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山地大輔は幸せを感じていた。

なぜなら昨日の席替えで、ベストポジションな席を手に入れることができたからだ。
ベストボジションとはいっても、落ち着く後ろの方の席でもなければ、眺めのいい窓際や出入りのしやすい廊下
ではない。
むしろ教室のど真ん中の列で、前から3番目の席だった。
先生との距離も近い席なので、真面目な生徒なら学習が捗りそうだと喜ぶかもしれないが、彼は勉強が嫌いなのでその場所が当たってもちっとも嬉しくはない。
しかしそんな位置になっても、喜びの方が勝っている理由。それはただ一つ。

自分の目の前に、好きな子の背中があるからだ。
「ほんとこの席、いいぜ……」
中学生にとって好きな人と近くの席というものはかなり重要であり、嫌な授業のことも忘れてしまいそうになる。
山地もその一人で、理科の授業なんてそっちのけでうっとりしながら前の生徒のうなじを見つめている。
こうやって授業中でも誰にも不自然に思われず、いくらでもその姿を眺めていられるなんて幸せしかなかった。
さらに、席が近いということは班も同じであり、大好きな給食は一緒に食べれるし、掃除もグループ学習だって一緒にできるのだ。そんなことを考えて山地はさらにニヤついた。

すると、山地の視線を感じたのか目の前の彼が振り向いた。山地はドキッとして慌てて目をそらす。
「おい」
山地の机に右腕をのせ、短く呼びかけてくる少年。
「な、なんだよムスカ」
さっきから熱い視線を送っていた先は、ムスカであった。
ある時から山地は彼のことが気になり始め、妙に意識してしまったり熱視線を送るようになったのだ。
急にムスカが振り向き自分に話しかけてきて、山地はドキドキしている。話しかけられるのは嬉しいが、見てたのがばれてたらどうしようという不安も少しあった。
ムスカは左手を口元に当て、ひそひそ声で山地に言う。
「しじみ、チャック開いてね?」
「え?」
しじみというのは教頭先生のあだ名であり、これはRが命名したらしい。由来はムスカも明確には分かっていないが、ちょっとバーコード気味の頭がなんとなくしじみっぽいらしい。そう言われてみれば確かにしじみ感のある男だとムスカもなんとなく思うようになり、このあだ名もクラスの半数で流行るようになった。

教壇で分子構造を教えている真っ最中のしじみ先生だが、山地はしじみのズボンを見た。
たしかに社会の窓が全開で、車えび柄の下着がチラチラ見えていた。

「ぶはっ!」

山地はこらえきれずに吹き出してしまい、周りの生徒の注目を集める。
その異変に気がついた先生は水分子の模型を持ったまま、山地と体を後ろに向けたままのムスカを睨みつける。
「な、なんでもないでーす……」
2人のそんな様子に先生は、ほぼ口癖の一喝。
「授業中にいちゃいちゃすするな!」

その時間はムスカが前を向いてノートを取っている間も、山地は嬉しくなってしまってますます授業に集中できなかった。
しじみ教頭の注意の仕方が悪かったのかもしれない。





チャイムが鳴り、しじみ先生が退室する。
理科の授業の次はおまちかねの給食の時間だ。
ざわざわと力の抜けた教室で、各自が机を班ごとにくっつけて給食の準備にかかる。給食当番は白衣に着替え、廊下に整列する。


戻ってきた給食当番の配膳に生徒達は並び、自分や当番の分の給食を取りに行く。
山地はいつものようにおかずを大盛りについでもらい、自分の席についた。この班は5人グループであり、机を班ごとにすると山地がお誕生日席状態になる。
全員の机に給食が運ばれ、給食当番もようやく白衣を脱ぎみんな席についていった。

山地は、席替え二日目である今日もひたすらるんるん気分のままだった。
班決めには色々なパターンがあのだが、今回は完全くじ引きが採用された。班長に立候補した生徒が班員を決めるためのくじを引く。つまり班長以外のメンバーは運任せだ。
この2班は班長が重道。メンバーはムスカ、山地に瑠璃と、その友人のおとなしめの女子だった。
不良とオタクと普通系の混ざり合った、いかにもくじで決めたような班である。

