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「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……。
 おや、そこにいるのは征蹂郎君じゃないか。
 久しぶり、元気だったかい? 施設のことはすまなかったと思っているよ。だが、よき居場所にありつけたようで何よりだ」
「お、前は……」

 両手でひらひらと、おちょくるみたいに手を振ってくる"知らないのに、知っている"誰か。
 悪国征蹂郎は怒るのも忘れて、アルマナを庇うように立っていた。

「誰、だ……? いや……何だ……?」

 暗殺者の基本、そのひとつ。
 決して傲るなかれ。己の身の丈を見誤った者は必ず失敗する。
 かつての養成施設のホープだった征蹂郎は当然それを理解しており、だからこそ現れた女に何か仕掛けようとすら思わない。

 アルマナも、目を見開いたままかたかたと小さく震えていた。
 虚無で染めた筈の心が、トラウマとは違う理由で悲鳴をあげている。
 蛇の視線が彼女を認めた。にたぁ、と、粘っこい笑みが女顔に浮かぶ。

「はじめまして。可愛いね」
「ぁ……」
「後で迎えに行くから、お利口に待っているんだよ」

 ヒトは此処まで、悍ましい存在になれるのか。
 いや、そもそもこれはヒトなのか?
 この世の地獄を見たアルマナでさえ断言が出来ない。
 この生き物を称する言葉を、脳裏になにひとつ持っていなかった。

「おい」

 が、小鳥に手を伸ばせば飼い主が赦さない。
 地の底に広がる大空洞から響くような鋭い声が、蛇に刎頸を宣告する。

「おや怖い。こんな可憐な女を捕まえて、大人げがないんじゃないかな」
「貴様が誰かは知らん。だが今理解した。貴様はこの世に存在してはならない汚物である」

 ロミオを抑えていた……もとい彼に抑えられていたカドモスが、蛇の首に槍を突き付けていた。

「下がれ、アルマナ。そして悪国征蹂郎。業腹だが、余がおまえ達の命を繋いでやる」
「お前……いや、貴方は……」
「二度は言わすな。もしも我が下僕の身に傷一つでも付けようものなら、おまえの手足をもいで並べてやるぞ」

 悪国征蹂郎に思い入れが出来たわけではないし、彼を認めたわけでもない。
 だがそうした諸々はすべて、蛇の現着と共に些事となった。

 蛇とは竜。そして老王カドモスは、神々が遣わす本物の竜種を知っている。
 しかしこれと比較されては、己の悲劇の元凶となったあの泉の竜でさえ気の毒に思えるというもの。
 これは真の悪竜だ。ヒトの身でその位階へと辿り着いた、まさに悪性の新生物。

「行け」

 手を引いて去っていく征蹂郎を振り返ることもなく、カドモスは蛇へ青銅色の刺突を放つ。
 此処は杉並の外だが、地脈レベルでは領域の浸潤が進んでいた場所だ。
 よって出力は平時以上。その彼の一撃を、蛇はしかし怖じることもなく――

「で?」

 指先ひとつで容易く、受け止めてみせる。

「悪いんだけど、ムサ苦しいのは食傷なんだよね。心配しなくても君達は後回しだよ。ほら、好きに逃げなさい」
「ほざけ」

 不快を露わに槍撃での攻勢を続けるカドモスは、己の霊基を蝕む異変の存在に気付いていた。
 違和感自体は先程からずっとあった。内臓系の業病にでも罹ったような、自分という存在が中から腐ってゆく不快感。
 それがこの醜悪な蛇に近付いた瞬間、誇張抜きで数百倍にまで深度が跳ね上がったのを知覚する。

 恐らくこの現象、そしてこの固有結界の本質は魂の融解。
 胃酸で消化物を溶かすが如くに中の生命を腐り落とす凌遅の呪い。
 サーヴァントにとっては劇薬を通り越して猛毒だ。
 その証拠にカドモスは今、蛇の前で身体を動かすだけで、耐え難いまでの激痛を覚えている。

「――助太刀するぜ」

 度し難いが、分が悪い。
 格ではなく相性の問題だ。
 そこを見取ってか、神聖隊を侍らせたエパメイノンダスが乱入したことにテーバイの建国王は何も言わなかった。

「俺の落ち度だ。間に合わなかった」
「過ぎたことを嘆くなら、今すぐ腹でも切って死ぬがいい」
「分かってるさ。この失態は、働きで取り返させて貰う」

 並び立つ、テーバイの新旧両雄。
 竜殺しの大国父と、生涯不敗の大将軍。

「はぁ」

 面倒臭そうな溜息は、虚勢ではなく本心から来るものなのだろう。
 髪をかき上げ、他人の子から奪った未来の貌で、眼前の障害物二つを見つめ。

「いいよ、そうまで言うなら遊んであげよう」

 次の瞬間、エパメイノンダスの前まで肉薄していた。
 サーヴァントの動体視力を以ってしても、移動の軌跡をどうにか捉えるのが精々という出鱈目さ。

「――ッ」
「お。いい目をしてるね、合わせてくるんだ?」

 が、エパメイノンダスは何とか槍での対処を間に合わせる。
 同時に神聖隊を引き寄せ、蛇を槍衾に変えるべく愛の挟撃を迸らせた。
 武器越しに受けただけでも手が千切れそうになり、腕を起点に罅割れのような構造分解が進行していくのが分かる。
 長くは戦えない。狙うべきは早期決着で、河二に仇の首を獲らせてやろうなんて慮る余裕は皆無だった。

(カドモス王に全く同感だ。コイツは、この世に在っちゃいけねえ存在……!)

 防御の役を担わせた盾が、蛇を穿つ筈の槍ごと、皿を叩き割るように砕かれていく。
 テーバイの素晴らしき愛が、誇りが、こんな悍ましい怪異に踏み躙られていく現実に脳は沸騰しかけていたが、どうにか理性で抑え込んだ。
 これは駄目だ。誰かの仇だとか、そんな理由さえ脇に置いて考えるべき存在だ。
 もっと早く気付いておけばと悔やまずにはいられないし、刺し違えてでも此処で屠るべき害悪と断ずる。

 エパメイノンダスは苦境だが、お陰でカドモスの好機が生まれた。
 この場には三騎の槍兵が集っているが、中でも彼の槍の冴えは群を抜いて鋭い。
 老いて尚矍鑠、それを通り越して鮮烈な武芸は、蛇でさえ再現の出来ないものだ。

「あんたとも話したいことはいっぱいあるんだが、とりあえずは後回しだな」
「当然だ。生きていれば、一つ二つは付き合ってやろう」

 邂逅して間もないとは思えない連携で、英雄達は蛇に拮抗していく。
 その戦陣は見事の極み。針音都市に招かれたどのサーヴァントであろうとも、これを容易く突破するのは難しいだろう。
 しかし。

「ありもしない希望を夢見て、健気に寄り添い合いながら足掻く。シチュエーション自体はまあ、好みなんだが」

 それすらも圧倒的な力と、絶望的な相性差が無に帰す。

「汗臭い男同士でやられてもね。害虫の交尾を見てる気分だ」
「ぐ……!」
「ち、ィ……ッ」

 地を裂いて、蚯蚓の群生の如く出現した蛇の鉄砲水。
 見てくれだけでも吐き気を催す光景だったが、威力も十二分に殺人的だ。
 蛇腔の固有結界の影響でハリボテ同然の強度しか持てない今の彼らは、これに掠めただけでも血を吐き、凄まじい苦痛に襲われる。

 これが総力の何割の力なのか想像もしたくない。
 確かなのは、蛇はまだ本気などまったく出していないということ。
 口振り通り、煩わしく寄ってくる害虫を払っているようなものなのだ。

「おっと。君は見込みアリだね」

 そこに新たに加わったのは、赤い甲冑の少女槍兵だった。
 天蠍アンタレス。その表情に宿る敵意と嫌悪は、黙示録の赤騎士や都市の極星と相見えた時の比でない。

「貴方は――いったい――!」
「それより君の話が聞きたいな。幾つ? 身長は? 好きな食べ物と将来の夢は何?」

 彼女は星の抑止力、ガイアの尖兵。
 だから見過ごせない。この蛇は、明らかに地上に在るべきでない存在だ。
 分かるのだ。これが遊びに興じている内はまだ花で、いつかその座興を止めた時、殺人鬼の諧謔が平和に思えるほどのナニカが顕現すると。

 恒星の資格者と呼ばれる、神の卵の少女達がいる。
 神寂縁はそこに属さない、言うなれば端役の身だ。
 なんて詐欺。なんて悪辣な罠。
 こんなものはどう見ても、星神に匹敵する厄災ではないか――!

