テノリライオン
守護者は踊る 5
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涼風のサルタバルタ。その波打つ草原での一角で、ガルカの戦士とタルタルのナイトが手合わせらしきものをしている。
熟練から来るのであろう軽快さのせいで、半ば戯れているようにも見える大きな影と小さな影。その様子はまるで仲睦まじい父娘 だ。
無論、種族が異なる彼らに血縁があるはずもない。しかし二人の殺気を欠いた剣戟には、信頼という名の絆が伺える。
そんな光景を、私は遙か上空からぼんやりと眺めていた。
あれが最後の二人だ。
ギデアスでケイン青年の行く手を阻んだのが、ガルカ。
同じくギデアスで、彼の剣から目標のヤグードを取り上げたのがタルタル。
その所行について、これから彼らそれぞれに問い質さなければならない。
……また手間をかけさせられるのだろう。
そんな予想に、私は小さな溜息をついた。
二人同時に相手をするのは厄介だなどという思いは、もはや何処かへ落としてきてしまった。一人だろうが二人だろうが、あの連中相手に手を焼く事に変わりはないのだ。それを嫌と云う程思い知らされた。
私は己が姿を見下ろす。 炎を練り固めたような深紅色。その絶対性を示す熱波のゆらめきに包まれた鎧は、ヴァナ=ディールの世を平らげるべきマスターの証だ。
ああ、あれは何時だったろうか。獲物の所有権を巡って起きた、冒険者同士のいざこざの仲裁に赴いた事があった。
それはひどい有り様だった。話し合いとも云えないやりとりがこじれにこじれ、合わせて十人以上の屈強な冒険者達の間で一触即発の罵詈雑言が飛び交う。魔物と剣を交えるような気迫がぶつかり合い、しかし殺気の代わりに満ちるのは陰湿な舌鋒。
嫌味たっぷりに喋るエルヴァーンに、金切り声のヒュームが神経質に反論する。小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべるミスラをじっとりと睨みすえるガルカ、その視線におどおどと震えるタルタル。
が、そんな火のつきそうな状況の中に私が降り立つや否や、場の空気は無条件に一変した。
ある者は安堵の溜息を、ある者はすがるような視線を、ある者は諦めたような舌打ちを。
それぞれの気質に合わせ、十人十色に示された反応。それらはしかし、一つ残らず私――紅蓮の鎧を纏い降臨したマスター に、彼らの全てを委ね従うという無言の宣誓でもあった――
再度小さく溜息をつく。
権威主義を頼っているつもりなど毛頭無い。ましてやそれを民にも期待するなどは全くの傲慢というものである。
とは云え、大きな責務を果たしその職務を円滑に遂行しようとすれば、そこに民の協力が欠かせないのも事実なのだ。例えそれが、畏怖や恐れと呼ばれるものであっても――
故に、これは試練だ。
永く仕えてきた己が使命を今一度しっかりと心に刻み、より揺らがぬものにする為の。
甘えは許されない。面(おもて)を引き締め、私は広い草原へと降下を始める――
* * *
父娘のような二人はほぼ同時に、私の登場に気が付いた。
ガルカの構える戦斧とタルタルの振りかぶる長剣が申し合わせたようにぴたりと止まり、揃って首だけをぐるりとこちらに向ける。
ガルカの頬に黒い稲妻のような傷跡が見える。タルタルの少女の赤いお下げがぴょこんと揺れた。
そうして静止する二人の間を、ひゅうと鳴る風が吹き抜けた。
―― 失礼する。 少々尋ねたい事があって来た。
私は努めて重々しく、型通りの第一声を口にする。と。
驚きの表情から目覚めるように立ち直ったガルカは、無骨な手に握った戦斧を素早く腰に収めると、いたく温厚そうな笑顔を私に向け軽く会釈をしながらこう云った。
「……おお。これは、マスターではないですか、お勤めご苦労様です。何でしょう、我々に何かご用ですかな?」
その言葉を聞いた私は。
知らず、深く目を閉じていた。
そして――ああ、何という事であろうか。
全く不意打ちに注がれた甘露のようなこの言葉、この響き、例え偽りでも構わない――自制する間もなく、そう思ってしまっていた。
長い夏の中、待ち侘びたスコールを全身に浴びる草花はきっとこんな気持ちだろうか。
行く手を阻む厚い闇にいたぶられ続けた旅人に、曙の色はこのように映るのだろうか。
「……マスター?」
あの強気な母親と弱気な青年に端を発するこの件に携わってから初めて出会った、まともな対応だ。望ましい常識に裏打ちされた反応だ。
胸が震えている。こんな薄弱たる情感に甘んじるなど、マスターとしてあってはならぬ事――そう知りつつも、懐かしいような狂おしいようなこの思いに浴する事を止められない。
己で自覚していた以上に、私は倦み疲れていたのだろうか。たったの一言で私にそれを気付かせてしまったこのむくつけきガルカに、もはや愛しさすら感じている。
ああ、願わくばあまねく民が、この者のようであったなら――
「あの、マスター――」
……、いけない。
そのガルカが発したやや訝しげな声に、慌てて私は意識を引き戻した。脳裏を覆う薄桃色の霧を振り払う。ただの挨拶に対して、感動まがいに感じ入っている場合ではない。
―― 失礼した。少し交信をしていただけだ、気にせぬよう。
一人抱える気まずさから咄嗟に誤魔化してしまう、その言葉の途中で私は気付いた。
ガルカと並んで居たはずのタルタルの少女の、みるみる遠ざかる後ろ姿。町へと向かって脱兎の如く走る小さな背中が、視界に飛び込んできた。私は目を疑う。
馬鹿な――逃げるのか?
このヴァナ=ディール上で、『我々』の追跡から逃れ得る存在などありはしない。これは厳然たる事実だ。
逆に言うならば、それこそ草木の一本、虫の一匹に到るまで、この地に根を下ろすという事は即ち、我らマスターに死ぬまで存在を宣言し続けるという事と同義なのだ。
故に『我々』に、「逃げられる」という認識は無い。それはただ、その者が居場所をAからBへと変えたというだけに過ぎないのだ。
よもやそれを知らぬ訳があるまい。否、まさか知らないとでも云うのか。
借金取りから逃げるように、この場を脱しさえすれば行方をくらませられるとでも?
