テノリライオン
The Way Home 第13話 あまたの風よ
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匿名ユーザー
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シュ・メーヨ海を渡る風に恵みはない。
遥か北より生まれ出ては黒い海面を滑り、クフィム島の絶壁に怒涛の荒波を叩きつけ、そのまま雪を纏うと不毛の雪原を這いずる者達の身を切り駆け抜け飛び越える。
再び海に降り、南へ駆ける。 多少気温が上がり勢いが殺がれても、その進撃は止まらない。
すると正面に細く高い壁が迫る。 風は最後の力でその壁を駆け上がる。
辿り着いたのはジュノ下層と呼ばれる場所。 かつては雪を従え泉を凍らせたその風も、そこに集いひしめく冒険者達の渦巻く熱気を拭う事は叶わない。
そして北風は、競売所の上に立つ7人の人影を足掻くようになぶると、その後ろの壁で砕けて消えた。
* * *
ウィンダスからジュノへと戻る、飛空挺の中。
デルクフの地下へ赴く冒険者を募る為に出されたクエストの交付書を囲み相談する、彼ら一行の姿があった。
「やっぱり人が多いのは下層でしょう。 競売所の所がいい」
ルードが代表して、彼らの今後の行動をまとめていく。
「あの上から協力を呼びかけましょう。 主には俺とイーゴリさんがやります。 で、協力者があれば一斉に俺らの所に来るだろうから・・・手分けして、まずは職種ごとに管理するのでどうでしょう」
そこで一旦言葉を切って、ルードはぐるりと仲間を見渡した。 頭の中で何かを整理しているらしく、その視線が六つの顔の間をせわしなく飛び回る。 小さな暗黒騎士の言葉をじっと待つ彼ら。
「・・・前衛系で、戦士、ナイト、モンク、侍、忍者はイーゴリさんとドリーさん。 回復系、白魔道士と吟遊詩人はフォーレ。 ヴォルフさんが魔法アタッカー系で、黒魔道士、赤魔道士、召還士。 で、俺はその他をまとめて全部受け持ちます。 それで最終的に、その人達をパーティーに組み分けましょう」
「・・・え、私とバルトは?」
ルカが首をかしげると、ルードはからかうように言った。
「ルカさんはあれがあるでしょう。 ほら、予習復習?」
「あうっ」
反論できないのと申し訳ないので、ぐっと詰まるルカ。
「バルトさんはさすがに色々な受付とか折衝は厳しいでしょうから、ルカさんの勉強に付くということで。 何かあったらその都度頼みます」
その言葉に頷くバルトの表情には、苦笑いの中に感謝が混じっていた。
「じゃ、とりあえずそんな感じで。 よろしくお願いしまっす」
ゲームのルールを説明し終えたかのように爽快に締め括るルードに、ふと気付いたようにドリーが訊いた。
「あれ、呼びかけの内容とか、誰が何を言うかとか・・・そういうのはいいの?」
「ん? そんなもんは」
ルードはにやりと嗤った。
「出たとこ勝負ですよ」
* * *
足元から活気に満ちた喧騒が吹き上がってくる。 遥か眼前の水平線からは冷たい潮風。
それらを正面から受け、イーゴリは競売所の上段で一歩を踏み出した。
少し控えてヴォルフ、その横にバルト。 バルトの斜め後ろにルカ、ルカに寄り添うドリー、ドリーに寄り添うフォーレ。 女性陣からは緊張の色が見て取れる。
眼下に広がる人の海を目を細めて見下ろすガルカの横に、黒いタルタルが進み出た。
ふっと二人の目が合う。 そして同時ににやっと笑うと、イーゴリはひょいとルードをその肩に担ぎ上げた。
不意に海からの風が途絶えた。
すると、絶えず流れる風に乱されていた二人の前の空気が、ふっと劇場のように鎮まり開ける。
時を置かず、イーゴリの胸が大気を吸って大きく盛り上がった。
「冒険者、諸君!!」
一拍の、間の後。
突如轟いた声に打たれ、勢い良く波が引くように、ざぁっと喧騒がしぼんでいった。
そして音の代わりに二人を襲う、無数の視線の束。
