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前書き

こんにちは!紀紗です。
なんかノートに昔のネタが残っていないかな~~と、探していたのですが。
ありました。中学の時に書いた小説。運動会小説!!
折角なので載せておこうと思います。ユキナが初めて出た回だね。
設定とか今と違うところも結構あるかも!では本編に行きましょうか。





















その子は、教室の窓際の一番後ろの席に座ってる、アクセサリーもジャラジャラで、学校でもメイクばっちりなパッチリおめめの女の子。
あんまり話はしたことないけれど、誰にでも明るく優しくて、でもちょっぴり不思議系……だと思うな。
彼女の名前は華神有姫奈。

私、福沢瑠璃は……今回は、出番あるかな?




「運動会、もうすぐ本番ですねー」

先生の言葉にムスカはドキッとした。もうすぐ運動会なのは知っているが……
「あー、本番になったら荒地が来て、また滅茶苦茶になるんだろうなー……なぁムスカ?」
「うん、もう嫌だ……」
Rの言葉にうなだれるムスカ。机に倒れこんでいる。

「そんなに落ち込むなってー。なんだかんだいって荒地おもしれーじゃん」
「R……お前は気楽でいいよな。そういやさ、お前ん家は運動会来るの?」
「んー、今年も親父は来れないって。俺のカメラのライブビューイングで見るみたい」
Rの父親、すなわちアンドロイドであるRを作った人だ。こんな人間そっくりのロボを作れる程凄い科学者なのだろうが、学校行事にはあまり出ない人だった。たまに授業参観に来た時は、えらく歌恋のことを気にしていたようだが……。

「なぁムスカ、最近荒地どうしてる?今日も元気?」
「R……。もう母さんの話はやめて……。あんな人思い出したくもない……」
「ちぇっ」
話にのってくれないムスカに唇を尖らせるRだが、ここで担任の岡本先生がパンパンと手を叩く。

「はーい、みんな静かにー!次の時間は校庭で練習をしますので、早めに集合してくださいねー!」

「……荒地、次の練習も見に来たりして」
「うっ……」
ニヤリと笑うRは不吉だが、チャイムも鳴り、ムスカ含めクラスメイト達は更衣室へ移動した。




体育館の中にある薄暗い女子更衣室では、2年3組の女子達が校庭での練習に向け、着替えや身だしなみを整えながら準備していた。
らくがきだらけの木製のロッカーに制服を入れ、雑談しながらカシャカシャと日焼け止めの入れ物を振る。
その中でも派手系の女子達は、日焼け止めをべたべた塗っている真っ最中である。

「てかユキナさぁ、日焼け止め塗りすぎぢゃね?」
「だめだめ!こんくらいは塗らないと焼けるのやだもん!」
有姫奈は日焼け止め50PA++(とても強い)を4種類持ってきて順番に体に塗りたくっていた。
「でもそんなに塗ってるから肌も白いよねー、いいなぁ!」

ちなみに彼女は仁奈。テニス部に所属するおだんご頭の活発な女子だ。有姫奈の友人である。

「ありがとう!じゃあニナちゃんもこれ全部塗ってみる?」
「いや……自分のあるからいいかな」

さらに有姫奈は日焼け止めが入っていたのとは別のポーチを手に取り、中からアクセサリーを出していく。
「えーと、体操服だから、このブレスにこのカチューシャ……っと。」
「あっ!このカチューシャこの前雑誌に載ってたやつじゃん!カワイイ!」
「うん、おニューなの!お気に♪」
きゃっきゃする有姫奈と仁奈だが、そんな二人に寄るきらびやかな影が一つ。

「あら華神さん…。そんなに沢山のアクセサリーをつけて……。でもつけてる本人がそれじゃね」
自信満々な表情で腕を組んで立つのは歌恋である。自慢の長く巻いた金髪は運動用に横に結んであり、太めのカチューシャのように頭に巻いたスカーフの端も横でリボンのように結んである。