「手を合わせてください……いただきます」
給食委員の号令で、みんなで「いただきます」をする。
放送委員による「ブロードキャスティングステーション昼の放送」が流れる中、会話を弾ませる楽しそうな班や黙々と給食を食べる班などグループによって色々である。

ムスカ達の班もわりと静かに給食を食べていた。
気まずい程ではないがだんまりな空気が続いていたからか、班長である重道はムスカの隣で口を開いた。
口を開いたといっても、別に口の中にある食べ物を見せびらかすためではなく、もちろん口に何も入っていない状態で発言をするためである。
「ところでムスカ君」
「んー?」

「君は気になる子とかいるのかい?」

ブッ!!!

突然すぎるその言葉に、ムスカと瑠璃と山地は同時に吹き出しそうになった。
「はっ!?いきなり何言い出すんだよ重道!?」
ムスカは口元にこぼれたスープを袖でぐしぐし吹きながら重道に聞き返す。
山地もムスカと全く同じことを言いそうになったが、牛乳が鼻に入り苦しくなっていた。瑠璃もむせている。
「僕は班長として、この場を盛り上げておくべきだ!と、そう思ったんですよ。こういった時は恋の話をするのが一番盛り上がると聞きましたので」
「だからって急にそんなこと聞いてくんなよ!」
ムスカが反発すると重道はすみませんねぇ、と詫びる。
「まったく……」
そういう話って普通は修学旅行の夜とかにするんじゃないのか、とか思いながらムスカはおかずを口に運ぶ。
だが、

「だ、誰なの、ムスカくんの好きな子って」
ムスカの向かいに座っている瑠璃がうつむき気味に小声で尋ねた。

「え?」
この話は終わらせたと思っていたムスカだったが、彼女の中では終わってはいなかったようだ。しかし彼女だけではない。
「そ、そうだよムスカ!お前好きな奴いんのかよ!?どうなんだよ!」
ようやく牛乳から解放さた山地も、話を詳しく聞こうと必死な顔でムスカに問い詰める。
「ああもうやめろ、離れろポーク!ねぇからそんなん!」
「ほんとかよ!?」
「本当にいないの!?」
「こうなると気になりますねぇ」
「いねーよ!」
「ムスカくん!」
「ムスカ!」
「本当にいないのかい?」

「もうなんなんだよお前ら!静かに食べろよ!」
前、左右から詰め寄ってくる3人にそう言って手で払いのけた後、ムスカは適当に揚げ物に箸を刺し一口かじってもぐもぐする。
すると、ムスカの動きが止まった。

「ムスカくん?」

「うぐぐぐぐぐ……」

何かに気がついたムスカは口を手で押さえ、背中を向けて苦しみだした。
「どうしたんだよムスカ!」
「ぐごごごご……」
「何か悪い物でも食べたのかもしれない!」
重道が箸の刺さったままのモノが置いてある皿の上を見るのと同時に、ムスカも震える片手でその皿を指差す。

「し…しい……たけ…」
「ムスカくん大丈夫!?」
ムスカは手探りで牛乳パックを掴み、牛乳でしいたけを流し込む。
「…っは、はぁはぁ…死ぬかと思った…」
「そのくらいじゃ死なないですよ」
「おい大丈夫かよムスカ!」
えらく心配する山地と瑠璃。もう大丈夫だ、とムスカは頷く

「ムスカくんって、しいたけ苦手なんだね」
「あぁ…これだけはな……でもどうすっかな…」
何が問題なのかというと、このしいたけの処理である。
嫌いなものがあっても給食は絶対に残してはいけない。これがこの教室のルール。
ムスカはもうこのしいたけを鼻をつまもうが、さっきのように牛乳で流し込もうが、食べることができないだろう。それほどのダメージを受けたのだ。