「しばしご静聴願う! 貴兄らは、本日ウィンダスより交付されたクエストをご存知だろうか」
さわ、と群集にさざ波が走る。 知っている、知らない、両方の声だろう。
「今、このヴァナ・ディールに、新たな危機が迫っている事が明らかになった。 我々はデルクフに於いてその発端に触れ、それにより星の神子にその排除を依頼されて、ここに居る」
様々な雑念を含んだ空気がそこかしこ、静かな中に蠢き始める。
それを打ち払うように、再度イーゴリの声が響いた。
「聞け、同胞よ! 此度新天地に赴こうとする我々人の子を食い荒らし殲滅せんとする無数の妖魔が、デルクフの地下に巣食った! いずれ遠からぬ日に、そやつらは地下より溢れて無差別に我等を襲いに来る!」
突拍子もない話に一斉に湧き上がる、疑問符、感嘆符。
イーゴリの肩の上ですっくと立ち上がるルードが、それらに負けじと声を張り上げる。
「俺達は見た! 星の神子も見た! あいつらは男神プロマシアの僕(しもべ)、楽園の扉とやらを見つけかねない俺らを、先手を打って潰しにきやがった! このまま奴らの望み通りに滅んでやる義理が、果たして俺達にあるか!?」
群集の中の雑音が、徐々に消えていく。 イーゴリが再度口を開いた。
「奴らの数は100近い。 しかも言った通り、近く動き始めるだろう。 多くの戦士が必要だが、正規の軍を動かすにはあまりに日にちが足りない。 そしてもう一つ」
イーゴリの頬に斜めに残る、黒い傷。
「我々は、一度その妖魔と剣を交えた。 その時に妖魔の鎌により負った傷は、今なお体から消えていない。 星の神子の力を以てしても癒せなかった―――今居る獣人やモンスターの常識から完全に外れる相手だ。 それを踏まえて、参加を考えてほしい」
「まだるっこしい国の兵士なんかに頼ってらんねぇんだ!」
イーゴリの警告にひるむ小さな声たちを叩き潰すかのように、拳を払ってルードが叫んだ。
「今こそ俺達冒険者の底力を見せる時だ! おめおめと駆逐される気のない諦めの悪い奴らは、俺達と一緒に来い! その胸糞悪い妖魔の前まで連れて行ってやる! 傷を受けるのが怖いなら、初撃で鎌をへし折れ! 人の身で、神の思惑を砕いてみせろ!!」
小さな暗黒騎士の、恐れを知らぬ若く瑞々しい獣のような声が、朗々と響いた。
「我こそはと思う者は、共にクエストを受けてもらいたい。 詳細は交付の通りだ。 どうか、その剣で、魔力で、このヴァナ・ディールを守ってほしい―――」
搾り出すような声で締めくくるとルードを床に下ろし、イーゴリは深く頭を垂れた。
しん・・・ と、困惑の色でジュノ下層が静まり返る。
祈るような思いで二人のアジテーションを見守っていたルカの耳に、右から何かが近付いて来る音が聞こえた。
見ると、ヒュームの男性が一人、競売横の階段を駆け上がってくる。
「おい、あんたたち―――」
その声に振り向く七人。 バルトとヴォルフ、そしてフォーレがはっとした顔になった。
「あ―――えっと、ガーランド、さん!?」
フォーレが彼の名前を思い出す。 彼は頷くと、矢継ぎ早に質問を始めた。
「今の話は本当なのか? デルクフに、魔物がいるのか? あんたらが関与してるってことは、もしかしてあいつが、ジルがあの白い壁に呑まれて消えたのも、その魔物のせいなのか?」
「―――恐らく、そうだと思われます」
ヴォルフが静かに答えると、彼の顔がみるみる怒りと決意の色に染まる。
そしてつかつかとバルトに歩み寄ると、がっしとその手を取り、言った。
「俺も参加する。 ジルの敵を取らせてくれ」
その光景を見た、冒険者達が。
正義感溢れる者が、好奇心旺盛な者が、力を持て余していた者が、はたまた彼らの友人達が。
ばらばらと、階段を昇ってきた―――
* * *
「ねぇねぇ、このピアスも可愛いくない?」
「ほんとだー、青いのがきれいだねぇ」
「何だ、盛り上がってるなぁ」
ドリーとフォーレ、そしてもう一人タルタルの女の子が、遠くそびえるジュノの塔を背に、草原に座って楽しげに雑談をしている。