「ちょっと歌恋ちゃん!それどういう意味よ!」
「あら、聞こえなかった?そのままの意味よ。」
「なんですって!?」
「私みたいにもーーーっと可愛くなくちゃダメね!!見てこのスカーフ!世界的デザイナーの作品で、世界に数本しかないものなのよ♪ほら、髪に巻いても可愛いでしょ?」
「えっ、凄…!」
「でしょーーー!!オーーーッホホホホホ」
女子更衣室内に響く歌恋の高笑い。彼女の自慢は今に始まった事ではなく、一応女子の皆も慣れていたが。
「歌恋ちゃん……、そのスカーフ、悔しいけど可愛いわ……」
「あら分かる?華神さんも遠くから見ると似合うわよ」
「わぁ、ありがとう!」
「…それって褒めてんの?」
仁奈は隣で突っ込んだ。


校庭へ移動中


「でもさー、歌恋ちゃんいつもお花の髪飾りしてるけど可愛いよねー!」
「でしょう?どれもお気に入りよ♪」

何故か歌恋と有姫奈はすっかり意気投合していた。


「うおーーーい、女子急げーー!!男子はもう集合してるぞーーー!!!」
首から笛をぶら下げ大声を出しているのは火焼。根っからの熱血教師である。
「げっ、火焼いるじゃん…さいあく」

「さー、早く早く整列しろー!」
火焼が女子達を背の順に並ばせている隙に、男子団の中でRはきょろきょろあたりを見回す。
「あれー…、荒地来てねぇのかな……」
「なんだ荒地さんこないのか」
「や、やった……」
Rだけでなく、後ろの方に並んでいるこちにまで残念がっていたが、ムスカは小さくガッツポーズをした。

「荒地って来るときは大体早くからいるからなー。今日は来ないのか」
「荒地さん……折角僕のかっこいい姿を見せてあげようと思ったのに」
ふぅ。とため息をつくこちに。
真ん中よりやや前にならんだムスカは、こちにの態度に違和感を感じて後ろを向きながら恐る恐る尋ねた。
「なぁ……。まさかとは思うけど、こちにって俺の母さんの事を」
待ってましたとばかりにドヤ顔でこちには答えた。
「おっとムスカ。それ以上は言っちゃいけないぜ☆」
「げぇっ!?」

まさか、こちには本当に荒地に気があるのだろうか。奴が年上のお姉さんも大好きなのは知っているが、さすがにそれは年上過ぎる。もし友人の母親に恋をしてしまう物語が始まってしまったらどうしようとムスカの頭はパニックになってきて

「って勘違いすんなよムスカ!奥様キラーと呼ばれているこの僕に!キラーされない奥様がいるのが許せないんだよ!それがあの荒地さんでもね!」
「あぁ、そうかよ……」
それを聞いて少しほっとしたムスカはもう前を向いた。
「よーし、みんな整列出来たな!!」
ちょうど火焼が授業を始めようとしたところだ。
「じゃあ今日はリレー練習と……っっってたどはぁぁあぁああ!!??」

ビクッ!!!

皆びびる


「な、なんだよ急に……おどかすない」
「ま、まさか母さんがどこかに……ヒィィ!」
どきまぎするRとムスカだが、火焼の怒りの先は、宿敵・荒地……

「ウォラ華神!!!有栖川!!!お前らなんだその恰好は!!!!」

…ではなくきちんと整列している女子団の中の2人の女生徒。
「な、何って…ちゃんと体操服ですよ!?」
「お前らのその頭や腕につけてるもんだよ!!ここは学校だ!さっさと外せ!!」
「えぇ……」
「あと華神!いつも言っているが学校に化粧をしてくるな!!まだ若いくせになんだ!!」
「でっ、でも先生!おしゃれは私たちおしゃれ魔女のパワーの源なの!だから…」
「訳の分からん事をいうな!2人とも没収だ!」
「「えぇーーー!!」」

「そりゃ学校であんなにつけるから…」
「でも華神さんっていつもあんな感じだよな、オシャレパワーとか(笑)」
「あぁ、二人とも可哀想だよ…!しかも僕のネックレスも没収してまだ返してくれないし火焼のやつギリギリ」

