緋月の夜叉姫 ログ4

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――大和某料亭――



―――醤油の油分の含まれた空気が漂う風情のある料亭。そこはあくまで料亭であり、客を正当にもてなし、草鞋を脱いで旅の疲れを癒し、英気を養う場所である。ただ、一部例外を除けば


麻統「遊女ってさぁ?基本、女ってこと以外に特別才も能力も至上価値もない底辺の仕事って思うんだよ。でも君達は賢いぜ?普通にリクルートスーツに着替えて面接に行っても受かる、そこが大手銀行でもそうさ。僕が保証するよ(ウェーブのかかった青い頭髪、その背丈には似付かわしくない、服に着られてると行っても過言ではない立派な軍服を羽織った青年が、茣蓙に踏ん反り返り、華美な着物をはだけさせた美女少女を両腕に侍らせ、輝く白い歯を覗かせて微笑む)おっと勘違いするんじゃ~ないぜ?今はまかりなりとも将軍様の天下さ、それでも僕はその次、日輪に最も近い場所にいる。その恩恵の分け前ぐらい、何人に分けたって足りないって話だよ 」

麻統「それでもさ、一応僕の知恵と才で得た椅子なんだ。相応しくない輩にその恩寵を分け与えても過ぎた力は身を滅ぼすし、それがかわいそうだから福利厚生はそのままにってことなんだよ。おぉっとノープログレェム!安心しなよ、君達みたいにっ(ぐびっと音を立てて酒瓶を真っ逆さまにして酒を煽り、それを飲み干すと肩に抱いた遊女の顔に酒気の混じった吐息を吐き出し甘い(と意識している)囁きを向ける)――――気立てのいい、心清らかなレディには信頼を持ってその恩寵を分け与えるとも。いうまでもないけど内緒だぜ、ここにいる君達とぼくだけn―――― 」

アヤセ「失礼します閣下(反面。スーツと和服を足したような見るからに仕事人気質ないでたちの女性が襖を音を立てて開けメガネをくいくいさせた)――――お客様がお見えになております。閣下の紹介状のおまけ付きで。お楽しみのところ申し訳ございませんが…… 」

麻統「はぁー!?誰だよ!知らないよ招待状とか!(渡さないぞと言わんばかりに両手の遊女を抱き寄せ駄々をこねる子供のような剣幕を飛ばし)お前ほんっと気が利かないよなァ!?仮に僕が送った招待状だとしてさぁ、こうやって日課こなしに来てるんだし忘れるような優先順位の低い用事だってことぐらい察しろよな 」

アヤセ「そう申されましても ――――――もうお見えになっておりますので。 あ、どうぞ 」


ルドゥラ「(畳の間にブーツで上がり込む無骨な男。手には超重量の刀を鞘に納めて持っている)――――問おう、お前が俺の雇い主か?(招待状を麻統に投げ渡し、猛禽が如し眼光で見据えながら不粋に歩み寄る)……フン(彼等の目の前にある料理や酒を軽く横へ蹴りどかす。白銀の髪の毛をかき上げながら彼の目の前にドカリと座る) 」


麻統「――――――えっ(アヤセの招き入れた人物の素顔を見るや否や硬直。顔面が蒼白に染まり)ちょっ……ちょっとォー!?あ、待てよおいステイ!ステイプリッ……あ”ぁ”―――――!!(ルドゥラに料理、酒と彼が大枚を叩いた物品がことごとく蹴散らされた挙句『媚薬』入りの酒便が吹っ飛ばされ涙目でその残骸に腕を伸ばしたまま膝をつき力なく首を垂れる)――――れ……(ルドゥラ投げつけた招待状をぐしゃりと握り潰し、蚊の鳴くような声を発し)帰れよも”ぉ”ぉ”―――!!ホラ、行けよあばずれ共見るな触るな何も聞くな黄色い声出すなァ”ァ”ァ”!! 」

