山乃端一人をめぐる物語を書きながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
とにかく人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、己が居場所を探し越したくなる。
海を越え、頂きを超え、どこに越そうとも、この世に己の唯我以上のものありえぬと悟った時、
人は、唯識無境の人となる。

けれども無境の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向う三軒両隣にちらちらするただの”人の認識”(まなしき)である。
ただ”人の認識”(まなしき)が作った無境の世が住みにくいからとて、越す国はもはやない。
あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は無境の世よりも住みにくかろう。

越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所を、くつろげ、住みよくせねばならぬ。
永劫のときの無聊をなぐさねば、ならぬ。
ここに新世界創造という天職が出来て、新たな世界(かこい)を作れと使命が降る。

そして降りてくる
鬼が、人をさらいに
人でなしの鬼、その名を『転校生』という。

◆◆◆

JO嬢の奇妙な純情~その転校生が俺TUEEEEなのに純愛すぎる~



◆◆◆

転校生活(エイプリルフール)1日目。

空渡丈太郎は、大ホールでの末那識(まなしき)千尋(ちひろ)への面通しが終わると
案内役の白服に連れられ、外へと出た。
説明は以上だ。何かしたいことはあるかと問う白服、阿摩羅識あらかの問いかけに
丈太郎は首を横に振った。
彼は見失っていた
無聊をかこつ等といえば、聞こえはいいが生き様を失っていた。

九死に一生を得た自分は拾った命で、同胞のカタキを追いかけ
東京へと舞い戻った。
けれど同じ釜を喰った仲間の仇は討てなかった
けれど渦中で最愛の人を喪った。
今の自分には何もない。漢のシンボルは消えたまま、今なお胸には大きな穴が開いたままだ。
増えたのは胸のわずかばかりの膨らみとはどのような皮肉であろうか。

それでも回ってみるがいいと白服は言う。
どさ周りかと自嘲気味に笑い、いまだ未練がましくまとう学ランを翻す。そこに風切る音など聞こえなかった。

「無境の世」は区切りがない世界。どこまでも広がりを持つが、
転校生同士がつながりを保てるようにとの配慮から識家の拠点は様々な施設・空間へとつながっている。
彼女がそんな一つを所在なさげに歩いていると、ばふりと何かが背中に組み付いた、
背に伝わるぬくもりに驚いた。何やらよい香りがする。

「ぬあ。」
「これは、高出力ご主人様の気配~。あなたはご主人さまですか?」

緊張感の抜けた声を上げた丈太郎の背からメイド服が、いや、メイド服姿のメイドが抱き着き
手をまわして、あれこれ丈太郎の体をまさぐる
「あれ、あれ、あれ、あれーーーこれはいけません。可愛い女の子ではありませんですか。
これは『謎』です。
こう鬱屈した青年男子の女々しいすえた強いGSP(ご主人様ポイント)を感じたのですが、おかしいですね。」

メイドの言葉がぐさりと刺さる。
彼女はさんざ自分をまさぐるとようやく得心行ったか、丈太郎の体を開放し、優雅に一礼をした。

「初めまして、私は〼虚(クチナシ)迷言(マヨイ)と申します。
見ての通り『ご主人様』におつかえするメイド職。貴女は新人さんですか?」

聞けば、未曽有の宇宙災害が発生しており、それに対する協力者を求めているということだ。

「今、仲間を募集する、ちらし配りのお仕事中です。私は派閥で言うと『箱舟』派になりますね。
よくわからない?でしたら説明会はいつもやってますので一度覗いてみてください。」

受け取ったチラシには説明会の場所が書いてある。
ただ肝心の会の詳細は謎の黒塗りで塗りつぶされ、何も読み取ることができなかった。
「・・・・なにやっているところなんだ」

その呟きに呼応するように、ターンと小気味のよい音を立ててメイドさんが身をひるがえす。
ふわりとメイド服の裾が絶妙に(中が見えない範囲で)浮かび上がり。そしてメイドさんは、指を唇に当てポーズをとった。
「それは――――【謎】です。」

いや、それだとチラシの役担ってないんじゃないか。

◆◆
転校生活(エイプリルフール)2日目

「山乃端一人が多くの世界で刻一刻と失われている。
楽園派の転校生は有効打を打てず。ただ、貴重なるリソースを無駄に費やしているのみ!
あえていおう!カスであると!!」

丈太郎が今いるのは大学講堂を模した施設の一室。
そこでは『箱舟』派筆頭の「蔦木愛美」の熱情的な演説が続いていた。
ポニーテールにした艶やかな緑髪と全身の鎖をゆらしながら、ドンと強く机をたたいた。胸は全く揺れなかった。

「守れぬ存在に彼女の傍に立つ資格なし!
自分たちの世界に【保護】し、守護するのだ。来たれ!同志よ!」

拍手とそれと同時に起こったアイビー・コールに、彼女は手を挙げこたえると壇上を後にする。
結構な支持層がいるようだ。
現在、大災害に対し、それを防波堤となり食い止めようという楽園派と
精子に狙われている山乃端一人を隔離し、安全を確保しようという箱舟派に分かれているらしい。

「・・・・。」
以前の彼、彼女が昔のままなら「漢を磨くんじゃ」といって楽園派で壁になる道を選んだかもしれない。
けれどこの時、この日の彼女は寄る辺なし有様で、己の羅針を喪っていた。
大きなことは土台、無理でも、小さなことならと…流れのままに流された。
今後プロジェクトに関する『秘密』を遵守するという参加意向を示すサインを行った。


転校生活(エイプリルフール)3日目
心機一転、頑張ろう。

翌日、丈太郎を迎え、グループブリーフィングが行われた。
箱舟派は何班かに分かれて活動しているとのことだった。
初日にあったメイドさん、〼虚迷言は、箱舟派において顔役であるようで
メンバーの紹介を行ってくれた。
同席となったのは金髪碧眼の少女。手品師風の少女。平凡そうな青年。あと衛星。

はい、こちら、厨二病全盛期十四歳。財郷はかりさんです。
「光と影を抱きしめて。譲れない願いを今必殺のダブルエクスチェンジャー」

こちらのいかにもトランプを武器に戦いそうな顔してる方は、マジシャンの久松氷柱さん。
「え?やっぱ雰囲気からわかっちゃいます。光栄です」

そして数日中に何かやらかしそうな気配ぷんぷんの赤蔵ヶ池偽さん。
「ハハハハいやだな僕は約束事守りますよ。だって『転校生』ですから」

お月さまです。
「えいえいMOON☆」

その日はぽつぽつ話をし、最終的には遊戯王カードの話でそれなりに盛り上がった。
迷言さんは禁止カードの話になると無茶苦茶くいつきがよかった。
あの始まりの夜から自分は一人でいることが多かった。やはりそれがよくなかったのだろう。
少しだけ昔に戻れる。そんな気がした。


転校生活(エイプリルフール)6日目
今日も頑張ろう。
重要計画と書かれた今後の行動方針に関する計画書が渡された。その内容を見てわが目を疑う。
「並行世界の山乃端一人を殺害して密かに自分たちの世界に輸送する」?いったい何を考えているのだ。
全員が山乃端一人んことを想う仲間ではなかったのか?彼女の存在や意思を蔑ろにしてこんな身勝手なことが通るわけがない…

「別に…私は山乃端一人の死体を触媒にしてあの子を蘇らす予定だから」
「いや転校生の報酬だって基本死ぬし。蘇生させれば一緒ですよ。レッツイリュージョン☆」
「お月さまは頑張るよ!すごく」

いや…こいつらは何を言っているのだ。
そんな中で、なれなれしく赤蔵ヶ池が、肩に手をまわしてきた。
「丈ちゃんさんさあ。大人になりましょうよー。もう薄々わかってるでしょ、ここは力がすべての修羅の世界だって。
僕たちみたいなピラミッド最下位のペーペーは上手く立ち回らないと即アウトですよ。契約の判、もう押しちゃったでしょ」

その際、丈太郎の胸に手の甲をさりげなくすりつけるセクハラを敢行していたが、
それどころでない丈太郎は動揺し気づきようもなかった。


転校生活(エイプリルフール)7日目。
今日もがんばろー

重度の規律違反(およびセクハラ行為)を行ったとみなされ、赤蔵ヶ池偽さんが吊るされました。
お疲れました。


転校生活(エイプリルフール)8日目。

今日も一日――



転校生活(エイプリルフール)X日目。

今日も一日。

彼の心の中には荒廃した荒野が、広がっていた。

――
―――
―――――
――――――そんな時だ。彼とボクが初めて会ったのは。

会った時の彼は―――ああっと彼女か―――まあ、そんな感じだった。」

ハッピーさんとブルマニアンはなんともいえない顔で空渡丈太郎の辿った物語を聞いていた。
食事を終えた二人に食後の香茶を振舞いつつ、白帽子のあんちゃんはここで一度言葉を切り、
補足を行う。

「一応フォローしておくと、ここまで転校生たちのモラルが低下したのはつい最近のことだ。
転校生たちだって仁義はあるし、尊敬に値する人たちも多い。
けれど、そういった良識派の人たちがここ最近、相次いで亡くなって、
雰囲気というかな、全体の歯止めが利かなくなっていた。
明らかな異常事態だったんだけど、気が付いたころにはご覧の有様だった。

僕はだいぶ前から『転校生連続殺人事件』の真犯人を追う秘密特捜班—探偵の真似事をしていてね。
ヌガーさん、ワトソンといった転校生の有力なまとめ役を殺害した真犯人の影を追い、
精子災害の箱舟派に行きついていた。
だからか彼を一目見て、何に悩んでいるか一発でわかったよ。なので、うなだれる彼に僕はこう優しく声をかけたんだ。

「マッチングに悩んでいるんだね。性少年。なーに、そういうときはファイト一発。
山乃端ちゃんと夜のタイトロープ・ダンディにしゃれ込もう。
ハハハ、体の相性ばかりは重ねてみないとわからないからね
でも一応、山乃端一人が小学生だったときには手を出さないほうがいいよ。」と。

そしたら彼、何故か逆上して殴り掛かってきたんで、とりあえずボコって大人しくさせてから
「こんな言葉で平常心を失うくらい今の君は弱っている。さあ、話せるだけのことだけでも話してごらん」
と誤魔化し言いくるm―じゃなかった誠意ある説得を行い、こちら陣営に引き釣りこんだわけだ。

なんか途中までいい話だったが、最後のほうで全てが台無しになっていた。
ハッピーさんとブルマニアンの二人は前とは別の「こいつ大丈夫か」というなんともいえない表情を浮かべウェイトレスの少女を見た。
(申し訳ありません。この人アホなんです。)
彼女は表情だけで謝った。
「酷いなぁ。そういうときは一回大泣きにでも泣いたほうがいいんだよ。
感情を吐き出せないでためこむのはひどく辛いことだからね。」

孤立は人を追いやるが、牙をも研がせる。箱舟派は”彼”の縛り方を間違えた。
『悪行への沈黙と遵守』という逃げられぬ重荷を架したがゆえに瀬戸際の際で彼の『正義』は息を吹き返す。
目に光を戻した彼に、僕は3つの課題を与えた。

一つ、ボクの指導の下、真犯人の潜伏場所を『引き当てられる』『新たな魔人能力の概念』を身に着けること
一つ、近く行われる山乃端一人の強奪計画に名乗りを上げ、自らの実力で選ばれること
そして最後に、計画に選ばれた後、彼らを裏切ること。

君たちの隠語で言うところの『土竜』(内部捜査官)だ。
どこに潜むともわからぬ『黒幕』をいぶりだすため、穴を掘り、風穴を通した後は
与えられた役割と降り立った世界への滞留を放棄し、用意した世界に潜伏しろとそう伝えた。

それはあの子が掲げていた矜持からすれば恥ずべきことかもしれない
それでもあの子は悩み、もがき、苦しみ、泥をかぶりながら、それでも前に進むことを選んだ。
たった一つの譲れない何かを掴み、離さぬために。
おかげでようやく『彼女』からイニシアチブを奪えた。