「他の奴らも乱れた服装はするんじゃねぇぞ!俺は学年主任でもあるが生活指導担当でもあるからな!」

「「はーい……」」

「よーし、じゃあ練習始めるぞー!」





火焼によるハードな練習でへとへとになりながら、ムスカは自宅のドアを開ける
「ふー……ただいま」

「あらムスカおかえりー!」

ムスカの帰宅に颯爽と出迎える母、荒地。
「いちいちいいから……」
「ムスカ学校どうだった?もうウチ今回出番少なくなりそうでドキドキしてるのよー!学校シーン多いんじゃなーい?」
「母さんはもう出番とかなくていいよ。ってか来るな。(きっぱり)」
「きゃームスカひどーーい!でも運動会の日は張り切って応援行くからねっ♪」
「やめてくれーーーー」
ムスカは頭を抱えているが、荒地は続ける。
「そうそうムスカぁ、宗ちゃんは運動会は見に来るの?」
宗ちゃんとはRパパの事である。友人であるらしい荒地と宗一はお互いをちゃん付けで呼び、たまに家にも遊びに来る仲なのである。
「え?来ないって言ってたけど…」
「なんだぁ、新しいひみつ道具もらおうと思ったのに!」
「ひ、ひみつ道具!?何そのド○えもん見たいなの!?」
しかしあの科学者なら本当に未来の道具も作ってしまいそうだと思い、ムスカは焦る。

「そうそうムスカ、運動会の日だけどね、何の恰好してきてほしい?バニーガール?」
「げえっ!!」
「んー、でもお姫様系も捨てがたいわねー。私服は地味だしー」

「(ま、まずい…もしも、姫とかバニーとかで来られたら俺はまた大恥をかくことに…!!
ここはなんとか乗り切らないと!!)」

「なにがいいかしらー」

「し、私服がいいんじゃ…?」
ムスカは恐る恐る言った。
「あらそう?じゃああのムスカの写真を大量に縫い付けたワンピースを」「やめてください」
「似顔絵師に書いてもらったムスカv荒地ラブラブTシャツ」「却下!!」
「えー」
「母さん、そんなのしかないのかよ…」「うん。」
「…………。」

ムスカは、手を洗って自分の部屋に上がっていった。


「……台風が来ればいいのに」







そして、とうとうその日がやってきた。


天気は憎たらしい程の快晴で、涼しい秋風が気持ちよく吹いていた。

頭にハチマキを巻いた全校生徒は校庭に整列し、保護者達もテントの中で我が子の活躍を見るのを楽しみにしている。

『宣誓!』
『僕達!』『私達は!』『スポーツマンシップに則り、正々堂々と戦う事を、誓います!!』




「…………」
ムスカはかなりブルーな気分になっていた。
荒地が本当にバニーガールの恰好をして、テレビ局が使うような大きなカメラでムスカを映していたからであろう。
「うぅ…最悪だ……」


開会式も終わり、生徒たちはそれぞれのクラス応援席に戻っていった。


「あぁもう嫌だ……やっぱ休みたかった……」
椅子に座ると早速燃え尽きたような体制で落ち込むムスカ。
「ムスカ、荒地バニーだったな」
「あんな衣装でもちゃんと着こなせてるのが凄いよな、お前の母さん」
「もうなんなんだよお前ら……他人事だと思いやがって」
へらへら笑うRとこちに。
そんなことを話しているうちにアナウンスが校庭に鳴り響いた。

『それでは最初の競技、男子200m走を行います。選手の皆さんは集合場所に移動してください』

アナウンスを聞き、生徒たちは席を立つ。
200m走はクラスで半分ほどの生徒が選手として選ばれている。こちにとムスカも出場することになっていた。
「ムスカ行こうぜ」
「あ……うん」
「勝ってこいよー!俺は荒地の観察でもしとこうかな」



「キャー!!ムスカが走るわーー!!応援に行かなくっちゃ♪♪」

荒地は応援グッズの入ったリュックを背負い、でっかいカメラを抱えて移動した。とっておきの見やすい場所を知っていたからだ。

「えーと。ムスカのクラスは…この辺は一年ねー」

一年生達は自分達のクラス席にやってきた謎のバニーガールにざわざわする
「うわっ、なんだよあの人…バニーガール!?」
「お、おいあの人知ってるぞ!前の授業参観の時クマの着ぐるみで来た…!!」
「うそっ!また来てるの!?」
「……アイツはやばいぞ。皆気をつけろ」
ひそひそ話す一年生たち。荒地は有名人であった。