風のように走り去るタルタルの白い姿を追っていた視線を、しかし私は目前のガルカへと戻す。悠然と。
そう、逃げる事に意味がないのだから、追う事にも意味はないのだ。いつどこであろうと、再び彼女の前に降り立つ事は実に容易い。
一方のガルカは、逃げる気配も見せずにそこに立っている。遠ざかるタルタルの少女の気配を横目で追いつつ、困ったものだ――とでも言いたげな薄い苦笑いを浮かべていたが、すぐにそれを収めると彼は私に向き直って云った。
「すみませんね、どうも――ええと、私で判る事ですか?それともあいつに御用なら――」
―― いや、まずは貴殿に話を聴くとしよう。
ガルカの温厚な顔に、私はぴたりと視線を据える。ほだされてはならない。タルタルと揃って逃げる事をせず、まるで彼女と私との間に立ちはだかるようなその巨躯、そしてのんびり然とした受け答えは――足止め、だろうか。
小賢しい。そんな小細工は人間相手に止めておけばよいのだ。私は泰然として切り出す。
―― 二日前、貴殿はギデアスに居た。 相違無いか。
「ん――ええと。 一昨日、ですか」
私の質問に、ガルカは中空を見ながらゆっくりと呟く。程なくそこに自分の姿を見つけたように、ああ、と一つ頷くと、彼は視線を私の兜へと戻した。
「確かに行きました。さっきの奴と――ああ、ドリーと言うんですが――あいつに付き合わされまして。半日ほど居ましたかな」
それがどうかしましたか?と、硬そうな髪とあごひげに囲まれた彼の眼差しが尋ねていた。まるで岩のようにどっしりと落ち着いた雰囲気。それは、私と並んでも遜色のないガルカ族の巨躯に、先天的に備わるもののようにすら感じられる。
――そこで貴殿は、ヒュームの戦士の青年と会っているはずだ。その青年より、貴殿と思しきガルカから進路妨害を受けたという訴えが届いており、私はその調査の為に赴いたものである。心当たりがあれば、その時の状況を聞かせてもらいたい。
令状を読み上げるように淡々と告げる。その言葉の中程で、ガルカの頭脳は何かを思い出したようだった。体が大きいせいで小さく見える目が僅かに見開かれ――しかしその目はそのまま、何やら意地の悪い謎々でも示されたかのような戸惑いを帯びた。そしてこう尋ねた。
「進路妨害……と言っているのですか、彼は」
―― 正確にはそうではない。進路妨害というのは私が選んだ言葉だ。本人曰くは、貴殿が塞いでいた通路をどうしても通りたいと主張したが聞き入れられず、さりとて体格的に劣る彼は力ずくでそこを通る事も叶わず、不本意ながら違う道を模索することを余儀なくされた、という趣旨であった。
「ふぅむ……左様ですか……」
呟くようにそう云うと視線を落とし、うーんと唸りながらガルカはぼりぼりと頭をかいた。困ったな、というジェスチャーだ。
しかしその中でちらりと、ガルカはかすかに物問いたげにこちらを盗み見た。彼の思考の流れは自然で、故にその視線の意味する所は容易に私の手の内となる。
たったそれだけの事で、マスター直々のお出ましですか?――という疑問の色だろう。当然だ。この一件のみに注目するなら、マスターの裁定を要するような大事件では明らかにないのだから。
しかし、それを以てこの対話を拒まれる訳には行かない。ケイン青年の一連の訴えの中で、このガルカの行いが最も軽微だというだけなのだ。共犯関係を疑う以上、他の者と等しく聴取はさせてもらわなければならない。どこから尻尾を出すか判らないのだから。私は口を開く。
――無論、例えそれが事実であったとしても、即座に縄を打つなどという事は無い。しかし、詳細を述べる事は控えさせてもらうが、これは必要な調査なのだ。協力を願いたい。
「はあ、そりゃ一向に構いませんが――」
やや不得要領な表情で頷きながら、更にガルカが何か言おうとしたその時。ウィンダスの方角から砂埃を立てて近づいてくる白い影に私は気付いた。
つと視線を動かしてそちらを見る。私は再び目を疑った。全速力で走ってくるその小さな姿は、先程脱兎の如く遁走したあのタルタルのナイトではないか。
戻って来た……? 逃げ出したのではなかったのか。一体何を――
赤毛のタルタルは、去った時と同じ勢いで戻って来た。私の眼前で転がるようにブレーキをかける。全速力のダッシュを終始維持していたかの如き息切れに、小さな肩をせわしなく上下させている。
ガルカが、彼女が手にしている物体を見て呆れたような溜息をついた。お前なぁ、と呟く。
言葉を失っている私に向け、タルタルは紅潮した顔をがばと上げると、その物体を突き付けるように差し出して一言叫んだ。
「サインください!」
四角く硬い数枚の紙と太い筆記用具が、まるで鋭い剣先のように私の喉元を狙っていた――
「……いや、面目ない」
数瞬の沈黙の後、ガルカはタルタルの頭を軽くはたきながら私に向かって詫びた。いたっ、と呻くタルタルに彼は小言を云う。
「全く……アイドルやら音楽家やらに会ったんじゃないんだぞ。マスターに向かってサインとは何事だ」
「えー!? だってめったにない機会だよ!?もらえるもんはもらっとかなきゃ!サインください!」
ガルカの諫める言葉にもめげず、タルタルはぐいと色紙を突き出してくる。判らない。 何故その紙が複数枚あるのだろうか。
「大体お前、何でそんな何枚も色紙持ってきたんだ。一枚あれば十分だろう」
溜息をつきながら、ガルカが私の疑問を代弁する。するとやおらタルタルは胸を張り、自信に満ちた表情で云った。
「判ってないわね師匠!こういう珍しいものを有り難がる人ってのが、世の中にはいるもんなのよ!上手くバザーにでも出せば、そういう人達に高値で売れるかもしれないじゃない――ああっ!」
ガルカに色紙と筆記具を取り上げられて、タルタルは抗議の声を上げる。
「すいません、どうか気にせんでください」
恥じ入るようにそう云って頭を下げるガルカの大きな手が、じたばたと暴れるタルタルの赤毛を押さえている。
「で、どこまで話しましたかな……えー」
申し訳なさげに話を戻そうとするガルカの言葉に、私ははっと我に返る。
マスターとして過ごしてきた歳月の中で、何しろサインなどねだられたのは初めての経験である。それがあまりに突飛で、つい面食らってしまっていたようだ。
―― ギデアスで出会った青年の件だ。その時に貴殿が一体何をしたのか、それを話してもらいたい。
こっそりと体勢を立て直し、私は云う。ああそうでした、と頷くガルカの手の下から、タルタルの高い声が上がった。
「なぁによぅ、ギデアスがどうかしたの?」
まだ不満たっぷりといった調子で、私とガルカをきょときょとと見比べて云うタルタルの少女。
どうかしたのか、とは片腹痛い。ガルカの通せんぼなどよりも、獲物の横取りという彼女の行いの方が遙かに咎められて然るべきものなのだ。それを平然と、さも他人事のように訊くとは。恐ろしく神経が太いのか、相当な粗忽者か――
