおおおおお……!!」
空気は風となってガタガタと古い神殿を揺らす。目の前の魔法陣が強い光を出しながら青く輝き始める。
「隊長!神殿から光が!」
「まずい…このままではすみ様が…!急げ!後に続け!」
「ジーヤ様!」
「ああ。私は平気だ…それより早くすみ様を…」
あれから神殿に向かっていたじいやは兵士達と合流し、共にすみの所へ向かっていたのだった。
「よし、皆いくぞ!」
封印の魔法とすみの魔力が交差する空間の中、きゅうりに魔力を注ぎ続ける。今にも封印の魔法は解けそうだ。だがすみの体も限界が近づいていた。
「くっ……ここまで、来たんだ…!」
諦める訳にはいかない。こんなギリギリになって捕まったらとても恥ずかしいと思いながら、すみは最後の力を振り絞る。
「はぁっーー!!」
「うわっ!」
今までにない強い光が発生し、兵士達の目を眩ませる。
「くっ……全員突撃ー!!」
壊されている扉の残骸を飛び越えながら、兵士達は奥の部屋へ進む。
「すみ様……!?」
だが、兵士達がそこに到達した時には王の姿はなく、そこにはただぼんやりと青く光った魔法陣があるだけだった。
「行って…しまわれたか……」
じいやは、ゆっくりと光が失われていく魔法陣に残された、きゅうりの破片を見つめて呟いた。
<後編へ続く>
とりあえずあとがき&予告
ついに奴が登場しました!すみはなかなか小説に出せなくてね!
ネタ自体は昔から考えてて、ずっと出したいと思ってたのでやっと登場させれてよかったです。
いつも長くなってしまうので前編後編で分けることにしたよ!この方が書くのも見るのも楽…なはず。
一応シリアス風を目指してみたけど難しいね!
次回!
ようやくすみの国から旅立ったすみ!だがその世界には困難が待ち受けていて…?さらにキュンキュンしちゃう運命(!?)の出会いも!?そしてすみを連れ戻すためのじいやの計画とは!?
なるべく早くかけるといいな!お楽しみに!
2014.8.3 紀紗
最終更新:2014年08月03日 00:46