テノリライオン
The Way Home 第15話 ドリー
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匿名ユーザー
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「・・・・・の面倒を見るっていう仕事も・・・・」
面倒って、誰の事よ・・・
「・・・・・こいつもまだまだ危なっかしい・・・・」
何が危ないのよ、失礼ね・・・
焚き火を前に青年と会話するイーゴリの背中にもたれ、とろとろとうたたねをしているドリー。
二人の会話と浅い夢とが境界線を失い、溶けて一つになっていく。
* * *
「もうねー、あんたの面倒なんか見てらんないのよ!!」
ウィンダスの街に入った門の前。
強烈にイラついた表情とセリフが、ドリーにぴしゃりと叩きつけられる。
「何よう、お姉ちゃんが転んだ時、間に立って時間稼いだじゃない」
「そもそもあんたがあんな強いクロウラーにケンカ売ったのが最初でしょ! だからあんたを連れてくと練習にならないんだわ・・・」
「うー・・・」
また怒られた。
ドリーは、先に立ってずんずん歩く、自分と同じ赤毛のタルタルの少女を力なく追う。
頭が良くて勇敢で、でも本当は優しい、大好きなお姉ちゃん。
いつもお姉ちゃんと一緒にいたい。 遊びに行くでも、勉強に行くでも。
でもそれが最近、ちょっと難しくなってきた。
だってヒマさえあれば町の外に出て、怖いモンスターのコウモリやクロウラーと戦おうとするから。
「もうちょっと大きい剣にした方がいいかしら・・・その前に、ちゃんとした鎧が欲しいかも・・・」
「お姉ちゃん、そんなお小遣いあるの?」
「うるさいわねー」
どうやらお姉ちゃんは、戦士の道ってやつに目覚めちゃったみたいで。
それまで持ってた本とか、かわいい洋服とかもみんな売ってお金にしちゃって、それで武器や防具を色々と買っている。
私ともあんまり遊んでくれなくなった。 すぐに一人で外に飛び出していっちゃう。
モンスターは危ないから心配だし、お姉ちゃんと離れてるのは嫌だから私もついていくんだけど、いっつもこうやって足手まといだーって怒られて終わるんだ。
「お母さーん、お姉ちゃんまた剣を買うとか言ってるよ・・・?」
「ほっときなさい。 言ったって聞きやしないんだから」
もうお姉ちゃんの部屋は、とても女の子のものとは思えないほど、武器や防具でいっぱいだ。
よく二人で遊んだおもちゃなんかも、すっかり隅っこに追いやられてる。
前みたいに、二人でピクニックに行ったりして遊びたいなぁ・・・
―――そんなふうになって、一年ぐらい過ぎた頃。
「ちょっとお姉ちゃん、本気なの? 出て行くって、どこに行くのよ!」
「すごく強い剣の師範がサンドリアの方にいるらしいの。 そこに弟子入りするわ」
「サンドリアって・・・どう行くの!? お金だって・・・ねぇ、何でそんなに剣ばっかりなのよ? 危ない目にあったらどうするの? もっと他にも・・・裁縫ギルドに入りたいとか、色々あったでしょ! それを―――」
お姉ちゃんは、見下すような憐れむような目を肩越しに私に投げかけただけで、ふいと荷物をかついで部屋を出て行った。
お母さんは何も言わない。
「お姉ちゃん!」
転がるように家を飛び出し、私はお姉ちゃんを追いかける。
「修行ならウィンダスでだってできるじゃない! 何でわざわざ・・・行っちゃうの!?」
「そんなんじゃ温いわ」
追いすがる私を振り返りも足を止めもせず、低い声でお姉ちゃんは言った。
「私は強くなりたいの。 どんな敵でも、どんな相手でも、足元に捻じ伏せたいのよ。 だって気持ちいいもの。 本気で強くなる為には、こんな国じゃだめだわ。 あんたみたいな、危なっかしい子の相手もしてられない。 弱い者は、それなりのシケた生活をしてればいいのよ」
そんな・・・お姉ちゃん・・・。
違うよ、違うよ。 強い人って、そういう人のこと?
