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 ウートガルザ・ロキの敗因。
 それは、高天小都音という泣き所を残し続けてしまったことだ。

 天枷仁杜は夢を見る。夢を見続ける。
 つらい現実から逃避して、自分の理想だけを信じ続ける生命体である。
 そんな彼女が唯一大切にしているリアルこそが、高天小都音だった。

 彼女だけは、仁杜に現実を見せることができる。
 その上で彼女に拒絶されることなく、手を引いて歩くことができる。
 得難い才能だ。星に狂わされた者達の末路を見れば、それが如何に類稀なことか分かるだろう。

 小都音は月の眷属でありながら、主星と対等な関係を築いていた。
 夢に堕落せず、現実の住人であるにも関わらず、月姫の領域に踏み入ることを許された存在。
 なればこそ、彼女は唯一にして最大の陥穽だったのだ。
 彼女の喪失はそのまま人間大の孔となって夢の世界を穿つ傷跡になり、そこからおぞましい現実の流入を許してしまう。

 ――"高天小都音の死"。それだけが、天枷仁杜に現実を見せる唯一の方法。

『最後に聞かせろ、ウートガルザ・ロキ。おまえは何故、高天小都音を切除しなかった?』

 ゼノンが金槍を振り被る。
 その一撃を、ガグンラーズがこれまでのように受け止めた。
 あんなにも無双を誇っていた機動戦神の大剣が、一瞬触れ合っただけでガラス細工のように砕け散る。

 それだけでなく、剣に走った亀裂が腕にまで侵食し、右の腕が肩口からもげた。
 腐った果実が落ちるように、ロキが至高と謳った幻想が失墜していく。

『月姫の機嫌取りか、それともおまえなりに思うところでもあったのか』

 攻撃はおろか、ゼノンの重力子による絶え間ない洗礼にさえガグンラーズはもう耐えられていない。
 一秒ごとに罅が走り、編み込んだ幻想が塵となり。
 さながらそれは、モノが風化するプロセスをタイムラプスで見ているかのよう。

「……ガキンチョには、オトナの悩みは分かんねえさ」

 ロキはオルフィレウスの問いを一笑に伏したが、彼自身も見る間に先ほどの神々しさを失いつつあった。
 額から血が流れ落ちたのなどは早い内で、息は喘鳴のように荒立ち、編んだ幻想は形を取ることもできず消えていく有様。
 ウートガルザ・ロキが克服したと信じていた弱点が、夢の崩壊に伴って因果応報のように帰ってきた。

 彼は主と現実への認識を共有し、共に夢を見ることで幻の世界を顕現させる。
 常に夢を見続けられる者でなければ、ロキのマスターは務まらない。
 仮にそんな人間が存在して、都合よく巡り合うことができたとしても。
 一度でも夢から醒めてしまえばその瞬間、すべての手品は茶番劇と堕す。

(幻の強度が戻らねえ。念話を送っても反応がない。令呪での離脱も望めないし、したところでどうにもならない、か)

 よって、詰みだ。
 ロキは身体を千々に引き裂かれるような激痛の中、静かに自分の往生際を悟った。

 単に幻術が使えないだけなら、まだリカバリーのしようはある。
 が、自分の霊基に施してきた隠蔽や暗示の類も軒並み解けてしまったのが最悪だった。
 癒しのルーンではただちの修復が不可能な次元のダメージを、これまでロキはすべて幻で自らを騙し対処してきたのだ。
 そんなイカサマのツケか、彼の霊基は消滅寸前の死に体になりさらばえていた。

 じきに霊核が損傷に耐えきれず崩壊し、英霊ウートガルザ・ロキは都市を退去するだろう。
 それは敗北の代償。もはや避けることはできない。
 他者に無法を押し通し続けてきた男は、舞台と共に燃え尽きる。

(あーあ。こんなことならあの女、もっと早く切っとくんだったな)

 オルフィレウスの問いに対する答えを、素直に口にしてやるほどロキは殊勝ではない。
 たとえ敗死が決定しても、最後の最後まで悪意と嘲りを振り撒いて散らんとするのが彼だ。
 よってロキは、決して言葉にして回答することはない。が、彼の中には明確な答えが存在している。

 ――問,何故ウートガルザ・ロキは高天小都音を許容したのか。

 第一の解答は、仁杜の悲しむ顔を見たくなかったから。
 ロキはどうしようもないほどに月のお姫さまを愛していた。
 だから嫌われるようなことはしないし、泣き顔だって見たくない。
 なので切除せず、保留した。愛すべき弱点として許容した。

 そして、第二は……


『そうか。ではもう用はない、速やかに死ね』


 ゼノンの砲撃が、弱体化したロキの腹を撃ち抜く。
 溢れ出す喀血。もう己自身すら騙せない。
 失墜したエンターテイナーの晩年は無残なものだ。

『おまえを殺し、天枷仁杜を摘み取る』
「人の手柄でずいぶん得意気じゃねえの」

 されど、まだロキの眼は死んでいない。
 諦めて、いない。
 自分は此処で殺されるだろうが、だとしてもやれることは残っている。
 それこそ高天小都音が、死に際に令呪を用いて希望を託したように。

 ……一瞬、逡巡。
 常に嗤って翻弄するトリックスターが、初めて躊躇の顔を見せたが。

「阿呆か。これから死ぬ野郎が、恥ずかしがってどうすんだ」

 絶叫する矜持を、今も燃え上がったままの魂が踏み潰す。
 彼にとって真の恥とは、己の道を曲げること。
 今やろうとしていることはまさにそれに該当する行為だったが、既に奇術王は新たな道へ進んでいる。

「――にーとちゃんが、泣いてんだろうが」

 胸板に触れ、指先で解呪のルーンを描き。
 刹那、心臓の発作にも似た強烈な激痛が走る。
 本来これは、彼にとって他の何よりも醜い敗北宣言。
 されど今は、信じた愛を守るための最後に残ったワイルドカード。

 血流が加速し、筋肉が膨張する。
 一七〇そこらだった身長が、それに伴い爆発的に伸長した。
 金髪はそのまま全身を覆う毛に変わり、眼光は白濁に染まり。
 体表からは彼の國を象徴する分厚い霧が滲み出し、日の出の街を煙らせていく。

「惚れた女の一人くらい、魂懸けて笑わせてみせねえとなあ――!」

 ウートガルザ・ロキは霧の国の王。そして、巨人の王。
 この姿こそ彼の真の姿であり、遂に一切を取り繕うのをやめた証拠だった。
 幻術の代わりに怪力と、偽装時の比にならないほどの耐久力を獲得し。
 いま――霧の巨人王は朝焼けに吼える。

 されどこんなもの、今更悪あがきにもなりはしない。

『醜いな』

 ただのありふれた力任せなど、針音の神に通ずる筈もないのだから。
 赤雷が弾丸状に乱射され、その弾幕を前に巨人など図体のでかい的に過ぎなかった。
 蓮の種を思わす大小様々な風穴が乱れ咲き、数十メートルの巨体が無様なダンスを踊る。

『まさか最後にこんな醜態を見せられるとは思わなかったよ、奇術王。
 ある意味では記憶に残りそうだ。最も惨めに死んだ英霊として、な』

 ウートガルザ・ロキはあくまで奇術師。
 その彼が術をかなぐり捨てて殴りかかるなど無粋も無粋。
 率直に言って子どもの駄々と変わらず、彼自身そう思うからこそこの姿を封じてきたのだ。

 オルフィレウスの侮蔑に、もうロキは言い返すことも出来ていない。
 呻き声とも断末魔ともつかない音を漏らしながら、瞬く間に全身を肉塊に変えられていく。
 さながら巨大な肉の塊を、銃器を使って"たたき"にしていくみたいな光景だった。
 これはもう戦いですらない。一方的な処刑で、蹂躙で、あらゆる尊厳の毀損だ。

