日はとうに傾き、西側に位置するこの部屋をじりじりと照らしつけていた。
忘れかけていた世界の音が鼓膜に帰ってくる。蝉の声が耳をつんざかんばかりに喚きたて、
部屋の温度を上げていった。
背中も膝裏も、全身を互いの汗でぐっしょりと濡らした濃姫は、未だ肩で息をしながら
着物を拾い上げた。
自身の下で二人分の体重を受けたそれにはくっきりと皺が入り、着られたものではない。
「……帰蝶」
濃姫の肩口に顔を埋めるようにして、慶次が低く囁いた。
まるで懇願するかのような口調に、濃姫の心臓がぎりぎりと締め付けられる。
忘れかけていた世界の音が鼓膜に帰ってくる。蝉の声が耳をつんざかんばかりに喚きたて、
部屋の温度を上げていった。
背中も膝裏も、全身を互いの汗でぐっしょりと濡らした濃姫は、未だ肩で息をしながら
着物を拾い上げた。
自身の下で二人分の体重を受けたそれにはくっきりと皺が入り、着られたものではない。
「……帰蝶」
濃姫の肩口に顔を埋めるようにして、慶次が低く囁いた。
まるで懇願するかのような口調に、濃姫の心臓がぎりぎりと締め付けられる。
本当は気づいていた。この闇色の着物を纏う必要がないことも、自身の中でかつての夫が
「愛していた者」に変わってしまったことも。
ただ、認めるのが恐ろしく、自らの心変わりが悲しい。罪悪感にも似ている。
「私は、上総介さまを愛していたわ」
「……うん、知ってるよ」
「愛して、いたのよ」
「うん。……でも」
蝉の声が一瞬、止む。奇妙なほどの静けさに、太陽も姿を雲間に隠した。
濃姫の下唇を優しく食んだ後、慶次は微笑む。それは戦いの最中、勝利を確信した時の
ように獰猛に、またその一方で、ひどく穏やかに見えた。
「今アンタが見てるのは、俺だ。……そうだろう?」
頷くことも首を振ることもできずただ慶次を見つめるばかりの濃姫に、慶次はもう一度
口付ける。
行為を思い出させるように濃厚なそれに、鎮めたばかりの体が再び熱を持った。
この唇を、腕を、慶次を拒むことなど……濃姫には、もうできない。
「愛していた者」に変わってしまったことも。
ただ、認めるのが恐ろしく、自らの心変わりが悲しい。罪悪感にも似ている。
「私は、上総介さまを愛していたわ」
「……うん、知ってるよ」
「愛して、いたのよ」
「うん。……でも」
蝉の声が一瞬、止む。奇妙なほどの静けさに、太陽も姿を雲間に隠した。
濃姫の下唇を優しく食んだ後、慶次は微笑む。それは戦いの最中、勝利を確信した時の
ように獰猛に、またその一方で、ひどく穏やかに見えた。
「今アンタが見てるのは、俺だ。……そうだろう?」
頷くことも首を振ることもできずただ慶次を見つめるばかりの濃姫に、慶次はもう一度
口付ける。
行為を思い出させるように濃厚なそれに、鎮めたばかりの体が再び熱を持った。
この唇を、腕を、慶次を拒むことなど……濃姫には、もうできない。
終




