クッパ軍団を退けたアオたちは、城内の食堂へと戻った。
今度はレインドたちも一緒で、アオにとってはやっと安心感を持てた。
真昼の食堂は朝よりも賑やかになった。
モララーと古酒は持成された料理を無我夢中になってたいらげている。
その中で…
レインド「まあな…今思い出しても不思議なことだ。」
アオ「……。」
例の本の話になると、アオの表情はおもむろに暗くなっていく。
レインド「…浅花のことは仕方がない。手掛かりがないんじゃ…俺たちにはどうすることもできない。ただ…今の俺たちみたいに無事であることを、祈るしかない。」
それでもアオの表情は変わらなかったが、それを受け入れたのかゆっくりと頷いた。
その時、横から
ピーチの優しい声がアオを呼んだ。
ピーチ「アオさん…先程はありがとうございます。アオさんのお陰で負傷者は出ることもなく…彼等も撤退していきました。」
アオ「ああ…いえ、礼なら俺だけじゃなく…彼等にも。」
キノじい「未来の
マリオ殿、この時の貴方様は一体何処にいらっしゃったんだ!?」
マリオ「んなの覚えてねえよ…。」(汗)
マリオはキノじいのお叱りを受けていた。理不尽ながら。
キノじい「まったく…姫様の危機だったのじゃぞ?」
マリオ「だから悪かった…って、なんで俺が謝らなくちゃいけないんだ!?」(汗)
ピーチ「じい、マリオも私たちを助けてくれたのです。それに…未来から来たのなら、話になりませんよ。」
キノじい「むぅ…失礼した、マリオ殿。」
マリオ「いいよ。…それより、何でクッパの軍がここへ…?」
彼の問いに、二人は顔を見合わせ表情が重くなった。
ピーチ「マリオ…今度のクッパは、何か…変なんです。」
マリオ「…変?どういうことなんだ…?」
キノじい「なんじゃ、未来から来たのなら何でも承知の上かと思っていたんじゃが…。」
マリオ「悪かったな。」(汗)
ピーチ「…定かな事は分かりませんけど…いつもと、様子が違うんです。…軍の動きを見ていると…。」
この話になると、流石にアオとレインドも耳を傾けた。
元々クッパはこれまでに…幾度となくピーチ姫をさらってはマリオに救出され、その度に敗れている。
この話はゲームを通じて知っているアオやレインドも、そして他ならぬ誰もが当たり前のように知っている。
理由は人により様々だが、本人はただ結婚を求めているだけとのこと。他愛もないことだった。
しかし彼女の話によると、今度のクッパが求めたのはピーチ姫だと、やはり狙っているものは変わらないが…その理由が異なっていた。
彼等は国の領土を、産業を、軍事力を、それら全ての権力を握る彼女を欲していた。
あくまで狙いは「キノコ王国」、その為に姫自身を要求していたのだ。
マリオ「なんだよ、いつもみたいな求婚じゃないのか。」
ピーチ「ええ…クッパが一体何を企んでいるのかは分かりませんでしたが…今日の朝刊を見たら……彼が何を企んでいるのか、それがよく分かったような気がします。」
ピーチはキノじいに顔を向けると、彼は朝読んでいた朝刊を持ってテーブルの上に広げた。
その近くで食事をしていたモララーと古酒も「何だ」と言わんばかり、口に食べ物を頬張りながら目を通した。
新聞の広告写真にクッパと思われる怪物と…となりにローブを覆った謎の人物の二人組が写し出されていた。
モララー「あれ……こいつ、どっかで見たことが…。」
古酒「――――――!!」
古酒は写真を見て仰天し、コップに入っていた水を一気に飲み干した。
古酒「……ナナ…っ!?」
アオ「…え……ナナちゃん?」
レインド「……?」
聞き覚えのある名前を耳にしたアオとレインドは新聞に飛び付いた。
白く不気味な表情を模した仮面を被って、ローブを覆っている怪しい人物……しかしレインドは傾げた。「これが彼女なのか?」と。
ピーチ「クッパの隣にいる人物こそ…今この時代で注目された、この世界の創造神の…一人らしいです。」
キノじい「名は…混沌の女神だという。」
『―――――――――――!!?』