『いや、待て』

 だからこそ、違和感。

『まさか、おまえは……』

 オルフィレウスは、星の眷属が宿す狂気を知っている。
 彼らは己が星に対し、命を擲つことさえ厭わない。
 蛇杖堂寂句や高天小都音がいい例だ。
 どちらも形は違えど、自らの極星のために身を投げて死んでいった。
 ウートガルザ・ロキもまた小都音と同じ、月に魅了された眷属である筈。

 それなのに、最後の策が巨人化しての突撃?
 ロキは狡猾だ。真になりふり構わないつもりなら、ゼノンを倒すのではなく仁杜を守ることに全力を注ぐのではないか。
 では、このやけっぱちみたいな攻撃は一体何だ。

『――――アレス! 天枷仁杜をただちに殺せッ!』

 理解した瞬間、オルフィレウスは吠えていた。
 そんな彼を嘲笑うように、足元の肉塊が。

 "遅ぇよ、バァカ"

 そう言って、嗤った気がした。



◇◇



 うずくまって、すがりついて。
 泣いて、泣いて、泣いて、泣いて――。
 もうずっとそうしていた気がする。
 そこでふと、わたしは頭に優しい感触を感じた。

「え……?」

 顔を上げると、そこにロキくんがいた。
 傷ひとつない身体、いつもの黒スーツ。
 浮かべる笑顔は優しくて、わたしの大好きな顔だった。

「あ、あれ……? なんで……?」

 見渡すと、辺り一面がお花畑に変わってる。
 祓葉ちゃん達とお茶会をした時みたいな、だけどあれよりずっと大きな、果ても見えないほど広い花の草原。
 その真ん中にわたしとロキくんがふたりきり。
 だけど足元には、微笑んだまま動かないことちゃんが倒れていて。
 しあわせな夢の中にぽっかりと空いた、ひとがたの孔みたいだと思った。

 ことちゃん。
 ことちゃん――そうだ、ことちゃん!

「ロキくん……ロキくんっ……! ことちゃんが、ことちゃんが……!」

 わたしは、ロキくんに抱きついて顔を埋める。
 涙が止まらない。目から流れる血も、色違いなだけで同じ涙のようだった。

「ことちゃんが死んじゃったの!
 わたしを、ぐす、わたしを助けたせいで、わたしが逃げなかったせいで!」

 言葉がうまく出てこなくて、自分でも何を言ってるかよくわからない。

「やだ、ことちゃんがいないと、わたし、だめなの――ぜったいだめなの、なのに、なのにぃ……!」

 いつだって、わたしのそばにはことちゃんがいてくれた。
 社会に出て働くようになってからも、暇を見つけては会いに来てくれた。
 散らかしたら片付けられないわたしの部屋をぶつくさ言いながら綺麗にしてくれた。
 おいしいごはんを作ってくれた。わたしの下手くそな話を、うんうんって聞いてくれた。

 ――こんなわたしのそばに、いてくれた。

 それだけでよかったのだと今ならわかる。
 ことちゃんといると、何もしてなくてもなんだか楽しくて。
 辛くてつまらないことばっかりの世界も色づいて見えるから。
 それなのに、ことちゃんはわたしの隣からいなくなってしまった。
 わたしのせいで、こわれてしまった。
 わたしが、ことちゃんをこわしたんだ。

「こんなことなら、わたしが死ねばよかった!」

 叫ぶ。喉が張り裂けそうに痛い。
 もう見えない片目も死にそうなほど痛いのに、こっちの方が辛いのはどうしてだろう。

「わたしが、いーちゃんに、殺されればよかったんだ!」

 昔は、よく"死にたい"と思ってた気がする。
 それがなくなったのも、ことちゃんと友達になってからだ。
 わたしは、もっと早く死んでおくべきだったのかもしれない。
 あの夕暮れの教室で声をかけられて、あの子と親友になってしまう前に。

 わたしさえいなくなっておけば、ことちゃんは死ななくて済んだし。
 聖杯戦争なんかに巻き込まれて、辛い思いをすることもなかった。
 我ながら、らしくないことを考えてると思う。
 だけど今は自己嫌悪ばかりが次から次へと湧いて出て止まらない。夢から、覚めたみたいに。

「……にーとちゃん」

 泣きじゃくるわたしの頭を、ロキくんが撫でてくれる。
 いつもならこれで落ち着くのに、今はぜんぜんそんな気になれない。
 嫌われちゃうかな。かっこ悪いかな。
 不安になるけど、でもロキくんは怒ったりなんかせずに聞いてきた。

「にーとちゃんは、ことちゃんがいないと嫌かい?」
「いや……」
「俺がいるよ。俺が、ずっと君のそばにいてあげる。それでも?」

 ――わたしはたぶん、ロキくんのことが好きだったんだと思う。

 それはきっと、わたしにとって初めての恋と呼べる感情で。
 だからロキくんにこう言ってもらえるのはすごく嬉しい。
 嬉しくて堪らなくて、踊り出しそうなほど心がざわめいているのに。

「やだ……」

 その間もずっと、ことちゃんの顔が脳裏を埋め尽くして消えないのだ。
 笑ってる顔。怒ってる顔。呆れてる顔。さいごの、顔が。

「ことちゃんがいない世界なんて、やだ……」
「……、……」
「ロキくんも、ことちゃんも……どっちも、ずっと一緒にいてくれないとやだぁ……!」

 わたしは、とてもわがままな人間だから。
 自分の思い通りにならないと気が済まないから。
 だからこんな時でも、やだやだと駄々をこねてしまう。

 ロキくんが好き。ロキくんとずっといたい。
 ことちゃんが好き。ことちゃんとだってずっといたい。
 好きな人と、親友。ふたつのうちどちらかが永遠に欠けた世界は、想像するだけで心が張り裂けそうなほど寂しくて。

「――――そっか」

 ロキくんは、ちょっと悲しそうにそう言った。

「ロキ、くん?」
「大丈夫。まだ俺たちの夢は終わってないよ」
「え……」

 ロキくんが、自分の胸に手を当てる。
 次の瞬間、ぽん、ぽぽん! と、可愛らしい効果音が鳴った。

「りん、ご?」

 ロキくんの手のひらに、黄金の林檎が乗っている。
 見てるだけで涎が出てくるほど美味しそうな、立派な林檎だ。
 彼はそれを、すごく優しい顔でわたしに差し出した。

「君が叶えるんだ、にーとちゃん」

 ああ、本当に美味しそう。
 愛おしくて、胸が熱くなる。
 でもどうしてだろう、なのにこうも思うのだ。

 "この林檎は、絶対に食べちゃいけない"。
 "食べたら何か、大事なものを失くしてしまう気がする"。
 "もう二度とロキくんに会えないような、そんな気がする"。

「君は月だ。俺が愛し、ことちゃんが命を懸けて守った麗しの月姫」

 ロキくんは、ことちゃんが嫌いなんだと思ってた。
 最初に顔合わせした時いやな質問をしてきたし、邪魔がってるのかなとちょっぴり不安だったのだ。
 けれど今のロキくんが口にする"ことちゃん"の文字は、わたしのことを呼ぶ時と同じくらい優しかった。

「俺が保証するよ。君は誰にも負けない。君は神になり、その夢ですべての敵を打ち砕ける」

 だから――さあ。
 ロキくんの手が、林檎を押し付けてきて。
 押しに弱いわたしは、それを両手で受け取ってしまう。
 林檎はずっしりしていて、うんと甘い匂いがした。

 これを食べれば、わたしは神さまになれるのだとロキくんは言う。
 誰にも負けない、すべての願いを叶えられる、そんな存在に。
 だけどわたしには、それより気がかりなことがあったから。
 心配で心配で堪らなくて、眉を寄せて問いかける。

「ロキくん……どこかに行っちゃうの?」

 だって今のロキくんの顔、ことちゃんにそっくりだ。
 すごく痛くて怖い筈なのに、最後まで笑って逝ったことちゃん。
 あの子とよく似た笑顔で、わたしのことを見ていたから。

