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「では、これで終了する。速やかに部活行けー。」
今日もいつものように全授業が終わり、生徒たちの気が抜ける。
この時間以降、生徒たちは部活や委員会などの時間を過ごす。
教室で談笑する者、早々に部活に行く者、委員会での集まりに向かう者、様々だ。

有栖川歌恋は、いわゆる帰宅部である。
いつもなら早々に帰宅し、課題などをするのだが、
今日に限っては教室でぼーっとしていた。
つまり、やる気が出ないのだ。
彼女は鞄を膝に抱えたまま椅子に座り、時折小さくため息をついては机を見つめていた。



そうして、ほとんどの者が部活動に向かい、教室内に人がいなくなっても、歌恋はまだ教室に残っていた。
歌恋は窓の外を見て、グラウンドで走る生徒たちを、興味なさげに見ていた。
と、そこへ、委員会を終えたムスカが
「くそ、委員会、会議クソ長いんだよ。滅ぼしてやる…!」
などと、不穏な悪態をつきつつ教室に帰ってきた。

「あれ?歌恋、帰んないの?」
「え?ええ……なんだか、帰りたくなくて…」
「ふーん?そうなんだ。」

短い言葉を交わしたあと、ムスカは教室を出て行こうとして、
体操服のまま走ってきたRとあやうくぶつかりそうになった。
「よかった!歌恋さんまだいた!」
Rは息を切らしながら(もちろんロボなので演技だが)、歌恋の方を見て笑った。
「?、どうされたんですか?」
「や、なんか、歌恋さんのことずっとまってる人いるんだよね。校門で」
「……。」
歌恋は眉をひそめて、黙った。
きっと帰るのが遅かったからお迎えが来たんだろうなー、と、ムスカは考えていた。
しかし、Rは興奮気味に
「それが、すごいイケメンなんだよね!なのにオンナのカッコしてんだよね!!」
と抜かした。どういうことだ?と残りの二人は思った。

「とにかく!一緒に来てよ!」

Rに急かされるまま、歌恋と、なぜかムスカも、ひとまず校門に向かった。

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「歌恋!まってたんだぞ!!」
校門に着くなり、歌恋は件の彼?に抱きつかれた。

「ホントだ、イケメンなのになんで女装してんだろう。」
「だろ?スッゲー気になるよな…。」
突如現れた女装イケメンの存在に、部活をしていた他の連中も遠巻きに集まっていた。

「ちょ、ちょっと!離れてください!!」
歌恋は慌てて彼の腕を振りほどいた。
「え?歌恋、ボクのこと忘れちゃったの?」
彼は少し寂しそうに、歌恋から距離を取った。
「よく見てよ、歌恋。ボクたち小さい頃はずっと一緒にいたじゃないか……」
「えっ………ま、まさか、京…なの?」
「そうだよ!久しぶりだね、歌恋」

どうやら二人は知り合いだったらしい。
だが変だ、と取り巻きたちは思った。
なぜ天下のお嬢様である有栖川歌恋が女装イケメンなんかとずっと一緒にいたのだ?と。

「き…、京?なんで女の子のかっこしてるの…?」
「え?」

どうやら何かわからないことが起こっているみたいだ、と取り巻きたちは思った。

「や、ヤダな、歌恋?ボク…女の子だったんだよ?」
「え?」
「ほら、この制服見てよ。」
「それは…私が行く予定だった私立の…女子中の?」
「そうそう!今、そこに通ってるんだよ!」

ありえない、と彼?以外の全員が思ったことだろう。
彼?が着ているのは確かに有名な私立の女子中のものだったが、
雰囲気は優しい男の子そのものだったからだ。

「京…?」
「京子、だよ。歌恋」
「ちょ、ちょっとまって、……ありえないわ」

歌恋は、その場にいる誰よりも混乱していた。そして、動揺していた。
そこへ、
「ほら、こうしたら思い出すでしょ?」
そう言いながら、京子と名乗った人物はもう一度、歌恋を優しく抱きしめた。
「……うん、ほんとに、京なのね…?」
「そうだよ、といっても、ホントは京子なんだけど…」

どうやら本当に女の子だったらしい。
取り巻きたちはざわついたが、それにきづいた歌恋の
「ここにいたら皆さんに観察されてしまいますから、少しどこかへ寄って私の家に行きましょう」
という言葉で、それぞれの部活に帰っていった。

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「それで?京。どうしてあなたは」
「待って、歌恋。確かに質問はたくさんあるだろう。わかるよ。ボクも歌恋に聞きたいことたくさんあるよ。だけど、それは家に帰ってから。今は再開できたことを喜ぼう、ね?」
「え?あ…うん、別にいいわよ…」
そうして、京子はそっと歌恋の手を握った。
沈黙。
しかし、二人の間に気まずい空気はなく、そこにはなつかしい空気が流れていた。

「さて…、どこに行こうか?」
「気が変わったわ。まっすぐ帰りましょう。」
「そっか、歌恋はせっかちだなぁ」
「そんなんじゃないわよ」

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「それで?くわしく聞かせてもらうわよ?」
家に帰るなり、今日の予定を全てキャンセルした歌恋は、京子を部屋に連れ込み、
紅茶を出してからそう言った。
「うん、じゃあ歌恋と離れることになったきっかけから話すよ。」