そこを通りがかったイーゴリが、彼女らの笑顔につられて笑いながら声をかけた。
「あー師匠ほら見て見てー、リッツがね、アクセサリーいっぱい持ってるのよーぅ」
何やら冒険者の一人と、おしゃれ談義に花が咲いているようだ。
フォーレと同じ白魔道士らしい彼女は、微笑んでイーゴリにぺこりと頭を下げた。
「ねーリッツ、こっちのネックレスとかも見ていい?」
「ん、いいよー、それはねーラバオに行った時にね・・・」
呼びかけは、成功と言えた。
その日一日と翌日とで、相当数の協力者が彼らの元に名乗りを上げてきたのだ。
血気盛んな者、気のはやる者も多かったが、星の神子が用意するという、地下に潜る際に彼らと冒険者達を繋ぐ道具が揃うまでは待機していなくてはならない。
噂や口コミに乗って加速度的に膨れ上がる参加人数を街中で処理することが難しくなり、彼らは先に決めた職種ごとに、ジュノを出てすぐのロランベリー耕地、ソロムグ平原、バタリア丘陵にそれぞれ敷いた野営を拠点とした。
するとその頃には、手の空いた冒険者達が入れ替わり立ち代わり野営に顔を出し、ルードらが不在の間は新しく来る者への説明や仲間内での連絡を肩代わりしてくれるようになっていた。
そうして集い、出撃を待つ冒険者達。 その光景は図らずもちょっとしたキャンプ状態で、彼らの間には軽やかな連帯感と仲間意識が生まれ始めていた。
アクセサリーを囲んで弾けるように明るいお喋りに興じる小さなタルタル達を愛しげに眺め、「女の子だねぇ」と呟くイーゴリ。 ぶらぶらと歩いて簡素な門をくぐると耕地に出た。
山肌を辿りその先の橋を渡って、ソロムグ平原のキャンプに立ち寄る。
「うわー! またかよー!」
「へっへー、いっただきー」
こちらでも何やら楽しげな声。 見ればルードと数人のいかつい冒険者達が車座になり、カード賭博に興じていた。
シーフ、獣使い、竜騎士、暗黒騎士。 一癖も二癖もありそうな面々に、すっかり溶け込んでいる彼だ。
ある種見事な担当職種の人選に、くすりと笑うイーゴリ。
一時の休息。
嵐の前の静けさ。
それを何と呼ぼうが、神子のGOサインが出るまでの、恐らくは僅かな時を。
それぞれに憩い、味わう彼らだった―――
to be continued
遥か北より生まれ出ては黒い海面を滑り、クフィム島の絶壁に怒涛の荒波を叩きつけ、そのまま雪を纏うと不毛の雪原を這いずる者達の身を切り駆け抜け飛び越える。
再び海に降り、南へ駆ける。 多少気温が上がり勢いが殺がれても、その進撃は止まらない。
すると正面に細く高い壁が迫る。 風は最後の力でその壁を駆け上がる。
辿り着いたのはジュノ下層と呼ばれる場所。 かつては雪を従え泉を凍らせたその風も、そこに集いひしめく冒険者達の渦巻く熱気を拭う事は叶わない。
そして北風は、競売所の上に立つ7人の人影を足掻くようになぶると、その後ろの壁で砕けて消えた。
* * *
ウィンダスからジュノへと戻る、飛空挺の中。
デルクフの地下へ赴く冒険者を募る為に出されたクエストの交付書を囲み相談する、彼ら一行の姿があった。
「やっぱり人が多いのは下層でしょう。 競売所の所がいい」
ルードが代表して、彼らの今後の行動をまとめていく。
「あの上から協力を呼びかけましょう。 主には俺とイーゴリさんがやります。 で、協力者があれば一斉に俺らの所に来るだろうから・・・手分けして、まずは職種ごとに管理するのでどうでしょう」
そこで一旦言葉を切って、ルードはぐるりと仲間を見渡した。 頭の中で何かを整理しているらしく、その視線が六つの顔の間をせわしなく飛び回る。 小さな暗黒騎士の言葉をじっと待つ彼ら。
「・・・前衛系で、戦士、ナイト、モンク、侍、忍者はイーゴリさんとドリーさん。 回復系、白魔道士と吟遊詩人はフォーレ。 ヴォルフさんが魔法アタッカー系で、黒魔道士、赤魔道士、召還士。 で、俺はその他をまとめて全部受け持ちます。 それで最終的に、その人達をパーティーに組み分けましょう」
「・・・え、私とバルトは?」
ルカが首をかしげると、ルードはからかうように言った。
