「さみーーーーーー!!!!」
「ありえねーーーーーー!!」
冬。教室のストーブの前で丸くしゃがみこんだRとムスカは言った。
あんなに吹き出し口に近づいても大丈夫なのだろうか?
特にRはこう見えてロボットなんだから、赤くなったりしないのだろうか?
とかなんとか考えつつ、俺は少し離れた席でやつらを眺めていた。
「なんでそんな離れてんだよこちにーー!」
「寒さは美容の天敵だろーがー」
遠くからいろいろ言ってくるが、なにせお肌というものは乾燥にめっぽう弱いのだ。
ただでさえ空気が乾燥する冬に、あんなごーごーと温風が出てくるストーブのそばになんか行ったら…
ああ、考えたくもない。
というワケなので、俺はこうして離れた席についている。
ちなみに右手には顔のコロコロ。この間ムスカに弁償させたものだ。
…前は4つのボールがついていたのが、ムスカの経済状況により2つに減ってしまったが。
「ね、ねえねえこちにくんっ!」
と、背中側から声が聞こえる。聞いたことのない女子の声だった。
キメ顔をつくって、振り返った。
「なんだい?」
「あのね!今週の日曜って暇かな~?」
その子は、確か他のクラスの女の子で、歌恋ちゃんには及ばないもののすごく美人で有名だった。
なんて幸福な日なんだろう。こんな子まで俺の虜になってしまうとは。
「もちろん!僕はいつでも暇さ!!どこまでも行こうじゃないか!」
「ありがとう!じゃ、この子と映画かなんかおすすめのデートとかをして欲しいんだけど!」
と、美人の彼女はさらにその後ろにいたなんだかビクビクした女の子をずいっと前に押し出した。
「きゃっ、あ、あの…」
「え、ん?え?」
「じゃっ!よろしくね~!」
ひらひらと手を振って垢抜けた彼女は去り、垢抜けない地味な女の子がその場に残された。
最悪だ、と思った。なんで俺がこんな…
おさげで
メガネで
くらーい
女の子とデートなんかしないといけないんだ…!?
「ご、ごめんなさい」
「え、なんで謝るわけ?」
「だ、だって、小西さん、機嫌が急に悪くなったし、わ、私のせいかなって…」
「まあ、そうだけど。言っとくけど、俺にだってプライドあるし、誰とでもデートできるわけじゃないよ」
「そ、そうだよね…ごめんなさい」
落ち着きのない様子でおろおろする女の子。やがて、ず、と鼻をすする音が…
「って!なんで泣いてんの!?俺が泣かしたみたいじゃん!」
「っ…ごめ…」
慌てて涙をぬぐう女の子をなだめていると、
「いや、お前が泣かしてんじゃん」
「だよなー」
いつのまにか俺の席の横に来ていたムスカとRが顔を見合わせて同調していた。
その後も事あるごとに
「女泣かせのこちに」とか「ただしそのままの意味で」とか言い続ける悪友どもに折れて、
「わかったよ!デートすればいんだろ!?ただしそのカッコのままじゃやだから俺がコーディネートする!」
と、できるかどうかわからないことを言ってしまった。
当の女の子は戸惑って断ったが、俺だって男だ。ほら、無事?虫?に二言はなんたらっていうじゃないか!