麻統「(叫びだけは一丁前に大声でがなり立て地団駄を踏みつつ執拗に尻部を狙って遊女に蹴りを入れてその間から追い出す) \キャー/\イヤー/黄色い声出すなって言ったろバーカ!バァーカ!!(殆ど泣き出しそうな声でポメラニアンを見るような目を向ける彼女の同情に苛立ちを向けながらも肩で呼吸し)――――~~~!!(物凄い剣幕で涙目を浮かべたままルドゥラに一瞥をやる)話が違う。確かに『十剣舞祭』の出場者なら誰でもいいって言ったけど!目の保養になって!!聞き分けの良さそうなの!!!って言ったよアヤセェ!?見ろよこれ1面接にノックもなし!なし崩しに雇い主か!だよ!?どういうことだこれ!冗談じゃないよ!冗談だよ! 」

アヤセ「目の保養になる女性は全員準決勝止まり。女性で頂点といえば氷刀が適役でしたが、彼女は消息が知れず。同じく決勝進出者のルドゥラ殿が最も閣下の天下の足がかりに近しい者と判断し招き入れました。補足しますが彼は聞き分けがいいです。こう見えて 」

麻統「ホワッツ!?どこが!?雇い主とわかっててこういう態度とるやつのどこがなの!? 」

ルドゥラ「うるさい奴だな。強ければ誰でもよかろう。(そう言って麻統の子供じみた性格に冷淡な眼差しを向けながら)……貴様の天下とやらには興味がない。俺が欲するは力だ。その為ならどんな敵も斬って捨ててやろう。どうだ? 今の貴様にはうってつけの尖兵じゃあないか? 」

麻統「アーハン? 私は仕事が生き甲斐です、むしろ仕事が報酬なのでお給料はいりませんてクチかい?あーイイネイイネ、今時そういう都合がいい若手はさぁ?まぁ僕もそうだけどなかなかいないし。いいんじゃない? ――――っているわけないでしょーがそんなんッ!胃もたれスルァー!!(自身にツッコミを入れつつカジキマグロを投げつけルドゥラの背後の床でビタァンと音を立て潰れる)バトルジャンキーじゃん!諸刃の剣じゃん!!義もクソもねーってことでしょ!?普通に怖いわ!好条件提示されたらさらっと寝返るやつだよ僕詳しいんだそういうの!(なんどもなんども、ルドゥラに対する恐怖をひた隠しするようにしてわめき立て、心なしか距離を開けようと後ずさっている」

アヤセ「あ、もったいない美味しいのに――――― あ む っ (ルドゥラの背後に控えていたためか落ちたカジキマグロを拾い上げ)―――――― ゴクンッッ(それを『丸呑み』して見せた)ごちです。まあいいじゃないですか閣下。実際彼が探求するのは力、それも”敵対”する力です。現状、拘束具を要するバカ……じゃなくてバーサーカーしか手持ちがいないこの”劣勢”にこそ彼は満足していただけるでしょう。ともすれば裏切りなど杞憂です。なにせ閣下の人望が薄いせいもあって当陣営は人手不足に戦力不足、他の国士無双という化け物達を相手取るわけですし。ははは 」

ルドゥラ「本当にうるさい奴だな。一回黙れ(傍若無人) 貴様の付き人の言う通りだ。貴様の陣営がこの有り様なお陰で俺は戦いを楽しめそうなんだ。(不敵に笑ってみせつつカジキマグロ一気飲みをさりげなく二度見。そして見なかったことにしてもう一度雇い主に向き合う)どうせクソザコである雇い主のことだ。敵は強大かつ膨大。斬り甲斐がある。 」

麻統「アッハイ、スワセン(ルドゥラの『黙れ』を聴き終える前に正座し丁寧に土下座してしまう)く、くそぅ……この屈辱壁ハメコンを食らってランクが初心者にまで下がってキッズに煽りプレイされた時以来だクソックソッ!(顔を伏せたまま一度も噛まずに早口で悪態をつくがひとしきり叫び終えて熱が抜けたのか、先とは打って変わって頼りなさはそのままに平静を取り戻した一人の青臭い治世者としての顔を上げ)ああそうだよ。だいたい僕はよそと違ってクリーンな政治を売りにしてるり宗方のジジイとかトキワのくそあまみたいにきな臭い連中と絡んだりヤクザまがいの商売からは手を引いてるんだ。お陰で私兵はないから藁にもすがりたいさ 」