まあ、それについては順を追って聞かせてもらうとしよう。ガルカがこのまま、穏便に彼女を押さえていてくれるようならばの話だが。
「いや、決して意地悪で引き止めたのではないのですよ」
言葉を続ける穏やかなガルカの声。どこか照れたような、何か申し訳なさそうな調子の彼の言葉に、言い訳がましい響きは見あたらない。
「あの時はですな、たまたま私が居た所の地下に、質(たち)の悪い魔物が姿を現しておりまして。質と言うかまあ、たまに現れる飛び抜けて強い奴ですな。それが、草むらにある落とし穴の上からこう――垣間見えた」
その地域に定住するものより数段強い力を持って生まれるモンスター――俗にノートリアスモンスターと呼び習わされる魔物。
ある程度広い範囲の中で突然変異的に生まれ徘徊するものと、ある決まった一カ所に現れ、倒されても倒されてもまるで自縛霊のようにそこに蘇ってくるものの二種類がある。
ガルカが云っているのは前者のタイプであろう。対して、タルタルのナイトがケイン青年から横取りしたと思われるのは後者のタイプだ。
「そのままでは危ないので倒してしまってもよかったんですが。こいつが」
そう云ってガルカはタルタルの頭を、置いていた大きな手でぐりっと撫でる。赤毛のタルタルは、にゃーと子猫が抗議するような声を上げた。
「何しろ跳ねっ返りなもんですから。どうしても自分がやると言って聞きませんで。それで仕方なく見張りと言いますか、まあこいつの到着を待っていた訳です。そこにあの青年が現れまして、その落とし穴に続く通路を通りたいと言う」
この先に用があるので通らせて欲しい、いや危ないから止めた方がいい――出会った二人の会話は、そんな押し問答に発展したらしい。ガルカはおっとりと云う。
「そこそこに冒険者をやっておれば、何もせずとも相手の技量というのはある程度推し量れるようになるものですからな。見るに、あの子はまだまだ戦士としても冒険者としても駆け出しだった。とても通せるものではありませんでした。まさかその青年が魔物に襲われ、あっという間に歯牙にかけられるのを見過ごす訳には行きますまい?」
それは――その通りだろう。
じっと黙っている私の態度をどう取ったのか、決まり悪そうにガルカは続けた。
「いやまあ、勿論私がそのモンスターを倒してやれば済む話ではあったのですが。それも何かこう、甘やかしているようで据わりが悪いと申しますか――筋違いのように思いましてな。駆け出しとは言え彼も一人の戦士、己の力量を見誤るようでは長く生きられぬのですから」
淡々と語る彼の言葉は、一から十まで我が子の面倒を見ようとしていた、あの母親に聞かせてやりたい台詞だった。どこか教師のように語る彼の腰で、数え切れないほどの傷跡を染み込ませた戦斧が鈍く輝いている。
「なので、多少遠回りでも自力で進める道を行った方がよいと、そう助言したつもりだったのですが――通じておりませんでしたかなぁ」
難しいことです――とこぼして、ガルカは人のよさそうな苦笑いを浮かべた。
つまりは。
彼は悪意を以てケイン青年の進路を阻んだ訳ではなく、その先に危険な魔物がいることを知って制止していた、という事らしい。そう聞けばいかにもありそうな話だ。
だからと云って鵜呑みにするな――マスターとしての職業意識はそう告げていた。
このガルカが云うのならそうなのだろう――一個人としての自分の心はそう告げていた。
にわかに揺らぐ立ち位置。
「へー、そんな子が来てたんだ」
と、世間話に興じるかのようなのほほんとした声が、そんな不安定な私の足下をすくった。ぐいと視線を下ろせば、くりんと丸い瞳がこちらを見上げている。興味深げに、まるで野次馬のように。いっそ空々しく。
―― 貴殿も知っている筈ではないのか。
それを見た私の口を、そんな攻撃的な問いが突いて出た。
へ? とタルタルの少女は素っ頓狂な声を上げた。私はそれに構う事無く、更に畳み掛ける。自身がその紅い鎧に相応しからぬ振る舞いをしていたという事に私が気付くのは、ずっと後の事だった。
―― では訊こう。その日その青年は、ギデアスであるヤグードを討伐しようとしていたそうだ。しかしいざその場に到着し抜刀するや、彼は見も知らぬ冒険者にそれを妨げられたと云う。
ガルカが、む、と小さく唸った。何かを思い出したような声だ。
片や当のタルタルは、ぽかんと口を開けて私を見上げたまま固まっている。私は間を置かずに続ける。
――彼の証言によればその冒険者はタルタルの少女であり、かつ白いナイトの鎧を纏っていたそうだ。そう、まさに貴殿の出で立ちそのものだな。今のガルカの話によれば、貴殿も同時刻にギデアスに居たとの事。ならば知らぬはずがあるまい。さあ、何故あの青年の邪魔だてをしたのか、話してもらうとしよう。
「えー……っと?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、赤毛のタルタルはのんびりと首をかしげた。詰問に近い私の言葉に対する反応としてはたいそう鈍いし、とぼけているにしては稚拙すぎる。
肯定か、あるいは反発でもあれば、方向はどうあれ話を前に進める事ができるのだが――応とも非ともつかないこのリアクションでは、暖簾に腕押しでしかない。
暢気な文鳥のように首をひねり続けるタルタル。それを見かねたらしいガルカが、小声で彼女に助け船を出した。
「お前、言ってただろう。奥のヤグードの所で新米っぽい男の子を助けてやったとかなんとか。その子の事じゃないのか……少し気の弱そうな。まさか同じ子だとは思ってなかったが、どうやら」
「え……? あ。 あー」
ぽん。
はいはいようやく思い出した、という顔で、タルタルは小さな手を打った。
「うん、あのやたら坊ちゃん坊ちゃんしたヒュームの、いやー何で戦士になっちゃったのさって訊きたくなる――なぁにあの子、師匠の所にも行ってたの?」
「ああ、まあ今説明した通りなんだがな――うーん、という事は……迂回させたのが却って……」
ガルカはそう呟くと、考え込むように押し黙ってしまった。彼から流れる空気には、何やら含みがありそうだ。
「あのね、別に、邪魔なんかしてないのよ」
と、そんなガルカに向けていた私の注意を、タルタルの甲高い声が引き戻した。視線を下ろす。
赤いお下げの彼女が、心外だとでも言いたげに腰に両手を当てて私を仰いでいた。
「だって無理じゃない。 無理無理。あのひょろひょろの男の子じゃ、どう逆立ちしたってあのヤグードに勝てる訳ないもん。勝てないって言うか、指一本でぷち、ね」
片方の手を上げて、人差し指をぴっと立てる。
逆立ちしたって勝てない――そんな筈はなかろう。
あの青年が討伐を請け負ったヤグードは、彼にとっても決して強敵とは云えない程度の……待て。
――それは――貴殿があの青年と見 えたのは……もしやギデアスの――?
