テノリライオン

07-09-28

最終更新:

corelli

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もういいんです。


急ぎの仕事もなく比較的まったりとしていた今日の午後。
別室で行われている会議を抜け出してきた係長が、何やら慌ただしくコピーを始めました。
ところが焦っていたのか、ホチキス機能を選択するのを忘れてしまったようです。あたふたと「ごめん、ちょっとこれホチキスしてくれる、3枚ワンセットで」と私にコピー用紙の束を手渡し、更にコピーを続けます。
おやおやと急いでホチキス片手に手近なテーブルにつく私。

40枚近くあるコピー用紙はまだほかほかでよく乾いており、そしてちょっとだけ内側に反っていました。
これは紙が最も指にひっかかりづらいコンディションです。
銀行員がお札を数えるように軽くずらしてみるものの、どうしてもぴしぴしと滑って3枚ピックアップするのに変に時間がかかってしまいます。
指サックを持ってこようかと思いましたが、どこにあったかすぐに思い出せない。その探索に費やす時間と、このまま意地で進める時間が大差ないような気がする。
現在進行中の会議の資料です。とにかく可及的速やかに持って行かなくてはなりません。
しかしコピー用紙は憎らしいまでにつるーりぺたーり。爪でひっかけようとしてもなかなか言うことを聞きません。そうしている間にも時間は刻々と――

その刹那。
生まれてより封印していたあの最終奥義が、メフィストフェレスの含み笑いの如く私の頭をよぎる。
部屋には係長だけ。今私は彼に背を向けて作業をしている。
廊下に通じるドアとの間には衝立が。誰かが入って来たとしても、すぐに姿を見られる事はない。

――どうする。やるのか。
――馬鹿な。この禁忌を破るのはもっとずっと先だと、自己と世界の同化をあるいは乖離を、完全に果たした時だと決めていたはずじゃないのか。
――これは笑わせてくれる。自分が未だその彼岸の前に留まっているつもりでいたのか。
――ほざけ。むしろ死ぬまで渡るつもりはなかったわ。しかし――
――そう。しかし今は時間がない。安心しろ、誰もお前を見ちゃいないぜ。
――…………
――お前一人の胸に仕舞えばいいのさ。会議はどんどん進んでる。そら、彼の方のコピーも終わったらしいぞ――
――くっ――!


れろ。


いやはや、砦というのは案外あっけなく崩れるもんですね。
「指にツバつけてモノをめくったらオバちゃん」だと、職場はもちろんスーパーのレジ袋でも頑なに拒んでいたこの所行に、ついに手を染めてしまいました。というか墜ちてしまいました。
「絶対にやらない」のラインが、「人の見ている前ではやらない」にまで引き下げられてしまった瞬間です。
何でしょう。土下座とかとおんなじで、やったが最後自分の尊厳がじわじわ損なわれていくようなこの危機感は。

思いがけなくヘコんだので、とりあえずもうすぐ帰ってくるであろうダンナに相談しようと思います。
ちょっとこのアクションを見て欲しい。これを見てどう思う? と。

血の雨が降りませんように。


カテゴリ: [雑記] - &trackback() - 2007年09月28日 21:52:23
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