◆◆◆
―姫代学園寮内【アイリ・ラボ】
いつもは謎の実験器具が並ぶ混とんとした徳田愛理の専用ラボも今日ばかりは実験中止。
綺麗にかたずけられ、客人をもてなすためのテーブルと椅子が用意されていた。
席に座るのは、彼女の友人、山乃端一人。
その横に彼女の妹の山乃端唯一(アインス)と超越者アヴァ・シャルラッハロートが座っている。
好奇心旺盛な唯一はラボの様子に興味津々のようで今もテーブルに置かれた通信端末用のペンギンのぬいぐるみを興味ぶさけに触っていた。
一人の対面には彼女の幼馴染、空渡丈子――を装っていた異世界からの来訪者、空渡丈太郎が、
まるで裁きを受ける罪人のような面持ちで座っている。
愛理は客人たちに紅茶を淹れ終えると自身も一人の横へとすわった。

空渡丈太郎が「話せることから話していく」とそう告げ語った内容は白帽子のそれとほぼ同じ内容であった。
彼ら箱舟派「転校生」は計画への志願を募った後、それぞれが山乃端一人を強奪するための備えに入った。
その間、丈太郎は、己の能力と心身を鍛え直すことに専念した。
皮肉な話ではあったが、その様子を見て、箱舟派の人間は彼に高い評価を与え、奪取の機会を与えた。
自身の未熟さを知り、自身がやるべきことがよく分かっていると。

「そして、わしは『真犯人の潜む世界」を能力で引き当てた後、あん人の手引きでこの世界に渡ったんじゃ。
ここはわしが元居た世界とは近うけん。出てきたらまずうことになるのはわかちょった。
けどのう『はじこ』の姿を一目、見たら、どうしても抑えきれなくなった。」
そして床に手をつき、彼らに土下座した。

「アヴァ師父。アインス。
愛理殿。そして、『はじこ』…皆をだます真似をしてすまなかった。」

額を床にこすりつけた丈太郎に皆は困ったように顔を見合わせた。
最初に口を開いたのは徳田愛理だった。
「私に関しては、特に謝ることないと思う
丈子ちゃんという貴方の別存在(オルタナティブ)自体と面識がないし、君は友達の危ないとこ助けてくれた恩人だよ。
ああ、でも着替えの際のあのリアクションってそういうことか…なんかこっちこそごめん」

次に口を開いたのアヴァ・シャルラッハロート。
「儂も謝罪を受ける謂れがない。最初から『並行世界の魔人』なのは分かっとったし、
接触時点で『転校生』であることも理解済。いずれにせよ我が軍門に下った時点ですべては不問よ。」
「そうなの?」
アヴァを膝にのせた唯一(アインス)の突っ込みに当たり前であろうと答えた。
「お前は幼かったから丈子に関する記憶あやふやだろうが、我は知った中。鏡助の件もあれば察するよ。
そういう意味でいうと唯一(アインス)も問題ない。基本、何も考えておらんしな」
毎度のことながらアヴァに雑に扱われた、唯一がぷくと顔を含ませる。

結局のところ、問題は一人なのだ。
丈太郎と山乃端一人との関係にすべては帰結する。

一人は改めて、目の前の少女の姿をしたナニカを見やる。
似ているというより何度見ても成長した丈子本人としか思えない姿かたちをしていた。

「私は―」

とそう自分の気持ちを言いかけて、違う。まず、いうべきことはそうでないと思いなおした。
たぶん『彼』がいた世界と私たちの世界が非常に近い、そうなら…

「丈太郎さん、『約束』覚えている?」

それはむかし、自分が彼女(丈ちゃん)とした他愛ない約束。
『彼』は大きく目を見開いた。
『彼』は出会ってから常に少しだけ自分と距離を保ち接していた。物理的にも精神的にも、常に少しだけ
まるで誰かに遠慮するかのように。
「彼女」とのその距離感が不満でぐいぐい詰めていった自分に『彼』はどこか寂しそうに笑っていた。

「ああ。忘れるわけがなか。」

『はじこが危ない目にあったら、どこにいてもどんな時も駆けつけて守ってみせる』

そうだ。そのために、自分はここまでやってきたのだ――
それは彼が、果たせなかった、けれど決して履くことができない記憶
ありがとう。
それは彼女が、伝えることができなかった。叶えさせることができなかった、吐かない思い。

ありがとう。来てくれて。少女はそう告げると、彼を抱きしめた。
丈太郎の目に遠い日の思い出が映る。
目の前の少女と瓜二つな少女の幻は丈太郎に向かって優し気に頷くと微笑みながら消えていった。



「なるほど、そういうだったか。ここ最近の流れがようやく理解できた。」
その様子を無言で見守っていた一同の水を差すように、唯一の膝の上から
突如、謎の女性の声が発せられた。声は「ぺんぎんのぬいぐるみ」からだった。

「師匠。盗み聞きはよくないよ」
愛理がいいとこだったのにと口をとがらせる。
「通信をOFFにしておかない愛理が悪い。会社で寝ているときは常時接続なんだ。レム中なら嫌でも聞こえてしまう。」
機会音声とは思えないほどの滑らかな凛とした知性を感じる声だった。
今度は丈太郎と一人へと話しかける。

「やあ、少年少女。イタリアンレストランでは碌にあいさつできなくて申し訳なかったね。
実に21時間14分ふりの再会だ。」

顔を見合わせる二人。誰だ。
「私は今井商事四課、入々夢美奈。
レム睡眠中だけ限定で活躍する迷探偵(、、、)『眠りの入々夢』とでも名乗っておこうか。探偵の助力は必要かな。」

マジで誰だよ、とか言ってはいけない。実はこれは有間SSプロローグにあった伏線、回収なのだ。
サンタぽい衣装の来てる奴は大抵、迷探偵か怪盗だ。そう決めつけていいと古事記にも書いてある。
決して安易な戦力増強ではないことはここに明記しておこう。

(・・・真陽たちに「おいてきぼり」を食らってさてどうしたものかと思っていたが思わぬ拾いモノもあったものだ。
さて義理と人情を秤にかけてどちらをとるべきか。見極めさせてもらうとするか。
なにせ、うちの会社には、君たちの敵対者の息が既にかかっているのだからね。)

◆◆◆神は賽を振らない。

亀有駅北口から歩いて10分程度、ぎりぎり足立区の領域にあたる寂れた商店街。
その名も「逢迷街道」。
そこの一角に、今井商事の本社ビルはある。

緊急招集を受け、集められた有間真陽、浅田るいな、鎌瀬居助の3人は
社長室に呼ばれると社長自ら直々の勅命を受けることになった。

「山乃端一人を確保する。生死は問わない」と。

トップが語り終えるのを待って営業三課、有間真陽は口を開いた。
「社長。理由を確認させてよろしいっすか?」

彼女やその父兄に資金を提供した記録もなければ、借金もないはずだ。回収のいわれがない
そして生死を問わないとはどういうことなのか? 

「それが『最善』だからだ。言いたいことは分かる。だが、先方から要請を受けた以上
――とにかく一刻の猶予を争う。『私にはそれが分かる』。すぐに任に当たって欲しい。」

だが、彼はそう繰り返すのみだった。
いつもなら変なまぜっかえしと茶菓子を用意しているはずの、営業1課の祓拓成も何も言わず沈黙し
今井社長の横におとなしく控えていた。
そして彼の横には先日イタリアンレストランでデスゲームを行った春風飛信子の姿があった。
あの後、今井商事は彼女が本来、被害者に支払うべき膨大な慰謝料を代行弁済し、彼女の身柄を『確保』した。
今は爆破装置つきの「白い首輪」をつけられ、祓の監督下に入っている。
真陽は、もう一度聞いた。

「社長。それは誰のための『最善』っすか?」
今井聡は沈黙した。
生まれる前、彼の前世であればてらいなく「自分にとっての最善」と答えただろう。だが、今はもう違う。
漠然とだが切実に感じる「この焦燥感」はなんなのか。それを言語化することができなかった。

「『最善』ならさっきから、なんでそんなに苦しそうな顔をしてるんっすか。
もし『会社が生き延びるための最善』ならお断りっす。今井商事は”みんなのためにある”会社っすよね。」

有間真陽は社長の理念に共感していた。今まであった誰よりも自分に近いものを感じ
シンパシーを感じていた。この人についていきたいと思っていた。

「ほかの二人も同意見か」
今井の問いかけに浅田るいなも鎌瀬居助もうなずく。今井商事は彼の能力に惹かれ、付き従って出来た会社ではない
彼の揺るぎない信念、『善性』に惹かれ集まった会社だ。今井は心の中で自嘲した。

自分はこいつの生き方にシンパシーを感じていた。導いてやらねばと思っていた。
だが、いつからか最善を最良と勘違いし、誰の何の最善かもあやふやなまま『従うだけの』男に成り下がっていた―――
可能性を縛っていたのは―――己の弱さか、それとも――

「営業三課、有間真陽。社命を覆したいなら、力を示せ。『屋号越え』だ。
社の基幹である、今井商事社長の『ヴィクトリアス・マイルストーン』に打ち勝ってみせろ。」

土台からひっくり返せ。任せるに足るかを『世界』に示せ。
「春風。ゲームC775を起動させろ。祓、お前も入れ、3VS3だ。勝ったやつが今後のうちの方針だ。」 

有間真陽は、笑った。
「るいなちゃん、鎌瀬クン―――私と一緒に死んでくれるっすか」
静かに頷く二人。一体どこでそんなカリスマを身に着けたのやら、だが今井が口に出した言葉は別のモノだった。

「魔人キャリア半世紀を舐めるなよ。そうそう容易く、うちゃらせたりはしない」

そして、その場に居たもの全てが姿を消す。こうして人知れず、世界の運命を決める最初の賽は投げられた。
それが、どのような目、結末を導き出すかは人の身では伺い知えない。
けれど。拳に握り、手から放つのはいつも人の意思だ。この世界の神は賽を振らない。

それでは一体、神という存在は何をしているのか―――? 何もしてないというわけではない。確固たる役割が存在する。
では次にこの世界の仕組みを語るとしよう。


◆◆◆いや、マジで賽を振らないとは思わなかったよ。どうしようソラちゃん。

レストラン「白蘭」にて。
来店したハッピーさんとブルマニアンに対し、店主人の白帽子が世界のあらましを語る。

転校生たちは最初に「転校生システム」を利用するにあたり『とある存在(かみさま)』と契約を結ぶんだ。
その『とある存在(かみさま)』は十二次元で構成されているといわれる今宇宙、
全てを観測できるといわれている。それが大雑把この宇宙の仕組みだ。具体的に言うと―

そういって自分の手に「おぼん」を乗せ、そこの上を見るようなしぐさを見せた。

「こうやって手の上のものを見てるのが神様で、お盆の上に『世界』と僕たちがのってる感じかな。」

彼女は時間や次元でなく『物語』を一単位として世界を認知するという癖があって。
提供される物語、人の認識なそを通して、世界を創造したり、安定運営させたりしていっている。
転校生の特徴に「嘘がつけない」「契約を遵守しなければならない」というルールがあるけど
これは、「転校生システム(物語作成ツール)」運用上の際に基幹である彼女にかかる負担を減らすためというのが主な理由だ。

そこが今回、狙われた。
「いつもなら奉納品(正史)は一つに絞り込まれて神様のもとに届くんだけど、

今回は、二十もの物語が全て同時に『正史』として成立(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)し、提供される段取りができてしまった
そして、
その内容ほぼ全てで(、、、、、、、、)『転校生』が神の意に反した『約束破り』(ルールブレイカー)を行っている。

これにより一定時間、彼女に尋常でない負荷がかかる。むろんそのことも問題だけと、なにより危険なのは
それを見た、神が、こう認識することなんだ。

≪ あれ?誰もルール守らないなら、もう転校生システムって必要なくね?  ≫ってね。

そう彼女が一瞬考えただけでシステムは破綻し、彼女にその考えを思い直してもらうまでシステムダウン、
緊急メンテ入りと相成るわけだ。
観測者がいない状態でも宇宙を維持することはできるけど極めて不安定な状態となる。
今の支配勢力である識家に反するものは、大喜びでその騒ぎに便乗するだろうね。

「具体的にはどうなるんですか?」
「さあ。不確定要素が多いから。多分こんな感じになるんじゃないかな」

そういって白帽子はおぼんを乗せたほうの自分の手のひらを返す
おぼんは、そのまま床に落ち、二度三度とはねた。安穏安穏、お盆の上に何も載ってなかったのが幸いだ。

「あー、なるほど。」
「仮に『手のひら返し』をなくとも多重負荷で現体制に打撃を与えれる。確かにサイバーテロだな。」
「識家は安定した世界を望んでいる。が、薪をくべることはやめられない。大なり小なりことは起こる。」