「奥も奥、ずーっと南のどんづまり。バルガの舞台に続く手前の所よ。びっくりしちゃったわよ、あんな所までヤグードに見つからずにやって来るなんてね。あの子の技量じゃ、ギデアスを半分過ぎたぐらいから全獣人にエサと見なされて襲われるはずなのに、もう見事としか言いようがないわ」
―― では、あの青年が斬りかかろうとしたのは……
「あたしの獲物」
そう言い放って、タルタルのナイトはまた胸を張った。
幾多の困難をかいくぐり、降りかかる災いから仲間を守り通す騎士 。厳しい鍛練と気の遠くなるような実践によりその道を極めた者にのみ与えられる純白の鎧が、彼女の小さな、しかしはち切れそうに元気な体を涼やかに包んでいる。
ガルカが、あの坊主、行き先を間違えたんだなぁ――と呟いた。
そう――恐らくその通りなのだろう。本人も、このガルカに進路変更を強いられてからはあちこち迷った、と云っていた。どこをどう誤ったものか、右往左往する間に奥へ奥へと入り込んでしまったに違いない。本来目指すべき依頼のヤグードは、もっとギデアスの浅い場所にいるのだ。
経験も装備も薄い若者が、強敵蠢く獣人の里深く――想像しただけで冷や汗ものだ。タルタルが言葉を続ける。
「さっきの師匠じゃないけどさ、まさかあの子が強力なヤグードに突っ込んで行って二秒やそこらでひねり潰されちゃうのを、黙って見過ごす訳には行かないじゃない?しかも私が駆け付けた時には、もうヤグードの方があの子を見つけててね。だから大慌てで間に入ったんだけど――」
その場に飛び込んで彼を制止しかばう彼女の言葉を、ろくに聞かず彼は逃げ出したのだろう。始まるナイトとヤグードの剣戟を背に、また上手くいかなかった、情けない、不甲斐ない、そんな思いで胸を一杯にしながら。
「なにようあの子、あっという間にいなくなっちゃったと思ってたけど、まさか私が邪魔に入ったと思ってたわけ?しっつれいしちゃうなぁ、私が颯爽と現れなかったら間違いなくあの世行きだったのに」
ぷっとふくれてタルタルが云う。しかし、あの世行きとはまた言葉が古い。傍らに立つ父親のようなガルカの影響だろうか。
と、そのガルカが呆れたように云った。
「何が颯爽だ。俺に見張らせてたヤグードを倒すなり、次はあっちだーって脇目も振らずにどたばた走って行ったんじゃないか。ダサダサだったぞ。まあ、間に合ったからいいようなものの――大体がつがつしすぎなんだ、お前は」
対するガルカの方も、ダサダサとはまた言葉が若い。足下に立つ、娘のようなタルタルの影響だろうか。
「ふーんだ。彼も助かって、私も討伐ができたんだからいいじゃない。一石二鳥でしょ」
そんな二人のじゃれあいにも似た口論をよそに、私は考え込む。
彼女の言を信じるならば、邪魔に入ったのはむしろケイン青年であると云わざるを得まい。よしんばこのタルタルの少女が嘘をついていたとしても――彼女からすれば果てしなく弱く、特に高価な戦利品を落とすでもないヤグードを、ケイン青年から無理矢理奪ってでも相手にする理由が――無い。
そう、少なくともこの捜査を通じて、彼らにあの青年の邪魔だてをする動機や理由というものが姿を見せた事は、ついに無かったのだ。
ガルカの件についても……否、ガルカの件こそ、本人が云ったような理由でもなければ説明がつくまい。この通路は危ない、だから通らない方がいいと、彼は親切から青年を止めたのだろう。半ば意固地になっていたのであろうケイン青年が、それを素直に聞けなかったのだ。
―― 了解した。 協力、感謝する。
私はついに最後となる締めの一言を口に乗せた。かすかに観念するような響きが、自分に返ってくる。
そのまま去ろうとする私の気配を察知したのか、タルタルの少女はあっと声を上げると私を振り返って叫んだ。
「ちょっと待って! サイン!協力したんだからサインちょうだい――いたぁっ!」
ついにゲンコが出た。自分の顔よりも大きな拳に真上から思い切りどつかれ、タルタルは頭を抱えてうずくまる。隕石でも降ってきたようなダメージではなかろうか。ひーひーと情けない声を上げている。
その傍らで、拳の主は礼儀正しく頭を下げて私に告げた。
「とんでもない。 お役に立てたのなら何よりです。ああ――もし彼にまた会いなさるのでしたら、ひとつ伝えて頂けますかな。焦るな、無理はするな、と」
ガルカの静かに微笑む瞳を見て、私は頷く。そしてふと思い出した。
そう云えば、一番初めに尋ねたタルタルの白魔道士も似たような事を云っていた。どうか気をつけるように伝えてくれ、と。
知らず溜息が漏れる。結論は――出てしまったようだ。
タルタルの少女の不満げな呻き声を後に、では、と一言云い残して、私は軽く地を蹴った――
* * *
すぅ、と、眼前に展開されていた文字と数値の洪水が退いていく。
遠ざかるように周囲の明度が落ちる中、私は大きく息を吐いて、少し重くなった目を瞑る。
一日かけて洗い直した記録の全ては、彼ら七人の潔白を物語った。
白と暗黒、二人のタルタルは、ケイン青年がその拙い魔法で目覚めさせたカーディアンを掃討していた。
ミスラのシーフがホルトトで開けた宝箱は一つきり、そしてその正体はミミックだった。
赤魔道士のエルヴァーンは、その日の夜半までサルタバルタに居た。更に、彼は関与していなかったものの、驚いた事にその日の午後にはそこでガリスンが発生していた。
ガルカが落とし穴の下に見つけたモンスターは確かに存在し、タルタルのナイトはギデアスの奥で屈強なヤグードを倒していた。
もはや疑う余地はない。彼らがケイン青年を尾け回していたのではなかった。全ては恐ろしいほどの偶然に――いや。
一つだけ。この偶然を束ね得る、確実な事が一つだけある。
どこまでも気弱で、男として冒険者として望むべき色々なものが未熟なままの、あの青年が備えている、たった一つのスキル。
それは――未曾有の幸運だ。
二人のタルタルが盾となり、彼は自身が喚んだカーディアンになぶり殺されずに済んだ。
ミミックと知らず近寄りかけた宝箱は、シーフが代わりに倒してくれた。
赤魔道士の姿に怯えて足早に立ち去った後のサルタバルタでは、怒濤のようにモンスターが襲い来る、血で血を洗うガリスンの戦いが火を噴いていた。
飢えたヤグードが待ち構える穴に飛び込む愚挙を、ガルカが制止した。
誤って斬りかかったヤグードにひとひねりにされる悲劇からは、タルタルのナイトが守った。
幸運。 幸運。 幸運。 幸運。
もはやそれ自体が、彼の持つ第一の実力なのではないかと思える程に、彼の命の灯はありとあらゆる幸運に守られていたのだ。
視点を変えれば――まるで彼の取る無謀な行動の一つ一つが、彼自身の幸運の限界に挑んでいるようにすら見える、奇特な事実。
この調査で証明された事はただ一つ。ケイン青年が、奇跡にも近い強運の持ち主であるという事だ。