2年生の席では、女子達と残った男子がわいわいがやがやと話していた。
カメラを抱えこっちに近づいてくる不審者の姿に最初に気が付いたのは有姫奈であった。荒地の観察をするとか言っていたRはもう目をつぶって別のことをしていた。
「なにあれ?バニーガール?」
「ほんとね。私の家の者かしら?立派なカメラ持ってるし」
歌恋がそういいクラスのみんなも注目してきたところで

「あれ荒地じゃん!!」

と気が付いたRが叫んだ。
「えぇ!?」
「荒地さん!?」

「いえーーーーい!!みんな久しぶりぃ!!元気ー!?」

荒地。息子のクラスメイト達と合流である。

「久しぶりですね…荒地さん」
荒地の予想以上の激しい恰好に苦笑いをする瑠璃。
「なんというか毎回本当…凄いですね」
歌恋も怪しいものを見るかのように荒地姿をじろじろと確認する。実際に怪しいが。
「相変わらずだな荒地」
Rにそう言われ荒地はふふんとポーズをとって衣装を自慢する。一応ハイレグ度は低くしてあるが、中学生相手に見せびらかすような恰好でもない。

すると荒地の目に一人の少女がとまった。初めて会う子だ。
アクセサリーを沢山つけたピンク髪で大きな目の女子。
「あなたは?」
荒地とばっちり目が合い、自分が話しかけられるとは思わず驚いた表情で彼女は答える
「えっ、とあたしは華神有姫奈っていいます!ムスカ君達と同じクラスなので荒地さんのことも結構知ってます!」
例の荒地さん、しかもバニーガールに絡まれ有姫奈も緊張しているようだ。
荒地はそんな彼女ににっこりとほほ笑むと

「そう。ムスカはどう?可愛いやろ?」

と、訪ねた。

「えっ?」

これは荒地がムスカの知り合いに初対面した時のお決まりのセリフであり、選別の儀式でもあった。

『ムスカ君は可愛い、かっこいい』など褒めると合格。荒地の仲間として認められる。
これをもし『ムスカはぶさいく』なんて答えてしまったら一貫の終わりで、荒地は怒り狂い大変なことになってしまうらしい。
ちなみに戸惑ったり返事を渋った場合は半強制に『はい』と言わされるようだ。

さぁ。有姫奈はどのように答えるのか。
一歩間違えると運動会は中止に追い込まれる可能性だってある。
「ウチのムスカどう?かっこええやろ?」
有姫奈は
「うーん、かっこよさでいうとこちにさんの方が……」
荒地の目つきが変わる
「あっ!ムスカ君も凄くかっこいいでぷ!それに可愛いし!」
荒地は笑顔に戻った。どうやら合格のようだ。
「そうやろ!有姫奈ちゃん、仲良くしましょうね♪」
「は、はい!」

「おう荒地、今から一年始まるみたいだぞ」
最初に走るのは一年生。10組目まであるようだが短距離走なので時間に油断はできない。
「まぁもう始まったのね!ムスカは2年生の4組目だったわね!準備しなきゃ!」

荒地はリュックを下ろし、中からピンクの布を取り出す。同じものを何枚も。
そして畳んであるそれを、クラスの女子達に配っていった。

「なにこれ?」
受け取った生徒たちはそれをひろげる。
I LOVE MUSUKA とロゴの入ったムスカの顔写真付きロングTシャツだった。

「じゃあみんな、それ着てね♪」
「えっ!?」
「ウチも急いで着替えてくるから、全員きちんと着替えておいてね!」
全員が巻き込まれてこの状況に困惑する女子達。
「ちなみにそれワンピースだから体操服の上から着ていいわよ!」
荒地はそう言い残すとトイレの方にダッシュして行った。