相手の話の切りを悟り、ハッピーさんが自分たちに関わるだろう事項、本題に切り出す。
「で、わざわざ俺を呼び寄せたのはどういう魂胆があってなんだ」

流石にこの「世界の真理」を聞かされている現状を単なる成り行きと思えるほど、お人よしではなかった。
自分に用があったから『呼び出した』のだろう。コイツなら、それぐらいのことは容易くやってのけるだろう。案の定、白帽子は首肯した。

「うん、今回の件で対応策はざっくり二十くらい考えたんだけど。案というか存在かな。
君が一番適任者だったんで、お手数だけど来てもらった。
ちなみに『助けて』とは言わないよ。言ってもいいけど…
僕に乞われたからって助けるほど君たちの世界は安くないはずだ。
どうするかは自身の意思で決めてほしい。世界を守るのかどうかを。」

「やすい挑発だな。識家の連中は俺たちの世界のことなど眼中にない。自分たちの世界は自分たちの手で守らなきゃいけない。そういうことだな。」
相手は今度は首肯も否定もせず、軽く頭だけ下げた。
ある種、自分たちが普段やってることと同じだ。上の連中の意向をはぐらかしながら
現場判断でことを進める。そういう「踊る走査線(ムービー展開)」は嫌いじゃない。

「わかった。何をすればいい。」
「まずは確保した『物語』に今回の真犯人『未来探偵紅蠍』を追い込む。
その成立を待って行動開始だ。
なぁに準備は万端。こちらで手筈はすべて整えておいた。君には一番おいしい『〆』部分をお願いしたい。」

そういって白帽子は手をかざす。『赤い本』が現れ、勝手にぺらぺらとページがめくりあがる。

しばしの沈黙沈黙沈黙。

「・・・・・・・・・・・・・・・・困った。
対象入りの物語が成立してないぞ。これはやらかしたかな。」

この先ダンゲロス。宇宙存続の保証なし。

◆◆◆

「うーん、どうしよ。ソラちゃん。」
「…いやほんと…もう毎度のことだけど…なにやってのよ…」
「一応100%に近い確率で『物語』が成立するよう戦略プロット組んでたんだけど
直前ルール変更とか一人四投稿とかは想定してなかったからね。まだまだ修行が足りない。」

いっている言葉の意味は分からんがとにかく大変な事態だということは分かった。
沈黙は金とばかり。状況を見守る二人。
そんなハッピーさんとブルマニアンに顔を向けると店主は手を挙げ謝意を示した。

「ごめん。ちょっと急用ができたので、席を外します。あとの段取りはソラちゃんにお願いすることにします。」
「はいはい。お任せあれ」
「あと、出し惜しみできる状況じゃなくなったんで、ぎりかさんもフォローお願いします。」

―――おいおい、裏方(オレ)まで引っ張り出すのかよ。

突如脳裏に響く天の声。ここまでくるともうなんでもありだろうと、
ハッピーさんとブルマニアンは、ごく自然体で聞こえないふりをすることにした。
環境適応の早さと腹のくくり方すごいな、この二人。

白帽子は本をしまい込むと別の本を開く、
「申し訳ないがここからは掛け値なしの総力戦。ぎりかさん、プラン『 P4-A 』でいきます。
待機中のアキちゃんに着点と同時に能力展開の指示を。」

もう飛ばした。現地の二人(・・・・・)にも伝達済だ。すぐ合流できる。
「流石。」
軽い笑いとともに店内につむじ風が起こる。
気づくと白帽子は一瞬で、トレンチコートとチェック帽と装いを変え、カウンター越しからこちら側にと立っていた。
テーブルに置かれていた岡持が『見えない糸』に引き寄せされるかのようにコートの男へと飛ぶ。

「じゃあ、ハピィさん、光さん、ソラちゃん、ぎりかさん。ボクはここまで。そちらの物語はよろしくお願いします。」
「いってRASHAI☆」
+ ...
床に現れた扉に飛び込むと、一瞬にして姿をくらました。
結局名を名乗らなかったが、まあ、ああいうタイプはそれすら何某の意味があることなのだろう。
「はぁ、とんだ、ラーメン探偵だ。で、俺たちは何をすればいい。」
「はい、お願いしたいことは2つあります。」
店主が飛び込んだ扉から、向き直ると
転校生・進藤ソラは居を改め、二人の客人に依頼したい協力内容を説明し始めた。

◆◆◆阿頼耶識ぎりかという暇人

本来の語り手がすっ飛んでいきやがったので、ここからはこちらで代理を務めさせてもらう。
俺の名前は阿頼耶識ぎりか。特技は「空間接続」。基本、裏方の人間だ。
交代制で『転校生カスタマーサービス』の電話番をしていることもあるから声くらい聞いたことあるかもな。まあ、君たちとはそれくらいの関係性だ。
語り口が少し変わるかもしれないが、そこはご容赦願いたい。

さて、物語の舞台は再び東京・姫野学園宿舎アイリ・ラボへと戻る。

徳田愛理の師匠に当たる”眠りの迷探偵”入々夢美奈を新たに加えた一同は決意も新たに
転校生対策の準備を整えることにした。
外部接続にも関わらず、外との時間の流れが異なるアイリラボで
通常会話を行える彼女に驚いた一同だったが
「そんなもの60倍の思考速度で対応すればいいだろう。実際に喋るわけではなし。」
と軽く一蹴された。愛理もまあ師匠なんでの一言で片づけた。天才どもめ。

1分が60分換算になる彼女のラボは、いつ始まるかも分からない戦いのミューティングとしては最適だった。
情報共有のための資料を作成すると今後の具体的対策に入っていた。
彼らは他の世界線の「山乃端一人の守りて」らと比べていくつか優位な点があった。
まずは襲撃者にあたる転校生側の情報。
箱舟派の情報秘匿の制約は計画実行前までということらしく、既に解除されている
丈太郎は知る限りの箱舟主要メンバーの情報をまとめ、共有化する。

「わしの知る限りの箱舟メンバーの情報は以上だ。
師匠の話だと今回、選ばれたメンバーは基本的に「撃退し得るという前提」で送られて来とる。
箱舟派以外の連中もいると思うが、そこまで圧倒的な力量差は発生ないはずじゃ。」

次に転校生に対するカウンターに関して
「この世界に『わしがいる』ことは誰も知らんはず。デスゲームの中をのぞけるような情報タイプも
いなかったはずなので『転校生』だと知る人間はいないはずじゃ。
その点で優位に生かして有利を取りたい。
フィジカル面で最大級は「お月さまだろうが、アヴァ殿の能力の影響下に入ればぶち抜けると思う。

徳田愛理が用意していたケースを各人に回す。丈太郎が中をのぞくと金属製のヨーヨーが入っていた
「丈太郎さんから聞いた話と要望を踏まえて専用の武器「合金製ヨーヨー」を作成してみた。
本体部分は投擲による運用を考えて、硬度重視。
紐部分は伸縮性高くして最大10mまで伸びるようにしてある。
転校生の無限の攻撃力が適用されれば、強力な一撃になるはずだ。
どこまで及ぶかは不明だから、一度、野外で検証を行いたいな」

丈太郎は頷き、手に取り、使用感を確かめる。悪くない感触だった。
能力はひも部分に伸縮性、本体は破壊力の強化を意識すればいいだろう。

「アヴァさんには丈太郎さんに渡したのと同タイプの伸縮タイプの紐(軽量番)と衝撃吸収を最大限にした新衣装。
あとアインスちゃん用にと頼まれた・・・軽量化したソニックブレードも作ったんだけど、
アインスちゃんにこれ渡しちゃって大丈夫なの?」

斥候・索敵に関して。入々夢美奈とアヴァの報告。
「緊急事態(転校生襲来)に備えて。今井商事のドローンを整備・点検中。
会社の許可取ってないけど、まあそれに関しては、いつものことだし。大目に見てもらおう
何か転校生に関する情報が得られれば、私とアイリが各ラボで分析する。」
「我の第二伏魔殿は既に各地へ展開中だが、ラボ内とは連携がとれん。我は外で物見と連携役にあたろう。
範囲系の転校生が来た場合は斥候体制維持は難しいだろうから、最低限残し撤収する。」

最後に入々夢美奈から、不確定要素を考えられるだけ挙げてくれと
丈太郎に注文が入る。

「例えば、君を追っかけて黒幕が乱入してくるなどの可能性。
逆に黒幕が山乃端一人の確保してこちらに送れなど指示を出すなどの社会戦の可能性とかね。」

実際にその手の指示が今井商事経由で来ていたのだが、そこはおくびにもださない。

「移動手段は既に師匠が回収しとるはずだから、後を追ってくるということはない。
その手の指示は少なくとも転校生に対してはないと思う。黒幕とは直接的接点がないからじゃ。」
丈太郎はしばし考えた後
「直接的なつながりがありそうなお人に心当たりはある。ただ、そん人は今回こない予定じゃ。
逆に、あまり言いたくはないが「もし来たら」。
もし、来たら「その世界は終わり」じゃ。絶対に助からん。」

丈太郎は淡々と理由を続けた。理由は、
自身を含めた箱舟派全員―を合わせたより、そのひと一人のほうが強いからだ。と。
転校生は嘘がつけない。全員が指示された情報を見直した。

「あ、そういえばどうやって丈太郎さん、黒幕のいる世界が分ったの?」
場の重い空気を読んだが、唯一が話題を変えた。確かにと頷く一同。

「うむ、ざっくりいうと『黒幕が潜んでいる世界のくじ」をくじ引きの際に引き寄せた。」
「確率操作ではなく、不確定な未来の可能性を手繰り寄せる概念操作か。
運命の女神の領域ぞ。チートじゃな、流石転校生」

アヴァの賞賛に、丈太郎はほほをかく、
「じゃけん。わしはそれ一つ覚えるのでやっとじゃった。
もうひとつ、師匠から教わった■■■■■■とか今だチンプンカンプンじゃし。」

???なんだそれと同時に首をかしげるアヴァと唯一。

「――今なんていった?」
「丈ちゃん。りぴーどあふたみー」
反対に過剰な反応を見せるサイエンス師弟。
鬼のような剣幕に途惑いつつ、言葉を繰り返す。

「もう一つは物理学者たちが使う――――――というものなんじゃが」
そのセリフを聞いて科学者二人は絶句し、頭を抱えた。

「それを手繰り寄せて掌握しろとか・・・そんなのありかよ・・・と、とんでもないクソ野郎だなオイ。」
「言葉は正確に使おう愛理くん。そいつはハイパーアルティミッドグランドくそ野郎ぐらいの呼称で丁度いいレベルのクソ野郎だ。科学を愚弄するにもほどがあるぞ」

通常の剣幕ではない。
「いや、それは使っては何か不味いものなのか?」
「「違う!むしろ/是非、呼び出せるものなら呼びよせてくれ!」」
恐る恐る聞き返した丈太郎に綺麗に声をハモらせた。
そんな中、ペンギンから警告音が鳴り響いた
いいところにと内容を確認した入々夢美奈が、なんともいえない口調で事態の急変を告げた。

「どうも東京から世界が孤立したようだ。何を言っているかわからないと思うが、安心したまえ。私も何を言っているかわからない。」
丈太郎の顔から完全に血の気が引いた。

そして、その日、世界は瞬時にして発狂した。


◆◆◆急変
―箱舟派、攻略拠点―

「大至急。山乃端の死体を送れ・・・・ですか・・・
あの黒幕(きょうはんしゃ)さんが、こうも慌てふためくなんてまさに『謎』です。」

携帯端末からメールを受けとった黒髪のメイドはそう独り言ちすると
自身がとる今後の戦略を練ることにした。

「まず 1)ご主人様探し。候補者確保(目標:1000人)
2)捕獲した候補者のご主人様の選別作業(厳選100人) 
3)4)がなくて
5)あたりで山乃端一人の確保。送るかどうかは気分次第

そう基本方針を決定してから、ニコニコととなりのハンガーに声をかける。
「というわけで残念ながらあなた方との楽しい部活動も、ここでお開きです。筆頭さん」

黒髪メイドの迷言さんの問いかけを受け、空中に固定され吊るされていた箱舟派筆頭・蔦木愛美が、
絞り出すような声で音をひねり出す。

〼虚(クチナシ)迷言(マヨイ)———ここに来て裏切るのか」
「はて。それは――――

『秘密』です。」

パチリ。その言葉を最後に彼女の横に高さ150cm横タテ長さ50cm余りの
黒に染まった長方立体が残った。ただし、これを知覚できるものは転校生でもまずいない。

「不死不滅の存在でも『秘密』で囲ってしまえばそれでお終い。
こうなっては流石の蔦木さんも 形無し、くちなしの人でなしですね。
気長にご救助お待ちください。まあ救助に来る人などもはやどこにも存在しませんが」

