テノリライオン

永遠の延命

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corelli

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 ―― 冥府の亡者にすら、昨日と同じ今日は巡り来ない。


                       テュロス=ワイズナー「霞まとう旅人の糧に」より――


  *  *  *


 紅き獅子が見守る大聖堂の傍らで、冒険者と若い男が言葉を交わしている。

「――魔除けを作るには、コウモリの翼が2つほど必要なんだ。もしできたら持ってきてくれないか?」
「いいですよ。コウモリは気味が悪くて少々苦手なのですが、退治することがあったら真っ先にお渡ししましょう」
 頼んだよ、と男はすがるような目で頷いた。

 ………………

「取ってきましたよ、コウモリの羽根。4枚ですが……」
「感謝する! これで少しは闇の侵攻が抑えられるかもしれない。数はあればあるほどいいから、また頼むよ」


  *  *  *


 広大な防空壕の集落で、冒険者と主婦が言葉を交わしている。

「――もしタブナジアの料理に関する文献を見つけることができたら、持ってきてくれないかい?」
「料理書? それは私も興味がありますね。書棚のある所を探せばいいのかしら……わかりました、注意しておきます」
 助かるわ、と主婦は胸に手を当てた。

 ………………

「これですよね? 何だか聞いたこともない食材の名前ばかりみたいですけど、お役に立つのかしら?」
「ありがとう! これでまた新しい料理を子供達に作ってあげることができるよ」


  *  *  *


 水と緑に囲まれた学舎で、冒険者と研究者が言葉を交わしている。

「――そのギデアスの名水の入手を、君に頼んでもいいだろうか? ……というのは、危険な場所に行ってもらうことになるんだけど……」
「お易い御用だ。ギデアスの化け物なんざ、俺様にとっちゃ屁でもねぇ。ナメてもらっちゃあ困るな」
 それは頼もしい、と研究者は薄く微笑む。

 ………………

「そらよ、こいつのことだろう。用途なんざよく判らねぇが、入り用になったらいつでも言いな」
「ありがとう、これが報酬だ。また今度もよろしく」


  *  *  *


 荒野の片隅の港町で、冒険者と商人が言葉を交わしている。

「――ゴブリンが何か埋めた跡をチョコボで掘ってみるといい。大半はガラクタだが、それをワシが引き取ってやろう」
「へぇ、そんなんで商売になるの? じゃあ今度試してみようかな、また来るよ」
 是非、と商人は手を振った。

 ………………

「おじさん、僕のチョコボが掘り当てたよ。ゴミだと思って捨てちゃう所だったけど……」
「おお、持ってきよったか。どれどれ、買い取るとしよう。また探して来るんだな、待っておるぞ」


  *  *  *


 機械と鉱物に飾られる工房で、冒険者と製鉄技術者が言葉を交わしている。

「――試してみたい素材があるんだよ。バルクルムの太陽砂っていうんだがな。なんとか手に入らないものかな?」
「ふむ、その名前はセルビナで聞いたことがありますな。そのような事に役立つものとは……わかりました、お引き受け申しましょう」
 待ってるよ、と技術者は白い歯を見せた。

 ………………

「これでよいですかな。美しいですが、何やら怪しい光を放つ砂ですなあ」
「ありがたい、これで試作ができる。また手に入れたら持ってきてくれよ!」


  *  *  *


 ――今日は……どうだ。

 ――昨日――よりも、少ない。
 ――……何故だ。
 ――ここの所、減る一方じゃないか――
 ――以前からの蓄えも――じき底を。

 無色の気配が蠢く。
 さながら水の中を漂うクラゲのように。

 ――底を……突く。
 ――供物が。
 ――我等が神に捧げる……供物が。
 ――このままでは――――――

 無色の気配が蠢く。
 さながら軛を失った炎のように。

 ――解けてしまう。
 ――世に――留まる――姿が。
 ――溶けてしまう。
 ――供物を……欠かしたが最後――

 ――ああ……重イ。
 ――体ガ、重イ……


 ――消エタクナイ……


 ――消エタクナイ……


 ――……もっとだ。
 ――もっと、集めなくては……
 ――集めてもらわなくては……

 ――もっと……


  *  *  *


「――数はあればあるほどいいから、また頼むよ……」

「――また今度もよろしく……」

「――待っておるぞ……」

「――持ってきて……」


End

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