とりあえず放課後にいろいろすることになり、正門に集合することになった。
悪友どもには絶対来るなと念を押したが、やつらがそんなものを守るわけがなく、絶対についてくるだろうな、とうなだれた。授業にも集中できなかった。(R「いつもです」)
「で、なんでそんな髪型なの、なんで化粧しないの、なんでコンタクトしないの!」
「え、あ、えっと、くせ毛が酷くて、お化粧はやり方がわからないし、コンタクトは…こ、こわくて」
「……」
放課後。とりあえず正門に集合した後、俺は行きつけのちょっとした喫茶店に彼女を連れ込んで尋問していた。
これは、重症だった。可愛くなりたいとかけらほどでも思ったことがないのだろうか。女子なのに。
「……どうしたものか…えっと、好きなモデルとかは?」
「もでる…?えと、ぷらもでる?」
「ちがーう!!!!」
おっと、仮にも女子の前で声を荒らげてしまうとは、俺らしくもない、落ち着け☆俺☆ミ
…よし。とりあえずショッピングモールに連れてって、刺激を与えてみるか。
「で。なんでそうなっちゃうのかな?」
すっかりおかめフェイスになった彼女の顔をクレンジングシート(自分のものだ)で拭きつつ、俺は呆れていた。
どうやら化粧自体に興味はあったようで、目を輝かせていろいろ試していたみたいだが、少し目を離したとたん、こうなっていたのだ。俺は噴き出さないようにするので精一杯だった。
「ファンデ濃すぎ。チーク塗り過ぎ、目はパンダ?それ。ほんとにやりかたわかんないんだね。」
「うん…ごめんなさい」
「ほらまた謝る。俺がやったげるから、そこ座って」
行きつけのブランドの席を借りて、彼女を座らせる。ここのお姉さんとは何度も顔を合わせるうちに相当親しくなっていたので、事情を話すとお姉さんはすぐに色々貸してくれた。
「はい、こちにくん、これ使ってね~✩それで、今度また映画行こうね!」
「もちろんですよ、お姉さん。お姉さんみたいな綺麗な人だったら僕大歓迎ですから✩」
俺に投げキッスをしてから、他の人の接客に回るお姉さんを見送って、さて、と俺は気合を入れた。
「わぁ…」
鏡を見て驚く彼女は、もはや先程までの少女とは別人だった。
嫌がる彼女になんとかコンタクトを入れ(そのために眼科にも行った!)、
丁寧に化粧品を吟味し、肌質や雰囲気にあうメイクをした。
おまけに固く結われた三つ編みも解き、くせ毛に苦労しながら自前のコテで緩く巻いた。
俺の努力の賜物である。
「小西さん、これ…」
「どう?気に入った?」
「すごいです!小西さん、魔法使いみたい」
彼女はキラキラと目を輝かせて、無邪気に俺に笑いかけてくる。
少し、ほんの少しだが、今のこの子とならデートしてもいいかも知れない、と思った。
「だって俺、魔法使いだもん✩」
「はい!小西くんは魔法使いです!」
そう言われて、んぐ、と言葉に詰まる。今まで、こんなこと言ったときは決まってムスカやRに
『何言ってんの?』だの、『は?』だの、冷たい言葉を浴びせられてきたのだ。
急にまっすぐなこと言われると、少し照れる。
って、待てよ?今呼び方に少し違和感があったような?
「?どうしました?小西くん」
「あれ?なんで急にくんになってるの?」
「えっ、あ…その、だ、ダメでしょうか?」
真っ赤になって目を泳がせる彼女の顔を見て、俺は思わず吹き出してしまった。
「ふはっ、もう、かわいいなあ」
「へっ…!?」
「っ…!」
思わず、口を押さえる。
俺、どうかしちゃったのかな。『かわいい』なんて、今まで自然に出てきたことなかったのに。
それに、『かわいい』も『かっこいい』も、褒め言葉は全て俺のためにあるものじゃなかったか?
よし、落ち着こう。深呼吸、深呼吸…。
「うん、別にダメじゃないよ。それに、ひとつ思い出した」
「なんですか?」
「俺、君の名前をずっと聞いてないんだけど」
あっ、と小さく彼女は驚いた。いや、俺だって驚いているところだ。
こんなに一緒にいたのに、俺はこの子の名前を知らず、呼ぶこともしなかった。
この俺が、だよ。
「えっ、と…恭花、です」
「キョーカちゃんね。なんかどっかで似たような名前を聞いたことがある気がするけど…」
「そうですか?」
「ま、いっか!じゃあキョーカちゃん。コンタクト…はもう大丈夫だと思うから、今の化粧とか髪とか、ちゃんと覚えてね。質問あったらいま聞くし。」