 でもロキくんは、静かに首を横に振って。

「行かないよ。俺はずっと君のそばにいる」

 また、わたしの頭を撫でた。

「俺はにーとちゃんの魔法使いだ。知ってるだろ?」
「…………うん」
「此処からは本当の意味でふたり一緒さ。だから、怖いことなんてなにもないんだよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「ぜったいだよ?」
「ぜったい。約束する」

 手の中の林檎に、視線を落とす。
 わたしはそれを、ゆっくりと持ち上げて。
 口を開き、寄せて、歯を触れさせた。




 ――しゃく。

 意を決して齧った瞬間、わたしは、ずっと忘れていたなにかを思い出した気がした。




 そうだ――これでいい。

 すべては台無しになってしまったが、俺達はまだ負けてない。
 これが俺にできる最後の奇術(うそ)、にーとちゃんにかけてあげられる最後の魔法だ。

 ■■を齧り、呑み込んで、取り入れていくにーとちゃんの右目に触れる。
 視力を回復させるのまでは今の俺じゃ無理だろうけど、傷だけは癒してやった。
 光のない瞳は痛々しいけれど、これもある意味神々しいし、様になってる。

 隻眼の神なんて、実に貫禄があるじゃないか。
 君はこれから、この世界の神になるんだ。
 神寂祓葉を超えて輝く、ウートガルズの全能の月(オーディン)に。

 ざまを見ろ、オルフィレウス。
 ざまを見ろ、神寂祓葉。
 ざまを見ろ、楪依里朱。
 ざまを見ろ、月を識らぬ都市のすべて。

 神は誕生し、世界は終点に向けて墜ちていく。
 お前達はもう誰も、月の神話を止められない。

「しっかし、そうかぁ」

 それはそうと。
 俺の胸を満たすものの残り半分は、清々しいほどの敗北感だった。

「"ことちゃんがいない世界なんてやだ"、とはね」

 要するに自分は、最初から最後まであの石ころに翻弄され続けたということらしい。

 高天小都音を切除しなかった理由。
 にーとちゃんを泣かせたくないのと、もうひとつ。
 何のことはない。単純に、それをしたら負けだと思っただけだ。

 他人のソレは全力で嗤うが、俺は結構男らしさってヤツを大事にしている。
 だから巨人の怪力なんて無粋なものは使わないし、姿だって隠し続けた。
 それと一緒だよ。目障りな恋敵を実力行使で排除する男なんてダサすぎるだろ?
 俺は、高天小都音のことなんてどうでもよくなるくらい深く、にーとちゃんを魅了してやろうと考えたのさ。

 そうして意地を張って、見事そのせいですっ転び、気付いた時には風前の灯火。
 我ながら笑える話だよ。挙句の果て、にーとちゃんから出てきた科白はコレだ。
 俺は、死んだ女一人忘れさせることもできなかった。

「――くははっ、敵わねえなぁ」

 死ぬほど悔しいのに、何故か気分は晴れやかだ。
 そういや生まれてこの方、こんな気持ちよく負けたことはなかったっけ。
 まさかただの人間、見どころのない石ころごときにそれをやられるとは。

 ……林檎の最後のひとかけが、お姫さまの喉に消えていく。
 名残惜しい。これで最後か。これで見納めか、この可愛い顔も。

「にーとちゃん、泣かないで」

 頬に触れて、目の前で片膝を突く。
 手を取って、恭しくそこにキスをした。
 口にしなかったのは、まあ、負け犬なりの義理みたいなものだ。

「笑ってよ。俺、君のそこに惚れたんだぜ」

 にーとちゃんが、ぐしぐし、と涙を拭う。
 それから、へらりと笑ってくれた。
 その顔は涙で濡れていて、目元なんかひどい有様だったけども。

「ほら。やっぱり、笑った方が可愛いよ」

 最後にこれが見れただけで、もう何も悔いはない。
 世界なんて、どこを見たって下らねえヤツばっかりだと思ってたけど。



 俺はこの街で、燃え尽きるような恋をしたんだ。



【キャスター(ウートガルザ・ロキ) 消滅】




◇◇





『〈針音仮想都市〉管制室から管理者(マスター)・オルフィレウスへ』
『ERROR。ERROR。ERROR。ERROR』
『不明な霊基情報の顕現を確認しました』

『生物分類:ホモ・サピエンス 仮称クラス:スターゲイザー』

『異星法則 月光夢幻神界(ムーンキャンサー・ウートガルズ)。仮想人理定礎値の急速な変動を確認――――』





◇◇


 /mid point γ:『Dreamer』



 その後に起きたことを、正確に理解できた者は誰もいない。



 霊基崩壊も顧みず、巨人の姿を隠れ蓑にしてロキが仁杜に近寄った。
 彼らにしてみれば、そこで交わしたやり取りは数分かそれ以上にもなるものだったろうが、現実での経過時間はほんの数秒程度。
 仁杜に害が及ばないよう己を盾にしながら、突如として自らの心臓を抉り出した。

 仁杜はそれを口に運び、嚥下し。
 ロキはその姿を見届けるなり、セラフ=アレスの剣に断たれて消滅。
 移動速度だけで音を超えるアレスの接近はそれそのものが破壊兵器に等しいのだが、何故だか仁杜は髪の一房も揺らすことなく佇み続け。

 そのか細い右手で、己が相棒を屠った機神に触れた。
 月の破壊を任ぜられていた筈のアレスがそれだけで、まるで忘我の境地に立たされたように動きを止めてしまった。

 すべての人間が、仁杜に釘付けになっていた。
 祓葉も、天空から見下ろすオルフィレウスも例外ではない。
 無論、崩壊の引き金を引いたイリスもだ。
 総軍を集めた虫螻の王も、新たな命を受けたトバルカインもまったくの同様。

 誰ひとり無視できない極星の如き存在感を、すべてを失った筈の仁杜が宿していたから。


「      」


 仁杜が、なにかを言った。
 されど誰も聞き取れない。
 それは言語のようだったが、彼女以外の全員にはただの"音"としか認識できなかった。

 アレスを止めた手のひらが、そっと開かれて。
 そこに、無数の立方体が出現する。
 白く、見ようによっては黄色くも見える、数ミリ四方から成る月光色のブロック達。

 零から生み出したのか、どこかから取り出したのかは定かでなかったが。
 最初はばらばらに積み上がっていた立方体の群れが、独りでに動き出して繋がって、ちょうど手のひらほどの大きさの"四角"を作り上げ始めた。

 その瞬間、全員の思考が一致する。



 だめだ。

 これは、だめだ。

 これを完成させてはならない。



 最初に動いたのは、この状況の真実に最も近付けていただろうオルフィレウス。
 セラフ=ゼノンの、加減無しの全力砲撃が仁杜に向けて降り注ぐ。
 次いで蝗の群れが、その矮躯を頭から爪先まで噛み砕いて消し去らんとする。
 最後に動いたのが、未だ苦い顔をしたままの楪依里朱だった。

「……ッ!」

 心を決めた。
 友情を取捨選択した。
 自分は現在を捨て、過去を取ると決めたのだ。

 ならば胸を張れ、この期に及んで女々しく引きずってどうするのだと。
 獣化形態を解かないままで駆け抜けるが、その道中で魔女は先二人の攻撃の結果を目の当たりにしてしまう。

「……あんたは、一体……」

 無傷。
 ゼノンの雷霆はただの照明に終わり、蝗は仁杜に触れた瞬間、先のアレスと同様に一匹また一匹と停止していく。

 ウートガルザ・ロキはもういない。
 ならば一体何が、誰がこの奇跡を可能にしているのか。
 分からない、いいや本当はみんな分かっている。
 ただ、誰もそれを信じたくなかっただけ。

