◆IT業界で働く、若者の環境は。
◇「心を病むか、体壊すか」 過大なノルマ、残業代不払いで疲弊
◇個人加盟の労組結成
◇「心を病むか、体壊すか」 過大なノルマ、残業代不払いで疲弊
◇個人加盟の労組結成
IT(情報技術)業界で働くプログラマーやシステムエンジニアなどの個人加盟の労働組合「フリーター全般労働組合・ITユニオン」が結成された。労組があるIT企業もあるが、ベンチャー企業が多いIT業界では若年労働者が中心で労働組合がないケースも多く、若年者を中心とした労組の結成へとつながった。
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「心を病むか、体が壊れてしまうか、二つに一つですよ」。大学院を修了後、IT関連の会社にシステムエンジニアとして就職した男性(31)は、あきらめ顔でつぶやいた。
男性は今回結成した組合のリーダーだ。7年間IT業界で働いているが、二重派遣や長時間労働に悩まされ続けてきた。医療関連メーカーの解析プログラムの仕事をした時は、派遣でプロジェクトリーダーを任された。だが、リーダーとは名ばかりで、少人数ではこなし切れない量の仕事を体よく押しつけられた状態だった。納期に追われ、責任感で残業を含め月320時間以上の労働を続けた。土日の休みもなく働いた3カ月目、通勤の電車内で失神した。病院に運ばれたが、2日休んだだけで、出勤しなければならなかった。
そんなころ、会社の先輩が亡くなった。「過労自殺だよ」と上司は申し訳なさそうに耳打ちした。同期の仲間はうつ病になり働けなくなった。男性は「電車内で失神したので助かりましたが、ホームで失神したら死んでいたでしょうね」と振り返る。労組の仲間の話からは、この男性のほかにも、過重な労働の中で労働関連法も守られない状態で働く人たちの姿が浮かぶ。
同じく大学院を出て「未経験可、正社員募集」の求人で採用された女性(30)は、実は正社員ではなく、契約社員として扱われていた。入社後、コンピューターの研修を受けている期間は賃金が支払われず、日雇い派遣で生計を支えながら研修を受け、仕事ができる日を待った。
初仕事では、いきなり膨大な量の作業を命じられた。細かいミスをしただけで人格を否定するような言葉が容赦なく飛んでくる。心が縮んでしまう日々を繰り返すうち、うつ病になった。自殺願望が強くなり、「つらいので仕事を休みたい」と言うと、「契約社員なんだから我慢しろ」と言われ、初めて正社員ではなかったことを知った。うつ病のダメージは大きく、今も働くことができない。女性は「初めての仕事でこんな扱いをされて、もう働くことが怖い」と目を伏せた。
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別のIT関連組合のベテラン組合員は、こうした労働の背景を「コンピューターは技術の進歩が速いことなどもあり、企業は大量に労働者を採用するが、大量に辞める。実際、毎年半分近くは1年で辞めたり、辞めさせられたりする」と指摘する。技術者が育成されず、定着率も低くなり、偽装請負や違法派遣などが横行する土壌があるという。特に複数の企業が間に入る多重派遣による中間搾取が行われ、労働者は厳しい状況で働きながら低賃金を強いられたり、派遣料金を巡るトラブルに巻き込まれるケースも少なくない。
ITユニオン結成を支援した若年者を中心とした個人加盟労組、フリーター全般労組の清水直子さんは多くの若年IT労働者の相談を受けてきた。清水さんは「IT業界は過大なノルマや残業代不払いなど構造的な問題も抱えていることが分かった。そんな中で心を病む者も多い。若く、能力もある労働者をつぶさないためにも、労組を根付かせて権利を守っていく必要がある」と話す。ITユニオンの問い合わせはフリーター全般労組(03・3373・0180)。【東海林智】
毎日新聞 2010年7月26日 東京朝刊