ルドゥラ「(壁ハメコン? キッズ? …なんだそれは)(世情に疎い)……なるほど。貴様の願望や事情がなんであれ、敵が多いことは確かだな。……そう言えば、さっき『十剣舞祭』の出場者なら誰でもいいって言ったな? ふむ……(すると、顎に手を当て少し考え始める) 」

麻統「これマジでバトルジャンキーじゃん……僕じゃなかったら今頃股上が冷たくなってるね。ふふっ(震え声)そーだよ。国士無双、この国の武力においては右に出る者がいないっていう脳の足りない力自慢が軒並み的陣営についてる上、トキワの奴なんかどっかの西洋マフィアとセットで『雛菊』とか引き抜いたって噂だよ。いや噂っていうかこいつの入れた情報だケド(くいくいとアヤセを親指で刺し)っていうかなに、気になる奴でもいんの?いやこれ仕事だから、頼むよほんと。この僕のスイートフェイスに傷一つ付かないようにしてくれよ?それが最優先だぜ?ね?ね? 」

アヤセ「^^(うぜぇ…) 」

ルドゥラ「……貴様は一々喋らなければ死ぬ病気なのか?(なぜか青筋を立てながらの謎ギレ)ふん、まぁいい。……雛菊。確かそんな奴もいたな。これではっきりした。……――――恐らくだが、敵も十剣舞祭からの剣豪を招き寄せている可能性がある。即ちこれは貴様等の権力抗争であると同時に、第二次剣豪勝負でもあるわけだ。……面白い。今度は膾斬りにしてやろう(薄っすらと氷の如く冷たい笑みを浮かべながら、脳裏に幾重の剣閃を思い浮かべる)今のオレにピッタリの仕事だ 」

麻統「えっ?えっ……あっ……(ルドゥラの言葉に『その事態はむしろ避けたかった』と言わんばかりに絶句するが、雛菊・ルドゥラ。他にも心当たりがあるのか押し黙り)マジ?これ。あ、これ十剣舞祭の二次会じゃないですかやだー!助けてドイツ軍人ー!! 」

アヤセ「血の海が見れますね(にっこり) 」

ルドゥラ「貴様……仮にも権力者を名乗るならもっとしゃきっとしろ! 要は俺が全員斬り捨てれば全てが上手くいくということだろう? それとも怖じ気づいたか? 」

麻統「あのさぁ!そんなトントン拍子に事が進んだら苦労しないって!こればっかりは天才の僕だって!神に愛された才人の僕だってハッキリと理解できる話さ!(心底己を疑わない彼が、ルドゥラの一括に怯むことなく自身の主張を涙目ながらに伝える)いいか、僕はお前の力を安く見てるんじゃないさ。けど、仮に、『一人一人順番に』相手取って全員を斬れる程の大剣豪だと仮定しても!それを仮定しても無策に突っ込んだところで最初に駒を出したやつから徒党を組んで潰される、いかにリスクを摘んでから仕掛けるかが『戦争』ってもんだろ!要は!危険因子の”質”よりも”数”を問題視してるのさ!お前冗談抜きに全員同時に喧嘩売る気じゃないよな! 」

アヤセ「あー……まぁこれはなんというか……まぁうん、一応閣下も単なるチキンじゃないってことをご理解いただければと(こほんと咳払いし麻統の肩をさすって『どうどう』と囁き押さえつける)要約すると、敵の実力はどうあれ数が多いってことはそれだけ幅が出るということです。ルドゥラ殿が最強の剣豪であっても、全員の首を取るっていうのは勝利イコールじゃないってことですね 」

ルドゥラ「確かにそれが戦争の勝利ではない。その勝利を掴めるか否かは貴様自身にかかっていることだ。……俺はただ斬るのみ。人斬り包丁であるこの俺を如何に使うかもまたお前にかかっている。……戦争において数もまた力。だが俺にはその数を圧倒するだけの質がある力を手にした。余程貴様が阿呆な采配をせん限りは負けることはない。(険しい表情ながらも自信にあふれた雰囲気をかもしだす)数で劣る分、俺を上手くこき使うといい。そして、貴様の言うリスク回避をしたうえで、戦争をして見せろ。俺はそれに応えよう。 」