「『英雄よ(アステリズム)』――が、ぅッ!?」
「ははは、悪いがその手は食わないよ。
 そこの詐欺師君から聞いていてね。いい宝具を持ってるじゃないか、ウチの姪っ子を穢したんだって?」

 粛清を逡巡するまでもない。
 必殺の毒槍を解放せんとするが、瞬間で腹を打ち抜かれた。

「気になるけど、まあ後だな。男衆がうるさくてねぇ」

 宙に浮かび、手の延長線として伸びた蛇鞭がアンタレスを吹き飛ばす。
 その文字通り片手間で、エパメイノンダスとカドモスを相手取っている。
 気にかけている男は居ないでもないが、基本的に蛇の行動原理は支配欲に由来する。
 彼は英雄達の奮戦に何も感じていないし、矜持などあろう筈もない。

「それじゃロミオ君、任せたよ。露払いをしてくれたまえ」

 だから簡単に、こういう択を取れる。

「黙れ。僕に向かってその薄汚い口を開くな」
「ありゃりゃ。嫌われたもんだ」
「彼らを片付けたら次は貴様だ。貴様のようなモノがジュリエットと同じ世界に存在しているなんて、考えただけでも虫酸が走る」

 蛇の乱入によって戦況は一変したが、ロミオを苛む憤激は依然最高潮から据え置きだ。
 英雄達の優先順位が変わったところで、怒り心頭の狂戦士が彼らを逃すことはない。

「――ち……ッ、気狂いめが、最低限の道理も解らんのか……!」

 蛇に接近したことによる強度低下。
 それを引き継いだ状態で相手取る狂戦士ロミオは、先刻を遥かに超える難敵だった。
 規格外の剛力と打ち合うだけでカドモスが喀血し、皺の寄った顔を厳しく歪める。

 アンタレスが復帰したとしても、この有様ならロミオで十分相手ができるだろう。
 となれば後は、一際目立った邪魔者を排除するだけだ。

 蛇とエパメイノンダス、二者の視線が交錯する。
 不敗の将軍は当然、魔王の殺意に怯みなどしなかった。
 むしろ苦境の中でこそ歯を剥いて笑い、闘志を曝け出し構えてみせる。

「舐めてんじゃ、ねえぞ……!」

 そも、己としても許せる相手ではないのだ。
 河二はいい男だ。ナシロはいい女で、雪村鉄志だって実に手強い好敵手だった。
 腐らず、悪に染まらず、日々を真面目に生きているとても立派な人間達を、エパメイノンダスは見てきた。

 そんな彼ら彼女らに永劫の喪失を負わせ、あまつさえ今、その命までも貪らんとしている。
 愛を知らぬ悍ましき獣、〈支配の蛇(ナーハーシュ)〉。
 なればこそ一人の男として、英雄として、河二達と同じ釜の飯を食った仲間として、断じてこれ以上の跳梁を許すわけにはいかなかった。

「――――構えェッ!」

 エパメイノンダスを囲うように出現する、無数の槍と盾。
 これらは蛇の対極、愛を以って強さを轟かせた百五十対の精鋭達。
 その戦いぶりを、美しさを、大将軍はひとつ余さず記憶している。

 ならばこそ、此処で彼らに頼らないのは冒涜に等しい。
 愛を否定するモノを討つ戦いだからこそ、愛に頼るのだ。
 愛することの神聖さを、高らかに世界へ示すのだ。

「『神聖なる愛の献身(テーバイ・ヒエロス・ロコス)』!!」

 攻めるは蛇。愛の否定者。
 受けるは将軍。愛の信奉者。
 善悪の彼岸のように対照的な、ふたつの悪と善が交差して――

 響いたのは、破裂音にも似た崩壊の音だった。
 立ったままの将軍の後ろへと、殺人鬼が歩み去っていく。
 遅れて英雄の胸元が裂け、噴水のような鮮血が噴き上がった。

「そりゃ舐めるだろ」

 は、と嘲笑を響かせ、倒れた将軍の姿を振り向いて確認さえしない。
 どこまでも傲慢。どこまでも残忍。だが露悪的に振る舞っている自覚など、これでもまったく皆無だった。

 何故なら彼は、神寂縁は自覚している。
 己こそが、この世における悪の最大値であると。
 此処に、自分を凌駕する悪性は存在せず。
 だからそんな自分だけが、総てを支配する資格を持っていると信じて疑わない。

「さてと。待たせたね」

 蛇杖堂絵里の顔を、半分だけ自分自身の、『神寂縁』のソレに戻して。
 彼はこの場にやって来た理由であるところの、少年少女へと微笑んだ。


「大きくなったじゃないか。ナシロちゃん、河二くん」



◇◇



 琴峯ナシロは、自分はこれまで、真に何かを恐れたことなどなかったのだと理解した。
 目の前にいるのは父母の仇で。幾千の悲劇を生み出し、同じだけの未来を貪ってきた本物の巨悪で。
 だから怒るべきだと頭では理解しているのに、身体がその認識に付いて来ない。

「琴峯ナシロちゃん。高乃河二くん。
 いやはや、奇縁も此処まで来ると清々しい。
 もう知ってるだろうが、君たちの親御さんを殺したのは僕だよ。喰う価値もないカスだったがね」

 亡き両親をあけすけに詰られて、泣き出したくなるほどの激情が込み上げる。
 それでも握った拳は震え、黒鍵同士がカタカタと歯の鳴るような音を奏でていた。

 これは、何だ。こんな生き物が、地上にいていい筈がない。どうして自分達はこの怪物を、一度でも信用などしてしまったのか。
 半分は見知った顔なのに、そこと地続きになって見知らぬ顔が貼り付いている。
 怪異、という言葉が脳裏に過ぎった。同じ空間に存在していると思うだけで息が切れ、肺に酸素をうまく送れない。

「――アサシンッ!」

 だからその行動は怒りや復讐心に依るものじゃなく、ある種の防衛反応だったのだろう。
 ランサー達の防衛線は苦もなく突破され、残っているのは悪魔の少女ただひとり。

「任せてください、ナシロさん! なんだかわたしも"そいつ"、とーっても気に食わないみたいです!!」

 意外なことにヤドリバエは、この空間の誰よりも蛇を恐れていなかった。
 カドモスやエパメイノンダスでさえ、這い上がるような悪寒に顔を歪めていたというのに。
 人一倍小物なくせに臆さず羽根を震わし、先程同様の光弾乱射を見舞いながら蛇に向かっていく。

 ナシロがもう少し冷静だったなら、その可怪しさに気付けたかもしれない。
 いや、数時間前からずっと、彼女の様子はどこか妙だった。
 妙に大人しかったり、月の法則が敷かれた渋谷を見つめ、望郷の念らしきものを滲ませていたり。

「君は……ふむ。なんだろうな、可愛らしくはあるんだが」

 対する蛇も、ヤドリバエに対する反応は他の大勢へ向けたのと少々異なって見えた。
 答えの出ない不可解な違和感を憶えているような、この悪辣な怪物らしからぬ、煮え切らないリアクション。

「とりあえず、評価保留としておこう」
「っ――!?」

 だが、それでも奇跡は起こらない。
 "もしかしたら"なんて曖昧な事柄が介在する余地はなく。
 最後の希望を摘み取るように、ヤドリバエの光弾は蛇に腕の一振りで薙ぎ払われた。

 更に、脇腹から伸びた無数の触腕――蛇――が、空を舞う蝿の少女を絡め取る。
 そのまま地面へと叩き付けた光景は、まさに害虫を駆除するかのようで。

「どうも不気味だが、かと言って潰してしまうのも惜しい。少し寝ていてくれるかな」
「ぁ……ぎ、ぃ……ッ、う、ぁ……!」

 締め付けを強めていくにつれ、彼女の口や鼻から血が垂れ落ちる。
 中からは骨や肉の軋む音が響き、見た目が幼い少女なこともあって酷く痛ましい。

「くそ……!」

 見かねたナシロが、懐から抜き出した現物の『杖』を蛇へ照準した。
 放たれた魔弾はしかし、手を動かすまでもなく蛇の圧力によって封殺される。
 真上へ跳ね上がっていき、彗星の尾を思わす赤色が腐敗の空に立ち昇った。

