ケビン・ベルガーはレゼリア下層部に拠点を構える自警団
アトス・ベルガーとエルザ・ベルガーの間に生まれた
母エルザは人並みならぬ何か、身体能力を持ち合わせ、射撃の才においては自警団において右に出るものはいない
父こそは普通の人間であったが人体における『気』の流れを熟知し自在に操る術を知っていた
古来より伝承されていた筈の失われた技術を発掘し会得した父は母をも凌ぐ実践力のの持ち主、
そんな両親に愛され、貧しいながらもケビンは二人を、愛情を注がれただけ愛し、
仲睦まじい家族、それを囲む自警団の仲間達、将来を有望され、
彼は少年時代を、人間の基礎を作り上げる無垢な時期を満足に過ごしたのだった
──そう、彼が12を迎えるまでは…
「じいさん?」
「そ、アタイのパパだよ。 アンタで言うとこのおじいちゃんって訳」
夕刻5時頃の事だった
何時もはこの時間、とっくに他よりも遅めの昼食を終え、エルザは髪を一筋に結び、
ショットガンだけを相棒に狩りへ出かけ晩食会までは帰っては来ない
昨日は龍なる生物の頭を撃ち抜き、甲羅を加工して鞄などの材料にした後、
その肉を一つのテーブルにスープと並べ皆で囲んでそれを食した
正直言って龍の肉は硬く油は思ってたよりも遥かに少ない、
それこそ、蟻と像の差ぐらいの違いがあるような気がして泣く泣く食したものだった
今日は明らかに違っていた
エルザは出かけることはせず、普段は冬以外使わない暖炉に火を灯し、
小麦色の生地が平たくして配置された鉄板が踊る炎の頭上で熱されており、
香ばしいバニラの香りが鼻をくすぐっているのだった
今日は珍客が訪れるらしい
母と同じ性の男、
ジョン・ワイズマン、その男こそが、父に龍脈、つまるとこ気の流れを操る失われた技術を教え、
母に射的の名手である友人を紹介した男であり実の父である、つまりケビンの祖父であった
「それじゃ、ばあちゃんは?」
「ばあちゃん?…ああ、お婆ちゃんはね……」
エルザはそれから口を再び開くことは暫くなかった、
口を閉ざしていたい事だったのだろうか、祖父と祖母の間に何があったのかは、
その祖父が自警団のテントに入ってから知ることとなった
『どしようもないクソ野郎だった』
ケビンが祖父と出会い、母との会話を聞いて思った事はその一言に尽きる
祖父は遊び人だったのだ
エルザは、ジョンの二人目の妻の間に生まれた隠し子だったのだ
家族として受け入れられず、この自警団に引き取られて暮らしていたらしい、
そうさせたのは一人目の妻、祖母ではない方の妻だった
隠し子であるエルザを認めず、そして実の祖母にも見放されたエルザは愛を知らずして育った
そうして育ったエルザは、『親としての愛情』を知らずして育つ
それはケビンに注いでいた愛情が、自警団の将来を担うためだけに注がれた愛情であった事を意味していた
結局、祖父の身勝手がケビンが人として見られない、
役割を生まれつき与えられた存在であることを運命づけたのだった
それ以来、ケビンは人を信じることをやめた
「我々は単に金のために、たった一つの思想に寄り添う刀では在らず」
「世界は『バランス』と『秩序』で成り立っている、そうさせているのは何か」
「言うなればそれは『重力』。絶対的、普遍的法則があってこそ我々はその恩恵に預かり生かしてもらっている」
「生きているのではない、思い上がりをしてはいけない、生かされているのだ」
「『社会』における『重力』とは『法』である」
「『法』は王も人も地へと繋ぎ止め誰も人の上を歩くような事がないように機能するべきなのだ」
「しかし、だ・現状と理想は異なる、民は愚か、国家そのもが法に背き不平等と理不尽を生み出す」
「我々が兵団でありながら国家に既存しない理由、それは『法』にのみ従うからだ」
「『法を』軽んじてはならない、『法に縛られてこその人間であり』それに順ぜぬは『犬畜生』と同類だからだ」
「我々は『司法』における『死刑執行人』、即ち法の番人だ」
「お前はパンを盗んだ男を見逃したそうだなケビン」
「『子供が飢えている』と抜かしたらしいが子供はまた飢えるぞ」
「例外はあってはならない、たった一つの例外が法を乱すからだ」
「罪人に我々がしてやれることは『痛みも与えず一瞬で葬る』事のみ。よく見ておけケビンよ
「これが法の重みだ」
自警団。及び国境なき騎士団
バスカヴィルの長はケビンの前で刑を執行した
皮肉にも、長は葬るだけでなく地獄までその罪人に付き添う事となった訳だが…
「親父、お袋。悪いが俺は此処にはいられない
ここは悪臭がする。人間の脳みそが、心が腐った腐敗臭しかない」
長は内側から身体を捻じ曲げられて殺害されたという
これは龍脈を操る人間でしかあり得ない所業だったが、アトス・ベルガーも流石にこのような力は持ち合わせてはいなかったし
何より彼はその日も、その次の日も現場より遥かに遠くへ演習に向かっていた
そして、アトスと入れ替わるようにしてケビンは姿を消したのだった
「気を落とすなアトスよォ…。長は誰もが嫌っていたさ、誰もお前を咎めはしないよ」
「……多分な」
ケビン・ベルガー
その極悪なる少年の犯した罪はたった一度の殺人も含め数しれず
痩せこけた小汚い、国の御心からも目を背けられた貧困層、社会悪と生活を共にし、
司法の意思に背き続けている
牙を向き、拳を交えれば、最期。鎖付き鉄球の砲弾のような一撃を叩き込まれ、
全身を流動する力によって肉体を破壊されるッ
仲間、家族、今まで側にあった者達を捨て、
やがてケビンは、『必要とされる事』を忘れた
最終更新:2024年04月11日 00:42