 魔女の伸ばした右腕が、真横からの斬撃で切り落とされた。
 途端に黒白の防壁を展開して追撃を防ぐが、流石に後退を余儀なくされる。
 息を切らしながら睥睨すれば、仁杜の前に佇んでいたのは褐色の少女英霊だった。

「何を今更青ざめてやがる。テメェらで蒔いた種だろうが」

 血も凍るような殺意を横溢させた声は、イリスだけに向けられたものではない。

「……私は正直、星だ神だって話は眉唾程度にしか思ってなかったんだがね。それでもやっと、ひとつだけ確信が持てたよ」

 かつて〈はじまりの六人〉は、失敗の積み重ねとして神寂祓葉を生み出した。
 故にこれはある種、歴史が繰り返された結果なのだろう。
 高天小都音を壊してしまった。ロキを追い詰め、起こしてはならないモノを覚醒(めざ)めさせてしまった。
 当然その中には、主を失ったこの殺人鬼も含まれる。

「この都市(セカイ)は塵だ。お前ら全員、屑みたいに死に腐りやがれ」

 告げられる死刑宣告。
 それと同時に、神秘のルービックキューブは組み上げられて。



「"むーんせる・おーとまとん"」



 仁杜が呟いた瞬間、莫大と言うのも生ぬるい超極大の魔力が津波のように都市を呑み込んだ。

 まず、刹那にして渋谷全域を覆い尽くした。
 それに比べれば緩慢だが、十分に超高速と呼べる速度で隣区へも侵食を開始。
 最初に異変に気付いたのは、斬られた腕を再生させながら眉を顰めた楪依里朱だった。

「……、は?」

 この戦場に配置し、土地と一体化させていた色彩が、一片残さずすべて上書きされたのだ。
 幸い自分の身体に植え付けた色は例外だったようだが、それでもイリスにしてみれば拵えていた陣地が一瞬で消えてなくなったようなものである。

「まさか……固有、結界……?」
『いいや、違う。正確には"侵食固有結界"と呼ぶべきだろう』

 魔女が茫然と漏らした言葉を、オルフィレウスが訂正する。
 侵食固有結界。一説には水星のアルテミット・ワンが持つという破格の力。
 もはや結界術の常識など超越し、絵空の世界を現実に塗り拡げる究極中の究極。

『物理法則の改竄、空間そのものの所有権簒奪……いや、それどころか、もはや――』

 信じ難い話だ。
 考えられない話だ。
 こんなコトを、ただの人間が感情任せでやれていい筈がない。

 だが事実として、既に渋谷区はオルフィレウスのシステムを用いても観測不能な"未明領域"と化していた。
 まさにあのカドモスが陣を敷く杉並区と同じ状態。いや、比較にならないほどこちらの方が悪い。
 何故なら月の異界法則はかの王のソレが止まって見えるほどに速く、世界/都市を覆い尽くさんと広がり続けているのだから。

『――祓葉!』
「うん!」

 となれば、オルフィレウスが見逃す筈もない。
 祓葉の名を呼んだその声が、今だけは比喩でなく世界を救う鬨の声だった。

『天枷仁杜を抹殺しろ。きみにしか出来ない』
「なんかよくわかんないけど、がってん!」

 〈はじまり〉の神が、光の剣を激しく輝かせる。
 間に割って入るのは、当然の如くトバルカイン。
 亡き主の命を果たすべく月の守り人を務める姿は悲愴だが、だとしても鏖殺の車輪は止まらない。

 神寂祓葉とはそういう生命体で、超常なのだ。
 トバルカインを粉砕し、月の首をもぎ取ろう。
 そうして世界を救い、何喰わぬ顔で滅ぼそう。
 いずれΩの終点を征く現人神の聖剣が、今まさに轟かんとして。

「……、……――?」

 突如、その足が止まった。

 刹那彼女は地を蹴り、あり得ない行動を取る。
 後退したのだ。猪突猛進が日常で、理由付けなど行動した後に考えればいいやの精神で生きるあの祓葉が、退路を取った。
 死と無縁ではいられなくなった神が、そういう選択を取ったということ。
 すなわちそれは――この先に進めば死ぬと、彼女を突き動かす本能が判断したからに他ならない。

「なに、これ……? なんか、身体が――頭、が――」

 こめかみを押さえ、退いた先でよろめく祓葉。
 まったくもって理解の出来ない状況に今度こそオルフィレウスも言葉を失うが。

(あー、イリス。ちょっといいか?)

 それと時を同じくして、虫螻の王シストセルカ・グレガリアが念話を飛ばしていた。

(これ、多分逃げた方がいいヤツだわ。恐らく俺らじゃどうにもならん)
(ふざけないで。何のためにあんたに全力出させたと思って……!)
(アレ見てみろよ)

 促されたイリスが見たのは、もはや何度目かの想像を絶する光景。
 空を揺蕩う無数の蝗達、目算でざっと数十万匹にもなろう群れが次々と地面に落ちてゆく。
 しかも落ちた先で蠢くでもなく、死んだようにじっと動きを止め、忘我の姿を晒しているのだ。
 その姿はやはり、最初に鎮められた機神セラフ=アレスの無様をなぞっているかのよう。


 そして次の瞬間、イリスもその脳髄で異変を知覚した。


 頭が――――重い。
 思考が纏まらない。
 正確には、脳裏の奥から現れたとある感情にその分のリソースを圧迫されていく。

「ぅ……ぐ、っ……!」

 休みたい。休みたい。
 諦めよう。諦めよう。
 もうやっても無理だよどうにもならない。

 だから座ろう? 寝ちゃおう? のんびりしようよ楽になろう。
 何もしなければ辛いことなんてないんだから、全部投げ出しちゃえばいいようんうんきっとそれがいい。
 お酒にお菓子、ゲームに漫画、楽しいことなんて他にもいくらでもあるんだから。
 大丈夫大丈夫私は十分がんばった。休んでいいよ。サボっていいよ。救われても、いいんだよ。

 さあ忘れましょう、ぜんぶ忘れてのんべんだらりと過ごせばいい。
 過ぎたことなんて思い出しても仕方ないじゃない。嫌なことなんてゴミ箱に捨てちゃえ。
 何もかもが面倒臭い。死ぬまでなんにもしないでゆっくりまったり暮らせたらそれが最高なんだから。
 武器を捨てて魔術を捨てて夢を見て遊んで呆けてだらけて眠って、好きなように過ごしちゃおう。

「ふざ、け――っ、ぐ、ぉえ……!」
(――な? 分かったろ。どうもあのチビ女の造る世界は、全員を楽な方に誘ってくるらしい)

 イリスはこの誘惑を振り払うために、頬の内側を噛み潰す必要があった。
 広がる濃厚な血の味が吐き気を助長したが、それさえ堕落の衝動に抗う気付けの役目になってありがたい。

 逆に言えばここまですれば一旦どうにかできる程度の精神汚染なわけだが、これがずっと続くと考えれば脅威度は計り知れない。
 戦っている時。考えている時。此処で過ごすすべての時間、この甘美な誘惑と戦いながら過ごさねばならないのだ。
 それがどれほど恐ろしい呪いであるかは、怠惰の甘さを知る生物なら誰もが分かることだろう。

(お前らは頑張れば振り払えるのかもしれねえが、俺らは知っての通り脳みそなんざあってないが如しの下等生物でな。
 何京匹連れてきても完全には抗い切れん。だから俺達は、あのニート女の世界じゃ息もできねえワケ)

 逆にその味を知らないほど知性が薄いなら、脳髄の奥にまではじめての味を叩き込まれて強制的に止められる。
 自慰を覚えた猿のように、堕落の味に耽溺して命尽きるまで停止する伽藍の洞と化す。

 これが、月の固有結界。否、新天地の創造。
 針音都市より始まり、聖杯獲得を以って外に滲み出し、いずれ人理さえも破綻させ得る――特異の点だ。
 ともすれば異聞の帯にも至る強度と深度を秘めて理を揺さぶるこの破格こそ恒星の資格者、その真価。