それを告げてやればいい。彼の怯えから生まれた猜疑心は不要のもので、あの者達は皆、図らずも彼を助けていたのだと。それは感謝すべき僥倖なのだと。そう伝えればいいのだ。
しかし――先程から私の心は、その思考とは別の所でゆっくりと波立ち始めていた。思考が進めば進むほどに、ころり、ころりと腹に石を投げ込まれるように、気持ちが萎え、重くなっていく。
私は気付いていた。そう、この鬱々とした落ち着かなさの原因は――――
『ちょっと!! 聞いてるんざましょう!?もう丸一日経ったってのに、まだ調べ終わらないんざますか!!一体何をちんたらやってるざます!!』
――――これだ。
まるで地上から見ていたのではないかと思うほどに絶妙のタイミングで鳴り出した通信。私はそっとこめかみに手を当てる。
ガラスの表面を掻くような甲高い音波は、それだけで場の空気と周辺機器をびりびりと震わせるようだ。周囲に居る数人の同僚が、驚きと哀れみのないまぜになった視線を私に向ける。
深く深く溜息をついて、私は思う。
……あの七人の冒険者達ならば、この窮地をどう切り抜けるのだろうか。
ああ、ついでに訊いておくべきだった――
End
熟練から来るのであろう軽快さのせいで、半ば戯れているようにも見える大きな影と小さな影。その様子はまるで仲睦まじい
無論、種族が異なる彼らに血縁があるはずもない。しかし二人の殺気を欠いた剣戟には、信頼という名の絆が伺える。
そんな光景を、私は遙か上空からぼんやりと眺めていた。
あれが最後の二人だ。
ギデアスでケイン青年の行く手を阻んだのが、ガルカ。
同じくギデアスで、彼の剣から目標のヤグードを取り上げたのがタルタル。
その所行について、これから彼らそれぞれに問い質さなければならない。
……また手間をかけさせられるのだろう。
そんな予想に、私は小さな溜息をついた。
二人同時に相手をするのは厄介だなどという思いは、もはや何処かへ落としてきてしまった。一人だろうが二人だろうが、あの連中相手に手を焼く事に変わりはないのだ。それを嫌と云う程思い知らされた。
私は己が姿を見下ろす。 炎を練り固めたような深紅色。その絶対性を示す熱波のゆらめきに包まれた鎧は、ヴァナ=ディールの世を平らげるべきマスターの証だ。
ああ、あれは何時だったろうか。獲物の所有権を巡って起きた、冒険者同士のいざこざの仲裁に赴いた事があった。
それはひどい有り様だった。話し合いとも云えないやりとりがこじれにこじれ、合わせて十人以上の屈強な冒険者達の間で一触即発の罵詈雑言が飛び交う。魔物と剣を交えるような気迫がぶつかり合い、しかし殺気の代わりに満ちるのは陰湿な舌鋒。
嫌味たっぷりに喋るエルヴァーンに、金切り声のヒュームが神経質に反論する。小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべるミスラをじっとりと睨みすえるガルカ、その視線におどおどと震えるタルタル。
が、そんな火のつきそうな状況の中に私が降り立つや否や、場の空気は無条件に一変した。
ある者は安堵の溜息を、ある者はすがるような視線を、ある者は諦めたような舌打ちを。
それぞれの気質に合わせ、十人十色に示された反応。それらはしかし、一つ残らず私――紅蓮の鎧を纏い降臨した
再度小さく溜息をつく。
権威主義を頼っているつもりなど毛頭無い。ましてやそれを民にも期待するなどは全くの傲慢というものである。
とは云え、大きな責務を果たしその職務を円滑に遂行しようとすれば、そこに民の協力が欠かせないのも事実なのだ。例えそれが、畏怖や恐れと呼ばれるものであっても――
故に、これは試練だ。
永く仕えてきた己が使命を今一度しっかりと心に刻み、より揺らがぬものにする為の。
甘えは許されない。面(おもて)を引き締め、私は広い草原へと降下を始める――
* * *
父娘のような二人はほぼ同時に、私の登場に気が付いた。
ガルカの構える戦斧とタルタルの振りかぶる長剣が申し合わせたようにぴたりと止まり、揃って首だけをぐるりとこちらに向ける。
ガルカの頬に黒い稲妻のような傷跡が見える。タルタルの少女の赤いお下げがぴょこんと揺れた。
そうして静止する二人の間を、ひゅうと鳴る風が吹き抜けた。
―― 失礼する。 少々尋ねたい事があって来た。
私は努めて重々しく、型通りの第一声を口にする。と。
驚きの表情から目覚めるように立ち直ったガルカは、無骨な手に握った戦斧を素早く腰に収めると、いたく温厚そうな笑顔を私に向け軽く会釈をしながらこう云った。
「……おお。これは、マスターではないですか、お勤めご苦労様です。何でしょう、我々に何かご用ですかな?」
その言葉を聞いた私は。
知らず、深く目を閉じていた。
そして――ああ、何という事であろうか。
全く不意打ちに注がれた甘露のようなこの言葉、この響き、例え偽りでも構わない――自制する間もなく、そう思ってしまっていた。
長い夏の中、待ち侘びたスコールを全身に浴びる草花はきっとこんな気持ちだろうか。
行く手を阻む厚い闇にいたぶられ続けた旅人に、曙の色はこのように映るのだろうか。
「……マスター?」
あの強気な母親と弱気な青年に端を発するこの件に携わってから初めて出会った、まともな対応だ。望ましい常識に裏打ちされた反応だ。
胸が震えている。こんな薄弱たる情感に甘んじるなど、マスターとしてあってはならぬ事――そう知りつつも、懐かしいような狂おしいようなこの思いに浴する事を止められない。
己で自覚していた以上に、私は倦み疲れていたのだろうか。たったの一言で私にそれを気付かせてしまったこのむくつけきガルカに、もはや愛しさすら感じている。
ああ、願わくばあまねく民が、この者のようであったなら――
「あの、マスター――」
……、いけない。
そのガルカが発したやや訝しげな声に、慌てて私は意識を引き戻した。脳裏を覆う薄桃色の霧を振り払う。ただの挨拶に対して、感動まがいに感じ入っている場合ではない。
―― 失礼した。少し交信をしていただけだ、気にせぬよう。
一人抱える気まずさから咄嗟に誤魔化してしまう、その言葉の途中で私は気付いた。
ガルカと並んで居たはずのタルタルの少女の、みるみる遠ざかる後ろ姿。町へと向かって脱兎の如く走る小さな背中が、視界に飛び込んできた。私は目を疑う。
馬鹿な――逃げるのか?
このヴァナ=ディール上で、『我々』の追跡から逃れ得る存在などありはしない。これは厳然たる事実だ。
逆に言うならば、それこそ草木の一本、虫の一匹に到るまで、この地に根を下ろすという事は即ち、我らマスターに死ぬまで存在を宣言し続けるという事と同義なのだ。
故に『我々』に、「逃げられる」という認識は無い。それはただ、その者が居場所をAからBへと変えたというだけに過ぎないのだ。
よもやそれを知らぬ訳があるまい。否、まさか知らないとでも云うのか。
借金取りから逃げるように、この場を脱しさえすれば行方をくらませられるとでも?