胸の中に次々溢れる思いは、あまりに多すぎて大きすぎて。
ただ暴れ回るばかりで、一つも言葉になってくれない。
「偉そうに言うなら、私より強くなってごらん。 剣以外の事は、今の私にはどうでもいいんだから」
鼻で笑いながら、初めてお姉ちゃんが私を振り向いた。 その笑い顔は、すごく―――冷たい。
胃の辺りがぎゅうっと痛くなって、何か思うより先に私の目から大きな涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
ああ、その笑顔で、何をしようとしてるの。 どこへ行こうとしてるの―――
「じゃね」
くるりと向き直ってサルタバルタへの門に向かうお姉ちゃん。 足が動かない。
「・・・なる」
お姉ちゃん。
「なるよ! 強くなる!! 強くなって、お姉ちゃんを―――止めてみせるから!!」
消えちゃう。 お姉ちゃん。
「だから、それまで」
見えなくなった。 涙で門も見えない。 もう届かない。
「元気で・・・」
お姉ちゃん。 大好き―――
* * *
「・・・おい。 もう昼寝じゃないぞ」
イーゴリの太い声と一緒に、寄りかかっている壁がゆさゆさと揺れた。
「ん・・・んあー」
その刺激に、嫌々目を開くドリー。 景色が少し滲んでいるのに気付き、ごしごしと目をこする。
「うわー、寝すぎたー・・・」
「ちゃんと部屋に戻って寝ろ。 起きたらまた来いよ」
「あいー・・・」
ごそごそと手探りで手元の大剣と盾を引き寄せる。
寝惚け眼にその二つが映ると、ドリーはふとその動きを止め、それらを抱きかかえるようにしてぼけーっと見つめた。
「ねぇ、ししょー」
「ん」
「私、強くなったかなー」
「あー? ・・・そうだな、前よりはな」
「それじゃわかんないのよねぇ・・・じゃあさー」
「何だね」
「神様を止められれば、お姉ちゃんも止められるよね・・・?」
「・・・わかんないのは君の方なので、頼むから寝てくれ」
「あいー・・・」
剣と盾を携えて、あくびをしながらぽてぽてとジュノの街に戻る、小さなタルタルのナイト。
夢の続きを見る為に、彼女は神に立ち向かう。
to be continued
面倒って、誰の事よ・・・
「・・・・・こいつもまだまだ危なっかしい・・・・」
何が危ないのよ、失礼ね・・・
焚き火を前に青年と会話するイーゴリの背中にもたれ、とろとろとうたたねをしているドリー。
二人の会話と浅い夢とが境界線を失い、溶けて一つになっていく。
* * *
「もうねー、あんたの面倒なんか見てらんないのよ!!」
ウィンダスの街に入った門の前。
強烈にイラついた表情とセリフが、ドリーにぴしゃりと叩きつけられる。
「何よう、お姉ちゃんが転んだ時、間に立って時間稼いだじゃない」
「そもそもあんたがあんな強いクロウラーにケンカ売ったのが最初でしょ! だからあんたを連れてくと練習にならないんだわ・・・」
「うー・・・」
また怒られた。
ドリーは、先に立ってずんずん歩く、自分と同じ赤毛のタルタルの少女を力なく追う。
頭が良くて勇敢で、でも本当は優しい、大好きなお姉ちゃん。
いつもお姉ちゃんと一緒にいたい。 遊びに行くでも、勉強に行くでも。
でもそれが最近、ちょっと難しくなってきた。
だってヒマさえあれば町の外に出て、怖いモンスターのコウモリやクロウラーと戦おうとするから。
「もうちょっと大きい剣にした方がいいかしら・・・その前に、ちゃんとした鎧が欲しいかも・・・」
「お姉ちゃん、そんなお小遣いあるの?」
「うるさいわねー」
どうやらお姉ちゃんは、戦士の道ってやつに目覚めちゃったみたいで。
それまで持ってた本とか、かわいい洋服とかもみんな売ってお金にしちゃって、それで武器や防具を色々と買っている。
私ともあんまり遊んでくれなくなった。 すぐに一人で外に飛び出していっちゃう。
モンスターは危ないから心配だし、お姉ちゃんと離れてるのは嫌だから私もついていくんだけど、いっつもこうやって足手まといだーって怒られて終わるんだ。