麻統「ぐくっ……!なんか的確に僕を追い詰めるなこの人斬り包丁っ、肢の方にも刃ついてるんじゃないのかよ(よほどの阿呆でもない限り。つまるところよほどのことがあれば阿呆であるという釘を刺され魚の骨が喉につかえたような声を出し、また一歩後ずさる)フッ……ま、まあお前がそれほどに豪語するんだ、信用はするさ。そして大和一の知将である僕の下につかえたわけなんだし、勝利の栄光と天下を見下ろす地位と朝日と女の子は期待していいぞ……フフッ、フフフフッ(したり顔で伏見がちにえみ、ルドゥラの自信に呼応するように、しかし彼とは対照的にセットック力のない笑いがこみ上げていた) 」

麻統「よかろう!改めて貴様の問いに答えてやるさ、ああ!この僕がっ!貴様の!ごぉぉ主人様だァ――――!(身長差的に無理があるというのに見下すかのようなめ、指でルドゥラを指し示し、高らかに宣言して見せた) 」

アヤセ「^^(やれやれ……扱いやすいことしか取り柄のないバカでしたけど、まぁ丸く収まってよかった。とりあえずルドゥラがこっちにつオタってことは『オリヴィエ』さんに怯えながら泣き寝入りする生活ともおさらばってことですね。いやーほんといい人材拾って来たなぁ……) 」

ルドゥラ「ふん、俺に地位も朝日も女もいらん。……が、仕事を請け負った以上全力を尽くす。精々俺を怒らせるな? 拳の一発でも入りかねんとだけ忠告しておこう(脅迫にも似た忠告) 」








――水の国 サンレスガーデン裏町――

AM/00:13 解民会直系 谷村組事務所


谷村「―――(腰に帯刀、一昔前の映画に出演していそうな四角四面の骨格の顔立ち。すれ違えば誰もが道を開けそうな『極道』の風格の男が、和装に身を包み、掛け軸をバックにして革張りのソファに体重を預け会計表に目を通す)――――晋平の野郎遅いな……。おう新垣、野郎の担当は何処よ 」

新垣「へい。――――パラッ(谷村の対角線上。同じく和装、帯刀しその出で立ちに不釣り合いなサングラスをかけた角刈りの男がおもむろに付箋を取り出し事細かに名前と住所が記載された紙面に目を通す)――中村ん家に取り立てです。ただの母子家庭の家ですからいくら晋平とはいえそう時間がかかるとは――――― 」


ダァンッ!! ガタ!!  ッッパアァァァン(二人の会話に一太刀入れるようにして事務所の入り口向こう。雑貨ビルの廊下側からけたたましい物音。立て続けに銃声、ガラスの叩き割られる悲鳴、加えて)ギニャァァァ―――――ッッ(酷く濁った断末魔が児玉した)

カランカラン カラン    シ   ン    ……   (その断末魔を皮切りにパタリと騒音は途絶え)



谷村「………。(会計表から視線を外す。新垣に一瞥をやり) クイ (側近の新垣へ黙したまま首をくいと捻って『見てこい』と促す。一言もかけないあたりに彼への信頼が窺い知れた) 」

新垣「 コク (ただ一度、首を小さく縦に振ると、帯刀した刀の江頭に手を添え、袖口切って事務所の入り口へ足を運ぼうとするが) 」

晋平「キィ”ィ”イ”ィ” ィ” ィ”……・・・・・(事務所入口のドアが彼の呻きを代弁するようにして開く。そこにはスキンヘッド、青い縦縞のスーツといった見るからにというヤクザの風貌的男、二人が丁度噂していた、晋平という名の男が、口を魚のように痙攣させ呆然と佇んでいた―――――)――お”……親”父”…… 堪忍してつカーさ……――――(開いたままの口から糸のような赤が流れ出、背後からうつ伏せに倒される仏像のように事務所へ倒れこみピクリとも動かなくなった) 」


ユキ「――――こんばんは~♪(倒れ込んで動かなくなった晋平の背後に立っていたのは、深いスリットが施されて女性的なラインが強調されたアオザイと呼ばれる衣服を身に付けた"人斬りの氷女"だった)ええっと~……アンタが一番強いのかしら?(新垣には一瞥もくれず、ソファに腰掛けた谷村を見てにこりと笑む。その頬は返り血に汚れ、愛刀『垂氷丸』からは血が滴っていた) 」