「ルカさんはあれがあるでしょう。 ほら、予習復習?」
「あうっ」
反論できないのと申し訳ないので、ぐっと詰まるルカ。
「バルトさんはさすがに色々な受付とか折衝は厳しいでしょうから、ルカさんの勉強に付くということで。 何かあったらその都度頼みます」
その言葉に頷くバルトの表情には、苦笑いの中に感謝が混じっていた。
「じゃ、とりあえずそんな感じで。 よろしくお願いしまっす」
ゲームのルールを説明し終えたかのように爽快に締め括るルードに、ふと気付いたようにドリーが訊いた。
「あれ、呼びかけの内容とか、誰が何を言うかとか・・・そういうのはいいの?」
「ん? そんなもんは」
ルードはにやりと嗤った。
「出たとこ勝負ですよ」
* * *
足元から活気に満ちた喧騒が吹き上がってくる。 遥か眼前の水平線からは冷たい潮風。
それらを正面から受け、イーゴリは競売所の上段で一歩を踏み出した。
少し控えてヴォルフ、その横にバルト。 バルトの斜め後ろにルカ、ルカに寄り添うドリー、ドリーに寄り添うフォーレ。 女性陣からは緊張の色が見て取れる。
眼下に広がる人の海を目を細めて見下ろすガルカの横に、黒いタルタルが進み出た。
ふっと二人の目が合う。 そして同時ににやっと笑うと、イーゴリはひょいとルードをその肩に担ぎ上げた。
不意に海からの風が途絶えた。
すると、絶えず流れる風に乱されていた二人の前の空気が、ふっと劇場のように鎮まり開ける。
時を置かず、イーゴリの胸が大気を吸って大きく盛り上がった。
「冒険者、諸君!!」
一拍の、間の後。
突如轟いた声に打たれ、勢い良く波が引くように、ざぁっと喧騒がしぼんでいった。
そして音の代わりに二人を襲う、無数の視線の束。
「しばしご静聴願う! 貴兄らは、本日ウィンダスより交付されたクエストをご存知だろうか」
さわ、と群集にさざ波が走る。 知っている、知らない、両方の声だろう。
「今、このヴァナ・ディールに、新たな危機が迫っている事が明らかになった。 我々はデルクフに於いてその発端に触れ、それにより星の神子にその排除を依頼されて、ここに居る」
様々な雑念を含んだ空気がそこかしこ、静かな中に蠢き始める。
それを打ち払うように、再度イーゴリの声が響いた。
「聞け、同胞よ! 此度新天地に赴こうとする我々人の子を食い荒らし殲滅せんとする無数の妖魔が、デルクフの地下に巣食った! いずれ遠からぬ日に、そやつらは地下より溢れて無差別に我等を襲いに来る!」
突拍子もない話に一斉に湧き上がる、疑問符、感嘆符。
イーゴリの肩の上ですっくと立ち上がるルードが、それらに負けじと声を張り上げる。
「俺達は見た! 星の神子も見た! あいつらは男神プロマシアの僕(しもべ)、楽園の扉とやらを見つけかねない俺らを、先手を打って潰しにきやがった! このまま奴らの望み通りに滅んでやる義理が、果たして俺達にあるか!?」
群集の中の雑音が、徐々に消えていく。 イーゴリが再度口を開いた。
「奴らの数は100近い。 しかも言った通り、近く動き始めるだろう。 多くの戦士が必要だが、正規の軍を動かすにはあまりに日にちが足りない。 そしてもう一つ」
イーゴリの頬に斜めに残る、黒い傷。
「我々は、一度その妖魔と剣を交えた。 その時に妖魔の鎌により負った傷は、今なお体から消えていない。 星の神子の力を以てしても癒せなかった―――今居る獣人やモンスターの常識から完全に外れる相手だ。 それを踏まえて、参加を考えてほしい」
「まだるっこしい国の兵士なんかに頼ってらんねぇんだ!」
イーゴリの警告にひるむ小さな声たちを叩き潰すかのように、拳を払ってルードが叫んだ。
「今こそ俺達冒険者の底力を見せる時だ! おめおめと駆逐される気のない諦めの悪い奴らは、俺達と一緒に来い! その胸糞悪い妖魔の前まで連れて行ってやる! 傷を受けるのが怖いなら、初撃で鎌をへし折れ! 人の身で、神の思惑を砕いてみせろ!!」
小さな暗黒騎士の、恐れを知らぬ若く瑞々しい獣のような声が、朗々と響いた。