「…………」

「ねぇ、これ着るの…?」
「うーん……」
「私、こんなの絶対に嫌ですわ……」
「わたしも…」
「あたしも」

しーーん

「でもこれ着ないと荒地さん怒るかもしれないし…」
「じゃああんた着るの?」
「……」

そして、チアガール姿に変身した荒地が帰って来た
「はぁ~い!みんなおまたー☆見てこのチアガールっ…てなんで着てないのよ!!」
何故か着用していたのは、ムスカファンである男子ポークとシゲミチだけであった。
「はぁはぁ、夢にまで見たムスカTシャツ…!俺これ欲しかったんだよなぁww」
「ううん、なかなかいいデザインですねぇ。」
「あら!なんであなた達が?」
「すみません、リュックに何枚か余っていたようですので拝借しました」
と、シゲミチ。ポークもぐへへと頭をかいている。
「まぁ仕方ない子達ね!いいわ、その服も勿論プレゼントよ♪」
「やったーーww」「では頂いておきます」

「ほらほらこの二人を見習いなさいよ女子!!照れずに早く着なさーい!!」
こんな変わり者の男子達は全然見習いたくないと思いながらも、女子はしぶしぶ荒地の用意した服を手に取る。

「ってかやっぱり私らも着るの?」
「うわぁ……いやだ」
ナオと紀紗も着るしかなかった。

「あ、あの荒地一応聞くけどこれって俺ら補欠男子は別に着なくていいんだよな」
ピンクの服になっていく女子の横でRが訪ねる
「そうね。でも衣装余ってたら着てね♪」
「えっ」

そして、女子は皆その悪趣味なワンピースを着た。

「あら、みんなよく似合ってるわよ♪それじゃムスカの応援よ♪」

「なんでこんなことに……」

Rも着ている。

そこらから、「やだー」「あの人応援したかったー」と言った声も聞こえる

「……私、ムスカ君好きなんだけど、ちょっと嬉しいかも……」
瑠璃は内心かなり喜んでいた。この応援着も彼女の宝物になることは間違いないだろう。


「やだやだ!あたしは絶対小西応援するし!」
嫌がるこちにファンの女子をナオがまぁまぁとなだめる。

「あははは……」
「どうすんだ?ほんとに応援すんのか?」
「うーん……」


丁度一年生の番が終わり、二年生の番になった。
選手の待機場所は、先生のテントやゲートで死角になっていてクラスの生徒席の様子は確認できない所だった。なので選手たちは現在の2年3組の状況を知る由もない。
最初の1組目はこちにの走る組だった。
こちには、運動会などで応援されるのが大好きだった。黄色い声援を浴び、期待に答えかっこよく活躍する。なんと気持ちのいいことだろうか。

スタートラインに並んだこちにや他の選手は、よーいの声にクラウチングスタートの体制をとり、ピストルが鳴ると同時に駆け出した。

運動の得意なこちには、一気に他の生徒を引き離していった。今回も抜群の走りだ。

しかし何かがおかしかった。あと半分ほどでゴールしてしまうのに、声援が足りない気がする。
いつものような「こちにくんいけー!」「きゃー小西くん頑張って!」などの個人に対する声援が

圧倒的に 足りない!?

しかしここでよそ見でもしてしまえば集中力が途切れて他のクラスに抜かされてしまうかもしれない。
それだけはどうしても避けたい。こちにはそのまま集中した走りを見せ、一着でゴールした。
息を整えながら、急いで自分のクラスの席の様子を確認する。

「おい……なんなんだよ、あれは……」





「よし!カメラスタンバイOK!R君、撮影よろしく!!」
「おう。まぁ仕方ないか……」

来るムスカの4組目。

「よし、みんな集中して…今こそムスカの応援よ…!!」

パァンとピストルの音が響いた。

『さぁ、一斉にスタートしました!』


「キャーー!!始まったわ!」
荒地と一緒にムスカを応援させられる生徒達。

「ムスカくーん!頑張ってー!!」
「わー。がんばれー」(棒)
「頑張れ頑張れー。勝手にがんばっとけー」
「秋月くーん、がんばってー」
「(ちょっとは感情入れたろうかな)……キャー!そこだそこだ!わー。」
ナオは本当にちょっとだけ感情をいれた。