新垣「――――(倒れ伏し動かなくなった晋平、床から宙空に至るまで、ただそこにあるだけで目に見える冷気を漂わせ、骨肉を揺さぶる剣気を持つその女性を視界に入れるや否や)――――親父、持てるだけの金を持って『叔父貴』んとこへ。後は俺が(『斬る』と告げない。勝算の有無は目に見えていた、だが彼の矜持が撤退を許さず―――)―――キンッ(愛刀の鍔鳴りを合図に抜刀、一歩ユキへ間合いを詰め) 」

新垣「オウよ。俺が谷村会若頭、大和一新示現流免許皆伝者、谷村省吾じゃ。どこに喧嘩ふっかけたか……そのなりじゃ説明してやる必要はなさそうじゃの。生憎親父もわしも年始は多忙じゃけぇ、お話する時間はありゃせんのじゃ。『一太刀』で堪忍したってな――――(更に一歩、詰め寄り)――――嬢ちゃんッッ!!(”常人”からすれば目にも留まらぬ高速で抜刀、振り上げを同時に行い、ユキの頭部めがけ渾身の唐竹割りを穿とうとするが―――――"圧倒的に 遅 い ") 」

ユキ「……あら、奇遇ね!私もお話に来たんじゃないの。だから―――――(新垣の唐竹割りが打ち下ろされんとする刹那、白雷が如き速度で純白の刃を振り抜き――)ズッ   バンッ!! ―――――ええ、『一太刀』で勘弁してあげる。(涼しげになんの危なげもなく、新垣の胴に深い斬痕を刻み込んだ) 」

新垣「 ゲポッツ (それはそうあれかしと運命付けられた役者の如く、胴体から背に至るまで、皮一枚ようやく両断されなかったといった具合に深い切れ込みを入れられ、振り上げた刀は行き場を失ったままユキと肩透かしにすれ違い倒れ伏し、広がった血溜まりは瞬く間に凍てついた) 」

谷村「(息を飲み十分な間合いがあるというのにも関わらず彼女の刀が喉元に突きつけられているかのように背を反り返して、脳を蒸したかのように汗を吹き出させた)んんんんじゃこン……アマッ……!!どこの組のモンじゃ―――(出かかった言葉を飲み込み己の愚を察した。彼女は真っ先に己お見て『一番強い者』を開口一番に問いた、滴る冷気、流れるような青髪、何よりその『人斬り』の目、その時点で彼女が『柊ユキ』であると察するべきだった―――) 」

谷村「――――せ、先生!八代の 先生はおらんのかいッ!誰かはよお呼びせェや!!はよッ!! 」


「――――んだい、人が気持ちよぉ昼寝しゆうに。組み上げて僅か齢3年。黄色い帽子被った坊やも寺小屋出ない年月で早速アタシの出番かィ?大和一新示現流免許皆伝者がギブアップたァねぇ 」

琉妃「(掛け軸をめくり上げ、奥に隠された通路の暗がりから人影が、余裕を持って乗ったりとした、寝起き直後といった具合の足取りで現れ)―――泣くぜ、アタシじゃなくて宗方のじじいがよ(喪服がごとき黒装束。顔に三つの太刀傷、獣性を体現した牙の如き眼光を讃え、袖口から取り出したパイプをくわえた黒髪の女性が口橋を釣り上げ薄く笑み)――――トッ(仕切りを超えて事務所に一歩、草鞋をふむや否や冷気に覆われていた密室が僅かに『乾き切った熱』を帯びた) 」


――― 大和国士無双 人斬・八代琉妃 ―――


ユキ「むぅ……ビチャッ(脂を払い落とし、谷村につまらなそうな目を向ける)なに、その腰のは飾りなの?とんだ腰抜けねぇ…あ~あ、せっかく楽しめると思ったのに―――(と、自身が満たしていたはずの密室の冷気が『乾き切った熱』を帯び、目をはっと開く。それから熱源へと顔をもたげ―――琉妃の姿を認める)―――……なによ、いるじゃない……取っておきのがぁっ!!(歓喜に打たれたように深く猟奇的な笑みを頬に刻み、言葉を交わす暇もなく琉妃に横薙ぎの斬撃を繰り出す) 」