 助けに与れなかったヤドリバエは手足をばたつかせ、何度も何度も蛇を叩いていたが、彼女のスペックで魔王に痛痒を与えられる筈もなく。

「く、ぁ…………ッ」

 やがてぐったりと脱力し、そのまま放り捨てられた。
 ぱんぱんと、汚れを払うみたいに手を叩いた蛇。
 これで本当に、少女達の望みは潰えたことになる。

 蛇が、ナシロ達に歩みを進めた。
 歩いているのはあちらなのに、何故か処刑台の階段を登らされている光景を幻視してしまう。
 実際、間違ってはいないのだろう。
 この巨悪は自分達にとって、紛うことなき死神なのだから。

「大きくなってしまったなぁ、ふたりとも」

 人懐っこく微笑む、蛇。
 絵里の時にも見せていた屈託ない表情だが、半面が壮年の男性に変わっていてはただひたすらに気味が悪い。
 そうでなかったとしても、中に詰まった醜穢を理解した上で見れば、誰であろうと魅惑的なものなど感じられまい。

「僕が許せないかい?」
「当たり前、だろ……お前が……お前さえ、いなければ……ッ!」
「そっかそっか。まあ憎むよな。でも君達だって、本当は理解ってるんだろう?」

 先割れした舌先が、チロリと覗く。
 粘性の唾液を纏って輝くその仕草は、この世のあらゆる欲望を凝縮したような卑猥さを帯びていた。

「"ああ、勝てない""無理だ""こんなもの、どうやって倒せばいいんだ""逃げたい""どうしてこんなことに"……嘆く声が聞こえてくるようだ。どうする、命乞いでもしてみるかい」
「……ッ」
「ん? 怒った? でも仕方ないじゃない、どう見たって君達、器じゃないんだもの」

 蛇の顔が、変態する。
 絵里と縁、両方の面影が消えて。
 ナシロにとって馴染み深い、ある神父の顔に成る。

 心臓が止まりそうになった。
 だってそこにいたのは、ナシロが親のように慕っていた男。
 アンドレイ・ダヴィドフ。聖職者の規範と信じた、既知の顔だったのだから。

「"神は乗り越えられない試練は与えない"、だったかな。
 僕に言わせれば戯言もいいところだよ。これに勇気を与えられる人間が居るのなら、僕は喜んで怪しい壺を売りつけに行くね」
「――、――」
「手を伸ばしても星には触れない。
 拳一つで山を吹き飛ばすことも、一足で地球の裏側に行くことも出来ない」

 日常の一片だと思っていた。
 彼もまた、ナシロにとって守るべき幸福のひとつだった。
 なのにそんな男が今、下卑た笑みを浮かべながら、かの聖句を踏み躙っている。

「そして、僕に敵わない」

 芝居がましく両手を広げ、蛇は嗤う。
 ナシロの好きだったヒトの顔で、世界の善さを否定した。

「君達も、雪村くんも、レミーも、燃え殻共も、そこの英霊達も、この世界の神たる彼女でさえも、誰も僕の"支配"からは逃げられないんだ。それが天下の道理、この戯言に満ちた世界で唯一確かな真理なんだよ」

 世界は己の箱庭だ。
 神も仏もなければ、愛も勇気も関係ない。
 万物、万象、もの皆等しく王たる僕の果実。

 だからこそ楽園(エデン)が必要だ。
 蛇が統べ、蛇が愛でる、永劫不変の天上楽土。
 知恵の実は独占され、故に決して終わりは訪れない、そういう地平をこそ神寂縁は切望している。
 長らく絵空事だったその野望は、急転直下、実現の時が目の前にまでやって来た。
 時の魔女の器。スタール家の徒花を今度こそ咲かせ、取り込み、それを定礎として惑星を再構築しよう。
 蛇はそれを偉業であると信じている。彼の中では大袈裟でなく、世界の救済という認識でさえあったかもしれない。

「だから大人しく、これ以上怖い思いをする前に僕へ降りなさい。そしたら優しく支配(ころ)してあげよう」
「――――貴方は、もう喋るな」

 止まらない蛇の弁舌を、断ち切ったのは少年の声だった。

「何を知った風な口を叩いている。
 貴方は只の人間で、醜悪な殺人犯で、僕らの親の仇でしかない。
 僕は特定の神を信じてはいないが、貴方のような生き物に否定されるのはあまりに気の毒だ」
「高、乃……」
「大丈夫だ、琴峯さん。――僕は、大丈夫。ちゃんとやれるさ」

 ナシロの手を振り切って、河二は拳を握り、蛇と相対する。
 蛇は動かなかった。彼の目には真実、幼児がじゃれ付いてきたのと一緒に見えているのだろう。

「神寂縁。貴方に、ずっと訊きたいことがあった」
「何かな」

 河二は、馬鹿ではない。
 理解している。今自分のしようとしていることが、自殺以外の何物でもないことを。
 勝算など万に一つ、いや億に一つもない、博打にすらなっていない自棄っぱちだということを。
 分かった上でそれでも彼は立ち、拳を握り、過ぎる恐怖を怒りと使命感で塗り潰す。
 酸素は深く。満遍なく吸引して血管の一本一本、細胞の一つ一つにまで巡らせなければならない。

 "いつも通り"だ。いつも通りの、習った日から飽きるほど繰り返してきた胎息(ルーティーン)。
 それを以って彼は、彼だけの存在証明(エゴー・エイミー・ホオーン)を完了する。
 ああ、良かった。この心はまだ、ちゃんと奮い立っている。

「父は――高乃辰巳は、何か言い遺したか?」

 男には、やらねばならない時がある。
 父はたまにそう言っていた。
 今思えば何かの受け売りだったのだろうが、いい言葉だな、と思う。

 前時代的な男女論を唱える気はないが、それでもやはり、男はそういう生き物であるべきだと思うのだ。
 譲れないもの。守るべきもの。失いたくないもの。
 そういうもののために拳を握り、毅然と運命に立ち向かう己でありたい。
 条件は満たされている。背後のナシロを振り向く余裕がないことが、何故だか無性に惜しく感じるのは何故だろう。

 構えを取り、答えを待つ。
 奇跡を望まなかったのは自分だ。
 己の力で復讐を果たすと決めたのだから、報われなかったとしても不平は零すまい。
 それに、たとえそうなろうが、この選択には意味がある。


「"ごめんな。弱い父さんで"だってさ」


 ――握る拳に狂いはなく。
 ――心にも、ブレはない。
 ――よかった。僕は、ちゃんと。


 ――父さん。貴方の息子として、命を懸けられるよ。



◇◇



『貴方は、何も手に入れられない』
『善因善果・悪因悪果……この世界は結局、そういう風に出来てるのだから』
『なあ、〈ヤマカガシ〉よ。私がそう名付けた、独りぼっちの怪物よ』
『私は貴方が、哀れでならないんだ』
『ヒトとして生きることすら出来なかった貴方が――私は――』



◇◇



 今ので改めて分かった。
 この神寂縁という怪物は、決して人智の及ばない超越者なんかじゃない。

 何故なら僕の父は、父さんは、そんな弱音みたいな言葉を残す人じゃないからだ。
 強い人だった。息子の贔屓目を抜きにしても、凄く立派な人だった。
 聖杯戦争で本物の魔術師を知った今なら、そのことがとてもよく分かる。
 真理の追求と、人間として称賛される在り方。
 相反するふたつを両立させ、僕らを立派に育ててくれたあの人は、きっととても偉大な男だったのだと。

 ならばそこを偽った神寂縁は、やはり僕らと同じただの人間だ。
 父もこの男と拳を交えて、同じ結論に至ったのではないだろうか。
 どうしようもなく穢れてはいるが、怪物のヴェールの奥底にちっぽけな生き物としての原型が残っている。
 ならば届かない筈がない。天の星に指先で触れることは不可能でも、目の前の人間を殴り飛ばすことなら誰にだって出来るのだから。

 最後の藪を暴いたのなら、後は挑むだけだ。
 正直、少しだけ安心した。
 恒星だの現人神だのと突拍子もない話を出されるより余程気が落ち着く。

 身体中を駆け巡る酸素――問題ない。
 握り締めた拳の具合――同じく無問題。
 ノクト・サムスタンプとの交戦が尾を引いてはいるが、連戦とは思えないほどにあらゆる感覚が冴え渡っていた。

