安池有紗
■キャラクター名:安池有紗
■ヨミ:やすいけ・ありさ
■性別:女性
■武器:園芸用ナイフと園芸用品
特殊能力『亡霊大隊』
死体を使役する能力。
それが死体であると、彼女が認識していれば、どんなものでも操ることができる。
ただし、死体に分類されるものであっても意思があるものを操ることはできない。
彼女にとって意志ある死者は友人であるから。
設定
姫代学園の生徒。中等部2年生。
園芸部の部員。
ウエーブのかかった灰色の髪と深紅の瞳を持った少女。
装着している半面形ガスマスクは、通販で普通のマスクと間違えて注文してしまったもの。
処分するのももったいないので、そのまま使用している。
最近のお気に入りは通販で買ったサメのパジャマ。
霊感を持ち、死者と会話ができる彼女は、幼いころから幽霊に囲まれ生活してきた。
彼女を不気味に思った人間や魔人たちの迫害により、彼女の死者への依存心を強めていった。
そのせいで周囲の人間からさらに孤立していった。
人間不信。生者の友人を作ることはできないと思っていたし、作る気もなかった。
あの日まで。
山乃端一人を殺す理由
山乃端一人と友人になりたい。
いつも一人だった。
違う。そうではなくて。
いつもみんなと一緒だったた。だから一人だった。
それでよかった。そのはずだった。
狂ってしまったのは全部あの日のせい。
梅雨入りが近づいたあの日も輝く太陽が姫代学園を照らしていて。
私の花壇に小さなアンチューサの花がたくさん咲いていて。
それは空のように青く、とてもきれいで。
私の心を映し出す鏡のようで。
出会わなければよかった。
もしそうならこんな気持ちを抱えることもなかったから。
◆◆◆◆◆◆◆◆
安池有紗が特異だったのは人には見えないものが、彼女には見えたということだ。
それは魔人能力とも違う、彼女の特別な異能だった。
「ねえ、私と遊ぼう」
彼女は自然と見えない世界の住民たちと仲良くなり、楽しく過ごしていた。
周囲には綺麗な花が咲いていて、とても賑やかだったことを彼女は今も覚えている。
今も彼女の心の中に残る美しい思い出の1ページ。
だが、それは人間の世界から孤立を招いてしまった。
有紗が住んでいた場所が、古い因習にとらわれているような閉鎖的で排他的な村だったことも彼女にとっては不幸だったのだろう。
安池有紗の異能を知った多くの村人たちは彼女を不気味がり、悍ましいと迫害した。
魔人もそれは例外ではなかった。
普通の人間が魔人を差別し、排除しようとしたように、魔人たちも彼女を排除したのだ。
自分が村から排除されないために。
だから、彼女は村ではずっと一人だった。
正確に言えば、友人がいなかったわけではない。
けれど、結局、彼らも最終的には彼女を排斥する側に回ったのだ。
彼女はそれを寂しいとは思わなかった。
とまで言ってしまえば、嘘になってしまうかもしれない。
やはり、友達に裏切られるのは寂しいものだ。
けれど、幽霊の友人たちが彼女の寂しさを紛らわせてくれたのだ。
綺麗な花畑で彼らと過ごしていた日々は有紗にとって幸せだった。
だから、それでよいと思っていた。
人間の友人がいなくても、自分には問題がないのだと。
あの時は確かにそうだったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
有紗が姫代学園に入学したのは、魔人を積極的に受け入れている学校であり、学園内に寮が備え付けられていることが大きかった。
その性質上、家庭で持て余すような厄介な魔人も受け入れているらしかったが、そんなことは重要ではなかった。
生まれ故郷の村から離れて、彼女一人で生活できるならそれで問題はなかったのだ。
村に未練はなかった。
村も村の住民も嫌いだった。
人間とは関わりたくなかった。もちろん魔人も例外ではない。
新しい友人を作りたいとは思わなかった。
だから有紗は姫代学園では一人で過ごしてきた。
ただ、花は好きだったから、園芸部に入ることにした。