「キャアアー!ムスカくーーん!頑張れ~~!」
「Go!Go!ムスカ!Go!Go!ムスカ!!」
「ムスカくーん!!」
「Go!Go!ムスカはー!可愛いームスカ!!」


『さ、三組のムスカ君、でしょうか!?もの凄い応援です!!』

「!?」
異常なまでの応援にムスカは走りながらも生徒席に首を向ける

そこには何故かクラスの席で黄色いポンポンを持って跳ねているチアガール姿の母と

「(あ、あれは母さんに……げっ!?)」

荒地オリジナルのムスカ応援着を来たクラスの女子達が皆自分を応援している!!

ずでぇぇええええ~~~~~

ムスカはそれに気を取られるあまり、こけてしまった。

『ああーっと!3組の秋月君転倒です!これは痛そうだ!』

「キャアアアアーー!!ムスカがあーー!!」

うつ伏せになったままのムスカは、ぷるぷると右腕を震わせながら荒地を指さし

「おめぇーのせいだああーー!!」

立ち上がる気力もないまま他の選手達はどんどんゴールしていった。

応援虚しく、ムスカはビリになってしまった。




「秋月さん!」

と、やっと先生が駆け付けた。真っ青な顔をした岡本先生と真っ赤な顔をした火焼先生である。

「おい何やってんだアンタ!!」
荒地の前にドスドスやってくる火焼。

「げっ。また面倒くさいのが来たわぁ……」
「なんですか生徒席に侵入するわ勝手に変な服着せるわ強制的に自分の息子の応援させるわ…いい加減にしろよ!!」
「はぁ!?なんやなんや!ウチはただムスカを応援しとるだけやないか!!」
「さっさと保護者席にもどれ!ふざけた恰好しやがって!」
「ふざけとらんわチアガールやで!?」
荒地は怒ると関西弁になる。クラスメイトや隣のクラスの生徒も二人の戦いをはらはらと見守っている。

「火焼先生がんばれ!!」
コース上に取り残されたムスカは、立ち上がりながら力いっぱい叫んだ

「……ふん。ムスカがああいうから今回は許したるわ。でもまた来るからな!!」
「もう来るんじゃない!!」

荒地は荷物とカメラを抱え、保護者席に戻っていった。

「や、やった…母さん戻った!」

ムスカは残りを走ってゴールしてから、最下位列に並ぶ。
体育座りをすると膝を擦りむいているのに気がついた。



先生のテントで怪我の手当をしてもらった後、
戻ってきたムスカを迎えたのは、クラスメイト達の冷たい視線だった。
「みんなごめんな…うちの母さんのせいで」
クラスの皆は無言でムスカから目をそらす

「R……お前まで着せられたのか…」
「ふふ、なんで俺だけ……」

女子達はワンピースを脱ぎ、どうしようもないのでとりあえず自分の椅子の下に置いていった。

「おいムスカ!お前ふざけんなよ!!」
その声にムスカが振り向くと、こちにが怒った顔をしていた。

「お前の母さんのせいで俺に対する応援もできなかったって女子から聞いたぞ!」
「あー、こちに……。本当に悪かった………。まさかこんなことになってるとは」
「俺だけじゃなくて女子の皆にもちゃんと謝まれよ!」
「まぁまぁ落ち着けってこちに。荒地のやったことだからムスカは悪くねーって、むしろ被害者だろ」
ヒートアップするこちにを止め、二人の間に割って入るR。しかし着替えるタイミングを失っていたため、ムスカラブTシャツを着たままだった。
「いやいいんだR…迷惑かけたのは本当だし」

ムスカの参った様子を見て、こちには暫く黙った後、ふぅと息をこぼす。
「……まぁ、確かにお前を責めても仕方ないか…。Rの言う通りお前が一番の被害者かもしれないしな」
女子達も徐々にうなずき始める。
「ムスカくん、私はムスカくんの応援できてうれしかった…よ」
「そうだよ、恥ずかしかったけど少しだけ楽しかったし」
「運動会はこれからだよ!火焼先生もいるしお母さんの事は大丈夫だって!」
「気にしなくていいからね」
なんと優しいクラスメイト達であろうか。素晴らしい仲間達の笑顔にムスカは感動を覚えていた。