「問おう、支配の蛇」

 彼我の力量差は改めて推し量るまでもない。
 人類史に貯蔵された名うての英霊達さえ一蹴する怪物に、道半ばの餓鬼が届くなんて思い上がりもいいところだ。

 それでも拳を握り、挑むと決めたからには最善を尽くす。
 構えは美しく。狙いは正確に。
 敵手を刈り取る、そのただ一点に全神経を収斂させろ。

 これが、僕の死地。
 これが、僕の最高到達点。
 狂おしく求めた瞬間が、今こうして目の前にある。
 そして背後には、命を賭してもいいと思える得難い友がいる。

 ならばきっと、此処で散ったとしても。
 僕は何の悔いもなく、最期にこう言えるのだろう。

「――――この技に、覚えはあるか」

 ああ、いい人生だった、と。



◇◇



 放たれた拳が、蛇の胸に触れる。
 同時に流れ込む衝撃はまごうことなく、少年が過去に出してきた威力の中で最高峰。

 肋骨を砕き、その下の心臓を破砕させる武の究極、そのひとつ。
 未だ不格好なれど、足りない分は意思の熱量で補って。
 高乃河二は、自分にできるすべてを尽くした。
 たとえそれが、結末の見えた終末飛行であったとしても。

 鮮血が弾けて、肉が吹き荒ぶ。
 誰かの身体だったものが壊れ、命だったものが激しく飛び散った。

 ずるり、と、ひとつのシルエットが倒れ臥す。
 右の脇腹をごっそりと抉られ、否、消し飛ばされて。
 触れていた拳が滑り、既に出来ていた血の水溜まりを叩いて飛沫をあげた。
 佇む蛇はつまらなそうに、宿願を果たせなかった少年を見下ろしている。

「だから言ったろ。器じゃないって」

 敗れたのは、復讐者の少年。
 蛇の跳梁は当然の如くに止まらない。
 天地万物の支配者たる藪の魔王にとってこの決死は、まったく理解に苦しむ自殺でしかなかった。

「あ、あ……あぁあ、ああぁぁあぁあぁああ!!!」

 その身体を押し退けるように、斃れた少年へ駆け寄る影がある。
 もはや黒鍵を投影することも、蛇に敵愾心を向けるのも忘れていた。
 今自分が取るべき行動が何か、頭では理解している。
 だがやはり身体が付いてこない。此処で迷いなく最適解を下せるほど、ナシロは大人ではなかったから。

 先の行動は河二にとって、確かに悲願の成就だったのかもしれない。
 蛇を討つ。仇を取る。常々言っていた闘う理由そのものに命を懸け、そうして燃え尽きただけのこと。
 そう切り捨てることも出来たろう。しかしナシロは頭がいいから、人の心が分かるから、理解ってしまう。

 ――自分は。彼に守られたのだ。
 ――自分が逃げる一瞬の隙を捻出するために、高乃河二は負けると理解って命を張った。

「馬鹿だろ……おまえ……」

 思えばまったく以って、復讐者だなんて肩書きは似合ってなかった。
 そう自称するには彼は愚直すぎたし、優しすぎた。
 人並みに弱くて脆い自分にわざわざ寄り添って、真摯な言葉を掛けてくれた。
 一日ばかしの付き合いとは思えないほど多くのものを、自分は彼から貰っていたのだと自覚する。

 けれどもうすべては遅すぎる。
 物の価値は失って初めて分かるのだと、自分は知っていた筈なのに。
 またこうして、失ってからその重みに気付くのだ。

「こ……と、みね…………さん…………」

 河二の口から言葉が紡がれて、反射的に身体が跳ねる。
 生きている。まだその身体には、命の名残が残っている。

「にげ、るんだ……令呪を、使って……ここから、早く……」
「馬鹿を言え……ッ、置いてけるわけ、ないだろうが……!」

 逃げるなら二人一緒だ。
 この領域の中にも病院くらいはあるだろう。
 そこに駆け込んで然るべき処置をすれば、まだ間に合うかもしれない。
 そんな考えが糞の役にも立たない思考停止の自己逃避だと、ナシロも分かっていた。

 もうどうやっても高乃河二は助からない。
 失敗した復讐者の末路など、古今東西決まっている。
 善因善果、悪因悪果。己が望んだ悪徳の対価を支払って、孤独に地獄へ堕ちるのだ。

「起きろよ……ほら、起きて、一緒に逃げよう……?」

 声の出し方がうまく分からなくて、絞り出す度に喉が張り裂けそうになる。
 口内の唾液は血混じりの味がした。過度の興奮で頭が揺れ、目の前の青ざめた顔さえぶれて見える。
 泰然自若とした少女がこうまで感情を露わにして、死にゆく少年に縋っている姿は確かに涙を誘うものであったが。
 そんないじらしい姿を、舌舐めずりしながら見つめる影がひとつ。

「いい顔するじゃないか。君は合格だ、ナシロちゃん」

 腐乱の根源たる悪意の王が、静かにあぎとを開く。
 目の前の命を、食欲を唆る少女を呑み込むために。
 かつて掌から零れ落ち、成長して戻ってきた"その子"へ欲の大陰を開陳する。

「大丈夫、心配要らないよ。すぐに中で会わせてあげる」

 じゃあ、いただきます。

 背後から響く処刑宣告に、ナシロは泣き崩れたまま振り返る気力もなく。
 此処に少年少女のジュブナイルは、最悪の終末を迎えることが確定する。



「おっと、ちょいと待ちな。盛り上がってるところ悪いが、まずは俺に報酬を払って貰うぜ」



 その筈、だった。

「…………あ、ぇ?」

 ナシロの前に、ひらりと一枚の羊皮紙が落ちてくる。
 蛇を制し、その間に割って入ったのは、酷く冷たい微笑を湛えた壮年の魔術師だった。

「商談だ、琴峯ナシロ」

 それは、嘆く少女と死にゆく少年にとって、正真正銘最後に残った救いの手。

「高乃河二の命を助けてやる。ただしその対価として、俺は――」

 けれど。
 希望らしく見えるものが、常に神の施しであるとは限らない。
 真の悪魔とは、ヒトがどうしようもなく追い詰められた時にこそ顕れ、優しくその耳へ囁くモノ。

「――――お前と、アサシン・ベルゼブブの身柄を要求する」

 人食いのケダモノは二匹いる。
 こうなるから、彼らに関わってはならないのだ。



◇◇





 ノクト・サムスタンプを甲、琴峯ナシロを乙とし、甲乙は以下の通り契約を締結する。


 第一条 甲は、乙の同盟者『高乃河二』に対し速やかな救命措置を施し、少なくとも当座その生命に危険が及ばない状態にまで回復させるものとする。

 第二条 乙は、前条に定める甲の処置の対価として、乙自身およびサーヴァント・アサシン(丙)の身柄を甲に預けるものとする。

 第三条 前条に基づき乙および丙の身柄が甲に預けられた後、乙および丙に対する指揮命令権は甲に属するものとし、乙および丙は甲の指揮に従うものとする。

 第四条 本契約は、乙が契約に同意した時点をもって効力を生じる。


 以上、本契約成立の証として本書を作成し、甲乙が署名またはこれに準ずる意思表示をもって確認する。





◇◇



 魔術師の間で交わされる契約は、一般的なソレと比べて格別に重い意味を持つ。

 『自己強制証明(セルフギアス・スクロール)』が有名だが、一度交わせば破却できない呪術契約など珍しくもない。
 表社会では法の力を担保に横紙破りを封じているものの、魔術師は神秘の力を用い、もっと絶対的に封じ込める。
 故に、魔術師が持ち掛けてきた契約へ安易に応じてはならない。相手が悪意のある手合いなら、死ぬよりも恐ろしい地獄を味わう羽目になるから。

 ――そんな悪魔の取引が今、ナシロの前に舞い込んできた。

「〈はじまりの六人〉、蛇杖堂寂句の遺品の中には、規格外の身体回復を可能とする礼装も紛れていた。
 流石に奴さん自慢の霊薬とまでは行かないが、抉れた肉と内臓をそれらしく補修する程度なら、こいつでも十分可能な筈だ。
 本当は自分で使うために取っておきたかったんだけどな、お前らの美しい友情に心打たれたよ。特別に譲ってやる」

