ナギの過去

記憶の欠片~ナギの場合~

これはナギがまだ機械の身体を手に入れる少し前のお話―――。

ナギはヴァンスター帝国内の小さな街の外れにある孤児院で育った。
当時のヴァンスター帝国の皇帝は、極端な実力主義思想の持ち主で「我が帝国において力を持たぬ者は生きる資格がない」とまで謳っており、力のある者たちが豊かな暮らしをおくる一方、力のない者たちはひどく貧しい暮らしを強いられていた。
それはナギたちのような孤児もまた例外ではなく、孤児院での生活はとても貧しいものであった。
しかし、その孤児院のシスターはとても心優しい人で、孤児を見付けては自らが切り盛りする孤児院に連れ帰り、貧しいながらも皆でとても暖かな暮らしを送っていた。

そして、ナギが18歳になった頃―――。
その頃のナギは街にある自警団で働き、孤児院に稼ぎを入れていた。
ナギは幼い頃から頭脳明晰で、街の中にある古本屋に忍び込んではそこにある様々な本を密かに読み漁った。
その中には魔道書のようなものも置いてあり、簡単な魔術であれば、ナギが8歳になる頃には既に使えるようになっていた。

ある時、ナギが自警団として働く町に、“クラン”を名乗る集団が姿を現す。
彼らは悪政を敷く現皇帝を打ち倒さんと各地で有志を募っているらしかった。
これはチャンスかもしれない、ナギはそう考えた。
現皇帝を打ち倒すことができれば、今のこの国の情勢も変わるかもしれないし、なによりその報酬があれば孤児院での生活ももっと楽になるはずと考えたのである。
そうして、ナギはクランの一員となった。

ナギが加入した後も、クランは各地で有志を募り、徐々に戦力を拡大していった。
そうして2年の月日が流れた頃、遂に現皇帝を打ち倒すことに成功する。
新しい皇帝にはクランを率いていたゼダンが就任し、帝国は変化の一途をたどることとなる。
ナギが所属していたクランの分隊は、その後、秘密結社“クランの番犬”と名を変え、未だ残存している旧皇帝派(以下、反皇帝派とする)勢力の制圧任務を秘密裏に行っていた。

そんな中、ナギは番犬内にて、新型エクスマキナの開発を行っていた錬金術師の夫婦、ルイスとミランダに出会う。
彼らの雰囲気は、孤児院のシスターとどこか似ており、いつしかナギは本当の親子のように彼らと親しくなっていった。

それから1年の月日が流れたある時―――。
ナギは任務にて、反皇帝派に不意を突かれ、致命傷を追うこととなる。
どうにか番犬に帰還することはできたものの、治療の施しようもなく、静かに息を引き取った。
暗闇の奥底に意識が沈んでいく中、ナギは誰かの声を耳にする。
その声の主は、自らを大地の神にして神々の母、ダナンと語った。
ナギは神であるダナンに対し、まだ死にたくないと強く願った。
すると、暗闇の先に一点の光が差し込み、その光は徐々に暗闇を照らしていく―――。

ナギが目を覚ますと、そこはルイスとミランダの研究室であった。
また驚いたことに、ナギの身体は、彼らが開発していた新型エクスマキナ(17歳)となっていた。
ルイスとミランダは次のように語った。
この新型のコアには七大神の巫女の護り石が使われており、その石の力が死後の世界へと向かっていたナギの魂を現世に引きとどめた。
そして、この護り石の持ち主である巫女はシータという名の彼らの娘であり、シータの巫女としての力を奪うためにこの新型は開発されていた。
全ては自分たちの娘が普通の人間として暮らしていけるように。
この新型は、シータが巫女として目覚め、その力が強まれば強まるほど、それを原動力により高い性能を発揮する。
しかし、石の持ち主であるシータが死ぬようなことがあれば、動力源として石から隷属していた巫女の力がいつかは枯渇し、その機能を停止させてしまう。
そういった内容であった。
そしてそこまで話すと、彼らの面持ちは徐々に切迫したものへと変わっていき、ポツリポツリと話を続けた。
この一年の間に、クランの猛犬のトップであるヌルに君臨したマスターと呼ばれる男、その男はおそらく魔族であり、自らを脅かす存在である七大神の巫女の命を狙っている。
そして現皇帝であるゼダンも、ヌルの魔力によって操られている可能性がある。
だから、折り入って頼みたい。
ライン王国にいる私たちの娘を、シータを守ってやってはくれないだろうか。
彼らはそう口にした。

ナギはザックリとではあったが今置かれている事態を把握する。
そして、自らの命を救ってくれたルイスとミランダに対する恩返しをしたいと感じ、その頼みを受けることにする。
その後、ルイスとミランダは、ナギが動きやすいようにと自らのツテを使い、パリス同盟への密偵任務がナギに下されるように手配してくれ、またナギの留守中、孤児院の皆に危険が及ばないように取り計らってくれると言ってくれた。

そうしてナギは、パリス同盟に入り込み、密かにシータを守ることとなったのである―――。

【補足】
  • ナギの育った孤児院にはひより◎もおり、ひより◎はナギを兄のように慕っていた。
  • エクスマキナの身体は歳を取らず、ガードナーとして旅立つまでに7年の歳月が流れているが、未だに17歳の外見を保っている。
最終更新:2016年11月06日 21:27