琉妃 「ッガァンッツ!!!! (大鎚を甲板へ向け殴りつけたかのような重低音、加えて衝撃波が広がり骨董品を収めたショーケースなどが一斉に砕け散る。その中心には)―――――あたしゃぁ寝起きが悪いんだ。低血圧なのかね、抜く暇ぐらい寄越しなっての(片腕で片耳をほじくりながら、もう片方の腕を『黒く染めて筋張らせ』ユキの刀を、抜刀せずに受け止めていた) 」

琉妃「ツツ……(閃撃を受けた腕からは赤がわずかに滴り、切れ込みが『浅い』とはいえ眠たげにそれを見遣っていたが)―――まぁ、金払いのいい谷村の頼みとあっちゃ聞かねぇ訳にもいくめぇ。やっこさんが今時の道場破りかい。開けましておめでというべきなんだろうけど、たった今現行犯で喪中に突入しちゃってさァ?―――――。―――――んん…… ズグン(”何か”に気づき『顔の傷』が疼くのを体感すると)あんた、ひょっとしてヒイラギの……ッ!(”歓喜”に満ち溢れた、鋸のごとき歯を覗かせた笑みを、ゼロ距離まで接近したユキへ真っ直ぐに向け目を見開いた) 」

ユキ「――――……ちょっと。なによコレ。いくらなんでも硬すぎじゃない?あたし斬れないものあんまりないのよ?(ジト目で琉妃に負わせた浅すぎる斬痕を見やり、それ以上のダメージは認められないと理解しながらもギコギコと琉妃の腕と密着している刀を前後に揺らす)――――? えぇ、ご名答。柊木ユキよ。…ずいぶん嬉しそうだけど、あたしアンタとどこかで会ったかしら?(頭上にハテナマークを浮かべながらギコギコ) 」

琉妃「―――へっ謙遜するんじゃぁないよ、人が悪いなぁお前さん(とんとギコギコさせた刃に手を当ててそれをそっと奥へ押しやると)―――“斬れないものはない”。少なくともあたしの知る限りの浮世じゃあんたの剣は”そういうことになってる”(獣性を抑え、敵よりかは『知り合いの肉親』に会うかのような親しみのある笑みを向けつつも)でねぇと――――(帯刀した大太刀へ手を添え) 」

琉妃「――――この世の中、クソほどもつまんなくなっちまうからさァッッッ!!!(『構えを取り直す』余裕を与えるように心持ち緩やかに、しかしてゼロ距離にも関わらず『その場』で抜刀しようと腰を低くし、竜の尾のように結んだ髪を揺らすが――――) 」

ユキ「ふふっ…どうやら"本物"ね?アンタ。……上等―――(刃をゆっくりと引き戻し、)―――あたしと死ぬまでバチバチしましょうッッッ!!!(風を巻いて刀を振り被り、今にも溜めた刃を解き放とうとした瞬間――)――― 」



『―――双方、剣を収めよ。これより以降儂の眼前で下卑た流血は許さぬ 』


―――――   オ    ン    


ゆらり、大太鼓を打ち鳴らした直後のような骨身を揺さぶる衝撃めいた何かが、その場の空間一帯に広がる。その中心には立ち上がる影


晋平「(―――辛うじてまだ息はあったのか先まで倒れ伏していた晋平の姿があった、だが―――)―――クイ クイ(腰を抜かす谷村、討ち死にを果たした新垣、鮮血を浴びたユキの姿を順に確認し、加えて自身の浴びた閃撃の跡を確かめるように指で撫でると)―――見事。よもやこれ程とは、いやそれでこそであると言うべきか(声質からチンピラのそれではない、ユキが最初にあった彼とは何もかもが異なっていた) 」


ユキ「―――――  ビ  タ  ッ  (声。骨身から臓腑まで響き渡った衝撃に身を固める)………それ、どういうカラクリか知らないけど、邪魔する気?(晋平を睨めつけるが、先の晋平からは信じられないほどのプレッシャーが"下手に動いてはならない"とユキの刀を強く押さえつけていた) 」

琉妃「――――チッ(先の歓喜と悦が溢れんばかりの笑みは灯篭のように消え、打って変わって酷く不機嫌に、憎々しげに舌打ちし)……(刀に添えた手を離してユキから一歩距離を置いた)お出ましってか。よーう馬鹿大将!今日履いてる靴は随分安もんだな? 」