「お母さーん、お姉ちゃんまた剣を買うとか言ってるよ・・・?」
「ほっときなさい。 言ったって聞きやしないんだから」
もうお姉ちゃんの部屋は、とても女の子のものとは思えないほど、武器や防具でいっぱいだ。
よく二人で遊んだおもちゃなんかも、すっかり隅っこに追いやられてる。
前みたいに、二人でピクニックに行ったりして遊びたいなぁ・・・
―――そんなふうになって、一年ぐらい過ぎた頃。
「ちょっとお姉ちゃん、本気なの? 出て行くって、どこに行くのよ!」
「すごく強い剣の師範がサンドリアの方にいるらしいの。 そこに弟子入りするわ」
「サンドリアって・・・どう行くの!? お金だって・・・ねぇ、何でそんなに剣ばっかりなのよ? 危ない目にあったらどうするの? もっと他にも・・・裁縫ギルドに入りたいとか、色々あったでしょ! それを―――」
お姉ちゃんは、見下すような憐れむような目を肩越しに私に投げかけただけで、ふいと荷物をかついで部屋を出て行った。
お母さんは何も言わない。
「お姉ちゃん!」
転がるように家を飛び出し、私はお姉ちゃんを追いかける。
「修行ならウィンダスでだってできるじゃない! 何でわざわざ・・・行っちゃうの!?」
「そんなんじゃ温いわ」
追いすがる私を振り返りも足を止めもせず、低い声でお姉ちゃんは言った。
「私は強くなりたいの。 どんな敵でも、どんな相手でも、足元に捻じ伏せたいのよ。 だって気持ちいいもの。 本気で強くなる為には、こんな国じゃだめだわ。 あんたみたいな、危なっかしい子の相手もしてられない。 弱い者は、それなりのシケた生活をしてればいいのよ」
そんな・・・お姉ちゃん・・・。
違うよ、違うよ。 強い人って、そういう人のこと?
胸の中に次々溢れる思いは、あまりに多すぎて大きすぎて。
ただ暴れ回るばかりで、一つも言葉になってくれない。
「偉そうに言うなら、私より強くなってごらん。 剣以外の事は、今の私にはどうでもいいんだから」
鼻で笑いながら、初めてお姉ちゃんが私を振り向いた。 その笑い顔は、すごく―――冷たい。
胃の辺りがぎゅうっと痛くなって、何か思うより先に私の目から大きな涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
ああ、その笑顔で、何をしようとしてるの。 どこへ行こうとしてるの―――
「じゃね」
くるりと向き直ってサルタバルタへの門に向かうお姉ちゃん。 足が動かない。
「・・・なる」
お姉ちゃん。
「なるよ! 強くなる!! 強くなって、お姉ちゃんを―――止めてみせるから!!」
消えちゃう。 お姉ちゃん。
「だから、それまで」
見えなくなった。 涙で門も見えない。 もう届かない。
「元気で・・・」
お姉ちゃん。 大好き―――
* * *
「・・・おい。 もう昼寝じゃないぞ」
イーゴリの太い声と一緒に、寄りかかっている壁がゆさゆさと揺れた。
「ん・・・んあー」
その刺激に、嫌々目を開くドリー。 景色が少し滲んでいるのに気付き、ごしごしと目をこする。
「うわー、寝すぎたー・・・」
「ちゃんと部屋に戻って寝ろ。 起きたらまた来いよ」
「あいー・・・」
ごそごそと手探りで手元の大剣と盾を引き寄せる。
寝惚け眼にその二つが映ると、ドリーはふとその動きを止め、それらを抱きかかえるようにしてぼけーっと見つめた。
「ねぇ、ししょー」
「ん」
「私、強くなったかなー」
「あー? ・・・そうだな、前よりはな」
「それじゃわかんないのよねぇ・・・じゃあさー」
「何だね」
「神様を止められれば、お姉ちゃんも止められるよね・・・?」
「・・・わかんないのは君の方なので、頼むから寝てくれ」
「あいー・・・」
剣と盾を携えて、あくびをしながらぽてぽてとジュノの街に戻る、小さなタルタルのナイト。
夢の続きを見る為に、彼女は神に立ち向かう。
to be continued