今日は雲仙岳平成新山にて、多数の人的被害を出した火砕流の発生日より29年になります。
正直、この件については防げた側面も大いにある災害であると思っているだけに、特にその辺りについて言及したいと考えています。
【注意事項】
時折、人によっては厳しく感じられる語彙もあるでしょうが、防災の観点、人の命を守るという一番最低限の目線にたった率直な感想ですのでご容赦願います。万一、不快に感じられた際は結論部分のみ一読頂ければと思います。
事の大小はあれど、実は毎年のように同様の事は発生しています。
※このコラムは2020年6月3日、Twitter上にアップしたコラムを加筆修正したものです。
雲仙岳の一連の火山活動について
さて、いつも以上に前置きが長くなりましたが、今回の件に関しては自然災害であると共に、「危険であるとされている区域」にさえ立ち入らなければ人的被害は最小化できていた、いわゆる「人災」の側面をも持っています。
29年前の火砕流はいきなり発生したものでは無く、一連の火山活動の一つに過ぎなかったのです。
当時の認識(※)においても1989年11月からの橘湾群発地震を始めとして、1990年11月17日に山頂付近の神社脇の2か所より噴煙が立ち上り噴火が発生、溶岩ドームの形成や土石流、火砕流の発生等を経て1995年3月頃までが継続した一連の火山活動とされています。
※後の調査では1968年頃より活動期に入っていたとされる。
避難勧告に従っていれば防げたはずの犠牲者
1991年5月には土石流が相次いで発生しており、その都度水無川流域の地域に避難勧告を出していましたが、その都度避難はスムーズに行なわれ、人的被害はありませんでした。
その後、20日に溶岩ドームが出現し、24日に最初の火砕流が発生、居住地域のそばに迫った26日に火砕流の避難勧告が出されました。
住民はやはり概ねこの避難勧告に従っており、6月3日に発生した火砕流での犠牲者は農作業で一時戻っていた4名でした。また、この時の火砕流における犠牲者の罹災地は避難勧告エリアの内側に収まっていたのです。
しかしながら、この火砕流では43名もの尊い命が失われる結果となってしまったのです。
加熱する報道合戦が招いた参事
では、何故43人もの死者・行方不明者を出す大惨事になったのか。
実は、4割弱を占める16名が報道関係者(アルバイト学生を含む) であり、更に14名は報道関係者等の警戒、避難誘導に当たっていた消防・警察関係者でした。
また、4名は報道関係者に配車され、独断での避難が出来なかったタクシー運転手でした。
(残る4名は先述したとおり農作業を行なっていた住民、2名は市の作業員、3名は火山学者クラフト夫妻及び道案内役のUSGSグッケン氏)
報道関係者は現地の情報を正確に読者・視聴者に届けるという責務があって、危険な場所に立ち入り、使命を全うしたと言えるかも知れません。
しかしながら、火砕流が予想され、立ち入りを制限した区域に居るという事は、いつ、何時それに襲われ命を落とすか分からないという事と同義なのです。
モラルハザードが招くもの
正直、災害発生前には報道関係者による避難宅への盗電などもあり、崇高な目的で定点(※)に立っているとは思えない行動も散見されました。
全ての人がそうでないにせよ、各社の首脳陣も視聴率、読者数競争でセンセーショナルな映像を求めるのではなく、安全に配慮した指示を出すべきだったでしょう。
消防・警察による報道関係者に対する警戒とさらっと書きましたが、先述した犯罪行為に対する警戒もあったはずで、現場の報道関係者、そしてその報道関係者に指示を出す上司(アルバイト学生に至っては余計独断での避難は不可能だったと思われます)、更にその上の上に至るまで、モラル意識、危機意識が欠けていたのではないのでしょうか。
※溶岩ドームから4.0kmの距離があり、さらに土石流が頻発していた水無川からも200m離れていた上、40mの高台となっていた北上木場町の県道。メディアから撮影スポットとして好まれていた為、いつしか「定点」という呼び方が定着した。
自分勝手な行動が自らの命だけでなく、他人の命まで奪う結果に
窃盗行為という遵法意識から、人の命を守る、預かるという会社としての最低限のライン。報道の重要性という事を考えても、守るべきラインを大きく逸脱していたと考えられるかも知れません。
報道関係者16名だけでなく、先述の消防・警察関係者及びタクシー運転手の18名もその殆どが「人命より報道を優先する」という価値観の犠牲になったのです。
【結論】他の災害でも似たような事例は多発している
実は毎年同じ様なことが発生している、と注意事項に書きました。
顕著な例は「玄倉川水難事故」等に代表されるかも知れませんが、
- 台風接近時に田んぼの様子を見に行く
- 遊泳禁止エリアで泳ぐ
- 立ち入り禁止を無視する
こういったことも実は同じなのです。
一般的に危ないとされている行為、また、危険が迫っているとして避難勧告などが発せられたとき、特定の区域から待避を呼びかけられたとき、自分勝手な理由で留まったり、立ち入ったりすることは極力慎まなければなりません。
但し、自宅など今居る場所に留まった方が却って安全である場合は逆にそこから出ずに、危険が去るまで待機しておくべきでしょう。
これらを守らない場合、場合によっては自らが危険にさらされるだけでなく、それを救おうとする人や周りの人も巻き込まれることがあります。
真にやむを得ない理由無く自ら立ち入る場合も、立ち入りを指示する側も、自分達だけの覚悟だけでは足りないことを肝に銘じてください。
最後に
このコラムの中でかなり厳しい口調で色々と書きましたが、犠牲となられた43名全ての方のご冥福をお祈りすると共に、関係者に心よりお悔やみ申し上げます。
ただ、これから起こる災害で同じ悲劇を繰り返さない為にも、災害時における危険区域への安易な立ち入りを強く自らに戒め、かつ広く啓発していかなければならないと思います。
また、例え報道会社の中であっても、犠牲となった報道関係者を過剰に英雄視したり、この出来事を美談にすることはあってはならないでしょう。
それは巻き添えとなった18名を愚弄する行為でもありますし、何より最近でも災害報道の現場において、報道関係者による自分勝手な行動が散見されることからも、彼らを死に追いやった本質的な部分は何も変わっていないのではないかと危惧されるからでもあります。
むしろ、現場に赴くスタッフの命を預かる上司、その更に上司、上層部に至るまで、この件を戒めとして、災害報道の在り方をもう一度よく考え、今後起こるかも知れない次の災害に備えるべきではないでしょうか。
最終更新:2020年06月24日 19:11