晋平「邪魔?ふむ、まぁ確かに勝負に水を差したということになるのか。それで何か問題か?(きょとんと首をかしげるも琉妃の存在をなきもののように真っ直ぐにユキへ詰め寄り)それよりも!だ!!!お主が『ここへ舞い込んで』から3分も要さぬとは、鷲が見込んだ以上の働きと見た。大義である!あー畏まらんでいいぞ、追って褒美は取らせるでな(その一部始終を『見透かしていた』かのような口振り。嬉々として大口をあげ、およそチンピラの顔には相応しくない気風を纏った笑みを咲かせ……) 」

晋平「―――ガッ(緩急入れず、殺気一つなくユキへ詰め寄り、その顎に掴みかかる)いやしかし強いなぁ其方、それでいて美しいと来た。実物を見るのは初めてだがやはり鷲の選美眼に狂いはなかったということだッ!(と、豪快に笑うと手を離し、後ろ手を組んで踵を返した)―――あ、其方もいたか。うん、帰っていいぞ(琉妃へ一瞥をやるとただ一言、そう告げる) 」

ユキ「は、はいぃ?(首を傾げた晋平を見てこちらも困惑の表情を浮かべて首をかしげる)あ~、えぇぇ~っと…ちょっと待って。見込んだ、とか…え、褒美?ちょっとなんなの、あたし全然話が見えな―――(ユキが知覚できない動きで晋平に詰め寄られ、"いつの間にか顎を掴まれている"ことに気づいて戦慄する)―――…ッ……?!  ズ ザァッ!!(手を離されたタイミングで後方へ逃げるように滑り身を護るように刀を構える)くっ……ふふ、ふふふふっ…! あたしだって、剣を交えなくても相手と自分の力量差ぐらい計れるわ。一体アンタは何者なの…!(額に玉のような汗を浮かべながらも、興奮気味に口元を笑みに歪める) 」

琉妃「そうさな、”今”のあんたに食ってかかったって何の儲けにもならねぇ。白けちまったしもう一眠りさせてもらおうかね(くぁ……と欠伸をかますが、片目を開け確かな敵意を持って晋平へ一瞥をやり)――――けどま、相変わらずの無作法っぷりにゃ目を瞑れんよ。ナンパするにももっと上手くやったらどーだい。自己紹介は大人の基本だろうがよ 」

谷村「――――?えっ晋平お前……なんじゃ、何なまらふざけッ―――――(しばらく呆けてその様を見守っていたが、いよいよしびれを切らしたのか、極限状態で渦巻いていた混乱が度を越したのか腰を上げ晋平へがなり声を上げようとしたところ) 」

晋平「――――ピッ(『公家』か『殿』、少なくとも人の上に立つ身分の人間が尺か扇子を向けるような仕草で、新垣の所持していた刀の切っ先を谷村のひたいへノールックで突き立て)あー、そなた。いたなぁ谷村会の―――― 」

晋平「―――もう黄泉へ下がって良いぞ、ご苦労であった(先の太陽が如き笑みは失せ、熱は愚か、冷気すら受け付けない虚無を宿した目をやりそう吐き捨てた)ええと、何の話だったかな……ああそうだそうだ『柊ユキ』。儂の事を話していなかったな!いや、儂をご存知でない?そっかぁ……(一転、再び太陽のような笑みをまっすぐにユキへ向け) 」

晋平「しかし『鬼の小娘』に作法を問われるとは業腹だが仕方あるまい(一つ咳払い、そして)――――ニィ(別の何者か、輪舞までははっきりとはうかがい知れないが何者かの不敵な笑みと重なるように、口橋を上げ) コホンッ――――先の無礼は水に流すが良い。よくぞ儂の国にして儂の膝下、水の国へ参った、麗しき剣の乙女よ。儂こそはこの大和、この天下泰平の世を滑る者にして、3000年の歴史を誇るこの『大和そのもの』――――――― 」



将軍「――――――――― " 一 代 目 " 大 和 将 軍 で あ る ぞ 。



平成に尚生を繋ぎ止める怪物は笑う。この人の世を、平らげる直前の獲物が如く愛おしげに見据えながら





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最終更新:2020年10月04日 19:05