「み、みんな……!!ごめんな、ありがとう…!」
ムスカは目から浮かんだ汗を気づかれないようにこっそり拭い、幸せをかみしめながら自分の椅子に座った。
途端、おしりが大量の日焼け止めでべちょべちょになった。
「…………」


『えー、少し遅れが出てしまいましたが、競技を続行します。次はー』
他の学年の競技の時は、荒地はずっとムスカの事を双眼鏡で見ていたが、生徒席に来ることはなかった。






「もう!なんやあのひしょーっていうむさ苦しいオッサン!」
保護者席では荒地が醜態をついていた。

その時、荒地の横を見覚えのある人物が通った。

「あ、あんた……宗ちゃん!?」
その男性に声をかけると、驚いたような見つかってしまったような表情で
「えっ、荒っちゃん!?」
と答えた。Rパパ宗一である。

「やっだー!宗ちゃん来るなら連絡くれればよかったのにー!今日来れないって聞いてたから!」
「そうするつもりだったんだけど…。なんだかR君の調子が不安定なのが気になって」
「あら、そうなの?さっきムスカ応援ワンピース着せた時は元気そうだったけど」
「えっ……ワンピ…着せたの?R君に?」
「うん」

『それでは、午前の部が終了しましたので、ただいまから昼休憩に入ります』

「あら!お弁当の時間ね!宗ちゃんとR君もうちらと一緒にどうかしら?」
「あ、それじゃあそうしようかな」





「弁当か……母さんと一緒に食わなきゃいけないのか……。あっ!Rお前の父さん来てないんだろ!?おかず貰って一緒に教室で食おうぜ!」
「いや、今日親父来てるみたいだからそっちで食うよ。さっき連絡あってさ」
「えっ……」

生徒たちは、保護者席へ移動した。


「キャーー!!ムスカお疲れ様!!転んだ時大丈夫だったの!?怪我しなかった!?」
「はぁ…母さんのせいでこっちは大変だったんだよ」
ゴールした後、膝をすりむいているのに気が付いたムスカは、保健室の巻き髪巻野先生に手当てをして貰っていた。
「まぁ大変じゃない!この地面が憎たらしいわ!このっ!このっ!」
「地面より母さんのせいだと思うけど…」
「じゃ、愛妻弁当作ってきたから食べましょ♪」
それは、ハートだらけの弁当だった。
「げげ…」
「わぁ、荒っちゃんのお弁当手凝ってるね」
「本当だ。なんかすごい色だな」
弁当を覗き込むRと宗一
「ああもうお前いいから自分の家の弁当に集中しろよ!」
「もう、ムスカったら♪食べさせてあげるからね♪」
「おいやめろぉぉ!むぐ」
荒地はハンバーグをムスカの口に押し込む、するとなにやら校門の方に人だかりが出来ているのに気が付いた。

「あら?なんやろあそこ…あのとりまき」
「(ごく)…っえ?」
「よし、行くわよムスカ!」
「えーーーーー」

荒地は、ムスカの手を引っ張って校門の方へ向かった。




きゃあきゃあ騒ぐ人だかり。それも女子生徒や母親など女性ばかりが集まっている。
その中の一人に有姫奈を見つけると、荒地はすかさず訪ねる。

「有姫奈ちゃん、これはいったいどうしたの?」
「あっ、荒地さん!なんか凄くかっこいい人が来てるんです!こちにさんよりかっこいいかも♪」
「なにっ!?イケメン!?」

荒地は女子を押しのけ人だかりの中に入った。


そこには



歌恋と、背の高い金髪の美青年がいた。

その青年は、明らかに一般市民とは違うオーラを放っていた。

絶対的な揺るぎない美しさ。
さらに学校一の美少女と言われる歌恋と並んでいると、その美しさも倍増。ここが砂埃の舞う校庭でも2人の居る空間だけは神秘的な別世界のようだった。


「きゃぁああああああぁぁあぁぁああああぁ!!!!!