風のように走り去るタルタルの白い姿を追っていた視線を、しかし私は目前のガルカへと戻す。悠然と。
そう、逃げる事に意味がないのだから、追う事にも意味はないのだ。いつどこであろうと、再び彼女の前に降り立つ事は実に容易い。
一方のガルカは、逃げる気配も見せずにそこに立っている。遠ざかるタルタルの少女の気配を横目で追いつつ、困ったものだ――とでも言いたげな薄い苦笑いを浮かべていたが、すぐにそれを収めると彼は私に向き直って云った。
「すみませんね、どうも――ええと、私で判る事ですか?それともあいつに御用なら――」
―― いや、まずは貴殿に話を聴くとしよう。
ガルカの温厚な顔に、私はぴたりと視線を据える。ほだされてはならない。タルタルと揃って逃げる事をせず、まるで彼女と私との間に立ちはだかるようなその巨躯、そしてのんびり然とした受け答えは――足止め、だろうか。
小賢しい。そんな小細工は人間相手に止めておけばよいのだ。私は泰然として切り出す。
―― 二日前、貴殿はギデアスに居た。 相違無いか。
「ん――ええと。 一昨日、ですか」
私の質問に、ガルカは中空を見ながらゆっくりと呟く。程なくそこに自分の姿を見つけたように、ああ、と一つ頷くと、彼は視線を私の兜へと戻した。
「確かに行きました。さっきの奴と――ああ、ドリーと言うんですが――あいつに付き合わされまして。半日ほど居ましたかな」
それがどうかしましたか?と、硬そうな髪とあごひげに囲まれた彼の眼差しが尋ねていた。まるで岩のようにどっしりと落ち着いた雰囲気。それは、私と並んでも遜色のないガルカ族の巨躯に、先天的に備わるもののようにすら感じられる。
――そこで貴殿は、ヒュームの戦士の青年と会っているはずだ。その青年より、貴殿と思しきガルカから進路妨害を受けたという訴えが届いており、私はその調査の為に赴いたものである。心当たりがあれば、その時の状況を聞かせてもらいたい。
令状を読み上げるように淡々と告げる。その言葉の中程で、ガルカの頭脳は何かを思い出したようだった。体が大きいせいで小さく見える目が僅かに見開かれ――しかしその目はそのまま、何やら意地の悪い謎々でも示されたかのような戸惑いを帯びた。そしてこう尋ねた。
「進路妨害……と言っているのですか、彼は」
―― 正確にはそうではない。進路妨害というのは私が選んだ言葉だ。本人曰くは、貴殿が塞いでいた通路をどうしても通りたいと主張したが聞き入れられず、さりとて体格的に劣る彼は力ずくでそこを通る事も叶わず、不本意ながら違う道を模索することを余儀なくされた、という趣旨であった。
「ふぅむ……左様ですか……」
呟くようにそう云うと視線を落とし、うーんと唸りながらガルカはぼりぼりと頭をかいた。困ったな、というジェスチャーだ。
しかしその中でちらりと、ガルカはかすかに物問いたげにこちらを盗み見た。彼の思考の流れは自然で、故にその視線の意味する所は容易に私の手の内となる。
たったそれだけの事で、マスター直々のお出ましですか?――という疑問の色だろう。当然だ。この一件のみに注目するなら、マスターの裁定を要するような大事件では明らかにないのだから。
しかし、それを以てこの対話を拒まれる訳には行かない。ケイン青年の一連の訴えの中で、このガルカの行いが最も軽微だというだけなのだ。共犯関係を疑う以上、他の者と等しく聴取はさせてもらわなければならない。どこから尻尾を出すか判らないのだから。私は口を開く。
――無論、例えそれが事実であったとしても、即座に縄を打つなどという事は無い。しかし、詳細を述べる事は控えさせてもらうが、これは必要な調査なのだ。協力を願いたい。
「はあ、そりゃ一向に構いませんが――」
やや不得要領な表情で頷きながら、更にガルカが何か言おうとしたその時。ウィンダスの方角から砂埃を立てて近づいてくる白い影に私は気付いた。
つと視線を動かしてそちらを見る。私は再び目を疑った。全速力で走ってくるその小さな姿は、先程脱兎の如く遁走したあのタルタルのナイトではないか。
戻って来た……? 逃げ出したのではなかったのか。一体何を――
赤毛のタルタルは、去った時と同じ勢いで戻って来た。私の眼前で転がるようにブレーキをかける。全速力のダッシュを終始維持していたかの如き息切れに、小さな肩をせわしなく上下させている。
ガルカが、彼女が手にしている物体を見て呆れたような溜息をついた。お前なぁ、と呟く。
言葉を失っている私に向け、タルタルは紅潮した顔をがばと上げると、その物体を突き付けるように差し出して一言叫んだ。
「サインください!」
四角く硬い数枚の紙と太い筆記用具が、まるで鋭い剣先のように私の喉元を狙っていた――
「……いや、面目ない」
数瞬の沈黙の後、ガルカはタルタルの頭を軽くはたきながら私に向かって詫びた。いたっ、と呻くタルタルに彼は小言を云う。
「全く……アイドルやら音楽家やらに会ったんじゃないんだぞ。マスターに向かってサインとは何事だ」
「えー!? だってめったにない機会だよ!?もらえるもんはもらっとかなきゃ!サインください!」
ガルカの諫める言葉にもめげず、タルタルはぐいと色紙を突き出してくる。判らない。 何故その紙が複数枚あるのだろうか。
「大体お前、何でそんな何枚も色紙持ってきたんだ。一枚あれば十分だろう」
溜息をつきながら、ガルカが私の疑問を代弁する。するとやおらタルタルは胸を張り、自信に満ちた表情で云った。
「判ってないわね師匠!こういう珍しいものを有り難がる人ってのが、世の中にはいるもんなのよ!上手くバザーにでも出せば、そういう人達に高値で売れるかもしれないじゃない――ああっ!」
ガルカに色紙と筆記具を取り上げられて、タルタルは抗議の声を上げる。
「すいません、どうか気にせんでください」
恥じ入るようにそう云って頭を下げるガルカの大きな手が、じたばたと暴れるタルタルの赤毛を押さえている。
「で、どこまで話しましたかな……えー」
申し訳なさげに話を戻そうとするガルカの言葉に、私ははっと我に返る。
マスターとして過ごしてきた歳月の中で、何しろサインなどねだられたのは初めての経験である。それがあまりに突飛で、つい面食らってしまっていたようだ。
―― ギデアスで出会った青年の件だ。その時に貴殿が一体何をしたのか、それを話してもらいたい。
こっそりと体勢を立て直し、私は云う。ああそうでした、と頷くガルカの手の下から、タルタルの高い声が上がった。
「なぁによぅ、ギデアスがどうかしたの?」
まだ不満たっぷりといった調子で、私とガルカをきょときょとと見比べて云うタルタルの少女。
どうかしたのか、とは片腹痛い。ガルカの通せんぼなどよりも、獲物の横取りという彼女の行いの方が遙かに咎められて然るべきものなのだ。それを平然と、さも他人事のように訊くとは。恐ろしく神経が太いのか、相当な粗忽者か――
まあ、それについては順を追って聞かせてもらうとしよう。ガルカがこのまま、穏便に彼女を押さえていてくれるようならばの話だが。
「いや、決して意地悪で引き止めたのではないのですよ」