 まさにそれは、今のナシロが最も求めているものだ。
 河二に死んでほしくない。彼を助けられる力が欲しい。
 その願いに応えて、人界の悪魔が這い寄ってきてしまった。

 ノクトは果たして、どの段階でこうなることを想定し始めたのだろう。
 さりとて蓋を開ければすべてが彼の思い通り。
 蛇は現着し、河二は瀕死に陥り、狙いの少女はのっぴきならない状況に立たされた。

「一応言っておくが、断れば愛しの相棒は確実に死ぬぜ。そして俺は、そこの蛇男への口利きも一切行わない。要はお前ら、仲良く共倒れってわけだ」

 契約書の内容は、一言で言うなら狂気の沙汰だ。
 河二の救命というたったひとつの恩恵のために、ナシロはヤドリバエ共々、今後の命運をすべて差し出さなければならないのだから。
 事実上の隷属である。聖杯戦争という儀式の性質を鑑みれば、これを呑んだ時点でナシロ達は脱落と言ってもいい。
 よって呑む理由はない――彼女が万一そう考えた場合の逃げ道を塞ぐのが、絶対的な捕食者の存在だ。

 ナシロに選択権は存在しない。
 この状況に追い込まれた時点で詰んでいる。
 大切なものを救ってすべてを失うか。
 何も救えずにやはりすべてを失うかの二択。

 ノクトが契約条項に一切の誤魔化しを入れていないのがその証拠だろう。
 この男なら、もっと巧妙で悪辣な契約書だって作成できる。
 なのにそれをしていないのは、その必要すらないからだ。
 死を待つだけの溺れる者が、縋る藁を選ぶなんて、出来るわけもないのだから。

「譲歩はしない。条項の相談にも応じない。後はお前次第だ、琴峯ナシロ」

 ナシロは、何も言えずに死の商人の言葉を聞いていた。
 視線はずっと、河二の血で濡れた契約書を見下ろしている。
 ヤドリバエの耳障りな声が恋しくなる日が来るとは思わなかった。
 悪魔なんだったら、一番の弱り目の時に囀らなくてどうするんだよと、場も弁えず笑いたくなった。

(私は、どうしたかったんだろうな)

 思い返せば自分は、河二ほど復讐に熱を上げていなかった気がする。
 蛇は排除しなければならない。その認識こそ共通していたが、どちらかと言うとそれは倫理的な嫌悪感に依る所が大きい。

 父母を亡くしてから、敬虔のままに生きてきた。
 清貧に殉じ、欲を戒めて、人の善き姿を愛した。
 血腥い復讐の道に熱を燃やせなかった理由は、ひとえにそんなところだろう。
 それに、亡き両親が自分がそういう道に走ることを喜んでくれるとも思えなかった。
 あの人達は本当に、本当に、優しい人達だったから。

 では、琴峯ナシロは何をしたかったのだろう。
 誰かの善き日常を守りたい。それも真実ではあるだろうが、折角だ、もっと私的なヤツを探してみる。
 暫し考えて、ああ、と答えに思い当たった。
 目の前で息も絶え絶えに、意識があるのかないのかも分からない虚ろな瞳で、自分を見上げる少年の姿を認めたからだ。

「そっか、私は、楽しかったのか」

 決して人様には言えない不謹慎な話だが、どうやら自分は、この非日常を楽しんでいたらしい。
 何しろ教会の仕事が忙しすぎて、まともに深い人付き合いをしたこともない身だ。
 そんなナシロにとって、同年代の友人と共に知恵を尽くして未踏の冒険に挑むという体験は、味わったこともないほど劇的だった。

 自分がいて、河二がいる。
 ヤドリバエはきゃいきゃい騒ぎ立て、エパメイノンダスはいつも頼もしい。
 恵まれてこそいたが孤独だったナシロにとって、その日常はもう袂を分かった筈の温もりで。
 怒ったり悩んだりする傍ら、どこかで楽しんでいたのだと今更になって思い至る。
 ならばこれは、そんな浅ましい悪徳に身を窶した女に対する罰なのかもしれない。
 自分はいつの間にか、己でも知らない内に、知恵の実を食んでしまっていたのだ。

「…………なあ、高乃。
 私はやっぱり、お前に死んでほしくないよ」

 手を、握った。
 木製の義肢だと分かっていても、感触は仄かに温かい。

「人の生き死にの是非を論ずるなんて、身の程知らずもいいとこだけどさ。
 それでも思うんだ。お前みたいないい奴が、こんなクソ野郎共のせいで死ぬなんて、どう考えても間違ってる」

 河二は、もう声も出せないようだった。
 その口が、ぱくぱくと動いて何かを伝えようとしている。

 だ、め、だ。そう見えた。

 こんな時まで他人のことかよ、と、苦笑してしまう。

「お前は、幸せにならなくちゃダメだよ。
 たとえ神様が許しても、私が絶対に許さない」

 それが、ナシロの選んだ答えだった。
 河二は死なせない。彼は、幸せにならないといけない。
 復讐を終わらせて、相応しい日の当たる世界に帰るのだ。
 善き人達で溢れた陽だまりの幸せの方が、彼には似合うと信じる。


「これは、私とお前の契約だ」


 ――助けてやるよ。
 ――だから、生きろ。
 ――幸せになれ。
 ――私は、お前に死んでほしくない。


「悪魔みたいな連中になんて負けんな。
 その自慢の拳で、穢い蛇野郎をぶん殴ってやれ」

 ――爪で指先の皮膚を裂き、湿らせた指紋で判を押す。
 ――契約が締結され、その魂が交わした誓いに縛られる。

「で、まあ……もしも余裕があったらさ。その時は」

 これで、琴峯ナシロはもう逃げられない。
 ノクト・サムスタンプの手駒、これまで数百と居た兵隊の目録に加わった。
 自分の身体が誰かの傀儡と化していく感覚は、かつて味わったこともないほど不快な体験で。
 それ以上に怖くて、ただただ怖くて、今にも泣いてしまいそうだったけれど。

 こんな時なのに、不思議と顔は微笑っていた。
 命運すべてを失ってさえ、心は清々しく晴れ渡っている。

「その時は、助けに来てくれると……嬉しい、かも。なんて。はは、求めすぎか」

 やはり自分は、誰かを傷付けるのではなく守れる存在でありたい。
 尊いものの盾となり、困っている人には進んで手を差し伸べる。
 そうやって、自分の大切な、善き世界の守り人であれたなら。
 きっとその因果は、いつか相応しい福音になって帰ってくると信じよう。

 信じるというのは尊いことだ。
 想いを込めて祈るのは素晴らしいことだ。
 琴峯教会のシスター・ナシロはいつもそう思っている。

 ぴんと立たせた小指を、義肢の小指に絡めて。
 小さく上下に振って、"ゆびきった"。

「約束だぞ、"河二"」

 繋いだ手が、離れる。
 少女は悪魔の許へ旅立ち、少年は黄泉路から引き戻されていく。
 そして――



◇◇



「君、何を勝手な真似をしてる?」

 契約が交わされた後、速やかに状況は動いた。

 ノクトの施しによって致命傷を回復した河二が即座に令呪を使用。
 それに合わせてカドモスらの一派も退却を選択。
 現在はロミオが後者を追跡しており、前者の行方は不明な状態だ。

 うまく逃げ出せたと安堵するにはあまりに心許ない。
 大激怒の狂戦士は傷付けども健在、何より蛇とノクトの両翼も揃っている。
 その上で、彼らが今しがた獲得した新たな兵隊(コマ)。
 ヤドリバエはまだ気絶しているが、起きれば早速仕事を任されるのだろう。
 彼女達に拒否権はないのだから。そういう契約を、人の形をした悪魔と交わしてしまったのだから。

「言っただろ、報酬だよ。こっちは死ぬところだったんだ、多少は見返りを貰わないと割に合わん」
「成程ね。で、それって何か僕に関係あるのかな」

 蛇は、ノクトの行動に不快感を露わにしていた。
 藪の魔王は新たな戦力など端から求めていない。
 あるがままに最強である彼は、獲物を横取りされたことに静かな殺意を燃やしている。

 ノクトとしてもこれは極めて不味い状況だ。
 蛇が本気で殺しに来たら、ノクトにはどうすることも出来ない。
 しかし此処で無様に慌てふためく愚物なら、この男はああも恐れられてはいない。