気が向いたら100年後くらいに解いてあげますよ。
メイド服の彼女はそいういと踊るように謡い、謳うように踊った。

「——これで『箱』船も無事『迷宮入り』。」

黒髪メイドは「ご主人様取り放題ツアー」と掛かれた旗をあげ、笛を鳴らす。
じゃらりと鎖の音が鳴る。
呼応して頭部を『謎』に覆われた――通称「謎人間」たちが姿を現す。
引く先には何百もの棺桶。
彼らは鎖を持ち「秘密」で隠されていた棺桶を引きあげると新たな世界へと進軍を開始した。


そして降りてくる

鬼が、人をさらいに

鬼すら怯える、掛け値なし(なぞかけ)の人でなし、彼女の名を『〼虚迷言』という。

+ ...
◆◆◆whodunit(誰がやったか)など決まっている

どこからか虫の羽音が聞こえてくる。

冬の日、東京の空は一面の曇りであった。
その灰色は、ただ厚く目の前を多い、色を何ものせることなく
群青をのぞかせることなく、白い雪で覆わせることなく、ただ、全てを覆っていた。

四肢を喪い、あとは死を待つばかりとなった
僕、一丸可詰丸(いちまるかつまる)は夏の日を思い出す。

「イチマルカ・ツマルマル。いい名前じゃないか」
自分は、本物の探偵と、出会った。
紅のコートの下にカッターシャツ。ベージュのスラックス。
黒髪が目を惹く、颯爽とした人。
囚われて隠されていた自分の『謎』を、その人は即座に解体してみせた。

――おまえは、なんだ?

僕は探偵になりたかった。
     いじめられる僕を   見て
鮮やかに謎を解い て見せた。世界一の迷探偵はこういったのだ。

「名前なんか気にせず、君が殺りたいように殺し尽くす(すべてをゼロに)がいい。『お気に召すまま(アズ・ユー・ライク・イット)』ってヤツさ」

白い箱を手でいじりながら世界一の名探偵は何でもないようにそう言葉を続けた。
箱を片手で放り投げながらルービックキューブのように鮮やかにすべての面をそろえて見せる。
これが正しい解だろうと
違う。何を言ってるんだ。お前は、

――君がやりたいようにするための必要な処置だよ――
元より矛盾だらけの名前を刻んだ身。 ならば、殺人鬼で、探偵であることに、何の不整合もありはしまい。

違う、ボクは迷言さんを
そう、違う。止めなくては、——違う、従えなくては、—--違う、 殺さなくては―違う
だから、その白い箱は――その箱は、すり替えるな。触るな。お前は『誰だ』。

怒りのままに叫んだ僕の視界が瞬時に赤く変わる。
朱く赤赤い赫赫・赫赫・
赫赫・赫赫・赫赫・赫赫・赫赫・赫赫・赫赫・赫赫・赫怒・赫怒・赫怒
赫怒・赫怒・赫怒・赫怒・赫怒・赫怒・赫怒・赫怒・赫怒・赫怒。視界一面が赫怒に染まっていた。
世界一の名探偵はその憤怒の咆哮を待ってましたとばかりに笑ってさらりと受け流した。

気が付くと今まさに死を迎えんとする僕を迷言さんがのぞき込んでいた。
心配げでなく悲しげでなく、ただ彼女は言葉を待っていた

「一切鏖殺せよ。」
僕は命じた命じた。命じたくなどなかったのに命じた。自動機械のように。
その何の感情も含まぬ、その言葉に彼女は嬉しそうにほほ笑んだ。

「受け賜りました、ご主人様。全ては貴方の思うがままに」

=================================

全ての決着がついた。その翌日、
青空の下、
ご主人様の埋葬を行う。弔いの花も用意せずの質素な―――
――はて??
気が付くとすぐそばに赤いコートを着た黒髪の女性が立っていた。
そのひとはその手に赤いバラの花束を携えていた。
それはとてもかぐわしい香りのする、まるで謎と死を体現したような
謎めいたーーーーー謎。
――??
彼女はふと疑問に思い、彼女にとって、ある意味、当然の質問を投げかけた

「貴方は私のご主人様なのですか?」

今まででで一度も嗅いだこともないような死の匂いを漂わせながら、世界一の名探偵はこう答えた。

「いいや、ボクは君のご主人様ではないね。しいて言えば『君の共犯者』だね。」

メイドは、少し考えた後、なるほどと二度、頷いた。
殺意と虐殺の『お気に召すまま(アズ・ユー・ライク・イット)』。謎と名探偵、最悪の出会いであった。


◆◆◆分岐点/さよならもまた人生だ。
そして、

八王子市が黒塗りの『謎』に覆われた。
日野市が黒塗りの『謎』に覆われた。
昭島市が黒塗りの『謎』に覆われた。
あきる市が黒塗りの『謎』に覆われた。
日の出市が黒塗りの『謎』に覆われた。
青梅市が黒塗りの『謎』に覆われた。
多摩市、府中市、国立市が黒塗りの『謎』に覆われた。

八王子市から始まったソレはまるで黒い渦のように広がり、東京特区23区以外の市町村を
不要なものと言わんばかりに『謎』で覆い隠した。
転校生「〼虚迷言」の戦力は「箱舟全戦力をも上回る」「来たらその世界は助からない」
そう評した空渡丈太郎の言は大げさと思えるかもしれなかったが、あながち間違ってもいなかった。

例えば、君たちの世界で、最近、妙に「黒塗りのノリ」で雑にHなシーンを修正される漫画が
多いと疑問に思ったことはないだろうか?
実はあれらは全て「転校生」と化した彼女が”えっちぃのは駄目です(パチリ)”とやった副産物(置き土産)なのだ。
指先一つで東京以外の地球すべてを「謎」で囲って見せる怪人というだけではない、
その力は既に概念レベルとすらいえるほど強力なものへと成長していた。

かくのごとく完全に天災の類ではあるが、
この彼女の登場が全く予期出来ないものだったかというと、それもまた少し異なる。
予兆はあった。
それは『ヴィクトリアス・マイルストーン』。
〼虚迷言襲来の諸悪の根源は未来探偵紅蠍ではあるが、これは今井聡の魔人能力の本質を突き詰めて
考える存在が誰もいなかったために起こった人災でもある。

例えば今井聡がトランプの束から5枚引き、最強役(ロイヤルストレート)を引いて見せたとしよう。
その役は「最善」だろうか? 答えは否だ。
ロイヤルストレートは最善でもなんでもない、単なるポーカーの最強役にしかすぎないからだ。
重要なのは「それを見た相手」に「彼の能力が最強だと思わせれる」こと。
相手を信じ込ませる手段として『最善』であるというだけの話だ。

『ヴィクトリアス・マイルストーン』の判断基準は「認知上の最大幸福」。
仮に「世界レベル」の危機が迫った場合には保有者である今井聡にそれを回避する最善の方法を伝える。
そして「世界」というものは常に保守的だ。
世界に波乱を起こすスズハラ博士や山乃端一人など、早々に放り出すべく、彼に『圧力』を与える。
そこを未来探偵紅蠍に付け込まれ、いいように利用された。

「山乃端一人を未来探偵にいちはやく届けれるよう確保することが何故最善であるか」という命題の答えは
「そうしないと〼虚迷言が来て、世界を終わらしてしまう」から
しごく単純。世界は〼虚迷言に対し、早々に敗北宣言を出していた。

空渡丈太郎の判断の甘さも事態に拍車をかけた。
自身の手で山乃端一人を守ることに固執してしまい、仲間となる有益な魔人の情報を転校生、
鏡助から入手したり、自力で協力関係を構築するといった行為をしなかった。
それにより重要な「ワイルドカード」の入手の機会を逸した。

『万能札』の名は瑞浪星羅。
彼女を仲間に引き入れていれば『ヴィクトリアス・マイルストーン』の『最善』そのものが変わっていたはずだ。
全ては結果論に過ぎない。だが―――全ての転校生に対する切り札となりえる存在を見逃すほど甘い連中(バケモノども)ではない。
故に真っ先に八王子市が黒塗りの『謎』に包まれた。

================

アイリラボ。
そこの主人と師匠は今井商事のドローンと第二伏魔殿の決死隊メンバーが回収した
『謎』の解析に当たっていた。
魔人能力はそういうものであるとはいうもの、いかなる光も周波も通さない
この『ブラックボックス』には手を焼いていた。

「カラスじゃな」
そんな中、誰にもできなかった解除にいち早く成功させたのは超越者アヴァ・シャルラッハロート閣下だった。

アヴァの能力『シュテルクスト・カメラート』を用いれば、内部との会話が可能だったのだ。
生物限定ではあるものの対話により『謎』内部を言い当て、その解除を行うことができた。
これは朗報ではあったが…

「ただ、我が身は一つ。一個づつ解いていっては永久に終わらんだろうな」
『謎』に捕らわれた人類だけで40億いるのだ。また、原理も不明だ。

「原理?偉大なる我の庇護下に入ったが故のこと。三女神もご照覧あれというやつよ」
といってカッカと高笑い。毎度のことなのでスルーする一同だったが、
閣下のこの言、実は9割近く正しかったりする。
ただ、この解は『謎掛の秘密』による。超越者本人にすら知りえないことではあった。

「過去類似してた事件が起こっている。3年前の池袋大量殺人事件。ただ保守レベルが高くて
今まで警察庁のサーバーにもアクセスできなかったのだが…
池袋の犯人の名は一丸可詰丸。当時18歳の大学生によるもの。
謎掛けはその通称・・・」

アクセス出来たのかという問いかけに、迷探偵はため息をついた。

「いや、反対だ。先ほどから警視庁のサーバーがありとあらゆる手段で「謎掛」と
それに関するあらゆる情報を拡散し、無差別に知らせようとしている。まいったね、これは」

これが意味するのは断末魔の叫びだ。
警視庁。警視庁本部は東京都千代田区霞が関二丁目1番1号に所在地がある。
霞が関は、政府の機関が集中する。この国の要だ。

それが今、一人の転校生の手により敗北を喫しようとしていた。
数分後、千代田区が黒塗りの謎に包まれる。
そして、文京区、台東区、中央区とその以東が、黒に塗り繰りれるオセロのように
次々と「謎」に染まっていった。


絶望的な状況が続く中、アイリラボががたんと大きく揺れる。
状況を確認するためにアヴァが一度外に出る。
入々夢美奈のもとに通信が入り、情報を確認した。

「”話し合い”が済んだようだ。うちの社長が直で話しをしたいそうだから一度降りてくれ。」


「先ほど、話し合い―希望崎学園側との交渉は終わりました。こちらの要求は全て飲んでもらいました。
敵に対する丈太郎さんの情報提供が決め手。
まったく社長就任の初仕事がまさか人類存亡案件とか、先が思いやられるっすね。」

胃が痛いと言いつつ、先日全権を受け継いだ今井商事”新”社長・有間真陽が笑う。

「提携先の玩具会社『ガングニル』とも連携とれたっす。
まあ全体的に『運』がよかったっってことで。

予定通り『橋』で「転校生」を迎え撃つっす。」

アヴァが戻ってきた。トラックの荷台に『アイラ・ラボ』を積み込み、
希望崎学園に向かっていたが、どうやら道路が封鎖されているらしい。

迎えに来た希望崎学園の『エースドライバー』伊瀬英美が、甲殻型の移動ロボから顔を出す。
ここからは取り換え、彼女の機体で学園まで向かうよう連絡が入った。

山乃端姉妹は既に姫代学園内に退避すみだ。
だが戦力的に見て希望崎で彼女を食い止めなければ、もうあとはない。

彼らは危機を察知しながら連携をなしえることができなかった。
けれど、わずかな繋がりは今、ようやくとクモの糸のような広がりを見せる。
それは偶然の産物だ。

あの時、レストランで合わなければ

花屋で親しくしていなければ

丈太郎の真陽への”あの言葉”がなければ

愛理と眠り姫が師弟関係の間でなければ

なしえなかった一本のクモの糸

それはたまたまで、図ったことではない

未来探偵(黒幕)や白帽子(探偵役)であればそれらを狙ってやってのけるだろう。
けれど、そうであるが故に彼らは用として見落とす。

それだけでは測りえないものが存在することを。
真鍮のダイスでもいかなる巧緻でも図れないものがあることを。
それは
人と人との巡り合わせの妙。
決戦の場は東京湾「希望崎大橋」。世界の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。