言葉を続ける穏やかなガルカの声。どこか照れたような、何か申し訳なさそうな調子の彼の言葉に、言い訳がましい響きは見あたらない。
「あの時はですな、たまたま私が居た所の地下に、質(たち)の悪い魔物が姿を現しておりまして。質と言うかまあ、たまに現れる飛び抜けて強い奴ですな。それが、草むらにある落とし穴の上からこう――垣間見えた」
その地域に定住するものより数段強い力を持って生まれるモンスター――俗にノートリアスモンスターと呼び習わされる魔物。
ある程度広い範囲の中で突然変異的に生まれ徘徊するものと、ある決まった一カ所に現れ、倒されても倒されてもまるで自縛霊のようにそこに蘇ってくるものの二種類がある。
ガルカが云っているのは前者のタイプであろう。対して、タルタルのナイトがケイン青年から横取りしたと思われるのは後者のタイプだ。
「そのままでは危ないので倒してしまってもよかったんですが。こいつが」
そう云ってガルカはタルタルの頭を、置いていた大きな手でぐりっと撫でる。赤毛のタルタルは、にゃーと子猫が抗議するような声を上げた。
「何しろ跳ねっ返りなもんですから。どうしても自分がやると言って聞きませんで。それで仕方なく見張りと言いますか、まあこいつの到着を待っていた訳です。そこにあの青年が現れまして、その落とし穴に続く通路を通りたいと言う」
この先に用があるので通らせて欲しい、いや危ないから止めた方がいい――出会った二人の会話は、そんな押し問答に発展したらしい。ガルカはおっとりと云う。
「そこそこに冒険者をやっておれば、何もせずとも相手の技量というのはある程度推し量れるようになるものですからな。見るに、あの子はまだまだ戦士としても冒険者としても駆け出しだった。とても通せるものではありませんでした。まさかその青年が魔物に襲われ、あっという間に歯牙にかけられるのを見過ごす訳には行きますまい?」
それは――その通りだろう。
じっと黙っている私の態度をどう取ったのか、決まり悪そうにガルカは続けた。
「いやまあ、勿論私がそのモンスターを倒してやれば済む話ではあったのですが。それも何かこう、甘やかしているようで据わりが悪いと申しますか――筋違いのように思いましてな。駆け出しとは言え彼も一人の戦士、己の力量を見誤るようでは長く生きられぬのですから」
淡々と語る彼の言葉は、一から十まで我が子の面倒を見ようとしていた、あの母親に聞かせてやりたい台詞だった。どこか教師のように語る彼の腰で、数え切れないほどの傷跡を染み込ませた戦斧が鈍く輝いている。
「なので、多少遠回りでも自力で進める道を行った方がよいと、そう助言したつもりだったのですが――通じておりませんでしたかなぁ」
難しいことです――とこぼして、ガルカは人のよさそうな苦笑いを浮かべた。
つまりは。
彼は悪意を以てケイン青年の進路を阻んだ訳ではなく、その先に危険な魔物がいることを知って制止していた、という事らしい。そう聞けばいかにもありそうな話だ。
だからと云って鵜呑みにするな――マスターとしての職業意識はそう告げていた。
このガルカが云うのならそうなのだろう――一個人としての自分の心はそう告げていた。
にわかに揺らぐ立ち位置。
「へー、そんな子が来てたんだ」
と、世間話に興じるかのようなのほほんとした声が、そんな不安定な私の足下をすくった。ぐいと視線を下ろせば、くりんと丸い瞳がこちらを見上げている。興味深げに、まるで野次馬のように。いっそ空々しく。
―― 貴殿も知っている筈ではないのか。
それを見た私の口を、そんな攻撃的な問いが突いて出た。
へ? とタルタルの少女は素っ頓狂な声を上げた。私はそれに構う事無く、更に畳み掛ける。自身がその紅い鎧に相応しからぬ振る舞いをしていたという事に私が気付くのは、ずっと後の事だった。
―― では訊こう。その日その青年は、ギデアスであるヤグードを討伐しようとしていたそうだ。しかしいざその場に到着し抜刀するや、彼は見も知らぬ冒険者にそれを妨げられたと云う。
ガルカが、む、と小さく唸った。何かを思い出したような声だ。
片や当のタルタルは、ぽかんと口を開けて私を見上げたまま固まっている。私は間を置かずに続ける。
――彼の証言によればその冒険者はタルタルの少女であり、かつ白いナイトの鎧を纏っていたそうだ。そう、まさに貴殿の出で立ちそのものだな。今のガルカの話によれば、貴殿も同時刻にギデアスに居たとの事。ならば知らぬはずがあるまい。さあ、何故あの青年の邪魔だてをしたのか、話してもらうとしよう。
「えー……っと?」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で、赤毛のタルタルはのんびりと首をかしげた。詰問に近い私の言葉に対する反応としてはたいそう鈍いし、とぼけているにしては稚拙すぎる。
肯定か、あるいは反発でもあれば、方向はどうあれ話を前に進める事ができるのだが――応とも非ともつかないこのリアクションでは、暖簾に腕押しでしかない。
暢気な文鳥のように首をひねり続けるタルタル。それを見かねたらしいガルカが、小声で彼女に助け船を出した。
「お前、言ってただろう。奥のヤグードの所で新米っぽい男の子を助けてやったとかなんとか。その子の事じゃないのか……少し気の弱そうな。まさか同じ子だとは思ってなかったが、どうやら」
「え……? あ。 あー」
ぽん。
はいはいようやく思い出した、という顔で、タルタルは小さな手を打った。
「うん、あのやたら坊ちゃん坊ちゃんしたヒュームの、いやー何で戦士になっちゃったのさって訊きたくなる――なぁにあの子、師匠の所にも行ってたの?」
「ああ、まあ今説明した通りなんだがな――うーん、という事は……迂回させたのが却って……」
ガルカはそう呟くと、考え込むように押し黙ってしまった。彼から流れる空気には、何やら含みがありそうだ。
「あのね、別に、邪魔なんかしてないのよ」
と、そんなガルカに向けていた私の注意を、タルタルの甲高い声が引き戻した。視線を下ろす。
赤いお下げの彼女が、心外だとでも言いたげに腰に両手を当てて私を仰いでいた。
「だって無理じゃない。 無理無理。あのひょろひょろの男の子じゃ、どう逆立ちしたってあのヤグードに勝てる訳ないもん。勝てないって言うか、指一本でぷち、ね」
片方の手を上げて、人差し指をぴっと立てる。
逆立ちしたって勝てない――そんな筈はなかろう。
あの青年が討伐を請け負ったヤグードは、彼にとっても決して強敵とは云えない程度の……待て。
――それは――貴殿があの青年と
「奥も奥、ずーっと南のどんづまり。バルガの舞台に続く手前の所よ。びっくりしちゃったわよ、あんな所までヤグードに見つからずにやって来るなんてね。あの子の技量じゃ、ギデアスを半分過ぎたぐらいから全獣人にエサと見なされて襲われるはずなのに、もう見事としか言いようがないわ」
―― では、あの青年が斬りかかろうとしたのは……
「あたしの獲物」
そう言い放って、タルタルのナイトはまた胸を張った。
幾多の困難をかいくぐり、降りかかる災いから仲間を守り通す
ガルカが、あの坊主、行き先を間違えたんだなぁ――と呟いた。