「我こそはと思う者は、共にクエストを受けてもらいたい。 詳細は交付の通りだ。 どうか、その剣で、魔力で、このヴァナ・ディールを守ってほしい―――」
搾り出すような声で締めくくるとルードを床に下ろし、イーゴリは深く頭を垂れた。
しん・・・ と、困惑の色でジュノ下層が静まり返る。
祈るような思いで二人のアジテーションを見守っていたルカの耳に、右から何かが近付いて来る音が聞こえた。
見ると、ヒュームの男性が一人、競売横の階段を駆け上がってくる。
「おい、あんたたち―――」
その声に振り向く七人。 バルトとヴォルフ、そしてフォーレがはっとした顔になった。
「あ―――えっと、ガーランド、さん!?」
フォーレが彼の名前を思い出す。 彼は頷くと、矢継ぎ早に質問を始めた。
「今の話は本当なのか? デルクフに、魔物がいるのか? あんたらが関与してるってことは、もしかしてあいつが、ジルがあの白い壁に呑まれて消えたのも、その魔物のせいなのか?」
「―――恐らく、そうだと思われます」
ヴォルフが静かに答えると、彼の顔がみるみる怒りと決意の色に染まる。
そしてつかつかとバルトに歩み寄ると、がっしとその手を取り、言った。
「俺も参加する。 ジルの敵を取らせてくれ」
その光景を見た、冒険者達が。
正義感溢れる者が、好奇心旺盛な者が、力を持て余していた者が、はたまた彼らの友人達が。
ばらばらと、階段を昇ってきた―――
* * *
「ねぇねぇ、このピアスも可愛いくない?」
「ほんとだー、青いのがきれいだねぇ」
「何だ、盛り上がってるなぁ」
ドリーとフォーレ、そしてもう一人タルタルの女の子が、遠くそびえるジュノの塔を背に、草原に座って楽しげに雑談をしている。
そこを通りがかったイーゴリが、彼女らの笑顔につられて笑いながら声をかけた。
「あー師匠ほら見て見てー、リッツがね、アクセサリーいっぱい持ってるのよーぅ」
何やら冒険者の一人と、おしゃれ談義に花が咲いているようだ。
フォーレと同じ白魔道士らしい彼女は、微笑んでイーゴリにぺこりと頭を下げた。
「ねーリッツ、こっちのネックレスとかも見ていい?」
「ん、いいよー、それはねーラバオに行った時にね・・・」
呼びかけは、成功と言えた。
その日一日と翌日とで、相当数の協力者が彼らの元に名乗りを上げてきたのだ。
血気盛んな者、気のはやる者も多かったが、星の神子が用意するという、地下に潜る際に彼らと冒険者達を繋ぐ道具が揃うまでは待機していなくてはならない。
噂や口コミに乗って加速度的に膨れ上がる参加人数を街中で処理することが難しくなり、彼らは先に決めた職種ごとに、ジュノを出てすぐのロランベリー耕地、ソロムグ平原、バタリア丘陵にそれぞれ敷いた野営を拠点とした。
するとその頃には、手の空いた冒険者達が入れ替わり立ち代わり野営に顔を出し、ルードらが不在の間は新しく来る者への説明や仲間内での連絡を肩代わりしてくれるようになっていた。
そうして集い、出撃を待つ冒険者達。 その光景は図らずもちょっとしたキャンプ状態で、彼らの間には軽やかな連帯感と仲間意識が生まれ始めていた。
アクセサリーを囲んで弾けるように明るいお喋りに興じる小さなタルタル達を愛しげに眺め、「女の子だねぇ」と呟くイーゴリ。 ぶらぶらと歩いて簡素な門をくぐると耕地に出た。
山肌を辿りその先の橋を渡って、ソロムグ平原のキャンプに立ち寄る。
「うわー! またかよー!」
「へっへー、いっただきー」
こちらでも何やら楽しげな声。 見ればルードと数人のいかつい冒険者達が車座になり、カード賭博に興じていた。
シーフ、獣使い、竜騎士、暗黒騎士。 一癖も二癖もありそうな面々に、すっかり溶け込んでいる彼だ。
ある種見事な担当職種の人選に、くすりと笑うイーゴリ。
一時の休息。
嵐の前の静けさ。
それを何と呼ぼうが、神子のGOサインが出るまでの、恐らくは僅かな時を。
それぞれに憩い、味わう彼らだった―――
to be continued