   かっこいいいいいいいいぃぃぃいいぃいいいいいい!!!!!!!」



たどりついたムスカも美青年を見ておーと関心している。

「えっ…、ちょ、この人誰っ!?歌恋ちゃん!!ま、まさかあんたの彼……」

「はぁ!?お兄様よ!!」

その場にいた人間が一斉に大声を上げた。

「お兄様!どうしてここに!?今はニューヨークにいるんじゃなかったんですか?」
「どうしてって…決まってるだろ。歌恋の運動会を見に来たんだよ」
その返事に歌恋の顔が赤くなる
「も、もぅ……。向こうに専属シェフが来てるから、お昼にしましょお兄様。…ほら、あなたたちどきなさいよ」

歌恋とその兄は女子達をどかすと、学校の校庭には違和感丸出しな白いクロスが掛けられた大きなテーブルとシェフが待機する仮設キッチンに行った。


のこされた有姫奈や荒地達も
「ああー、歌恋ちゃんいいなぁー。あんなカッコいいお兄さんがいるなんて知らなかったよ」
「もうやばいわね!きゃー!」
「あーん歌恋ちゃん羨ましい!」
「お昼たべなきゃ!行きましょムスカ!…でも、ウチムスカが一番だからね♪」
「げっ!」


弁当を食べ終わり、昼休憩も終わった。

続いては午後の部である。




「次は一年の競技だから俺らはしばらく行かなくていいな」
午後の部一番の部活紹介パレードも終わり、生徒席に戻ったムスカやRは適当にだべっていた。
「他の学年の時の安心感すげぇよ…俺もう何もでたくないし撮られるのもヤダ」

ムスカが休憩しようと思った時、ガチャガチャと放送が鳴った。
『えー、ここで競技の追加の連絡をします』
「これ先生の声だよな、放送委員じゃなくて」
「は?なんだよ競技の追加って」
生徒たちだけではなく、会場全体がざわめく。


『たくさんの保護者の方がお越しになり、急遽、2年生による『親子二人三脚』を行うことになりました』


「ハァァァァァァアアア!!??」
叫びながら立ち上げるムスカ。

『プログラムにはありませんが、2年生の保護者の皆さんは生徒席へお集まりください』

「う…うそだろ……なんでそんなことに…」
「ってか先生、荒地の存在忘れたのか?もしくは手を組んだのか…?」



「きゃあああーーーー!!!ム、ムスカと、に…二人三脚…!肩を組んで、足を結んで、一緒に……!!グフッ」
「じゃあ僕も出ることになるのか。でもどうして急に決まったんだろうね」
「神様はうちの味方だったんやわぁ~!!ああっビデオどうしましょお!」
はしゃぐ荒地や不思議がる宗一達から少し離れたところにある、プライベートテントでほほ笑む男が一人。
「ふふっ…これで歌恋と……。二人三脚なんて運動会らしいし実にいいね……ウン」
これは、歌恋の兄の仕業だった。


保護者や生徒たちから疑問の声もあったが、競技が始まった。
荒地は女子たちに配っていたあのワンピースに着替えていた。
「ムスカ…うちは今とっても幸せよ♪」
「さ、最悪……」

ムスカは落ち込みながらもあたりを見回した。
Rは父と、こちには母と、瑠璃とユキナも母と、そして歌恋は兄と組んでいた。

『まもなくスタートします!』

「R君、調子は大丈夫そう?」
「うん。今のとこ不調なし」

「…もぅ。お兄さまったら」
「あはは。せっかくだからね。歌恋と運動会に出れるなんて嬉しいよ」

「……!?」
Rパパ、宗一は2列離れた美形兄妹を見てひどく驚いた表情をして、顔を背けた。
「どうしたんだ親父?急激な心拍数の上昇を感じるけど」
「なぜ彼がここに…!?やっぱりあの子は彼の妹で間違いなかったのか…!!」







『さぁ、どの組が一位なんでしょうか!』

『  組が早いです!』
『  組もがんばってください!』
最終更新:2016年09月10日 16:14