◆◆《whatdunit何がやったのか》《howdoitどうやるのか》《whydoitなぜやるのか》
希望崎学園は、東京湾に浮かぶ半径4kmほどの巨大人工島を丸々敷地とし、練馬区と同等という広大さを誇る。
そして本土からは「希望崎大橋」という一本の橋によってのみ結ばれて、
基本他の移動手段を持たない。
つまり、航路以外で学園に足を踏み入れようとすれば必然的に「大橋」を経由することになる。
『謎掛』こと〼虚迷言自体は「謎」で足場をつくり、海を渡っていくこともできるが、
謎人間を連れた大所帯での移動ともなればそうもいかない。


『謎』人間とご主人様候補を詰め込んだ「棺桶」を連れ立ち、橋手前まで至った、
〼虚迷言ははてはてと首をひねった。

橋直前にまさかの「立て看板」が設置されていたのだ。


『 なぞなぞ 勝負。

このはし、わたるべからず。』

と書いてある。

「なぞ×なぞ。これはつまり『謎』ですね。いやかけているから『秘密』?
まさか、ここに来て、この展開。うーん、これは謎です。」
そういって楽し気にくるりとくるりと踊ると、全体の約半数を陸地に残し、自らを先頭に進軍を再開した。

楽しげに歩いてくる。まあ、そうだろう。
作戦の基盤になったのは同じ「転校生」である空渡丈太郎が行った彼女に関する情報提供だ。

”謎掛”こと迷言さんの言動は理解不能で不可解なものが多かったが、行動原理自体で見ると、実は割とわかりやすい。
要点は二つ。
  • ご主人様にまつわる事項を最優先に当たる
  • 「謎」的なものを無視することをしない(時々、秘密的なものにはなぜか跳び蹴りをくらわす)

「謎」とはつまる(、、、)ところ『知的好奇心』のことだ。
『謎掛け』とはそれに対する「問いかけ」。
私のすることに興味ありますよね?何が入っているか箱の中、覗いてみたくないですか?

誰かに『謎』だと認識してもらい、興味を持ってもらって初めて『謎』は『謎』として確定する。、
池袋と新宿の惨劇は極論で言えば、大量殺人に潜在的な願望を抱く対象者の興味を引くためだけに行われたエクスチェンジに過ぎない。

かつての彼女のご主人様認定は『一丸可詰丸』単体限定だったが、
自我と存在が確定した今では候補者を『上書き』することで、ご主人様を『増やす』方向に方針を転換していた。
素材となる男性魔人が多い希望崎学園は攻略優先順位度は自ずと高くなる。
その要所に罠を仕掛けてくることなど、〼虚迷言自身、百も承知だ。けれど――

――謎掛けと謎解きであれば、例え「デストラップ」と気づいていても、迷言さんは無視はせんはずじゃ――

ここに至ればその相手の特性と油断をつき『ハメ』殺すしか手がなかった。
橋を3分の一程度進んだあたりで
二人の”いかにも”な白ローブを包んだ人間が、彼女の前に立つ。ご丁寧に【?】の覆面を被っている。
その片方が朗々と侵入者である「謎掛け」に声をかける。若い女性の声だった。

――『契約』は転校生にとっての最大のウィークポイント。
わしん時のようにだまし討ちでもなければ「転校生」相手に約束事の『言質』をとるんはまず無理。
けど「参加」を拒否しないよう「譲歩」を勝ち取ることはできる。——

(----うう。)
内心、恐怖に震えながら、大任を押しつけられた少女は黒髪のメイドさんとの会話を始める。

橋を通りたければゲームをすること。メイドさんは所在な気であったが、
遊戯王の話をすると食いついてきた(情報通りだ)。
そして全く話さないもう一人に何か(GSP)を感じ取ったようで非常な興味を示していた。
そこから師匠譲りの巧みな話術で相手を引き込み、なんとか〇と✖が先端に描かれた二つの棒を持たせるのに成功した。

「——なぞなぞ勝負の説明は以上です。
参加不参加の意思表示に、どちらかお選びください。」

黒髪のメイドさんは相手の反応を面白そうに伺っていたが”でれでれでればん”という音響効果に合わせ
「〇」のプラカードを掲げた。

『謎』は好奇心で出来ている。「謎掛け」は好奇心には逆らえない。

参加意思を確認した少女は白の頭巾を脱ぎ捨てると宣言した。

―指定場所:希望崎大橋―

デスゲーム「メイドさん酒池肉林(全年齢対象)」をこれより開始します。

デス研会長、春風飛信子の宣言と共に〼虚迷言は、脱出不能の迷宮へと堕ちていった。

◆◆◆
―デスゲーム”酒池肉林”―
黒髪メイドの目の前にイタリアンレストラン予選で出現したような巨大プールが現れた。
ところどころに見える石柱。
違うのは沸き立つ熱湯ではなく、血のように赤い。蒸せるような匂いが鼻をついてくることだろうか。

(プール一面にスパーリングワイン。あと、この匂い、香辛料ですか、シナモン、ガルダモンにカカオ。
ふむふむふむ。)

仕掛けられたギミックを味わうがごとく、周囲を楽し気に見渡す黒髪メイド。
天井を見上げる、換気扇の類はついていない。

ぶおんと音が鳴り、ヴェネチアマスクを付けたヒヤシンスが画面上に現れるとアナウンスを行う。

「内容はフロワーからの脱出ゲームとなります。
制限時間10分。時間超過あるいは脱出不能状態となったと判断された場合は罰ゲームを受けていただきます。
それではごゆっくり。『謎』をお楽しみください」

アナウンスを切ると春風飛信子は自身の隣にいる、もう一人に向かって頷く。
彼女より一回り小さい男子学生、鍵掛錠は大きく息を吐くと能力発動により罠の設置とその起動を行う。

デスゲーム宣言とほぼ同時に『TrapTripTrick』が攻勢を仕掛ける。
それによりフロワー全域に仕掛けられた液体窒素が一斉に気体へと変化した。

=====================
罠マンこと鍵掛錠が仕掛けた罠の狙いは、
液体窒素の一斉気化によるフロワー内の酸素濃度の低下である。
個人差はあるが酸素濃度は16%を切ると危険域、10%以下になると死の可能性がでてくる。
これは通常の人体構造を持つのであれば魔人、転校生もさして変わらない。

酸素不足の気体を一呼吸すると、それだけでヒトは意識を一気に失いバタりと倒れてしまう。
息を止める通常の窒息行為とはここが異なる。

(一般人目安)
21%…通常時の酸素濃度 18%…安全の限界
16%…呼吸・脈拍の増加、頭痛、吐き気
12%…めまい、吐き気

10%…顔面蒼白、意識不明、嘔吐
8%…失神、7~8分以内に死亡

6%…瞬時に昏倒、呼吸停止、けいれん およそ6分で死亡

窒素気化のトラップ発動によりフロアー内の酸素濃度は一気に6%まで低下した。

+ ...
―――余談だが、転校生相手に単体の火責めは実はあまり有効打とはならない。
―――物が炎上して燃焼するのに必要な酸素濃度は約17%。
つまり、火事などの現場では炎が燃えている以上、酸素濃度は17%以上あり、
火災現場には「転校生」が生きていけるだけの酸素が存在してしまうためだ。
熱でダメージを受けない彼らは、床すれすれに酸素濃度の高い空気の層、
そこをうまく利用し、呼吸すれば酸欠を免れることができる。
その手の立ち回りを知るベテラン転校生であれば火事で死に至ることなどない。
―――そう余程、特殊な状況に追い込まれるか、あるいは卑劣な罠にでもかからない限り。

『彼女』は上手く殺ったといえるだろう。だが、それはベテラン転校生鵺野
の今までの積み重ねを踏みにじるものであり、名誉を傷つけるものでもあった。
人の心を不用意になぶりすぎること。それが彼女の悪癖であるといえるかもしれなかった。

そして、それはやがて名も知れぬ『銀の銃弾』を生むことになる。


◆◆◆
〼虚迷言は元々、ゲーム内に入った時点で自身の周囲に薄く「謎」を張り、
自らの周囲と外気を遮断し、酸素の確保していた。
液体窒素による気体膨張を察すると同時に自分の周囲の謎の範囲を更に狭め、
より強固に固めた空気で多い、低下した酸素濃度の気流を受け流した、そうして安全領域を確保する。

周囲の箱人間たちがバタバタ昏倒するなか、それを面白そうに眺めていたが、不意に

「?」
ふらつきを覚える、その足元がおぼつかない。

窒息攻撃は転校生の殺害方法として割とポピュラーな手段だ。国家権力も当然それを把握しており、
その類の攻撃は仕掛けていた。それでも「謎掛」が生きているということは=その対策手段を
既に備えているということだった。
故に仕掛けるなら二段構え。丈太郎らが狙ったのは『薬物』によるステータス異常だった。

毒は「転校生」は有効。おおよそはそれなりにではあるが効果を及ぼす。
これは毒と薬が表裏一体の存在なためだ。
ただ、殺傷性の高い直接的な毒は=「攻撃」とみなされ、無限の防御力で防がれてしまう。
ただ一種類だけ、ほぼ確実に効果のある毒が存在する。

アルコール(、、、、、)、酒だけは頑なに毒扱いにならない。

医学分類上どう考えても『毒』ではあるのだが、毒と捉えると酔っぱらえなくなるので
『これは薬』と皆かたくなにそのことを拒否している。まあ、大人の事情だ。
よって効く。ただし個体差は激しい。弱い奴は無茶苦茶弱いし、ウワバミは幾ら飲んでも通用しない。
どこまで有効か分からない手段ではあった。あと毒のままなので転校生でも二日酔いは残る。いや、酒は毒じゃないが。

黒髪メイドの能力は「隠す」、隠匿に特化したものであり、分別機能は基本ない。
周囲空気を圧縮することで、空気濃度の低下への防波堤として利用したが、それにより
大気中のアルコールをより高濃度状態でより多く摂取してしまった。

それは、本人の予測以上に効果が出ていた。
動悸が激しい。汗がにじむ。

生理欲求に基づく魔人能力も通常通り作用する。特に食欲、睡眠、性欲に纏わるものはほぼ有効だ。
辛さは痛みなので攻撃判定。激辛カレーで「転校生」の脳を爆発させることはできない。
だが、「薬効」なら別だ。
彼女の変調の理由は、部屋中に充満していたもう一つの匂い。シナモン、スフラン、カカオなど、天然由来の
「媚薬効果」だ。
これは先日、姫代学園で捕縛された榎波春朗の置き土産(レシピ)
食用スパイスの特殊調合による合法媚薬だった。これを愛理らの手により強化され運用に至った。
塞翁が馬(ワッフルワッフル)。

『TrapTripTrick』の第2の罠の発動により鍵掛錠の手によりデスゲームの『脱出路』の扉が爆破、封鎖される。
脱出口が破壊されたことで、脱出不可能状態とみなされ『罰ゲーム』が作動する。

床や壁から酒の池からありとあらゆる触手が湧き出ていた。スタンダートな触手、先端がブラシ状の触手、ドリル型、スリット型、そしてエゲツナイとしかいいようがない形状の触手の数々。
これらがフロワー一面を、うねうね。ぴゅうぴゅう。と覆う。

(どこか(全年齢対象)ですか。完全に騙された。)
「全年齢対象」という言葉を信じて参加したらエロトラップダンジョンだった件!
密かに毒づく黒髪メイドさん。
別にそういう名前であるだけで、R18展開がないとは一言も言っていなかったし、きちんとデスゲームの体裁も取っていた。
この手の表示にあっさり騙されるあたり、訪問販売の類などには気を付けたほうがいいかもしれない。

己が職務に忠実な触手たちが一斉に「謎掛」に襲い掛かる。
「謎掛」は片手の一振りで触手の半数を「謎」化し、無効化するが。残りはそれをかわし、彼女に迫る。
触手たちはヒヤシンスと罠マンの二人が個々作成したものが、入り混じっており、同じ性質・形状でも「別物」扱いになっている。
それを含めてもあきらかに彼女が発動する能力の動作精密度は落ちていた。媚薬効果は抜群だ。
そして触手は「お仕置き」を終えるまで無限増に沸き続ける。ほぼ概念攻撃に近い有様だった。

