そのまま、お互いに見つめ合っていた。
全身を覆う気怠さはあったが、眠気はなかった。
と言うより、寝てしまいたくなかったと言うのが正しい。
「朝が来たら…奥州に帰られてしまうのか」
「んな寂しそーな顔すんなよ。まぁ、まだしばらくはこっちの屋敷にいるさ」
眉根でも寄っていたか、ぐりぐりと眉間をなぞられた。
「江戸にも屋敷をお持ちなのか」
「あぁ、俺が作った仙台の城程じゃあねぇけどな、庭も立派な良い屋敷だぜ」
なぞられた眉間を擦りながら聞けば、嬉しそうに自慢する。
自分の事はあまり喋りたがらないが、建物や物の造形にこだわるのが好きなんだと感じた。
「奥州はどのような所でござるか」
ふと、この方の生まれた国に興味を持った。
「そうだな…寒い所だ。寒いと言っても、雪はほとんど山向こうの最上に落とされ、乾いた風の吹く冷たい土地だな」
政宗殿の横顔が、遠く故郷を想う顔になった。
「だがその分人情に厚い。そーやって身を寄せ合ってなきゃ生きてけねぇってとこもあるんだろうが…」
自嘲気味に、だが誇らしげに政宗殿は続けた。
「俺はそんな、あいつらの住む国を、豊かにしたいと思ってる。農民も町人も武士も、みんなだ」
「…素晴らしい国なのでござろうな」
政宗殿があまりにも嬉しそうに喋るので、こちらまで何か嬉しくなった。
「お前は?お前の郷はどんな所なんだ、幸村?」
唐突に自分に矛先が向けられ、困惑してしまった。
先日、慶次殿に聞かれた時もそうであったが、故郷の事などほとんど覚えていない。
「確か…家の裏に林や小川があり、そこで駆け回って遊んでいた覚えがありまする」
政宗殿は黙って聞いていた。
「後は、何も…生まれ育った部屋も家も、もうおぼろげにしか覚えておらぬのです」
覚えていない事は寂しくなかったが、忘れてしまった自分を少し薄情だなとは思っていた。
「…帰りたいか?」
純粋な興味かと思いきや、聞いた政宗殿自身が辛そうな顔をしてお聞きになるものだから、少し返答に詰まった。
「いいえ…某の故郷は、最早ここにございますれば」
そう答えれば、政宗殿の顔が、少しほころぶ。
「某、帰りたいとは思いませぬが…」
「ん?」
「政宗殿の治める国は、見てみとうございますな」
きっと住み良い場所なのだろうと、想像しただけで胸が躍った。
「あぁ…そのうちな、見せてやる…」
それだけ答えると、政宗殿は俺を抱き締め、髪に顔をうずめるように眠りに落ちた。
俺も、その感触に酔いしれながら、いつしか浅い眠りに落ちていった。
全身を覆う気怠さはあったが、眠気はなかった。
と言うより、寝てしまいたくなかったと言うのが正しい。
「朝が来たら…奥州に帰られてしまうのか」
「んな寂しそーな顔すんなよ。まぁ、まだしばらくはこっちの屋敷にいるさ」
眉根でも寄っていたか、ぐりぐりと眉間をなぞられた。
「江戸にも屋敷をお持ちなのか」
「あぁ、俺が作った仙台の城程じゃあねぇけどな、庭も立派な良い屋敷だぜ」
なぞられた眉間を擦りながら聞けば、嬉しそうに自慢する。
自分の事はあまり喋りたがらないが、建物や物の造形にこだわるのが好きなんだと感じた。
「奥州はどのような所でござるか」
ふと、この方の生まれた国に興味を持った。
「そうだな…寒い所だ。寒いと言っても、雪はほとんど山向こうの最上に落とされ、乾いた風の吹く冷たい土地だな」
政宗殿の横顔が、遠く故郷を想う顔になった。
「だがその分人情に厚い。そーやって身を寄せ合ってなきゃ生きてけねぇってとこもあるんだろうが…」
自嘲気味に、だが誇らしげに政宗殿は続けた。
「俺はそんな、あいつらの住む国を、豊かにしたいと思ってる。農民も町人も武士も、みんなだ」
「…素晴らしい国なのでござろうな」
政宗殿があまりにも嬉しそうに喋るので、こちらまで何か嬉しくなった。
「お前は?お前の郷はどんな所なんだ、幸村?」
唐突に自分に矛先が向けられ、困惑してしまった。
先日、慶次殿に聞かれた時もそうであったが、故郷の事などほとんど覚えていない。
「確か…家の裏に林や小川があり、そこで駆け回って遊んでいた覚えがありまする」
政宗殿は黙って聞いていた。
「後は、何も…生まれ育った部屋も家も、もうおぼろげにしか覚えておらぬのです」
覚えていない事は寂しくなかったが、忘れてしまった自分を少し薄情だなとは思っていた。
「…帰りたいか?」
純粋な興味かと思いきや、聞いた政宗殿自身が辛そうな顔をしてお聞きになるものだから、少し返答に詰まった。
「いいえ…某の故郷は、最早ここにございますれば」
そう答えれば、政宗殿の顔が、少しほころぶ。
「某、帰りたいとは思いませぬが…」
「ん?」
「政宗殿の治める国は、見てみとうございますな」
きっと住み良い場所なのだろうと、想像しただけで胸が躍った。
「あぁ…そのうちな、見せてやる…」
それだけ答えると、政宗殿は俺を抱き締め、髪に顔をうずめるように眠りに落ちた。
俺も、その感触に酔いしれながら、いつしか浅い眠りに落ちていった。