 恒星真体(アリスィア)――――クラス:スターゲイザー。

 ヒトの身にして英霊を超え、真実の神として人理を塗り潰す、先のない枝にのみ咲く徒花である。



『祓葉、令呪を使え。きみを天空工房まで連れていく』

 ウートガルザ・ロキを抹殺できたのは僥倖。
 しかし、天枷仁杜の殺害はもはや諦めざるを得ない。
 現状ではあまりにもブラックボックスが多すぎる。データが足りない。
 純粋な強弱でない何か得体の知れない法則が、異形の方程式として自分達を取り囲んでいるのを造物主の少年は感じ取っていた。

 この渋谷はもはや、針音都市であってそうでない場所。
 異星の神の腹の中だ。

「え? でもいいの? もう令呪(これ)、再生しないみたいだけど……」
『背に腹は代えられない。今のアレは、ボク達すら呑み込みかねない怪物だ』

 祓葉の最大の信奉者であるオルフィレウスにとってそれを口にするのは、どれほど腹立たしいことだったろう。
 いいや、彼でなくてもだ。
 祓葉に狂した者ならば、誰しも噴血ものの屈辱を覚えずにはいられない筈。

 だがオルフィレウスは狂っても科学者である。
 観測は嘘をつかない。算出された数値はいつだって正直だ。
 故に、どれほど忌まわしかろうが認めざるを得なかった。

 此処に誕生した怪物は、神寂祓葉を知る我々の想像さえも超越する、正真正銘の規格外だと。

『二度は言わせるな。令呪だ、祓葉』
「う――れ、令呪を以って命ずる……!」

 ゼノンが限界を超えた速度で駆動し、未だ月の強制力と抗い続けていた祓葉を連れて飛翔する。

 仁杜は追わなかった。
 いや、そもそも彼女は一度だって他人のことなど見ていない。
 追うも追わないもないのだろう。
 さておきそれは、この第二次聖杯戦争において初めての事象である。
 天枷仁杜は神寂祓葉を――まるで端役のように無視したのだ。

『(腸が煮えそうだ。これほどの屈辱を味わったのは、ケイローンと議論したあの日以来か)』

 極星の相棒としての矜持を穢された憤激の中、それでもオルフィレウスはどこか冷静だった。
 怒りも一周回れば、などという月並みな理由ではない。

 此度の出撃、戦果と損失を較べれば恐らく後者が勝る。
 二体の機神を失い、アレスも回収不可能。
 ウートガルザ・ロキこそ撃破できたが、彼の退場こそが星神顕現の引き金を引いた。
 黒幕が腰を上げ出撃した結果がこれでは、事実上の敗北と言う他ないだろう。

『(だが……)』

 ――この失敗は、いつか大いなる成功に化けるかもしれない。
 そんな予感が、オルフィレウスの激情を宥めていた。

 クラス・スターゲイザー。
 それが、恒星の少女達の最終到達点だとするのならば。

『(祓葉。まさか、きみもまた――)』

 未だ、幼年期の途中にあるのではないかと。
 そんな予感を抱きながら、二柱の神は月の支配圏より離脱した。



◇◇



 この女のことを、私はきっと嫌いじゃなかった。
 ううん、きっと、好きだったんだと思う。
 いつもの如く、ただ素直になれなかっただけ。
 そしてまた、取り返しがつかなくなってからそれに気付くのだ。

 くだらない何かに毒されている。
 アギリの指摘は正しかった。
 私が呪われた運命は、本物の東京で出会った白いクソ女で。
 針音の都市で出会ったちいさなクソ女は、その代替品(オルタナティブ)でしかない。

 だから祓葉を選んだ。
 だからにーとを切り捨てた。
 私が相対するべき運命は祓葉であって。
 代替品で古傷を慰めるなんて女々しい真似、間違っていると思ったから。
 そして。



 私の前には今、地獄が広がっている。



 秒刻みで世界が塗り替えられていく。
 新たな神の心象が、そのまま法則となって版図を広げ。
 すべてが、堕落の月海に沈んでいく。
 その中心で立つあいつは、もうさっきまでの姿とはかけ離れていた。

 髪の毛が地面を撫でるほど長く伸びていて、なのに泥も埃も着いていない。
 天女のような白い着物は、なまじ体格が貧相なものだからひどく不釣り合いに見える。
 掲げた掌の上ではあの"四角"が、絶え間なく高速で回転を繰り返し。
 世界を塗り潰す異星法則のプログラミングを現在進行形で加速させていた。
 虚ろな瞳は左右非対称(オッドアイ)。
 薄紫の左目と、色のない右目が、妖しくも神々しくそこにあって。

 すべてが、あまりにも――きれいだった。
 世界の滅亡とは、こんなにも神々しいものなのか。
 さながら終天の流星雨。魅入られそうなほど美しく、叫びたくなるほど悍ましい。
 私の招いた『滅び』は、そんなカタチをしていた。


 かける言葉など、もうなにもない。
 その義理もない。私は、こいつを棄てたのだから。
 そうでなくても私達は敵同士。
 仮初の友情なんて、本物の戦争の中では茶番劇に等しいと私は誰より知っている。

 此処では頼みの〈蝗害〉もまともに用を成せない。
 私だけでは神になってしまったこいつを殺せないし、そもそも高天小都音の忘れ形見さえどうにもできない。
 切り落とされた腕が完全に再生したのを見計らって獣化術式(ビーステッド)を解いた。
 獣化状態の色間魔術師は、身体部位の欠損さえ色彩操作で修復することができる。
 ただし魔力の消費は膨大だ。またしばらくの内は雌伏に徹さねばならないだろう。

「……行くよ、ライダー」
「おう。しっかし、なんかけったいな街になっちまったな」

 令呪を起動し、世界の変動に巻き込まれる前に離脱する判断を下した。
 当然の選択だ。令呪が残り一画になるのは痛恨だが、命あっての物種である。

 蝗の群れが、私を覆い隠し。
 月の輝きさえ、黒い軍勢の前に隠される。
 まるで月蝕。私がこの街で、ついさっきやったこと。

 そうして消え失せる最後の一瞬。
 蝗の隙間から、神の瞳が見えた。
 目と目が合う。
 あいつが、私を見ていた。
 祓葉のことさえいないものみたいに扱ったあいつが。


「いーちゃん――――どうして?」


 虚ろな口調で零した言葉が頭の中に、いやに鮮明にこびりついて吐き気がした。
 だけど私の力は、肝心な時に限って役立たずだから。
 ひとりぼっちのお姫さまにかけられる魔法なんて、何ひとつありはしなかった。



◇◇



 都市は地獄と化していた。
 つい数時間前までは、新宿の暴動のニュースを対岸の火事と思い見つめていた群衆だ。
 彼らはいつだって、自分達の軒先に延焼が及ぶまで危険を認識すらしない。
 大衆の悪癖である。高度な情報化社会の弊害として、現代は人と人の距離があまりに遠くなってしまった。

 道路は大渋滞となり、歩道もいつ将棋倒しが起きてもおかしくない密度の人混みが埋め尽くしている。
 いや、実際そこかしこでもう起きているのだろう。
 それを正確に伝えられる者がいないだけで、十分過ぎるほど怪我人ともすれば犠牲者が出ていたに違いない。

 後続車のことも考えず、渋滞に業を煮やして車を乗り捨てる者がいた。
 この男は娘を〈蝗害〉に喰われ、それきりやり場のない怒りをずっと燃やし続けてきた。
 心の空白はすべてを無価値にさせ、他人に優しさを向けることのできない状態を作り出す。

 そんな男の姿を、無遠慮にカメラで撮影する者がいた。
 この男は某週刊誌の記者で、現在まさにとある"炎上案件"を追い始めたところであった。
 ある二人のアイドルが都市の異変に関与しているという荒唐無稽な陰謀論を面白おかしく書き連ねる上で、この混沌は最高の釣り堀だった。