「いやいやいや、これは流石に―――」

さらには希望崎学園選りすぐりの淫魔人たちが10名ほど橋向こうに控えていた。
性的攻撃が有効と判断されれば即座に彼ら彼女らがこの戦線に投入される手はずになっていた。

「——お蔵入りでしょう。」

メイド服の下に潜り込まんと触手たちが一斉に殺到した。



◆◆◆ありのままの私で

黒髪メイド、〼虚迷言がいた座標を触手たちが囲い込み、埋め尽くした。

「やったか!?」

スクリーン越しにその様子を確認し、学生たちが歓声を上げるが、それを打ちけしたのは
ゲームマスターヒヤシンスの悲鳴だった。

「目標がいません。リストからも消えています!一体どうやって!?」

罠マンも画面越しにフロワー内を確認したあと、自動探知を作成しようとして手を止めた。
触手たちはメイドさんを見失い。その柔肌に粘液をすり込めなかったことを慟哭している。

「謎」の脱出劇。
続報は予想外なところからあった。
「発見しました。箱人間の別動隊と一緒にいます。希望崎学園から西に19km先。姫野学園まで2㎞の距離です」

報告は「謎」人間の別動隊を監視していた提携先の玩具会社『ガングニル』の偵察用ドローンからのモノ。
デスゲームから脱出しただけでなく、20km近く離れた場所に突如の出現。
この完全な瞬間移動とも見える動きは「謎掛」に関する今までのどの報告にない内容だった。
そして、これを一応の撃退とみるか。取り逃がしたとみるべきなのか…
学園を守れたという安堵と動揺の間を行き来する合同チーム。

「追いかけるっすよ、丈太郎さん、アヴァさん。今、一番早い移動手段は自分っす」
その中で素早く決断を下したのは有間真陽。
今、学園は背水の陣をひいたため、「謎」人間たちに橋を封鎖された形になっていた。
希望崎学園側の山乃端一人を守る動機付けは薄い。
足並みはそろえれないだろうし、揃えていたら追いつけるものも追いつけなくなる。

徳田愛理を連絡役として残し、3人は外へと飛び出した。

==============
―姫代学園付近―

「まったく、なんなんですかアレは。」
窮屈な箱から抜け出した黒髪メイドさんはカチコチの体をほぐすように、ストレッチを行う。
いつも楽し気な彼女には珍しく、ぶちぶちと文句を言っている。

「まさか(わたくし)で隠す作業が追い付かないなんて。受けてもよかったのですが、
癖になって抜け出せなくなっても大変ですから、ここは逃げの一択です。」

触手たちを完全に無力化できなかったのは(わたくし)で隠さなきゃ、(わたくし)で隠さなきゃという理性と、
性的に魅入ってしまった感情面でのせめぎあいがあったためだ。
つまり攻撃として見ればかなり有効な手段だったといえる。

「ちょっと興味はありましたし、今度『』さんとご主人様にけし掛けて試してみましょう」

彼女がこの世界で棺に詰め込んだご主人様候補の半数は橋の手前においてくる形となってしまった。
やむをえまい最悪、回収は諦めようと意識を切り替え、山乃端一人を先に確保する方向に作戦をシフトした。

「黒幕さんの情報が確かなら、姫代学園にいるとのことでしたが」
彼女の足であれば学園まで10分とかからない。

===================
丈太郎をお姫様だっこしたまま、有間真陽が超高速で道をひたすら走る。
アヴァの『最高の戦友』の効果で数倍の身体能力に跳ね上がった今、

「すまん。世話になりっぱなしじゃ」
「何がですか?」

まるで気にした様子を見せない真陽にあっけをとられ、丈太郎は口をパクパクさせる。
自分はレストランでのデスゲームでは彼女やその仲間たちの命を奪うことも厭わぬと宣言した人間だ。
それを彼女は無条件で仲間として信頼してくれていた。
また今もこうやって山乃端一人を助けるため尽力してくれているが、その関係は元々、顔見知り程度の間柄にすぎない。

「丈太郎さん。自分に『攻略法を見つけてくれ、みんなを救ってくれ』って言ってくれたっすよね。
あれでね、ちょっとだけ考え方が変わたっす」
言っただろうか?丈太郎は自問する。たぶん言ってない。それは彼女の受け取り方の違いだけな気がする。
真陽はそのまま続けた。

「丈太郎さんの願いって純粋になんとか助かってくれって善意からだったでしょ。自分は今まで、皆のために役に立ちたい立ちたいって、変に空回りしてた気がするんっす。」
横転した車が道を封鎖していた。ひょいとジャンプをして障害物を飛び越える。

「今は、支えてくれた皆や関係を築いてくれた人たちに『恩返し』がしたいって感じですかね。
たぶん、もう自分はお代を十分もらってるんすよ。みんなから。」

自分が受けていた幸運を。感謝を返したい。ただそれだけ。
その明け透けさは丈太郎の心に強く響いた。自分の拘りや執着は本当に価値のあるものなのだろうか――と。


「関係性か…。丈太郎、真陽とやら。仮説の域を出ないが、『謎掛け』の能力に関して
思いついたことがある。意見を聞きたい」

アヴァの仮説を聞いた二人は頷いた。
「「転校生」という立ち位置から考えても十分ありうることじゃ。」
「自分も同感っす。威力は段違いっすがアレ鎌瀬くんの『一話限り』と似てるとこあるっすから」

「今までの奴の挙動と符号はする。ただ確証はない。うまくゆさぶりをかけ確証を得る。
そのうえで隙をどうつけるか。」

こうしてわずか60秒にも満たない最後の作戦会議がしめやかに行われた。

◆◆◆死闘01

彼らが追い付いた際は迷言さんの位置は、姫代学園正面門手前20mといったところだった。
有間真陽は、時速200kmの超高速から、丈太郎をその内ポケットに潜んだアヴァごと投げ飛ばす。
人間ロケットとかした丈太郎は黒髪メイドに体当たりを敢行するが
彼女に直前で気づかれ、その一撃を飛びのいて避けられる。

「自分はこのまま一人ちゃんのところに行きます!」
「応、確保したら、そのまま離脱してくれ」

迷言さんはちらりと真陽を見やったが、なにするでもなく見逃し、『箱舟』の元チームメイトに話しかける。
「ご無沙汰です。丈太郎さん」

大地をえぐるように着地を敢行した丈太郎はそれに答えず、手より白銀の礫が投擲される。
黒髪メイドはこれもスウェイで軽くかわす。
投げられたヨーヨーは背後の謎人間を砕き、放たれた銀線はそのまま直進し、角度を変え、
横になぐ軌跡をかくが、これも彼女は軽く跳躍をし回避する。

「『謎』にせんと逃がしてしまっていいのか」
「貴方方のほうが厄介ですので、先に処理させて頂きます。全く転校生が普通の魔人の振りをして不意打ちなんて世も末です。」

秘密であれば黙殺すればよいが彼女は謎であるので、答えは返ってくる。
アヴィが会話を続けろと耳打ちする。丈太郎はヨーヨーを手元に戻しつつ会話を続ける。

「やはり、こっちの素性は知っとるのか。
赤蔵ヶ池がいうちった。迷言さんの夢は100人のご主人さまと富士山の頂上でお寿司を仲良く食べることだと。そんなメルヘンチックな夢をもったアンタが、なんでこんな真似を」

流石にこの純なセリフには迷言さんも苦笑した。
「言葉の行き違いが酷すぎます。あのひと変なとこで爪痕残していきますね。
私は…今の在り方に限界を感じてしまったのです。疲れてしまったんです。」

愁いを帯びた悲しげな顔のぞかせ、自らの想いを打ち明けた


+ ...
唯一と定めた御主人様は既にこの世にはおりませんでした。

その時から私の心は当てのない荒野をさまようことになりました

私はご主人様を求め
毎日毎日、来る日も来る日も依頼所に通いつめ、問いかけます

「ご主人様でお願いします」
「報酬にご主人様はいらっしゃいますか」
「ご主人様は・・・」


来る日も来る日もあくる日も
「ご主人様でお願いします」「ええと、ご主人様はいません」
「報酬にご主人様はいらっしゃいますか」「報酬対象にないですね」
「ご主人様は・・・」「いませんってば」

それでもご主人様は集まりませんでした。
「御主人様はいらっしゃませんでした」「いえ、重要なのは依頼の成否報告でして」
「今度は依頼達成いたしました」「…いやでもそれ報酬対象でないですよね」
「ご主人様は・・・」「いません!」

こんな苦労を重ね、つま先に火をともすようなご主人様集めを繰り返しても、
ようやく集まったご主人様は二人ばかり。

あげく受付係の間でついた呼び名が『ご主人様スレイヤー(ゴシュスレさん)』。

                      • くっ
酷いと思いませんか、こんなミステリアスちょっと小悪魔系長髪黒髪美少女メイドさんを捕まえて
そんなあだ名つけるなんて。そうして私のキースガラスのような繊細なハートは傷つきまくることになったのでガラス。

そんな中、転機がきます。
いつも一緒に遊んでる虐殺仲間の紅蠍さんがこう助言してくれたのです。

「いいかい迷言さんそういう時は逆に考えるんだ。
ご主人様を探すんじゃなくて作ちゃえばいいんだ。ってね」

丈太郎さんアヴァさんアナタたちも東京タワーで見たはずです、あの素晴らしいシステムと試作品を。

そう、それが未来寿司御主人様の大量作成『御主人様100人寿司にして食べさせたいな計画』。
御主人様候補をベースのシャリに
オリジナル御主人様からこそげ取った細胞を増殖し3Dプリンターでネタとして出力し、張り付ける!

これでご主人様イッチョ上がり!!
まさに画期的。スズハラの科学力が生み出した。コペルニクス的発想の勝利。
あのシステムさえあれば、世界中、どんな場所どんな時であっても安定してご主人様を手にいれることができるのです。これで天然ご主人様の枯渇問題も解消。
さらに元が食材であるが故に今まで通りご主人さまにご主人様を食べさせることで環境ロスが格段に減るという寸法です。まさにエコ・クリーン・ロゴス
さらに
さらに、これほどお買い得な商品が
なんと毎月決まった金額を支払い(、、、、、、、、、、、、)するだけ、とてもリーズナブルで経済的!まさに夢のような仕組みなのです!

===そして、全てのピースがぱちりと嵌った。

(警告:プロトコル収容違反。この項目はNPC哀敷 明来夜の魔人能力『貴様に何がわかる』もしくは転校生金椎加古の能力に汚染されている可能性があります。速やかにプラウザーバックをお勧めします。)

嵌った=じゃねぇよ。あと『ゴシュスレ』に関しては最初に言い出したの俺じゃなくて、あらかの野郎だから。苦情があるならそっちにたのむ。


「おんし騙されているぞ。」
「この先、破滅しかないと(リボ払いだと)なぜわからん!!」

丈太郎とアヴァの悲痛な叫びも迷言さんには届かない。
「ああ、やはり私の想いは誰にも理解されないのね。」
「それが答えか・・・」

自分のためだけの拘りはなにも生まぬということ。
それを彼女に見せることが彼女に出来る恩返しなのではないか、そう思えるほどの悲しい過去だった。強くなれ、丈太郎。借り分を今こそ全力で返すのだ。そう彼女は決意し、
丈太郎は自らのズボンのファスナーを下した。

◆◆◆死闘02
〼虚迷言は眼を見開いた。
丈太郎の踏み込みや戦闘動作は速いものであったが
未来探偵直伝の「謎の体術(バリツ)」を高レベルで操る迷言にとって十分対応可能なものであった。

ただ、今目の前で行われた行為の意味が分からない
丈太郎はなぜ、全力でズボンのファスナーを下したのか。
(まさかあれが、噂のセクシーコマンド―――これは『謎』です。)
だが、下にはパンツをしっかり履いている。別に局部が露骨に露出しているわけではないので無視すればいいのだが、
彼女は秘密にきわめて近い存在だったのでどうにも「秘密」で隠さなければという心理が働いてしまう。