有紗は花壇を与えられたので、そこでアンチューサの花を育てることにした。
花を見ているとでみんなと一緒で過ごしていた日々を思い出せた。
桜の樹の下には屍体が埋まっているというのは有名な話だろう。
花の美しさとは死と密接につながっているもの。
それが有紗には望ましく思えたのだ。
死はずっと彼女の友人だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
山乃端さんと出会ったのは2年生のある初夏の出来事だった。
その日、私は学園の寮を出て、街へ買い物に出かけた。
花壇の手入れをするための新しい園芸道具がほしかったし、そういうものは通販のより自分の目で確かめてみたかった。
ガーデニング用品店に向かうため、暫く私が街を歩いていると、後ろから私を呼び止める声が聞こえた。
いつの間にか、ポケットからハンカチを落としていたらしい。
それに気づいた彼女は私を追いかけて、声をかけてくれたのだ。
その時は「ありがとうございます」とお礼を言って別れた。
人間は嫌いだけど、お礼ぐらいはちゃんとする。
人が嫌いだからと言って、他人を不快にしたいわけではないのだ。
姫代学園に戻った後、その日も私の花壇で花の世話をした。
アンチューサの青い花がとても綺麗だった。
特に劇的な何かがあった訳ではないが、人の出会いなんて案外そんなものなのだろう。
人生で大きな出来事だからと言って物語のように進むとは限らないのだ。
もう二度と会うことはないだろうと思っていたが、数日後、山乃端さんと再会した。
買い物をしていた時、偶然同じ商品に伸ばした二人の手が触れたのだ。
「貴女、あの時の」
彼女は以前のことを覚えていたらしく、私に話しかけてきた。
正直、面倒だなと思った。だって、私は人間が嫌いだから。
だから、適当にやり過ごそうと思った。
暫くその場で立ち話をした。
そのあと、二人とも昼食がまだだと気付いたので、近くの喫茶店に移動して食事をした。
それは他愛のない話だったのだけど、なぜか楽しいと感じている私がいた。
その後も彼女とは何度か会う機会があった。
二人でいろんな話をした。
正直それはとても楽しい出来事で。
私が園芸部だと知った彼女は育てたアンチューサの花の写真を見て、「綺麗だね」と褒めてくれた。
私はとてもうれしくなって、いつか花壇を見に来ませんかと言ってしまった。
他人を私のパーソナルスペースに踏み入れさせようと思う事なんてなかったのに。
いつの間にか彼女と会うことを楽しみにしている自分がいて。
彼女と友達になりたいと思った。思ってしまった。
人間なんて大嫌いなのに。
けれど―――
彼女が優しくしてくれた理由。私を恐れなかった理由。
それは私のことを何も知らないからだ。
かつての友人たちや能力のことを知ればきっと彼女も恐れるのだろうと。
わかっていた。今まで出会った人間たちがそうだったから。
人間なんて信用できない。
そう私の心が訴えている。
「でも……」
それでも、山乃端さんと友達になりたいと思ってしまった。
そう願ってしまったから。
もうどうにもならなかった。
彼女に嫌われたらどうしよう。
きっと私は彼女を好きになってしまっている。
なのに彼女を疑ってもいる。
矛盾する気持ちに心が苦しくなって。
それでも、足を踏み出して苦しむ勇気なんて私にはなくて。
そうして、時間だけが過ぎていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから、季節は過ぎて今は冬になった。
花壇のアンチューサの花は枯れてしまった。
けれども、今も心の中に残り続けている。
山乃端さんへの未練も今も残り続けている。
どうしようかと悩んでいた時。
ふと、天啓が降りてきた。
山乃端さんを殺せばいいんだって。
殺せばきっと私たちは友達になれる。
だって―――
私の友達は死者しかいなかったんだから。
だから、あらためて伝えようと思う。
「どうか、私と友達になってください」って
最終更新:2022年03月05日 12:52