 彼の同僚である男は、この仕事に就く前は警視庁公安部に所属していた。
 今となっては解体され、上層部しか見る機会のない機密書類の中に記載があるのみの"特務隊"で、魔術犯罪者と鎬を削った猛者であった。
 正義と信じた組織に居場所を追われた末、今の生業はネットリンチの片棒担ぎ。かつての上司の顔を思い出し、静かに目を伏せ失意に暮れる。

 歩道では、むずがって泣くわが子を必死になだめる母親の姿が見えた。
 疲れた、歩きたくない、と駄々をこねる娘に、母親は老人ホームに入所していた祖父が"消えた"話をまだ切り出せていなかった。
 在りし日の父の笑顔と都市を襲う異変を重ね、歯の砕けそうな苛立ちを募らせることを誰が責められようか。

 押さないで、立ち止まらないで、と声を張り上げて交通整備をする若者がいた。
 この青年の弟は物心ついた頃からの悪童で、少年院を満期出所したばかりだというのに半グレ組織に身を置き出す筋金入りの馬鹿だった。
 そんな弟を心底軽蔑していた筈なのに、今は新宿に駆けつけたくて仕方ない。何故ぶん殴ってでも引き戻さなかったのかと、後悔が渦巻く。


 家族に車椅子を押され、呆けた顔を晒しながら虚空を見つめている老人がいた。
 見ての通り典型的な痴呆症だが、数年前までは名門大学で教鞭を執っていた経歴の持ち主だ。
 優しく誠実な人柄で生徒からの人望も厚かったが、ある日突然、周りに何の相談もなく教職を辞してしまった。

 困惑して問い質す家族に、彼が語ったのはただ一言。
 『私には、あの子のことがわからない』。
 畏怖と未練と、ほんのわずかな憧憬を滲ませて語った老人は、その歳の内に呆け始めて今に至る。
 もう息子の顔も分からない体たらくで暫し車椅子に揺られていたが、突如、やせ細った腕を虚空に向けて伸ばした。

「あ、あ」
「……父さん? どうしたんだ?」
「あ、ま、ま……ぁ、ま――」

 それを一瞬、周りの人間は滞続言語のたぐいかと思ったが。
 事の当人は、老いて生気の抜けた顔を、ほんとうに嬉しそうに歪めて。

「あま、かせ、さん……」

 誰かの名前を、呼び。

「そう、かぁ……。ごめんなぁ、最後まで分かってやれなくて……。
 これが、君か……ふ、はは、へへへへ、あぁ、なんとも――」

 千年の後悔が満たされたような顔で恍惚と、空を指差したのだ。
 正しくは朝焼けの中にぽつねんと佇む、孔のような――月を。

「美しいじゃ、ないか……」

 刹那、このなんてことのない老人に従うようにして、渋谷の全住民が空を見上げた。
 今はまだ此処だけ。けれどいずれ、都市のすべてがこのようになる。

 先ほどまで恐怖を筆頭とした各々の理由で動いていた足を、次々と止めて。
 張り詰めた顔を穏やかに緩ませ、自然と笑みを溢す。
 月が伝えてくるのだ。どうすればいいかを。
 それはとても簡単な答えで。だからこそ、悲惨な現実の何より救済だった。

 そうだ、やめてしまおう。
 考えるのはやめて、のんべんだらりと暮らせばいいじゃないか。
 失った者は戻らないし、自分の手の届かないどこかに思いを馳せるのは無駄なことなのだから。

 何もかも忘れて、休んで、自分だけの現実に浸りながら眠ればよかったんだ。
 何故なら己が理想の世界は頭の中、夢の内側にすべて揃っている。
 そうやってゆるりと生きれば悩みは消え、残るはただ幸福に満ちたわが人生。
 大丈夫大丈夫私は十分がんばった。休んでいいよ。サボっていいよ。しあわせになっていいんだよ。

 そうして愚かな民草は救われる。
 隠蔽が限界を迎え、愚かしさの限りを取り戻した都市の一角から。
 この瞬間すべての"悪"が浄化され、己という名の善だけが残った。

「つきの、かみ……うるわしの、きみ……」

 車椅子を押す手が離れ、身動き取れない状態になって尚、老人は救われたように笑っていた。
 星の名もなき眷属は舞台の外側を彷徨く端役未満の身の上なれど、この時確かに、報われたのだ。

「かなたへつうずる……こんげんの……」

 世界よ、もの皆等しく優しく止まれ。
 己を救えるのは己だけ。
 すべての堕落は神の名の下に許される。
 堕ち、落ち、沈み、自分だけのどん底で夢を見よう。

 異星法則の侵略が一通り進んだところで、都市に異形の生命体が出現し始めた。
 それは、翼を持ち槍を担う戦乙女であり。
 高層ビルほどの背丈を持つ、神話の巨人であり。
 街路を縫って這う蛇であり、月に吠える白狼であり。
 燃え上がる体毛を持つ獣であり、逆に凍りつく体毛を持つ獣であった。

 彼らは安息の守り人。月面の番人。
 とある神話から這い出た、奇術王の友人達。
 止まることなく生まれ出て増殖する神秘は、世界の変革を無言のままに物語り。
 さりとて誰も疑問など抱かない。思考の停止。それが、堕落の第一歩だから。



◇◇



 ――女の話をしよう。
 その女は、きっとこの世の誰より愚かで。
 しかしそれ以前の段階で、この世の誰より優れていた。

 女の名前は天枷仁杜。
 ごく普通の家庭で生まれ育った彼女は、生まれつきとある現象を知覚していた。
 自分が本気で願ったことは、何であれ必ず成就するのだ。

 勉強していないテストで、神憑り的に百点が取れる。
 自身を轢き潰す筈のトラックが、目の前で止まる。
 嫌いな人間が、自分とは遠いどこかに消える。
 降らない筈の星が、満天の流星群となって空を覆う。

 彼女自身、一体その現象が何であるかを理解できてはいなかったが。
 なんのことはない、それは魔術の側の法理で説明のつく事象である。
 猿にタイプライターを叩かせた結果、シェイクスピアの傑作が書き上がるような。
 二五メートルプールに部品をばら撒いて撹拌したら、偶然腕時計がひとつ出来上がるような。
 せいぜいその程度の確率で起こり得る、そんな事例のひとつでしかない。

 ――天枷仁杜は、先天性の根源接続者である。

 ただし彼女と渦を繋ぐ穴は非常に狭く、限定的なタイミングで事象を"改変"するのが精々だったが。
 それでも生物としては、十分すぎるほどに過ぎた力であった。
 ひとりの少女の世界観を、致命的に歪めてしまうくらいには。

 仁杜は成長につれ、徐々に自分の本質に近付いていった。
 恋を知った全能が悪性に覚醒するのと真逆で、悪性が全能に近付こうとしていた。
 生まれ持ったあまりに破滅的すぎる個性の数々が、半ば防衛本能的に進行を押し止める役を果たしてはいたものの。
 早ければ高校生の内、遅くとも成人までには自身の正体を自覚する。これは避けられない運命だったのだ。

 そうなった時、彼女が辿る筈だった結末はふたつにひとつ。
 全能者として覚醒し、根源の叡智を必要に応じて引き出し続ける無機質な機械になるか。
 どこまで行っても救われない自分の未来を呪い、自ら命を絶つか。
 その二択。少女は悩みながら、腐りながら、約束された分水嶺に向け歩み続けていたが。


『よし、決まり。
 今日から私と友達になろうよ、天枷さん』


 とある女の出現が、結末の定礎を打ち砕いた。

 友を知り、飢えた超越者は満たされる。
 彼女に甘えて身を委ね、緩やかな充足の中でしあわせを噛み締める。
 根源に通じる孔は拡大を止め、喜劇のような日々が月の姫を慰め(ねむらせ)続けた。