「え、あ、はい!」
気合たっぷりに、恭花ちゃんは返事をした。俺はウンウンとうなづいた。
弟子をもつ師匠の気持ちってこんな感じなのかなあと、ぼんやり考えていた。
翌日、隣のクラスはえらい騒ぎになっていた。
なんでも、いつもの委員長キャラがとびきり可愛くなって登校してきたとの噂だ。
俺は、教室につくなり自分の席にどかっと座って、にやっと笑った。
「おいこちに~、やるじゃん!」
「いいんちょ、すげー変わってた。」
Rとムスカがやや興奮気味に話しかけてくる。
「大魔法使いこちに様にできないことはない!ってね✩」
「は?」
「何言ってんの?」
「ああ、やっぱこうだよなあ…」
昨日想像したまんまの反応をいただいて、大魔法使いはうなだれた。
こんなやり取りをしていると、教室のドアががらっと開いて、
「小西くんっ!」
変貌を遂げた委員長、つまり恭花ちゃんが教室に入ってきた。
「おはよ、いい感じにできてるじゃん、すごいすごい」
やはり根がすごく真面目なのだろう、一日で教えたことをほとんどマスターして、
昨日俺がやった通りの髪型、メイクの姿で、彼女はそこに誇らしげに立っていた。
「小西くんのおかげですっ!もっともっと聞きたいことがあるんです!今日も、いいですか?」
本当に嬉しそうに、恭花ちゃんは今までのネクラなキャラが嘘のように笑っていた。
それにしても、今日もか、参ったな。今日は3人の女の子とデートする約束があったんだった。
でもまあ、この笑顔が見れるなら、いいか。と、俺は恭花ちゃんを優先することにした。
それから数日、俺は毎日恭花ちゃんと一緒に過ごした。
後でムスカに聞いた話では、「こちにが一人の女の子にべったりで、ついに本命を決めたのか!?って噂が流れてた」らしい。
特に女の子の間ではものすごい修羅場だったようだ。
ああ、モテる男はつらいよね。
「あ、そこの文法は違いますよ。そこは一般動詞なので…」
そんなこんなで、俺は今日も恭花ちゃんと一緒にいた。
といっても、もう俺が教えることはほとんどないので、逆に勉強を教えてもらっていたのだが…。
「英語もうやだーーーー。日本語でいいじゃん!!」
俺は、だだをこねていた。
「えと、難しかったですか?それなら今度のテストに向けて要点を絞ってやりましょう」
「ちがう!テストもやだけどこんな勉強すんのがやなの!!英語とか意味ないじゃん!!」
そう、英語なんて今後の人生で使う気がしないのに、どうして学ばないといけないんだよ。
そりゃあ、ペラペラになれればかっこいいとは思うけど…。
「そうでしょうか?たくさんの言語を話せるって、素敵ですよ」
「そりゃーキョーカちゃんくらい頭良かったら楽しいよね」
すこし、ひがんでしまう。恭花ちゃんは委員長のあだ名にふさわしく、とても頭が良かった。
特に英語の発音なんか、帰国子女なんじゃないかって疑ってしまうほどだ。
「そんなことないです。私も、英語を話すのがすごく苦手でした。引っ込み思案で、恥ずかしくて。だけど、同じクラスにとっても発音が上手な子がいて、憧れて、努力したんです。」
「なるほど、淡い初恋なわけね~」
「なっ!そんなんじゃありませんよ!」
ボンっと赤くなる彼女をからかって遊ぶのが楽しくて、俺は彼女の発言を重く受け止めていなかった。
そして、こんな楽しい日々が続いたらいいな~なんて思っていたんだ。
この気持ちが、なんなのかも知らないままで。
「そんなんじゃ…」
数日後、珍しく早起きした俺は早めに学校に向かった。
といっても、普段が遅刻ギリギリなので、普通のやつらにとっては普通の登校時間だったけど。
しかし、なんだか教室内は浮ついていた。
俺は悪友たちを待ちながら顔のコロコロに勤しんでいた。
「ぇ・・ねえこちにくんたら!!」
ぼーっとしていたのだろう。女の子に声をかけられているのに全く気付かなかった。
この俺が、なんたる失態。
「ど、どうしたんだい?天使ちゃんたち!デートのお誘いかな?」
「違うよ!重大ニュース!!」
「え?何?」
「委員長、ついに告ったって!!!」
きゃー、と沸く女子たち。揃いも揃って楽しそうである。
「え?誰が?誰に?」
「だーかーら!委員長がついに同じクラスの秀才に告ったって話!!」
委員長といえば、恭花ちゃん?
恭花ちゃんが、秀才に告った??
