「一晩でいい、旦那と」
「ふざけないで!」
「ふざけてない」
「なお悪いわ」
「あんたは織田の奥方。織田の人質…旦那は武田の武将、真田の跡取りだ
旦那がどんなに想ったって、どんだけ思いつめたって、結ばれることはない」
「ふざけないで!」
「ふざけてない」
「なお悪いわ」
「あんたは織田の奥方。織田の人質…旦那は武田の武将、真田の跡取りだ
旦那がどんなに想ったって、どんだけ思いつめたって、結ばれることはない」
じくり、濃姫の胸にとげが刺さる。
死んでしまいたいほど大きな胸の穴を、憎しみでも戸惑いでも、覆ってくれたのは幸村だ。
死んでしまいたいほど大きな胸の穴を、憎しみでも戸惑いでも、覆ってくれたのは幸村だ。
「はっきり言って、あんたは旦那の初恋だ。初恋ぐらい、添わせてやりたい」
「無粋だぜ、佐助。恋のかじ取りに手ぇ出すもんじゃねぇ」
「放っておいて旦那が進められると思うか?」
「体で、心が切れるかよ。それこそ無粋だ」
「思い出くらいはあってもいい」
「一緒になればいいじゃねぇか」
「そんなこと出来ないのはあんただってわかってるだろ」
「無粋だぜ、佐助。恋のかじ取りに手ぇ出すもんじゃねぇ」
「放っておいて旦那が進められると思うか?」
「体で、心が切れるかよ。それこそ無粋だ」
「思い出くらいはあってもいい」
「一緒になればいいじゃねぇか」
「そんなこと出来ないのはあんただってわかってるだろ」
織田の寡婦。慶次もわかっているのだろう、つらそうに眼を伏せた。
帰蝶を抱くことは美濃を抱くこと、美濃を制する者は天下を制すると言われた要所、それが帰蝶の価値だった。
今は、織田に慕われている御台所…人質としての価値しかない未亡人。
真田の妻にと望む人間は、武田にも織田にもいはしない。
帰蝶を抱くことは美濃を抱くこと、美濃を制する者は天下を制すると言われた要所、それが帰蝶の価値だった。
今は、織田に慕われている御台所…人質としての価値しかない未亡人。
真田の妻にと望む人間は、武田にも織田にもいはしない。
(…思いきれと、いうのね)
濃姫はそっと目を閉じた。
この忍びは、濃姫の心にあるささやかな波紋など何もかも知った上で言っているのだ。
幸村の思いを添い遂げると言いながら、濃姫の心が傾いていることへ釘をさしている。
この忍びは、濃姫の心にあるささやかな波紋など何もかも知った上で言っているのだ。
幸村の思いを添い遂げると言いながら、濃姫の心が傾いていることへ釘をさしている。
「…桜が、綺麗ね」
窓の縁にもたれるようにして、濃姫は囁くように呟いた。
美濃にもこうして桜は咲いた。幼い思い出の花見はただ優しい。
織田の桜をよく覚えていないことを、濃姫は少し残念に思った。
美濃にもこうして桜は咲いた。幼い思い出の花見はただ優しい。
織田の桜をよく覚えていないことを、濃姫は少し残念に思った。
「…春の宵だもの、夢くらい見るでしょう」
佐助と慶次の目が隣室で眠る幸村に向いた。
「お濃ちゃ…いや、なんでもねぇ…」
慶次が伸ばしかけた手を力なく落とす。
こんなつもりではなかったのだろう、眉を寄せる慶次を、優しく見つめて濃姫は二人を見送った。
祇園の桜は、ただただ美しく黙って散るのだ。
こんなつもりではなかったのだろう、眉を寄せる慶次を、優しく見つめて濃姫は二人を見送った。
祇園の桜は、ただただ美しく黙って散るのだ。
おみなのようだと、濃姫は小さく嗤って障子に手をかけた。