つまりムスカは今大ピンチだった。それならばと山地たちは閃いた。
自分が助けてあげるしかない!!
「ムスカ、じゃあ…!」
「このしいたけ」

「「「(私)(俺)(僕)が食べるよ!!」」」

「え?」
見事なまでのシンクロ率だった。
ムスカ(ともう一人の女子)がぽかんとしていると、ハモった3人は互いをキッと見る。それは敵を見る眼差しだ。

「あ、ああじゃあ頼むわ……えーと」
ムスカがこの妙な雰囲気に戸惑っている中、

「おいなんだよお前ら!俺が先に言ったんだからな!」
「私が食べるから大丈夫だよ!」
「いや、ここは僕が班長として責任を持ってムスカくんの食べかけをいただきます」
「あっ、てめー!やっぱりそれが目的なんじゃねーの!?」
ムスカの救済と信頼度と食べかけを賭けて、ムスカ好きの3人は互いを譲らない。

気がつけば近くの班は2班の盛り上がりに興味を示しているようで、何があったかおとなしめの女子に聞きにくる生徒もいた。
「お前らどんだけしいたけ好きなんだよ…」
しかし一向に止まない3人。ムスカとしてはこれ以上騒いでほしくもないので、こっちからあげてしまうと思い箸を取る。

「わかったよ、それじゃこれは」

ムスカは箸の持ち手でしいたけを掴み、

それを山地の皿の上に置いた。


「えぇっ!俺に!?」
ムスカに選ばれたのは山地だった。
静かになった2人が注目する中、驚いていた山地の表情がぱあっと明るくなる。
「おやムスカ君、どうして山地君を選んだんだい?」
不思議そうに重道が尋ねるが、山地も瑠璃も同じことを思った。

まさか、ムスカは俺に少しでも気があるんだろうか。そんなはずねぇよな。でももしかしたら…と、ついそんな考えが山地の頭にふわふわと浮かんでしまう。

「どうしてって……こんな食いかけ福沢にはやれないし」
「ムスカくん…」
「ポークが一番よく食うからだろ」
重道はそれを聞いて、ん?とメガネを上げもう一度訪ねる。
「じゃあ、この3人の中で一番好意を寄せているのが山地君だという理由ではないのかい?」
「なんでそんなことになるんだよ…」
その発想の飛び方にムスカは苦い顔をしているが、気づけば周りの3人は満足そうな顔をしていた。

そうかい、じゃあ僕にもチャンスはあるのかな、といいながら重道はウハハと笑い
瑠璃はムスカの優しさを感じ、特別扱いされた気がして口元が緩んで目が輝き
山地は話をちっとも聞いておらず、自分がムスカに頼られて選ばれたことにただ感激していた。

そんな3人を見て何が嬉しいんだがよく分からないムスカは、変な奴らだなと言いながらまだ残っている牛乳を飲む。
でも意外とこの班もそんなに悪くはないかもしれない。ただ先生の近くの席は嫌だけど、なんて考えていた。


2班の二日目。山地と瑠璃と重通によるムスカ争奪戦はまだまだ始まったばかりだ。





あとがき

今回はわりと短編ですね!長さとしては本当はこのくらいが丁度いいのかもしれません(笑)
テーマとして、ムスカ好きの三人が同じ班になったらどうなるか。火花を散らしあう的なものが書きたかったのです。
あと山地を中心に書くこともあんまりないのでそれもやってみたかった。
(そしたらナオさんが同じタイミングでこれとシンクロしたような話を書いてて笑いました。私のネタから拾ってくれたのか、まさか奇跡的にかぶったのか…!?笑)

ムスカ君は母からもクラスの女子や男子からもモテモテですね!さすが主人公。
ちなみにムスカが箸を裏返してあげたのは、マナーというよりもこれ以上箸先で触りたくなかったからでしょう。でもそれも気遣いだと思って嬉しい山地!
不思議なことに、書いてるうちにだんだん山地が可愛く思えてきたんですよ。なんでだろう。やはり恋する子ってのは可愛くおもえるんでしょうかね(笑)ナオさんの山地も可愛い(笑)
ではまた近いうちに何かかけたらいいな!

2015.12.20 紀紗
最終更新:2015年12月22日 13:35