「まぁ実際、あんたなら現状の戦力だけでどうとでも出来るんだろうが。それでも不確定要素は減らしておきたくないか?」
「と、言うと?」
「琴峯ナシロのサーヴァントだ。蝿の眷属を連れた、馬鹿げた出力と威圧スキル持ちの英霊となれば真名の検討は付く。
 蝿の王ベルゼブブ。それにしちゃ弱すぎるが、かと言って所謂"無辜の怪物"とか、そんな簡単なオチで済ませる気にはなれねえ。
 同意見なんじゃねえか、蛇の旦那よ。だからあんたも食わずに放り捨てたんだろ」

 ノクトの見立ては正しかった。
 蛇は先の交戦で、宿り蝿のベルゼブブにだけは妙な反応を示している。
 英霊さえ退屈そうに薙ぎ払う傍若無人の蛇王が見せた、困惑にも似た反応。
 それはつまり、琴峯ナシロのサーヴァントが何らかの異常存在であることの証左だ。
 誰よりも魂のカタチを熟知した人喰いのモンスターが、的外れな杞憂など抱く筈もないのだから。

「心配せずとも、使い終わったらちゃんと献上するさ。
 何だったらその旨、書面で契約しておくか?」
「遠慮しておくよ。さしもの僕も、君と取引するのは具合が悪くなる」

 蛇の不興を順序立てた説明で説き伏せ、ひらりと死線の外に出る。

「いいだろう。ただしその子は僕のデザートだ、くれぐれも丁重に扱うようにね」
「はいよ。ま、ガキのお守りも初めてじゃないんでね。紳士的にこなさせていただきますよっと」

 ――まったく、力のある異常者ってのは厄介なもんだぜ。

 ノクトは心の中で毒を吐き、改めて現状を振り返る。
 神寂縁は確かに有用な暴力装置だが、彼にはこの蛇腔戦線で斃れて貰わねばならない。
 蛇の真髄は圧倒的な武力。さりとて、その図抜けた狡猾さも果てしなく危険である。
 彼が自分を用済みと判断したなら、待っているのはとんでもない地獄絵図だ。
 そうなる前に、狂った殺人犯には御退場願いたい。だからわざわざもうひとりの狂人を手引きしたのだが、はてさてどうなることやら。

「そういうわけだ。てきぱき働いて貰うぜ、嬢ちゃん」
「……、……」

 ナシロは無言のまま睨み付けてくる。
 本当なら精神ごと骨抜きにするのが手っ取り早いのだが、彼女は蛇の予約商品。いつもの人形のようには扱えないのがもどかしい。
 とはいえノクトとしても、まだ彼女に壊れられては困る。
 壊すにしても最適のタイミングで、最上のメリットを齎す形でなければ、死にかけながら勝ち取った甲斐がないというものだ。

「それに、お前には聞きたいこともあるんでな――」

 蛇は強大だ。
 まともに対抗しようと思うなら、祓葉のような出鱈目を連れてこなければ話にもなるまい。

 では、この閉ざされた蛇腔でどうやって蛇殺しを為すのか。
 ノクトはそれを、とにかくありったけの不確定要素を集中させることだと踏んでいた。
 強く傲慢な絶対者の想定を崩す蟻のひと噛みをかき集めて矢継ぎ早にぶつけ、堅牢な鎧を削り落とす。
 だからこそ当然、彼の弾く算盤の中には、今しがた触れた"彼女"の存在も含まれる。

 アサシン・ベルゼブブ。
 幼くて奔放な少女の殻の中には、一体どんな可能性(なかみ)が詰まっているのか。
 蝿の王が秘めたる深遠の闇は、蛇の牙城を突き崩す災厄を生み出してくれるのか。

 〈夜の虎〉は非情にして合理的だ。
 最大の利益を追求する為なら、一切の手段を選ばない。



◇◇



 高乃河二は、聡明な少年だ。
 薄れゆく意識が徐々に鮮明化していく過程で既に、自分が致命的な失敗を冒したことに気付いた。

 分かっていた筈だ。琴峯ナシロという少女が、どういう人間なのか。
 傷付いた誰かを見捨てられない。隣人の痛みを、我が事のように受け止めて胸を痛められる、彼女はそんな人間で。
 だからこそ自分はその人間性を、好ましく思う、と形容したのではなかったかと。
 悪魔に魂を捧げて己を救う姿を見ながら思い出して、舌を噛み切りたいほどの悔しさに震えた。

 握った拳は、研ぎ澄ました復讐は、しかし仇の命脈を断つことなく。
 挙句の果て、大切な友人に死よりも悍ましい献身を強いてしまった。
 これを"敗北"と呼ばずして何と呼ぶのか。
 情けなさでどうにかなりそうだったが、それでも彼はやはり、非凡なものを持っていたのだろう。

「いい決断だった。ギリギリ、首の皮一枚繋がったな」
「……それは、皮肉だろうか」
「気持ちは分かるが落ち着きな。お前は正しいことをしたんだ。今はその賢明に胸を張れ」

 今すぐにでもナシロに手を伸ばし、こちらへ引き戻したい衝動を堪えて令呪を起動した。
 エパメイノンダスの言う通り、その判断のおかげで彼らはなんとか命を繋げた形だ。

 不敗を誇った将軍も、今や見るも無残な満身創痍。
 胸に走った袈裟がけの裂傷は深く、霊核に達することこそ免れたものの、甚大な損傷である。
 だが何より大きいのは、彼の神話が崩れ去ったひとつの事実。
 蛇の悪意は、テーバイの美しき神聖叙事詩を踏み躙ったのだ。

 ナシロ達との会談でのような、小粋に受け入れた敗北ではない。
 圧倒的な力に磨り潰され、そうして呑まされた敗北。
 もはや不敗の英傑は何処にも不在(おら)ず。此処にいるのは河二と同じ、失意を抱えた敗残者。

「――ランサー。僕は」

 河二は、腕を動かす。
 義肢は問題なく動いた。
 染み付いた呼吸法も滞りなく行えている。
 腹の傷は今もぐちぐちと、蛆の蠢動に似た音を立てながら修復され続けている。
 どう考えても無茶苦茶な回復速度だ。大方いずれ然るべき"揺り戻し"が来るのだろうが、今は気にしようとも思えない。

「僕は、悔しい」

 ただ、悔しかった。
 無念でならなかった。
 こんなにも痛恨の黒星は生まれてこの方初めてだった。
 いや、二度目か。父を亡くしたあの日も、こんな気分だった気がする。
 けれど、それでも、己の弱さで大事なものを取り零した痛みは……"慣れ"なんて簡単な言葉でやり過ごせるものではなく。

「悪い奴ばかりが笑っている。善い人ばかりが泣いている。この都市〈セカイ〉に来てから、ずっとそうだ」

 何故、善い人が幸せになれないのだろう。
 何故、悪い人ばかり勝ち誇るのだろう。
 どうして自分には、その不条理を覆す力がないのだろう。

「力が欲しい。この糞ったれな現実を打ち破る、そんな輝きが欲しくて堪らない」

 河二は嘆いていたし、それ以上に怒っていた。
 蛇に。ノクト・サムスタンプに。そして何より弱く情けない己自身に。

「もう二度と、何も失いたくないんだ」

 皆で囲んだ、あの夕食の席を思い出す。
 思えばあれこそ、自分が望む平穏の形だった気がする。
 在りし日、家族皆で食卓を共にしていた頃のような。
 ただただ愉快で牧歌的で、思わず笑ってしまいそうな、そんな幸せの理想像。

「勝ちたい」

 どうして、そんなささやかな望みすら、この世界は永遠にしてくれないのだろう。
 変わらないものなどないと理解はしている。されども河二は所詮十七歳の子どもだから、そこに理不尽を覚えずいられない。

「蛇を倒して、あの人を助けたい。身の程知らずでも、無謀でも、器じゃなくても、それでも。僕は、すべての願いを果たしたい」

 滂沱の如く溢れ出した欲望に、エパメイノンダスは黙って頷いた。
 ごつごつとした手が、河二の震える肩へ力強く触れる。

「ああ。俺も同じ気持ちだ。ガキみたいなこと言う歳でもねえと思ってたんだが、殊の外に堪えてるよ。"負ける"ってのは、腹が立つもんだな」

 ノクト・サムスタンプの企てが、河二達が蛇の殺戮の轍になる未来を破却した。
 彼らはまだ生きている。その胸の灯火は再点火され、二度と消えない熱と光を放っている。
 敗北とは薪木で、怒りとは油だ。ならば屈辱の黒星を刻まれた一人と一騎が、かつてなく燃え上がるのは当然の道理。