そう、気になるのなら隠せばいいだけの話ではある。
が、できない。
そもそも、隠すなら最初の突進してきた時に、彼らをまとめて「謎」で覆いつくせばそれで戦いは終わっていた。
何故、それをしなかったか。
答えは単純(ひみつ)
隠せないのだ、謎で。丈太郎がアヴァ・シャルラッハロートの『シュテルクスト・カメラート』の影響下にあるうちは

これは「謎掛」本人すら現地に降りるまで気が付かなった事項だが、
異邦人アヴァ・シャルラッハロートには《謎図謎掛》が通用しない。

これは複数の要因による。
「謎掛」の《謎図謎掛》は謎で包み込む能力であり、「転校生」にも問題なく通用する。
ただ効果範囲を「今自分がいる世界」「自分たちがいたことのある世界」に限定しており、
別時空の並行世界にいる対象に影響を及ぼしたり、全て同時に隠すことはできない。
全く未知の世界、この五次元領域全てを掌握するには範囲が広すぎ、彼女の手に余るからだ。

アヴァのいた世界は、現在ある人間世界と数億年前に分岐した、彼女の訪れたどの世界ともはるか離れた世界だ。
それだけであれば、さして影響はない。「謎掛」自身が「この世界の存在」として彼のことを再認知し、この世界の「謎」で包み込めばいい
ところが、ここに彼女自身も契約している阿頼耶識の力が絡む。
アヴァがたびたび呼称する三女神とは識家の最高位3名のことであり、彼は『アインスと決着をつける』という理由で願いを申しで契約を結んだ。
彼の願いは聞き届けられたが契約は『決着をつけるまで』継続される。
そして彼は阿頼耶識にはるか異界の人間(、、、、、、、、)の人物として認知され、
阿頼耶識に異邦人として存在が保証され続けている状態(、、、、、、、、、、、、、、、)にいる。

あとはどちらの認識を優先させるかの純粋な力比べになる。さすがの「謎掛」といえど神相手では勝負にならない。

それを知った瞬間、彼女はくそげーかと手にもっていた東京ブックメーカーを地面にたたきつけていた。
気持ちは分かるが、まさにお前が言うなである。
しかも彼の能力は他者に影響を及ぼせるタイプのものであり、
彼の傲慢極まる認識により彼の能力『最高の戦友』の影響下になった=『自身の軍門に下った』も同義だからと同様に干渉をはじいてくるのだ。
まさかの完全特攻存在である。
それが、何故か無限の攻撃力防御力を備えた転校生となんか仲良くずっと一緒にいるのである。
たまったものではない。この事実が露呈しないように東京以外を除去した後は、まず市町村。次に政府中枢を落とした後は以東と地道に削る作業を行う羽目になった。
大橋でのデスゲームでも情報提供の度合いから、アヴァ&丈太郎コンビと希望学園側との間で連携が成立している気配が伺えた。
こうなると手の内を必要以上さらすような真似はリスクが多すぎる。退避するしかなかった。

(しかし・・・なんでしょう、この底知れぬ悪意は。)

ようやく戦力分断と誘い出しに成功したが、圧倒的な力の差があるはずなのに圧倒的優位のはずが攻めきれてない状態が続いている。
何某の意図すら疑うべき、めぐりあわせの悪さ(丈太郎側から見ると”最高の占有”となる)であった。

そして彼女はまだ認知していない。
情報と時間を与えたことにより、接舷前にその事実を悟られるに至ったことを

◆◆◆死闘03
両手より投擲された銀のつぶてが黒髪メイドを襲う。
右手で放ったヨーヨーを囮に時間差で放った左手で放ったが、これも見切られかわされる。
隠し玉の一つであった時間差攻撃も通用しない。

「二刀流、いや二丁ヨーヨーでしょうか?」
彼女の使う謎の体術(バリツ)は、相手が持つ様々な特性に合わせて最適化された動きを取る。
情報が多ければ多いほどその精度は増す。
空渡丈太郎は「箱舟」派のメンバーとして1か月ほどとはいえ、彼女の指導の下でやってきた新人である。
動きが全て掴まれていても不思議ではなかったが…。
(新武器も通用せずか)

それにも怯まず攻撃の際に出来た隙を突き、丈太郎は強引に距離を詰める。
(だが、まだ捨てれるものがある。)
仇を討つまでと羅漢学園の月下で誓ったあの誓い。それを今、投げ捨てる。
そのための魔人能力を発動させる。
真陽のように自然体を、ありがままを受け入れるために


今こそ、その運命を取り戻せ

崖っぷちの漢気(タイトロープ・ダンディ)

丈太郎が呼び出したモノを手に掴む。
それは紐というには短く、縄というにはあまりに真っすぐであり、全体的に脈動していた。

迷言の目がおおきく見開かれる。
「なんてものを―――」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

それを呼び出し、装着するまでの時間わずか0.5秒。
それは紐というには短く太く、縄というにはあまりに真っすぐであり、
大変ご立派な益荒男であった。

男性器であった。

思わず反射的に謎で覆う迷言さん(0.02秒)。それに構わず丈太郎は「謎」ごと下腹部、ファスナーの下へとあてた。
瞬間、丈太郎の体が一気に膨れ上がった。
「うぉ!」
事前に聞いていたアヴァでさえ、振りほどされそうになるほどの。爆発的な力が『彼』に流れ込む。
+ ...
==================================
魔人能力『チンパイ』。それはとある転校生がもつ。TS能力である
男性から女性であれば男性器、女性から男性であれば乳房を取り去ることで発動する。
変化には一定の時間がかかるが
戻る際は取り去った部位を装着することで一瞬で元の姿に戻すことができる
==================================
女性だと思っていた存在の突然の変貌。
本来の姿、一気に2m近い体躯となった『彼』は大きく歩を踏み込む。
それはバリツの演算範囲を完全に超えた動きとなった。
そして『最高の占有』の影響を受け、謎で隠されていた益荒男様が再び顕在化する。

丈太郎さんが男性に?ご主人様案件?
 正しい選択。 どうとるべき
            生存のための回避行動。     
益荒男様を「謎」でおおうべき。違う。
        無理。とるべき行動は・・・

迷言の脳裏に様々な情報と感情が行き来する。あまりにもかけ離れた情報の羅列に処理が追い付かない

ご立派な一物と見惚れる感情と(わたくし)で隠さなきゃという理性。
女性だと思っていた存在の突然の変貌。敵戦力の見積もりと『謎の体術』の軌道修正
回避行動。
拳。大きい。
大きいご立派と見惚れる感情と(わたくし)で隠さなきゃという理性。

―――何を優先すべきか
彼女は混乱した状況で判断する。ぱっと閃き、会心の笑顔を浮かべる。何より優先すべきことなど決まっているではないか。

「——貴方は『ご主人様』ですか?」

彼女にとって何より優先されるのはその問いかけ(なぞとき)

―ああ、わかちょた。

それは初日と同じ自分に語り掛けた笑顔だった。それに自分はどれだけ心救われただろうか

―――すまん

丈太郎は拳を振り下ろしながら心の中でのみ謝った。彼の拳が何かがのめり込み、何かが潰れる感触を感じた




◆◆◆さよならだけが人生だ/人生死んだらそれまでよ宣言

それはかつての”伝説の大番長”邪賢王を彷彿とさせる一撃だった。
たった、一撃で最強クラスの転校生を屠ることに成功した。
今は寸法通りとなった学ラン服を着こんだ空渡丈太郎は、その亡骸に手を合わた。
幼いころからずっと一緒にいた幼馴染の山乃端一人や家族を除けば一番、心寄せた女性だったかもしれない。

超越者アヴァも何か言わず付き合ってくれた。

「うわ、ぐちゃぐちゃですね。これでは元の人が誰だったかなんてまさに『謎』です」
そして黒髪メイドさんが隣でのぞき込んで感想をこぼす。

狐につままれるとはこのことだ。
――――まて何だそれは!?
そんな一瞬の硬直、隙を見せた2人に手を伸ばすと迷言さんはアヴァをひょいと摘まみ上げ、
全力で振りかぶると、そのまま放り投げた。
「そいやーーー」
「のわわわわ」

攻撃ではないがそれでも「転校生」の投擲だ。
空中に投げ出され、もの凄いスピードで丈太郎と彼女の間から遠ざかっていく
瞬間とはいえ本体に触れた超越者アヴァはある事実を悟り、精いっぱいの声で叫ぶ。

「丈太郎、聞けーーーーーー。こやつの正体は『謎』の存在概念だーーーーーーーー。本体は――」(ぼふん)

池に落ちるまでのわずかの間にその能力の秘密を叫ぶ超越者。
それを聞き届け愕然とする丈太郎。

「9割正解。そしてご愁傷様、やっと分断出来ました。これでチェックメイトです。」

丈太郎の裏拳が放たれる、新しく現れた黒髪メイドはそれを受け流すと軽く手首を返した、
わずかなその動作で丈太郎の巨体が舞い、地面へとたたきつけられる。

地に横たわった彼の横には「謎」人間が引きづってきた棺桶が、開かれ空の状態で転がっていた。
それを見、まさかと丈太郎の眼が見開かれる。

「「シュレーディンガーの猫」といえば察し付ますかね。
デスゲームからの脱出の手品。種を明かせば瞬間移動でもなんでもなく単に自分を『秘密』で囲って分からなくしただけなんです。
そこの箱の中にいるのは迷言さんかもしれない。そうでもないかもしれない。
それは開けてみるまで『謎』で『秘密』
「謎」があれば私はどこにでも存在するし、どこにでも現れることができる。私はそういう存在。
そのために複製体(ストック)とかも用意してあるんですよ。人質用に見せかけて。」

ぱちり。指を鳴らすと丈太郎の四肢が謎で包まれた。あらゆる感覚が失われる。
メイドさんが嬉しそうに語る。
「正確にはですね。私は『今いる世界と私がいる世界の謎』と一握りの『秘密』で構成されてます。
私をどうにかするには、大本であるMY世界にあるアンティーク喫茶をなんとかするか、
この世界中に溢れる謎をどうにかするしかありません。って・・・・」

丈太郎は立ち上がり拳をふるってきた。「謎」に関しては根性で固定した。

「そこ、気合とかで理不尽に立つのやめてください。ドン引きです」
無駄なあがきをするりとかわし、
丈太郎に対する拘束を『謎』の四肢への拘束から、全身を『秘密』で覆う箱へと切り替える。

「これで、この世界も『迷宮入り』。これにて伏線すべて消化終了です。
でも謎がすべてなくなったわけではないですよ。え?どうしてかって?

では、ここで問題です
この世界の宇宙の果てには何があるでしょうか?
それは-----『謎』です。」

そして姫代学園以外の世界のすべてが謎につつまれる。
彼女は悪辣だ。なにせ最初から勝たせる気がない。転校生世界にある本拠地をどうにかしろとか、世界中の、宇宙の隅々まである謎をなんとかしろとか無理難題にもほどがある。

こうして戦いは『謎掛』〼虚迷言の勝利に終わった。

そう、この場においては
――
――
――――
ところで君たち、誰か(世界一諦めの悪い男)忘れてないか?