そう――恐らくその通りなのだろう。本人も、このガルカに進路変更を強いられてからはあちこち迷った、と云っていた。どこをどう誤ったものか、右往左往する間に奥へ奥へと入り込んでしまったに違いない。本来目指すべき依頼のヤグードは、もっとギデアスの浅い場所にいるのだ。
経験も装備も薄い若者が、強敵蠢く獣人の里深く――想像しただけで冷や汗ものだ。タルタルが言葉を続ける。
「さっきの師匠じゃないけどさ、まさかあの子が強力なヤグードに突っ込んで行って二秒やそこらでひねり潰されちゃうのを、黙って見過ごす訳には行かないじゃない?しかも私が駆け付けた時には、もうヤグードの方があの子を見つけててね。だから大慌てで間に入ったんだけど――」
その場に飛び込んで彼を制止しかばう彼女の言葉を、ろくに聞かず彼は逃げ出したのだろう。始まるナイトとヤグードの剣戟を背に、また上手くいかなかった、情けない、不甲斐ない、そんな思いで胸を一杯にしながら。
「なにようあの子、あっという間にいなくなっちゃったと思ってたけど、まさか私が邪魔に入ったと思ってたわけ?しっつれいしちゃうなぁ、私が颯爽と現れなかったら間違いなくあの世行きだったのに」
ぷっとふくれてタルタルが云う。しかし、あの世行きとはまた言葉が古い。傍らに立つ父親のようなガルカの影響だろうか。
と、そのガルカが呆れたように云った。
「何が颯爽だ。俺に見張らせてたヤグードを倒すなり、次はあっちだーって脇目も振らずにどたばた走って行ったんじゃないか。ダサダサだったぞ。まあ、間に合ったからいいようなものの――大体がつがつしすぎなんだ、お前は」
対するガルカの方も、ダサダサとはまた言葉が若い。足下に立つ、娘のようなタルタルの影響だろうか。
「ふーんだ。彼も助かって、私も討伐ができたんだからいいじゃない。一石二鳥でしょ」
そんな二人のじゃれあいにも似た口論をよそに、私は考え込む。
彼女の言を信じるならば、邪魔に入ったのはむしろケイン青年であると云わざるを得まい。よしんばこのタルタルの少女が嘘をついていたとしても――彼女からすれば果てしなく弱く、特に高価な戦利品を落とすでもないヤグードを、ケイン青年から無理矢理奪ってでも相手にする理由が――無い。
そう、少なくともこの捜査を通じて、彼らにあの青年の邪魔だてをする動機や理由というものが姿を見せた事は、ついに無かったのだ。
ガルカの件についても……否、ガルカの件こそ、本人が云ったような理由でもなければ説明がつくまい。この通路は危ない、だから通らない方がいいと、彼は親切から青年を止めたのだろう。半ば意固地になっていたのであろうケイン青年が、それを素直に聞けなかったのだ。
―― 了解した。 協力、感謝する。
私はついに最後となる締めの一言を口に乗せた。かすかに観念するような響きが、自分に返ってくる。
そのまま去ろうとする私の気配を察知したのか、タルタルの少女はあっと声を上げると私を振り返って叫んだ。
「ちょっと待って! サイン!協力したんだからサインちょうだい――いたぁっ!」
ついにゲンコが出た。自分の顔よりも大きな拳に真上から思い切りどつかれ、タルタルは頭を抱えてうずくまる。隕石でも降ってきたようなダメージではなかろうか。ひーひーと情けない声を上げている。
その傍らで、拳の主は礼儀正しく頭を下げて私に告げた。
「とんでもない。 お役に立てたのなら何よりです。ああ――もし彼にまた会いなさるのでしたら、ひとつ伝えて頂けますかな。焦るな、無理はするな、と」
ガルカの静かに微笑む瞳を見て、私は頷く。そしてふと思い出した。
そう云えば、一番初めに尋ねたタルタルの白魔道士も似たような事を云っていた。どうか気をつけるように伝えてくれ、と。
知らず溜息が漏れる。結論は――出てしまったようだ。
タルタルの少女の不満げな呻き声を後に、では、と一言云い残して、私は軽く地を蹴った――
* * *
すぅ、と、眼前に展開されていた文字と数値の洪水が退いていく。
遠ざかるように周囲の明度が落ちる中、私は大きく息を吐いて、少し重くなった目を瞑る。
一日かけて洗い直した記録の全ては、彼ら七人の潔白を物語った。
白と暗黒、二人のタルタルは、ケイン青年がその拙い魔法で目覚めさせたカーディアンを掃討していた。
ミスラのシーフがホルトトで開けた宝箱は一つきり、そしてその正体はミミックだった。
赤魔道士のエルヴァーンは、その日の夜半までサルタバルタに居た。更に、彼は関与していなかったものの、驚いた事にその日の午後にはそこでガリスンが発生していた。
ガルカが落とし穴の下に見つけたモンスターは確かに存在し、タルタルのナイトはギデアスの奥で屈強なヤグードを倒していた。
もはや疑う余地はない。彼らがケイン青年を尾け回していたのではなかった。全ては恐ろしいほどの偶然に――いや。
一つだけ。この偶然を束ね得る、確実な事が一つだけある。
どこまでも気弱で、男として冒険者として望むべき色々なものが未熟なままの、あの青年が備えている、たった一つのスキル。
それは――未曾有の幸運だ。
二人のタルタルが盾となり、彼は自身が喚んだカーディアンになぶり殺されずに済んだ。
ミミックと知らず近寄りかけた宝箱は、シーフが代わりに倒してくれた。
赤魔道士の姿に怯えて足早に立ち去った後のサルタバルタでは、怒濤のようにモンスターが襲い来る、血で血を洗うガリスンの戦いが火を噴いていた。
飢えたヤグードが待ち構える穴に飛び込む愚挙を、ガルカが制止した。
誤って斬りかかったヤグードにひとひねりにされる悲劇からは、タルタルのナイトが守った。
幸運。 幸運。 幸運。 幸運。
もはやそれ自体が、彼の持つ第一の実力なのではないかと思える程に、彼の命の灯はありとあらゆる幸運に守られていたのだ。
視点を変えれば――まるで彼の取る無謀な行動の一つ一つが、彼自身の幸運の限界に挑んでいるようにすら見える、奇特な事実。
この調査で証明された事はただ一つ。ケイン青年が、奇跡にも近い強運の持ち主であるという事だ。
それを告げてやればいい。彼の怯えから生まれた猜疑心は不要のもので、あの者達は皆、図らずも彼を助けていたのだと。それは感謝すべき僥倖なのだと。そう伝えればいいのだ。
しかし――先程から私の心は、その思考とは別の所でゆっくりと波立ち始めていた。思考が進めば進むほどに、ころり、ころりと腹に石を投げ込まれるように、気持ちが萎え、重くなっていく。
私は気付いていた。そう、この鬱々とした落ち着かなさの原因は――――
『ちょっと!! 聞いてるんざましょう!?もう丸一日経ったってのに、まだ調べ終わらないんざますか!!一体何をちんたらやってるざます!!』
――――これだ。
まるで地上から見ていたのではないかと思うほどに絶妙のタイミングで鳴り出した通信。私はそっとこめかみに手を当てる。
ガラスの表面を掻くような甲高い音波は、それだけで場の空気と周辺機器をびりびりと震わせるようだ。周囲に居る数人の同僚が、驚きと哀れみのないまぜになった視線を私に向ける。
深く深く溜息をついて、私は思う。
……あの七人の冒険者達ならば、この窮地をどう切り抜けるのだろうか。
ああ、ついでに訊いておくべきだった――
End