ずっと側に
さらさらと流れるように書き物をしている謙信の後ろに、かすがはいつものように控える。
軍神の背中を見つめながら、かすがは形のいい眉を顰めた。
戦が終わり世が平和となっても、謙信はかすがを手放す事は無かった。忍びであり、謙信の
つるぎであるかすがは、戦うことがなくなった今、もう必要とされなくなると思っていた。敬
愛する謙信を困らせないためにも、何か言われる前にこの城を去ろうなどと心に決めていたの
に、謙信はそんなそぶりなど見せない。寧ろ、戦の間よりも、よく笑いかけてくれるような気
がする。
軍神の背中を見つめながら、かすがは形のいい眉を顰めた。
戦が終わり世が平和となっても、謙信はかすがを手放す事は無かった。忍びであり、謙信の
つるぎであるかすがは、戦うことがなくなった今、もう必要とされなくなると思っていた。敬
愛する謙信を困らせないためにも、何か言われる前にこの城を去ろうなどと心に決めていたの
に、謙信はそんなそぶりなど見せない。寧ろ、戦の間よりも、よく笑いかけてくれるような気
がする。
(……そんな風に思うのは、私がただ謙信様の側から離れたく無いと思っているからだろうか)
「かすが」
「かすが」
名前を呼ばれて、顔を上げる。戦が終わってから、謙信はかすがのことを決して「つるぎ」
とは呼ばない。名前で呼ばれることの嬉しさはあるが、もう自分が必要ないと考えてしまい、
少し悲しかった。つるぎであるからこそ、謙信の側にいられるのだと思っていたから。
謙信は筆を硯に立てかけて、肩越しにかすがを見ていた。目が合うだけで、身体の奥が熱く
なる。謙信の唇が、ゆるりと弧を描いた。
とは呼ばない。名前で呼ばれることの嬉しさはあるが、もう自分が必要ないと考えてしまい、
少し悲しかった。つるぎであるからこそ、謙信の側にいられるのだと思っていたから。
謙信は筆を硯に立てかけて、肩越しにかすがを見ていた。目が合うだけで、身体の奥が熱く
なる。謙信の唇が、ゆるりと弧を描いた。
「け、謙信様」
「こちらにきなさい」
「は、はい」
「こちらにきなさい」
「は、はい」
隣を示されて、かすがは戸惑いながらもそこに腰を下ろす。目線が近くなり、心臓の音も大
きくなる。謙信は穏やかに微笑んだままだ。
きくなる。謙信は穏やかに微笑んだままだ。
「あ、あの…」
沈黙に耐えきれず口を開くと、急に手に手を添えられた。びくっと反応する前に、そのまま
指が絡まる。頬が熱くなるのを感じながら、かすがは謙信と重なる手を見比べた。
指が絡まる。頬が熱くなるのを感じながら、かすがは謙信と重なる手を見比べた。
「け、謙信様…?」
「そなたは、よくやってくれましたね」
「え…?」
「そなたは、よくやってくれましたね」
「え…?」
そろりと持ち上げられた細いかすがの指先に、謙信は口付けを落とす。突然のことにかすが
は言葉を失った。真っ赤な顔で何を言ったら分からず、謙信の唇が触れる指先を見る事しかで
きない。ぴちゃりと指を舐める音が、変に響いた。
は言葉を失った。真っ赤な顔で何を言ったら分からず、謙信の唇が触れる指先を見る事しかで
きない。ぴちゃりと指を舐める音が、変に響いた。