テノリライオン

07-02-13

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corelli

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虚淵 玄「Fate/Zero 1」読了。


Type-Moon制作ビジュアルノベル Fate/stay nightより遡ること10年前、第四次聖杯戦争の話。
以上説明終わり、そんな本編はともかくとして(おいおいおい)。

作者、虚淵玄氏のあとがきより抜粋。

虚淵玄は、心温まる物語を書きたい。
過去の私の芸歴を知る人ならば、笑えない冗談だと眉を顰めることだろう。だって他でもない私自身がそう思う。この指がキーボードを叩くたび、現れ出るのは狂気と絶望の物語ばかりなのだから。
昔は、それでも、まだマシだったと思う。手放しで喜べるようなエンディングではないにせよ、(中略)そういう結末を描けた頃が、私にも、あるにはあったのだ。
それがいつの頃からか、出来なくなった。
(中略)
物語というのは、まぁ総じて放っておけば悪い方向に転がっていく。どう転んだところで宇宙が冷めていくことは止められない。“理に適った展開”だけを積み上げて構成された世界は、どうあってもエントロピーの支配から逃れられないのである。
故に、物語にハッピーエンドをもたらすという行為は、条理をねじ曲げ、黒を白と言い張って、宇宙の法則に逆行する途方もない力を要求されるのだ。そこまでして人間讃歌を謳い上げる高潔なる魂があってこそ、はじめて物語を救済できる。ハッピーエンドへの誘導は、それほどの力業と体力勝負を作者に要求するのである。

そのとおりだ、と思った。
これが正しいかとか健全かとかそういう論議は敢えて全部うっちゃって、このセンテンスを読んだ瞬間に、私は電車の中で深く頷いてしまったのだ。

そのとおり、ハッピーエンドって奴は本当に書くのが難しい。ド素人として駄文を書きながらいつも、「そりゃ都合が良すぎないか」「そんな訳があるのか」と囁く自分が常に背後に居た。
筆力を含めた「力」が私にない、などは言わずもがなだが、それを差し引いても、物語がそのように締め括られる、という事に、いつもかすかな後ろめたさがつきまとうのだ。
なのにハッピーエンド以外の結末を書く事を、自分の中の何かが許さない認めない。媚びとか見栄とかえーかっこしいとか、多分正体はそんなものだと思う。

悪い境遇酷い展開哀しい運命、少なくとも日本という風土に於いては、それが物語というものの屋台骨だ。
それらを乗り越えて明るい未来を導くからこそ物語は素晴らしい、負の道程は正の結末を意味づける為にあるものだ、という説も確固としてあるけれど、そもそもその屋台骨を覆したり凌駕したりするには馬鹿馬鹿しいほどの力が要るのだ。
ある事に対して力が沢山要るというのは、すなわちそれが流れに逆らっているという事の証拠であり――

ああ、やばいことに気付いてしまった。


さて、そんな愚にも付かない戯れ言ばかりではあんまりなので、ちゃんと本編の感想なぞを。

いやはや、想像以上に面白かった。まぁ上記のあとがきから推し量っても徹頭徹尾ダークムードなのはもはや必然として、Fate/stay nightばりの濃厚感やゴチャゴチャ感(笑)も見事に踏襲されており、内容ではなく文章力という意味ではラノベでは断じてない。ちなみに巻頭カラーと章の頭以外には挿し絵もない。人名の最初の一回と、正規でない読み方をさせる以外の漢字には、どんなに難読でも一切ふりがなもない。
それぞれのキャラクターの特徴付けが光る。特に、登場当初は随一のアホキャラ(笑)っぽかったライダーが、終盤に向けてみるみる男前になっていく様は実に見事だった。
戦闘シーンもなかなかに読ませるもので、各人物の行動様式や情念などをしっかり絡めつつ実にダイナミックに動かしている。
更に、ネタバレになってしまうので詳細は伏せざるを得ないが、クライマックスではそれはもうありったけの要素を投入し、なおかつ破綻させず無理なくきっちり収めて結ぶ手腕には頭が下がった。
続刊中、全4巻の予定らしい。セイバーが壮絶に挫折し絶望し慟哭するらしい。
何しろFate/stay nightを楽しくクリアした人には激しくオススメ。

……あれ、何でこんなにベタ褒めしてるんだろう(笑)
まぁあれだ、そのくらい面白かったって事で。
ちなみにType-Moon発行の本なのでAmazonには無し。大型書店なら置いてるのかすら。っつーか私は新宿とらのあなで買いましたw


カテゴリ: [読書] - &trackback() - 2007年02月13日 22:48:58
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