 善因善果、悪因悪果――善い人が報われて、悪い人が罰される世界であってほしい。
 そんな祈りさえ、今となってはただの綺麗事だ。
 よって捨て去る。挫折を知った復讐者の少年は、もっと直接的な欲望を胸に拳を握り直した。

 ただ、勝ちたい。二度と敗けたくない。
 大切なものを、もう絶対に取り零したくないと。
 全体のためでなく、己のための祈りで、道士の主従は再起動する。

「まだ、立てるか」
「当然」
「なら――ついてこれるか?」
「無論」

 涙を流している余裕はない。
 何分、この戦争は時間制限付きだ。
 悠長にやっていたら、いずれ蛇は本当に総てを喰らい尽くしてしまう。

 よって此処から第二ラウンド、待ったなし。

「――――貴方の方こそ、ついてこい」
「ハッ、その意気だ。ンじゃあ負け犬同士、魅せに行こうか!」

 希望の火はまだ消えていない。
 琴峯ナシロが蛇へ放った、悪あがきのような『杖』の一射。
 それが攻撃ではなく、真の持ち主への信号弾の意味だったことに、蛇達は気付いていない筈だ。
 だって彼らは、ナシロが"その男"と交わしていた契約を知らないのだから。

「待っててくれ。琴峯さん――いや。ナシロ」

 蹂躙の時はもはやこれまで。

「お互い様だって言ったからな。助けてもらったんだ、助けてみせる」

 さあ、反撃の狼煙をあげろ。



◇◇



【月光夢幻神界〈渋谷〉・西部(裏路地)/二日目・早朝】

【高乃河二】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(小)、月の精神汚染(小)、右脇腹に重度の損傷(急速回復中)
[令呪]:残り二画
[装備]:『胎息木腕』
[道具]:なし
[所持金]:それなり(故郷からの仕送りという形でそれなりの軍資金がある)
[思考・状況]
基本方針:勝つ。何故? ――もう何一つ失わないために。
1:蛇とノクト・サムスタンプを討ち、ナシロを助ける。
2:蛇は人間だ。ならば倒せる。必ず。
[備考]
※ロールとして『山梨からやってきた転校生』を与えられており、少なくとも琴峯ナシロとは同級生のようです。
※雪村鉄志から『赤坂亜切』、『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報と推論を共有されています。
※レミュリンから『イリス』に関する情報を得ました。
※レミュリンと"蛇杖堂絵里"の連絡先を得ました。
※レミュリンによる連絡を受け、蛇の本名を知りました。
※致命傷を負いましたが、ノクトによる薬物(蛇杖堂寂句の遺品)を投与されて復活しました。何らかの副作用がある可能性があります。

【ランサー(エパメイノンダス)】
[状態]:疲労(大)、胸に裂傷(大)、全身にダメージや傷、多数の銃創
[装備]:槍と盾
[道具]:革ジャン
[所持金]:なし(彼が好んだピタゴラス教団の教義では財産を私有せず共有する)
[思考・状況]
基本方針:マスターを導く。
0:あぁ、敗けるってのは悔しいな。最高の気分だ。
1:蛇を滅ぼす。あの男は、存在してはならない害悪だ。
2:――カドモス王。聞きしに勝る……いや……。
[備考]
※カドモスの存在を確信しました。杉並のテーバイ化にも気付いているようです。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・西部/二日目・早朝】

【神寂縁】
[状態]:〈蛇杖堂絵里〉、固有結界解放
[令呪]:残り3画
[装備]:様々(偽る身分による)
[道具]:様々(偽る身分による)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:この聖杯戦争を堪能する。
0:都市の全員を殺し、〈蛇〉を知る者を消し去る。
1:次はどうしたものか。
2:レミュリンを喰う。
3:君も来るんだろう、雪村くん。
4:アルマナちゃんとランサー(アンタレス)は高得点。
5:アサシン(ベルゼブブ)は……ふむ。
[備考]
※奪った身分を演じる際、無意識のうちに、認識阻害の魔術に近い能力を行使していることが確認されました。
 とはいえ本来であれは察知も対策も困難です。

※神寂縁の化けの皮として、個人輸入代行業者、サーペントトレード有限会社社長・水池魅鳥(みずち・みどり)が追加されました。
 裏社会ではカネ次第で銃器や麻薬、魔術関連の品々などなんでも用意する調達屋として知られています。

※楪依里朱について基本的な情報(名前、顔写真、高校名、住所等)を入手しました。
 蛇杖堂寂句との間には、蛇杖堂一族に属する静寂暁美として、緊急連絡が可能なホットラインが結ばれています。

※赤坂亜切の存在を知ったため、広域指定暴力団烈帛會理事長『山本帝一』の顔を予選段階で捨てています。
 山本帝一は赤坂亜切に依頼を行ったことがあるようです。
  →赤坂亜切に『スタール一家』の殺害を依頼したようです。

※神寂縁の化けの皮として、マスター・蛇杖堂絵里(じゃじょうどう・えり)が追加されました。
 雪村鉄志の娘・絵里の魂を用いており、外見は雪村絵里が成人した頃の姿かたちです。
 設定:偶然〈古びた懐中時計〉を手にし、この都市に迷い込んだ非業の人。二十歳。
    幸は薄く、しかし人並みの善性を忘れない。特定の願いよりも自分と、できるだけ多くの命の生存を選ぶ。
    懐中時計により開花した魔術は……身体強化。四肢を柔軟に撓らせ、それそのものを武器として戦う。
    蛇杖堂家の子であるが、その宿命を嫌った両親により市井に逃され、そのまま育った。ぜんぶ嘘ですけど。

→蛇杖堂絵里としての立ち回り方針は以下の通り。
 ・蝗害を追う集団に潜入し楪依里朱に行き着くならそれの捕食。
  →これについては一旦アーチャーに任せる方針のようですが、詳細な指示は後続の書き手にお任せします。
 ・救済機構に行き着くならそれの破壊。
 ・更に隙があれば集団内の捕食対象(現在はレミュリン・ウェルブレイシス・スタールと琴峯ナシロ)を飲み込む。

※蛇の体内は異界化しています。彼はそこに数多の通信端末を呑み込み、体内で操作しつつ都度生成した疑似声帯を用いて通話することで『どこにでもいる』状態を成立させているようです。
 この方法で発した声、および体内の音声は外に漏れません。

※スタール家の〈燃焼時計〉計画にジェームズ・アルトライズ・スタールとして関与していました。
 蛇の最終目的は完成した〈燃焼時計〉で根源に到達、時を操る真理を得ることです。


【ノクト・サムスタンプ】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ(大)、魔力消費(中)、魔術の出力向上中、複数の打撲傷(処置済)、右腕欠損、恋
[令呪]:残り二画
[装備]:『胎息木腕(右腕分のみ。古いもの)』
[道具]:、蛇杖堂邸で回収した幾らかの道具
[所持金]:莫大。少なくとも生活に困ることはない
[思考・状況]
基本方針:聖杯を取り、祓葉を我が物とする
0:神寂縁を中心とする抗争に介入する。目指す結末は関わった全員の共倒れ。
1:神寂縁に協力しつつ、奴が"追われる者達"と相討つように仕向けたい。そのために、蛇の計算を崩す不確定要素を蒐集する。
2:琴峯ナシロとそのサーヴァント(ベルゼブブ)を利用。特にベルゼブブの可能性には期待している。
3:煌星満天の能力の成長に期待。うまく行けば蛇杖堂寂句や神寂祓葉を出し抜ける可能性がある。
4:満天の悪魔化の詳細が分からない以上、急成長を促すのは危険と判断。まっとうなやり方でサポートするのが今は一番利口、か。
5:とはいえそれも満天が完成するまでだ。見通しが立ったなら、詐欺師野郎(ファウスト)はもう要らねえ。
6:何か違和感がある。何かを見落としている。
7:〈脱出王〉の危険度を格上げ。早急に排除しなければならない敵と認定。
8:祓葉。お前にも、まだ先があるんだろう?
9:渋谷の神は現状他人に任せる。アレは多分俺と相性が悪い。
[備考]
※東京中に使い魔を放っている他、一般人を契約魔術と暗示で無意識の協力者として独自の情報ネットワークを形成しています。
※東京中のテレビ局のトップ陣を支配下に置いています。主に報道関係を支配しつつあります。
※煌星満天&ファウストの主従と協力体制を築き、ロミオを貸し出しました。
※蛇杖堂寂句から赤坂亜切・楪依里朱について彼が知る限りの情報を受け取りました。
※神寂縁から雪村鉄志、琴峯ナシロ、高乃河二、赤坂亜切の現在の動向について連絡を受けました。
※蛇杖堂邸で高乃家の礼装『胎息木腕』を回収しました。これが高乃河二の装備している物と同じ性能かどうかはおまかせします。
※山越風夏のサーヴァントの真名が「ハリー・フーディーニ」であろうことをうっすら察しました。
※ファウストから蝗害調査のデータファイルを受け取りました。中身は確認済みです。
※琴峯ナシロと契約を交わしました。
 ・高乃河二を救命する対価として、琴峯ナシロとサーヴァントの身柄を預かる。
 ・両者の指揮命令権もノクト・サムスタンプが持つものとする。
※月の御遣いと契約を交わしました。これにより、蛇腔及びFWが維持されている限り、ノクトは結界内の月勢力から攻撃を受けません。