その名を聞いた途端誰もが驚きを隠せない表情になった。
モララー「女神と言えば……俺たちが潰した組織じゃなかったか…?」
古酒「ああ、そうだ。となると……俺たちは、あの時代に今立っているという事なんだろうか…?」
レインド「そうとしかないだろう。まあ、俺は関わったことないから…事情は知らないけどな。」
アオ「……混沌の…女神…。」
アオの脳内であの絶望的な戦いの日々がフラッシュバックされる。
世界のリセットを企む強大な組織……途中、知りたくもない、受け止めたくもない現実にも出会った。
彼女…ナナと出逢った時から、自分は駒として弄ばれていたんだ…。
けど全ての黒幕は、彼女の中に潜んでいた“女神”だった。名前は既に忘れたが…あの日、初めて彼女に出逢ったんだ。“ナナとしての彼女”に…。
そんな事を思い出していると、いつの間にかピーチは続けていた。
ピーチ「今クッパ軍団は…『
真・クッパ軍団』と名を変え、女神と共に世界を滅ぼし…新たな理想郷と言う、平和な世界を創造しようと企んでいる。」
キノじい「あの乱暴で凶暴なクッパが平和な世界を考えておるなど…到底考えられんわい。」
マリオ「…なるほどな、今俺も思いだしたぜ。」
キノじい「マリオ殿…?」
マリオ「さっき城を襲ったクッパ軍は…俺たちの知るあいつらじゃないんだ。そして、この新聞に写っているクッパも…だ。」
ピーチ「……?それは…どういう事……。」
マリオ「女神とはもう一つに…新たな影がいて、そいつがクッパの所有する城を強奪したんだ。そして城内に残っていた兵を一人残らず洗脳し、クッパ本人を追い出してつくり上げた組織が、今言った真・クッパ軍団っていう奴だ。」
キノじい「何と…っ!?」
ピーチ「では…今回はクッパの仕業では…ないという事なんですね。」
マリオ「そういうことだな…。」
レインド「なあ、アオ…。」
新聞の記事に目を奪われていたアオは彼の声で顔を上げた。
レインド「元の世界へ帰られる術は今のところないんだ…浅花の居場所も同じだ。」
アオ「レインドさん…?」
レインド「一つ、ここは時代に沿って今起こっている事態をどうにかしてみないか?」
モララー「それは賛成だな。」
丁度食事を終えたモララーの腹は膨れ上がっている。
モララー「元々手掛かりはねえんだ。俺たちは行き場のない旅を堪能しようとしていが…こりゃ目的が見えてきたな。そうだろ、レインド。」
レインド「ああ。……それにな、お前たちが堪能した時代を、俺も見てみたいんだ。」
レインドはアオに向けて笑った。
彼は納得したように笑い返した。
アオ「そうだよな…いつまでも俯いていたんじゃ何も始まらないか。」
古酒「その通りだぜ。それに…俺もちょっと知りたいことがあるしな、あの事件のことで。」
マリオ「何だお前等…?俺を差し置いて面白そうな話するなよ。」
微笑したマリオが寄ってきた。もう彼女たちとの話は終えたようだ。
古酒「いいのさ、お前も来るだろ…マリオ?」
マリオ「当り前だとも。」
レインド「さてと……いいだろ、アオ?」
アオ「……勿論です!」
モララー「旅人も増え、目的も見えてきた。やっと旅らしくなってきたな。」
レインド「そうだな。」(笑)
そういうことで、俺はレインドさんたちと共にあの時代をもう一度堪能することになった。
正直あの戦いだけは一番避けたかったのだが…止むを得ないだろう。もう一度彼女等の野望を止め、そして浅花ちゃんの行方を捜し出す…。
そうか、これが…また神様が俺に与えた悪戯な試練なのかもしれない。
それなら応えてやるさ、二度と俺は……後ろへは振り返らない。
支度を終え、城を出る事になったアオ一行。
城の者たちにはちゃんと礼をしたアオは、「また来てください」と歓迎されてしまい、ちょっと照れ臭くなった。
彼女たちの見送りと共に
新たな旅へ出発した一行が目指すのは、混沌の女神という強大な壁。
それを打ち砕いた先に何が見えるのだろうか…
広大な空を見上げながら、アオは思い描いていた。
最終更新:2012年05月10日 20:39