 されど。
 今や友は失われ、魔法は解け、彼女自身が夢幻と化した。

 救済と浄化が満たし、怠惰と堕落が是とされる渋谷区の一点で。
 天を貫くように伸びたホテルの最上階に、突き刺さるようにして巨大な"四角"が鎮座している。
 これぞ神の御所。全能の叡智を限定解放し、零から紡ぎ上げて辿り着いた、最も合理的かつ効率的な世界改変装置のかたちだ。


 名を『月姫真体・堕落恒星(ムーンセル・オートマトン)』。
 七天の聖杯と同じ名を持ち、されど似て非なる大神秘である。


 破壊不能にして冒涜不能。
 求められない者はどうあっても辿り着けない。
 現実の距離とは異なる、想いの距離を寄る辺にした姫の寝室。

 その内装は、彼女が最近もっともしあわせだった時間を再現していた。
 外観の超然とは相反した、高級ホテルの一室をそのまま切り出したような空間だ。
 だが広さは普通の部屋のようにも、逆に無限に広がる宇宙のようにも見える。
 あらゆる矛盾が、怠惰による妥協のもとに共存する世界。

 針音都市では今後、これを指して月と呼ぶ。
 地球の衛星が恒星になり、自己を確立するという不条理も当然罷り通る。
 月のお姫さまは、あらゆる理不尽を我が物とする独裁者なのだから。

「――――ん、ぅ」

 ベッドの上で、女は何事もなかったように目を覚ました。
 褐色の殺人鬼と目が合う。鬼は一瞬憐れむような顔をしてから目を逸らす。
 なんでそんな顔するんだろう、と思ってから、女はぱあっと花咲くみたいに笑った。

「ことちゃん!」
『いつまで寝てんのさ。あんた、状況分かってんの?』

 ベッドの脇を見つめて、仁杜は頭を掻いている。
 そこには誰もいない。

「もう、そんな怒んなくたっていいじゃん……。ね、ロキくん!」
『うん、その通り。にーとちゃんが正しい。ことちゃんはちょっと口煩すぎるな、そんなだから小皺が増えるんだよ』

 その逆側を見て、助けを求めるように頭を差し出す。
 へへ、と満足げに笑ってる姿は、まるで撫でてもらっているかのようだ。
 そこには誰もいない。

『あのねぇ、あんたがそうやって甘やかすからにーとちゃんはいつまでもこんなんなんだよ』
『逆に聞くけど、その何がいけないことなんだい? こうしていつまでも可愛いなら何よりじゃないか、おーよしよし』
『はぁぁあぁぁあぁあ……。ホントになんでこんなことになったんだか……』

 そこには誰もいない。

「…………あれ?」

 ふと、己の頬に違和感を感じて。
 反射的に拭ってようやく、仁杜は自分が泣いていることに気付いた。
 何度も何度も袖で拭うのに、どうしてか涙が止まらない。

『え、ちょ……なんで泣いてんの? 私そんな強く怒ってないじゃん』
『あーあー、ことちゃんが泣ーかしたー。かわいそうに、俺だけは君の味方だからなぁ……』
『うわ――抱き締めるな、友達が目の前でイチャコラしてんの見る方の身にもなれっての……!』

 そこには誰もいない。

「……ごめん。ごめんね。
 なんかわたし、すっごく、イヤなユメを見てた気がして――」

 誰もいないのだ。
 月を守る眷属達は、ふたりとも死んでしまったから。

「あのね、ふたりとも。あと、セイバーちゃんも」

 月は、真実(まこと)の星となった。
 世界の終点、そのひとつ。
 スターゲイザーⅠ、第一の恒星。堕落の満月。

「わたし、みんなのこと、だいすきだよ」

 あるいは。

「ずっとこうして、一緒にいようね……へへ、えへへへ……」

 独りぼっちの、夜空の星。



【天枷仁杜&セイバー(トバルカイン) 再契約】
【月光夢幻神界 侵食開始】

【終末星 耽溺】

【スターゲイザーⅠ 顕現】



◇◇



 ――マテリアルが更新されました

 ――第一の恒星が観測されました



【クラス】
 スターゲイザー

【NAME】
 天枷仁杜(ウートガルザ・ロキ)

【ステータス】
 筋力:E 耐久:EX 敏捷:E 魔力:A++ 幸運:A- 宝具:EX

【クラススキル】
 恒星の資格者:A
 星になぞらえられた、世界の終わりの女達。
 他者を圧する自我を持ち、世界を圧する権能を持ち、価値観を灼く輝きを持つ。
 神霊ではなくヒトの理想上の神に近い、悪にも善にもなり得る新生物。魔力消費の概念がデフォルトでほぼ消失する。
 この存在は剪定事象、いつか切り捨てられる世界にしか誕生しない。

 宇宙意思:A
 絶対の意思。傍若無人の自我(エゴ)。
 精神干渉の一切を遮断し、既存世界の道理を無視する。

【固有スキル】
 堕落の月:A++
 堕落を愛し、進歩を拒む女神の特性。
 自分の世界は己自身と、その愛する存在だけで完結していると固く信じる。
 愛する者のみ受け入れ、それ以外からの望まない干渉を全自動で遮断する。

 夢幻の女王:A+++
 幻術の上位互換スキル。
 世界そのものを誑かすことに限りなく特化し、反面精神干渉は不得手。
 その芸当は魔法に等しい。

 根源接続:A-
 其れは「 」から生じ、「 」を辿るもの。
 両儀に別れ、四象と廻し、八卦を束ね、世界の理を敷き詰めるもの。
 即ち万能の願望機の証であり、このスキルを持つ者にとって通常のパラメーターは意味はないものとなる。

 陣地作成:EX
 「神殿」を上回る「異星」を構築することができる。
 位階が下のテクスチャは剥がされ、月の堆積物となる。

【宝具類似現象】
『月光夢幻神界(ムーンキャンサー・ウートガルズ)』
 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:[測定不能] 最大捕捉:[測定不能]

 「大丈夫大丈夫あなたは十分がんばった。休んでいいよ。サボっていいよ。しあわせになっていいんだよ」

 堕落は是なり。忘却は美なり。微睡は徳なり。停滞は幸なり。
 結界内の全生物に、法として以上の概念を適用する。
 仁杜の世界の中ではあらゆる生物が執着を忘れ、根源的な堕落への欲求に袖を引かれて楽な道に耽溺する。
 眠りこけるもよし。何もしないもよし。思い思いの娯楽に逃避するもよし。好きな者だけで慰め合うもよし。
 英霊や針音都市において演者(アクター)の資格を持つ者であれば抗えるが、それでも仁杜の支配圏に存在する限りほとんど絶え間なく堕落判定を要求され続ける。
 一度でも足を取られれば抜け出すのは至難。何故なら、堕ちる/落ちることは気持ちがいいから。何もしないことは心が安らぐから。
 あらゆる生命体の弱さに、月の女神は寄り添い続ける。

『夕焼けに微睡むしあわせの魔法(ウートガルザ・ロキ)』
 ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:限度なし

 「いつまでも」
 「いつまでも、しあわせな夢を見よう」
 「ロキくん、ことちゃん」
 「みんなと、いっしょに――」

 ウートガルザ・ロキの霊核を喰らい、引き継いだ能力(しゅくふく)。
 世界そのものをたぶらかし、物理的干渉力を伴った幻という矛盾を実現させる。
 騙しているのは個人ではなく世界そのものであるため、幻術だと気付いたところで突破口となり得ない。
 神殺しや生命特攻などの本来幻が持ち得るはずのない性質も、世界に対しそう認識させることで限りなく現実に近い事象と化し再現される。