【琴峯ナシロ】
[状態]:疲労(大)、月の精神汚染(中)、魔力消費(中)、複数箇所に切り傷、ノクト・サムスタンプへの隷属
[令呪]:残り一画
[装備]:『杖』(3本)
[道具]:修道服、ロザリオ
[所持金]:あまり余裕はない
[思考・状況]
基本方針:教会と信者と自分を守る。
0:ごめんな、河二。我慢できなかったよ。
[備考]
※少なくとも高乃河二とは同級生のようです。
※琴峯教会は現在、白鷺教会から派遣されたシスターに代理を任せています。
※雪村鉄志から『赤坂亜切』、『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報と推論を共有されています。
※ナシロの両親は聖堂教会の代行者です。雪村鉄志との会話によってそれを知りました。
※レミュリンから『イリス』に関する情報を得ました。
※レミュリンと"蛇杖堂絵里"の連絡先を得ました。
※ナシロの投影魔術は一般的なものと性質が異なるようです。
 黒鍵を原型とし、解析で読み取った属性をそこに混ぜ込むことができます。まだ先があるかもしれませんが、詳細は後にお任せします。
※レミュリンによる連絡を受け、蛇の本名を知りました。
※ノクト・サムスタンプと契約を交わしました。
 ・高乃河二を救命する対価として、自身とサーヴァントの身柄をノクト・サムスタンプへ委ねる。
 ・両者の指揮命令権もノクト・サムスタンプが持つものとする。
※雪村鉄志の信号弾を使用しました。


【アサシン(ベルゼブブ/Tachinidae)】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(大)、脇腹に刀傷、各所に弾丸の擦り傷、ノスタルジー、気絶
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手に入れ本物の蝿王様になる!
0:…………。
1:ナシロさんが聖杯戦争にちょっと積極的になってくれて割とうれしい。
2:あんなチビっこ神霊には負けませんけど!眷属を手に入れた今の私にとってもはや相手にもなりませんけど!!
3:ウワーッ!!! せっかく作った眷属がほぼ死んだ!!!!!
4:ナシロさん、もっと頼ってくれていいんですよ。
5:守りたいもの……かぁ。
[備考]
※渋谷区の公園に残された飛蝗の死骸にスキル(産卵行動)及び宝具(Lord of the Flies)を行使しました。
 少数ですが眷属を作り出すことに成功しています。 
※代々木公園での戦闘で眷属はほぼ全滅しました。今残っているのは離脱用に残しておいた一体だけです。
※"蠅の王"の力の片鱗を引き出しました。どの程度操れるのか、今後どのような影響を齎すのかは不明です。
 →渋谷の変貌を感じ取り、説明できない懐かしさを抱いています。



【月光夢幻神界〈渋谷〉・???(逃走中)/二日目・早朝】

【悪国征蹂郎】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、出血(大)、全身に軽度の火傷、頭部と両腕にダメージ(応急処置済み)、右腕損壊(大)、腹部に銃創、〈喚戦〉、ランサー(アンタレス)と再契約、月の精神汚染(中)
[令呪]:残り一画
[装備]:レッドライダー製の極薄ガントレット(左腕のみ)
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度。カード派。
[思考・状況]
基本方針:刀凶聯合という自分の居場所を守る。
0:生きる。死んだ皆と、まだ生きている仲間のために。
1:蛇に対する最大限の警戒。
2:アルマナは仲間だ。仲間が死ぬなと言うのなら、オレだけ一抜けはできない。
3:ノクト・サムスタンプは討つ。やはり、あの男は危険すぎる。
[備考]
 異国で行った暗殺者としての最終試験の際に、アルマナ・ラフィーと遭遇しています。
 聯合がアジトにしているビルは複数あり、今いるのはそのひとつに過ぎません。
 養成所時代に、傭兵としてのノクト・サムスタンプの評判の一端を聞いています。
 六本木でのレッドライダーVS祓葉・アンジェ組について記録した映像を所持しています。
 アルマナから偵察の結果と、現在の覚明ゲンジについて聞きました。
 千代田区内の聯合構成員に撤退命令を出しています。
 ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)と再契約しました。
 警官隊殺害・及び暴動主導の容疑で公開指名手配されています。

【ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)】
[状態]:疲労(大)、胴体に裂傷、全身にダメージ(大)、甲冑破損、無念と決意、寂句の令呪『神の箱庭を終わらせ、真の〈神殺し〉を成し遂げてみせよ』及び令呪による一時的な強化、悪国征蹂郎と再契約
[装備]:赤い槍
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉を刺してヒトより上の段階に放逐する。
0:マスター・ジャックの遺命を果たす。たとえこの身が擦り切れようとも。
1:蛇から撤退しつつ、バーサーカー(ロミオ)に対処する。本当何なんですかこの男は
2:神寂縁は粛清対象。
[備考]
※マスターを喪失しました。令呪の強化を受けていますが、このままでは半日は保たないでしょう。
 →悪国征蹂郎と再契約しました。


【アルマナ・ラフィー】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(大)、動揺(少し落ち着いてきた)、蛇への本能的恐怖、月の精神汚染(大)
[令呪]:残り一画
[装備]:
[道具]:なし
[所持金]:7千円程度(日本における両親からのお小遣い)。
[思考・状況]
基本方針:王さまの命令に従って戦う。
0:アグニさんには死んでほしくない。アルマナは、どうしてこうなってしまったのだろう。
1:もう、足は止めない。王さまの言う通りに。
2:傭兵(ノクト)に対して不信感。
[備考]
※覚明ゲンジを目視、マスターとして認識しています。
※故郷を襲った内戦のさなかに、悪国征蹂郎と遭遇しています。
※新宿区を偵察、情報収集を行いました。
※デュラハン側の陣形配置など、最新の情報を持ち帰っています。
※カドモスに渡されたスパルトイは全滅しました。

【ランサー(カドモス)】
[状態]:疲労(中)、月の精神汚染(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:いつかの悲劇に終焉を。
1:蛇から撤退しつつ、バーサーカー(ロミオ)に対処する。
2:神寂縁と傭兵(ノクト)に対して警戒。
[備考]
※本体は拠点である杉並区・地下青銅洞窟に存在しています。
 →青銅空間は発生地点の杉並区地下から仮想都市東京を徐々に侵略し、現在は杉並区全域を支配下に置いています。
  放っておけば他の区にまで広がっていくでしょう。
※カドモスの宝具『我が撒かれし肇国、青銅の七門(スパルトイ・ブロンズ・テーベ)』の影響下に置かれた地域は、世界の修正力を相殺することで、運営側(オルフィレウス)からの状況の把握を免れています。


【バーサーカー(ロミオ)】
[状態]:恋、超絶大激怒、全身にダメージ(大)、複数の刺傷痕、行動に一切の支障なし
[装備]:無銘・レイピア
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:ジュリエット! 嗚呼、ジュリエット!!
0:――よくも、僕の恋路を邪魔立てしたな。
1:下郎共(カドモス一行)を追跡して処刑する。
2:神寂縁は僕とジュリエットの世界に存在してはならない汚物。後に、然るべく駆除する。
[備考]
 現在、煌星満天を『ジュリエット』として認識しています。
 ファウストと契約を結んでいます。


[全体備考]
※琴峯ナシロにより、信号弾が発射されました。雪村鉄志がこれを見ていたかどうかは後続に委ねます。


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最終更新:2026年05月26日 23:48