「ボクは歌恋と離れるまで、ずっと男として生きてきた。それはわかるよね?」
「ええ。京…子のお父様のお仕事をずっと手伝ってきたんでしょう?」
「うん、……呼びにくいなら、京でもいいよ。ボクもそれがいいからさ」
「うん。ごめんなさい」
「いいよ」
京子は優しく歌恋に微笑みかけた。
「それで、父の仕事も一段落して、部下に任せても問題ないと判断したから、ボクは自分の人生を生きることになったんだよ。」

自分の人生。京子の数年間は、本当に父親のためだけの人生だった。
京子は、その数年の出来事を、歌恋にすこしずつ説明し始めた……。

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ボクは、いらない子だった。
出来ない子だった。





「あなたなんて、私がいなかったら誰からも見放されて死ぬだけの存在なのよ。」

お母さんはそういった。お母さんは決して自分を見放さないと言った。

「だから、私の言うことだけ聞いていればいいの。そうすればとっても可愛い子なの。」

お母さんだけは、認めてくれていた。かわいいって、言ってくれた。
だから、努力した。できない子になりきった。
…本当は、勉強はできた。特に学校の勉強は、簡単だった。100点を取ろうと思えば簡単に取れた。
学校の勉強以外にも、こっそりお父さんの書斎に潜り込んでいろんな論文を読むのが趣味だった。
それに、謎解きや推理小説が本当に好きだった。考えることが得意だった。

でも、できない子は、できない子でないといけなかった。
お母さんの強すぎる依存願望にも、付き合って生きていこうと決めた。

「お母さん…ありがとう」
「当然よ。私が、私だけが一生守ってあげるからね。京子」

それから1年がすぎ、お母さんは病院からでられなくなった。
でも、お父さんは全然悲しそうじゃなかった。
取引先のどこかにいい人がいたからだ。
お父さんは「仕事の都合」で家に帰ることが少なくなった。


できない子はそれから、できる子になりきらないといけなかった。
まず、長くて気に入っていた黒髪をバッサリと切って、男の子として父の秘書になった。
元々できない子じゃなかったから、できる子になりきるのは簡単だった。
むしろどちらかといえばできる子でいる方が楽だった。
父はできない子だと思い込んでいたので、かなり驚いていた。

「まいったなあ…どちらも大切な取引なのに…」

ある日、父は悩んでいた。取引先との商談が重なってしまったのだ。

「父さん。ボクがいくよ。」

迷わずそう口にした。自分でも不思議だったが、失敗はしないという自信はあった。
しかし、できる子を何年もできない子だと思い続けてきた父はたっぷり数十分は悩んで、

「しかたない。でも、粗相はするなよ。わからないことがあったら電話してくれればいいから」

と告げた。

結果として、商談は大成功。できる子は、本当にできる子だった。
取引を成立させるどころか、たくさんのオプションまでつけてもらえたのだ。
父は驚いたが、京子を見直し、それからというもの商談には必ず京子を連れて行くようになった。

そうして、京子は何回かの一人での交渉を経験した。
その内の一つが、有栖川家のグループの一つだった。

「今回はお前の従姉妹の家の会社だから、少しくらい気楽にやってくれてもいい。たしか、同年代の娘もいたはずだ。よかったら仲良くさせてもらえ。」
「わかった。父さん。」

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「そうして、私と出会ったのね?」
「そういうこと。すごいでしょ?」
京子は、誇らしげに自分の経歴を語った。
「……待って、お母様は、どうなったの?」
歌恋がそのことを口にすると、京子の表情は曇った。
「いちお、生きてるよ。だけど、母さんの前ではボクはまだ出来ないボクのままだけどね」
「そう……」
「そんなことより!歌恋は元気だった?寮からずっと出られなかったから、毎日心配してたんだよ?公立の学校にいるんだね、びっくりしたよ。」
「え?元気よ…うん」
「本当に?……誰か、心を開ける人はいるの?」
「……それは…」
「いないの…?」
「……まあ、そうなるわね、少し試みた頃はあったけど……ダメだったから。」
歌恋が気まずそうに答えると、なぜか京子は少し顔をほころばせた。
「それじゃあ、歌恋の全部を知っているのは、ボクだけなんだね…?」
「え、…うん。」
「そっか、うん。それで、試みたって、なにしたの?」
「少し親しくなった子がいたから…、いろいろ相談しようとしたら怒られて、終わったわ」
「そう……参考までに聞いておくけど、それは男の子?」
「え、ええ、まあ」
「ふーん、そっか。ま、いいや。それは追々調べるとして。歌恋、大丈夫だった?」
「え?何が?」
「だって、そんな状態で、ずっと頑張って頑張って、辛かったんじゃないの?」
「まあ、辛いこともあったけど…、一応なんとかなってるから…」
「そうやって、また強がるんだから。」
ああ、だめだ、と歌恋は思った。結局、どれだけ虚勢を張っても京子には全部お見通しなのだ。
昔からそうだった。
「これからはそばにいるから、歌恋…」
といいつつ、京子は歌恋を抱きしめた。


つづくのかも
最終更新:2014年11月18日 23:09