 擬似的な全能にも等しい権能であるが、弱点がひとつ存在する。
 『幻術による攻撃で受ける被ダメージは物理耐久ではなく、精神の耐久度で計算される』。
 仁杜の幻術は知っていたところで騙されるが、幻として受けるのとそれを知らずに受けるのとではダメージの大きさが異なる。
 知らなければ神でも完敗するが、知っていれば精神(こころ)の強さ次第では人間でさえミョルニルの一撃を持ち堪え得る。
 要するにマジックショーをそれが手品と知った上で見るか、知らずに見るかという話。とはいえロキを継いだ仁杜は愛する魔法使いと変わらず夢の王、誑かしの極み。
 その幻術を正面切って看破することは、仮に相手が全能の大神であろうと極めて困難である。

『月姫真体・堕落恒星(ムーンセル・オートマトン)』
 ランク:EX 種別:対■宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

 異なる事象世界に存在する、月の叡智。七天の聖杯(セブンス・アートグラフ)。
 それと同じカタチを取りながら、明確に性質を異にする月女神・天枷仁杜の寝殿。
 スキル『堕落の月』に由来する無敵特性を有しており、招かれざる者には決して破壊不能。
 これを中核とし、仁杜は第一宝具『月光夢幻神界』を拡大させている。

【人物背景】


 天枷仁杜。
 先天的、かつ非常に限定的な根源接続者。
 親友を失ったことで現実を直視し、その上でウートガルザ・ロキの心臓を喰らい取り込んだことで、恒星真体としての覚醒条件を満たした。

 γの終末、『Dreamer』。
 滅びの名は『停滞』。

 女は興味のないモノ、コト、ヒト、その一切を受け入れない。
 月の女神は排他と差別の極み。
 自分の目に見える世界こそ最上と信じる思想は幼稚だが、だからこそ付け入る隙に乏しすぎる。正攻法で綻びを見出すことはきわめて至難。

 スターゲイザーⅠ。
 第一の恒星、堕落の満月。



◇◇



【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』/二日目・早朝】

【天枷仁杜】
[状態]:〈スターゲイザー〉
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:数万円。口座の中にはまだそれなりにある。
[思考・状況]
基本方針:さあ、しあわせな夢を見よう。
0:ずっといっしょだよ、みんな。
1:都市の制圧。聖杯の獲得。全部叶えようね。
[備考]
※楪依里朱(〈Iris〉)とネットゲームを介して繋がっています。
 必要があればトークアプリを通じて連絡を取ることが出来ます。
※祓葉との対話を通じて、資格者としての性質が向上しました。
※セイバー(トバルカイン)と再契約しました。
※恒星真体・スターゲイザーⅠとして覚醒しました。根源の渦への接続が再開されます。

【セイバー(トバルカイン)】
[状態]:全身にダメージ(大)、喪失感と虚無感、激しい怒り、高天小都音からの令呪
[装備]:トバルカイン謹製の刃物(総数不明)
[道具]:
[所持金]:数千円(おこづかい)
[思考・状況]
基本方針:――ああ、分かったよ。コトネ。
1:お前ら全員、私が殺してやる。
2:神寂祓葉の倒し方に見当が付いた。が、これ結局同じクソゲーさせられるだけじゃないか?
[備考]
※天枷仁杜と再契約しました。
※祓葉を倒せるかもしれない方法に思い至ったようですが、あまり釈然としていません。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・撤退中/二日目・早朝】

【楪依里朱】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(大/色間魔術により回復中)、強烈な自己嫌悪、未練
[令呪]:残り一画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本方針:優勝する。そして……?
0:今は撤退する。とりあえず、渋谷から離れたい。
1:祓葉を殺す。
2:じゃあね、にーと。嫌いじゃなかったよ。
3:薊美に対しては微妙な気持ち。間違いなく敵なのだが、なんというか――。
[備考]
※天枷仁杜(〈NEETY GIRL〉)とネットゲームを介して繋がっています。
 必要があればトークアプリを通じて連絡を取ることが出来るでしょう。
※蛇杖堂記念病院での一連の戦闘についてライダー(シストセルカ)から聞きました。
※今の〈脱出王〉が女性であることを把握しました。

【ライダー(シストセルカ・グレガリア)】
[状態]:総軍
[装備]:バット(バッタ製)
[道具]:
[所持金]:百万円くらい。遊び人なので、結構持ってる。
[思考・状況]
基本方針:好き放題。金に食事に女に暴力!
0:渋谷から逃げる。此処じゃ俺はまともに動けん。
1:相変わらずヘラってんな、イリス。
2:祓葉にはいずれ借りを返したいが、まあ今は無理だわな。
3:煌星満天、いいなァ~。
[備考]
※イリスに令呪で命令させ、寒さに耐性を持った個体を大量生産することに成功しました。
 今後誕生するサバクトビバッタは、高確率で同様の耐性を有して生まれてきます。
※総軍を結集させました。再度散らすまで、戦闘時の魔力消費が大きく増加します。
※『月光夢幻神界』の堕落の法による影響をきわめて強く受けるようです。


【神寂祓葉】
[状態]:不死零落
[令呪]:残り二画(再生不可)
[装備]:『時計じかけの方舟機構(パーペチュアルモーションマシン)』
[道具]:
[所持金]:一般的な女子高生の手持ち程度
[思考・状況]
基本方針:みんなで楽しく聖杯戦争!
0:アレが、にーとちゃんなの――?
1:にーとちゃんは私と似てる。できれば友達になりたかったけど、仕方ない。
2:結局希彦さんのことどうしよう……わー!
3:悠灯はどうするんだろ。できれば力になってあげたいけど。
4:風夏の舞台は楽しみだけど、私なんかにそんな縛られなくてもいいのにね。
5:もうひとりのハリー(ライダー)かわいかったな……ヨハンと並べて抱き枕にしたいな……うへへ……
6:アンジェ先輩! また会おうね~!!
7:レミュリンはいい子だったしまた遊びたい。けど……あのランサー! 勝ち逃げはずるいんじゃないかなあ!?
[備考]
二日目の朝、香篤井希彦と再び会う約束をしました。

ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)の宝具『英雄よ天に昇れ』によって、心臓部永久機関が損傷しました。
具体的には以下の影響が出ているようです。
再生速度の遅滞化。機能自体は健在だが、以前ほど瞬間的な再生は不可。
不死性の弱体化。心臓破壊や頭部破壊など即死には永久機関の再生を適用できない。
令呪の回復不可

『界統べたる勝利の剣』は連発可能ですが、間を空けずに放つと威力がある程度落ちるようです。
最低でも数十秒のリチャージがなければ本来の威力は出せません。

【キャスター(オルフィレウス)】
[状態]:健康、激しい怒り、知識欲
[装備]:無限時計巨人〈セラフシリーズ〉→セラフ=ゼノン、セラフ=プシュケー
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:本懐を遂げる。
0:工房に戻り、一度状況を立て直す。
1:〈恒星の資格者〉を消す。
2:あのバカ(祓葉)のことは知らない。好きにすればいいと思う。言っても聞かないし。
3:〈救済機構〉や〈青銅領域〉を始めとする厄介な存在に対しては潰すこともやぶさかではない。
4:蛇杖堂寂句。おまえの好きにはさせない。
5:アレが恒星の完成形だとすれば、祓葉にもこの先があるのか?
[備考]
※セラフ=デメテル、セラフ=アルテミスが破壊されました。
※セラフ=アレスは機能停止。月の法則に鹵獲されました。


[全体備考]
※午前4:35を以って、スターゲイザーⅠが顕現。渋谷区全域が『月光夢幻神界』に包まれました。
※範囲内の全知的生命体は堕落の法の影響を受け続けます。
※『月光夢幻神界』の効果範囲は急速に拡大を続けており、計算上では正午にもなれば東京二十三区の全域を支配下に置くでしょう。
※結界内部には仁杜の幻術で北欧神話の怪物や戦乙女が自動召喚され続けており、仁杜に対し敵対的な人物を発見次第襲撃してきます。



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最終更新:2026年01月08日 02:39