---同じクラスにとっても発音が上手な子がいて、憧れて、努力したんです---
「まさか、初恋の…?」
「あれ?こちにくん知ってたの?」
「それで、どうなったの?」
「やっぱり気になる?やっぱり?」
ニヤニヤと笑う女子に、思わず嫌悪を抱いて、
「早く教えろよ!」
つい、叫んでしまった。教室中のクラスメイトが一斉に俺の方を向く。
とっても気まずかった。
「ご、ごめん…その、うまくいったらしいよ?」
「いや、俺の方こそ、ごめん」
ぎこちなくなってしまったその場の空気も読まずに、チャイムは鳴った。
いつの間にか学校に来ていたムスカとRが無表情でちらりとこちらを見たが、俺は朝読書に没頭した。
いつもは朝読書の時間なんて、学校に来ていないか、寝てるかのどちらかだったが、
恭花ちゃんに借りたこの本は、興味深くて、面白かった。
放課後。
いつものように部活に行く奴や帰る奴で教室と廊下はごった返していた。
そんな中、幸せそうな恭花ちゃんの顔と、横に居る秀才の顔が見えた。
恭花ちゃんはこちらに気づくなり走ってきて、
「あっ!小西くん!」
と、極上の微笑みを見せた。
「キョーカちゃん、女子から聞いたよ。よかったね。」
心にもないことを言う。今すぐにでも自分を殴りたい気分だった。
「秀才も、ちゃんと幸せにしてやれよな」
「当たり前じゃないか」
秀才は、嫌味たらしいことを言うでもなく、ニコニコと恭花ちゃんの横に立っていた。
「全部、全部小西くんのおかげだよ。本当にありがとう」
「ん。じゃあ今日からは一緒に帰ることもないし、集まることもないよね」
「え?どうして?」
きょとんとする恭花ちゃん。どうやら本当に何も分かっていないようだ。
「どうしてって、君には相手がいるでしょう。それに、俺の役割は君を可愛くすることだったんだし」
「それもそうだね、恭花。これからは僕が一緒に帰って、一緒にいるよ」
「小西くん…。秀才くん…。」
「じゃ!今までありがとう、お幸せにね、キョーカちゃん」
そう言って、引きとめようとする恭花ちゃんと、それをやんわりと止める秀才を無視して、俺はまっすぐ家に帰った。
そしてふと、馬鹿だなあ、と、思った。
特別な感情なんて、最初からあったじゃないか。
自然と可愛いって思えて、本心から笑えて、一緒にいて。
ほかの女の子をキャンセルしてまで一緒にいたいと、そう思ったんだ。
それだけで、充分特別じゃんか。と。
家のストーブは、ゴーゴーと音を立てて温風を出している。
その風をダイレクトに受けながら、俺は涙が乾くように祈った。
それから数週間たって、
そこには今までどおり女の子とデートの約束をして手帳を埋めるこちにの姿があった。
「やっぱさー。こちにはこうだよな」
「ほんと、美容オタクで女たらし」
悪友たちは暖房の前でのんきに話していた。
ただ、こちにの目線の先、開いたドアのむこうでは、
楽しそうに語り合うひと組のカップルの姿がただただあった。
おわり
あとがきは帰ってから書くでござる!!!ドヒューン
↓
あとがき
お久しぶりですナオです。
さて、こちにくんのお話でした。当初の予定通りにお話が進んでくれて本当に良かった。
描いたシナリオから外れなかったのは今回が初めてです(おい)
またパっと出のモブキャラを出してしまったけど、ほかのクラスだしいいよね?
ちなみに、恭花ちゃんのテーマは「もし出来ない子が出来ない子と思われたまま普通に育ったら」です。
そう、モデルは京子です。なんか色々考えてたんですけど、没にしたやつで、もったいないなと思って。
いろいろとすみませんでしたーー!!でも楽しかったよ。
それにしても一人称で話を進めるのはやっぱり難しいです。練習中ですが。
特にこちには「俺」と「僕」の使い分けが絶妙なので、より難しかったです。
一応、素だと「俺」、カッコつけるときは「僕」というような使い分けをしてます。
もっとナルシシズムを強調したかったのですが、なかなか普通の少年になってしまいました。
そういえば、私も暖房の温風は苦手です。顔がかっぴかぴになるよね。
そんな冬の(?)風物詩も感じていただければと思います。
というわけでこの辺で。次回は誰のお話を書こうかな~!
H27.4.1 ナオ
最終更新:2015年04月01日 15:20