◆◆何しているかを問うてはいけない(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)

――ご主人さまが謎と認識しているから、謎が生まれる。
ここがポイントです。大本となる『迷い家』から『ご主人様』がいなくなれば前提が崩れ、彼女の『謎』と『秘密』は大きく力を失います。
確保すべき存在は「御主人様」と『御主人様』の二人。
ハッピーさんとブルマニアンさんには地下室にいるというその人たちの救助をお願いしたいのです。

『迷い家』(マヨイガ)は、東北地方に伝わる、訪れた者に富をもたらすとされる幻の家の伝承の名である。
厳密には異なるが、アンティーク喫茶『迷宮入り』もその伝承に極めて近い性質を有していた。
そこに今、二人は「転校生」による手引きで忍び込んでいる。

侵入を気取られないよう慎重に歩を進めながら、ハッピーさんが考えたのはあのラーメン屋の主人のことだった。
よい料理、気持ちの乗った料理にはオーラが籠るという。
あの男の料理はそんな感じだったが、そこから感じたとったのは意外にも「激情」、強い怒りだった。
丈太郎の境遇だけではない。ほとんどすべてに対するこんなことを許しちゃいけない
仲間の仇、友の無念、愛するものを喪った悲しみ、そういった諸々全部があの一杯(ラーメン)からは感じられた
(感情を吐き出せないのは辛いからね…か。昼行燈なみかけのくせに不器用そうな生き方してんな)
「あっ、空きました。」

なれない家探し、探索は難航したが後輩のブルマニアン三世が何故か、無茶苦茶手慣れた様子で大活躍していた。今も扉の鍵をピッキングでごじ開けた。
予想外にきびきびした動きだ。頼もしい限りだが、お前本当に生活安全課かと問いたくなる動きだった。

「・・・そこはね、色々あるんですよ…ほら、基本、うちら便利屋なんで」
色々と闇が深そうだった。ともあれ地下室への入り口を発見すると、二人は慎重に階段を下りる。
家人は出払っているのか、見張りなどはいないようだった。
路を抜けると、すえた、酷く退廃した何かが漂ってくる。そこには——
そこには広い空間と幾つもの錆びついた鉄格子が整然と並んでいた。
左から四番目の鉄格子の中に——メイドの格好をした青年、四肢が欠損している、がいた。
眠っているようだ。
探し人の『御主人様』「ご主人様」の一人のようだと、発見したブルマニアンは
彼のそっと肩を揺らし、起こしにかかる。すると青年は目を見開き

「きゃははははあっはあはははははははは!!!!」
けたたましい笑い声をあげた。

!!!『時よ止まれ、君は。』!!!
「ははははははは…はPAポぁ」
ハーピーさんが青年を軽く小突くと霊がはがれ落ち、魔人能力で一瞬にして「箱」へと封じられる。
「び、びっくりした。」
「憑依霊を警報(ブザートラップ)代わりか、趣味が悪いな。すぐに来るぞ。」

「両方。正解だよ。まったくよ。」
言葉とほぼ同時だった。現れたのは前髪を切りそろえた、茶髪のショートヘアをしたメイドさんだった。

「どこのネズミかと思ったら警察(ポリ公)かよ…家宅令状きちんとあるのか」
「このお姉さん、いきなり痛いとこついてきた!」
「——こいつはあの転校生じゃない。同じ成り立ちの『何か』だ。通じる。あわせろ」

全く動じることなく、構わず帯刀を振りかざし突っ込む、ハッピーさん
「   これも正解。少しは怯めよ。」
「ひええええ」

問われたならば無視すればいいが当てられたなら答えなければいけない。
それが秘密というものだ。
彼女の名は『』(かぎかっことじる)
アンティーク喫茶『迷宮入り』に必ずいる『秘密』を作り、守り、暴く者。
『秘密』とは答えを公開するかしないかの二択であり、人を惹きつける『謎』を何より嫌っている。
おかげでこんなところもまで人が入り込む。

振るわれた妖刀武骨の上からくる袈裟斬りの一撃を紙一重でかわす。
その二人のわずかに空いた間ににゅるりとブルマニアンが滑り込んだ。変則的な動きで間を詰めていく。
「以下略、八犯!!」
中国拳法の足払い、後掃腿が決まった。これで浮いた『』さんの体を武骨の2撃目が胴を狙い容赦なく振るわれる。
『』さんはこれを銀板、手に持った強化性トレイで受けるが、
当然そんなもので防ぎきれるものではない。受けた先からは二つにへし折れ、
板一枚挟んで『』さんは斬撃の衝撃をまともに受け、弾き飛ばされることになる。

         ぐぼ

そこから自ら、後ろに飛び、衝撃を逃がす。

――こいつら強いな。


―—だが、

そして、そのまま『』は白い壁にたたきつけられた。
そして壁が反転して、その姿を隠す。
「!?」
まるで彼女が何かのトリガーであったかのように白い壁がひっくり返ったのだ。
忍者屋敷などにみられる隠し扉、いわゆる「どんでん返し」だ

「———スイッチオン。
協力ありがとよ。これでここも『迷宮入り』だ。」

どこからともなく響く、その宣言を二人が聞いた瞬間。彼らは足元から強烈な突き上げを食らい、さかさまに
すべてを逆にひっくり返された。

◆◆◆

「ぎりかさん、ナイスキャッチ。どうなりました」
館(迷い家)から放り出されたハッピーさんとブルマニアンの二人は気づくとレストラン「白欄」の店内へと転がり込んでいた。
ブルマニアンは目を回している。ちぃとハッピーさんが舌打ちを打った。
「確保失敗だ。『どんでん返し』を食らった。」
「なるほど・・・侵入者をはじき出すために建物(ほんたい)ごと世界の裏側に潜り込んだようですね。
うーん防犯意識高すぎ。うちも見習わないと」
「ひっぱがせないか?」
ハッピーさんの問いに進藤ソラは首を振った。
「ぎりかさんは識家でも上位にあたりますので、問題なくできるでしょうけど、「白蘭」は『迷宮入り』に隣接している(かもしれない)という記述を利用して『迷宮入り』のお隣に引っ越すあたりが抵触ラインギリギリなんです。
そこまでやったら本格的にルール違反です。」

進道ソラはそういって、ちらりと天井方面(オレのほう)を見る。
さすがにかんべんしてくれソラちゃん。さすがにこれ以上はできんよ。

「だそうです。」
まあ、ここの主人であるなら、ルールの穴を潜り抜けるまねを苦も無くやるだろうが、向き不向きがある。
アイツはもともとの性質が探偵(LOW)というより怪盗(CHAOS)により近い。

床を拳で叩き、他に手はないかと思案するハッピーさん。彼らは決して諦めないだろう。そんな様子を見て進道ソラはそっとため息をついた。
「これはまずいですね。本格的に万策尽きてきました。」
まったく同感だった。だが選択の余地がなくなって来たのも事実だ。しかし本気でアレをやらかす気か。
流石にどうなっても責任もてんぞ。



◆◆◆すべてが消え去った宙で、それでも君は星を掴むだろう。

堕ちていく、朽ちていく
そこは何もなく、ただ広がる暗闇。
意識は拡散し、手から零れおちていく。もはや何もわからなかった。己の自我もあやふやになっていく
そんな最中、不意にあの人の顔が心に浮かんだ。
最後はハジコの顔が浮かぶかと思っていただけに意外だった。ところが

―なに、JO嬢?
走馬灯のラストシーンで一人ちゃんじゃないのが納得いかない。
そういうときは逆に考えるんだ。まだ君には、まだできることは残っているんだってね

(できることがあるって、・・・こんノリ、完全に師匠(本物)じゃな。

―ご名答。こっちも取り込み中でね。さくさく最後の教えにいくよ。
とはいえ君にはもうすべて必要なことは教えてあるし、あとは一つづつ階段を昇っていくだけだね。

《謎図謎掛》に関しても迷言さん自らやアヴァさんが色々ヒントをくれている。
そこを『紐』解いていこう。
彼女の能力は極めて高度な情報隠匿能力。では、それがどこまでものを及んでいるか、君は理解しているかい?
四次元干渉、時間軸に関してはあいまいだが、おそらく及んでいる。
アヴァさんの件から並行世界、五次元領域には及ばないと分かっている。つまり、五次元以上の高次元情報は隠されていないというわけさ。つまり『視点』さえを持てば対応ができるということさ。

(・・・・・。)
思い出したかい。
(・・・・・ああ。)

君たちの中に眠る可能性というのは常に無限大だ。
それは日中、あるいは満天に星が輝く時は眩しすぎて一つ一つとても識別できないくらいだ。
僕の教えた”もう一つの”道筋はあまりのも遠い険しいものだったから。手繰り寄せることができなかった。

けれど、この絶望下、君の中にある無数の可能性はたった一つを除き、全て消えた。
もう君には、北海に輝く北極星のように『その可能性だけ』を感じ取ることができるはずだ。
ならばどれほど遠く離れていたとしても(431光年先であろうとも)、君はきっとその頂に到達するだろう。

さあ、その星を掴め、
その運命を手繰り寄せろ、切り開け。

『崖っぷちの漢気』(タイトロープダンディ)!!!

その概念は既に教えてある(、、、、、、、、、、、、)
宇宙の果てまで謎が尽きないというのなら、逆に考えるんだ
『宇宙全部を理解してしまえば謎などどこにも存在しない』とね!!!!」。



◆◆◆タイトロープ・ダンディ

姫代学園以外のおおよその世界を「謎」で包み込んだ〼虚迷言は門を潜ろうと楽し気に歩を進めた。
せっかくなので遊んでいこうか。
例えば生存者全員を煽って山乃端一人を刈るデスゲームとか開催しても面白いかもしれない。
とすれば最初に放送室にでもいこうか、そんなことをつらつら考えていると、それは起こった。

「謎」で閉じているはずの彼女の背後が不意に開け、そしてものすごい勢いで景色が広がっていったのだ。

「????はい。」
お決まりの決め台詞を言う暇もなかった。何故ならば、そこにはもう謎も何もなかったからだ。
ただ、気が付いた時には彼女はお釈迦様の手の上にいた。


目の前には胡坐姿で座る空渡丈太郎がいた。

「これは『(ゆめ)』なのでしょうか?」

夢ではない。純然たる目の前の漢の力だった。
物理学者が使う理論に、超弦理論、宇宙ひも理論というものがある。

平たく言うとひも理論というのは
宇宙の最小単位がひも状のもの(、、、、、、)で構成されており、
宇宙の成り立ちが、すべてがそれで成り立っているという万能理論だ。
残念なのはそれが光より小さい単位であるため「観測」できない存在であり、
人の領域では理論上概念上の存在にしか収まらない

仮に観測し、掌握するものが現れたら
それが、1000年先か10000年先かあるいはそれより遥か遠き未来ではあるかはさておき、
宇宙開闢の秘密全てを解き明かすことになるだろう。

彼は、ひもであれば概念存在でも認識し掌握し操作できる。
認識不可のものを認識できる彼は宇宙全てを識ることができる。時間さえあれば。
転校生の特徴、無限の攻撃力、無限の防御力、そして不老、すなわち『無限の寿命』。

その遥かな未来、彼がつかむであろう概念『宇宙ひも』を丈太郎は呼び寄せ掌握したのだ。

―許サレム・ゼロの領域―

迷言さんの周囲を『謎ではないなにか』の力場が包み込み、ベクトル操作で宙へと浮く。
ベクトルも回転も光も闇も謎も秘密も寿司も人も、すべてはひもで成り立っている

はわわわわわわわわ。
迷言さんはドジっ子メイドさんのような悲鳴をあげる。
はわわわわわわわわ。
自分を形成する『謎』が、次々とめくられ、あっという間に「紐」解かれていくのを感じる。

『謎』は暴露され、秘密をさらされる。その屈辱と羞恥で顔がゆがむ
『謎』の存在概念である迷言さんにとって、『謎』を丁寧に一枚づつ捲られたりなんかされたりするのは
とても破廉恥きわまりないことなのだ。具体的イメージがわかないって?それは単純に妄想(しゅぎょう)が足りないだけだろう。
ぐるりと回るぐるりぐううるり
阿頼耶識丈太郎とでも呼ぶべき存在となった彼は手のひらの上で浮かぶ『謎掛』にふぅと優しく息を吹きかける。
体を離れ、もはや概念だけになった彼女はたちまち上空へと舞い上がると
成層圏を抜け中間圏、熱圏、高度500kmの外気圏へと達する。
そんな謎掛さんが、地球を見やると自分が地表で仕掛けた謎すべてが紐解かれていく最中であった。

「いやいやいや、これ。さすがにちょっとおかしいです。今全宇宙の謎が全て(、、、、、、、)解かれていってるんですけども!」

慌てる。謎掛けさん、先ほどもいったが謎と秘密のハイブリット存在概念である「〼虚迷言」にとても破廉恥きわまりないなことなのである。
何、具体的イメージができない。
ジャンルで言うと『全裸帰宅チャレンジ』(挑戦距離:銀河の果てから→自世界自宅まで)ぐらいかな
さあ、Let's try!
                   →→→→→「謎…謎がどこまでいっってもないのです。この破廉恥野郎、覚えてろーーー」
こうして、謎掛けさんは「謎不在」ため己の決め台詞を吐くこともかなわず定番の捨て台詞を放つと銀河の果てへと吹き飛ばされていった。
しかし、また、直ぐひょっこり戻ってきそうだな、彼女。


◆◆◆その転校生が俺TUEEEEなのに純愛すぎる

こうして解脱した空渡(阿摩羅識)丈太郎の手により全世界を覆っていた『謎』は「ひも」解かれた。
『謎掛』はその性質上、直接、人に害を下すことがなかったとはいえ、
その数時間の間に数千万人規模の犠牲者が出た。世界規模のこの災厄に復旧には大きな時間がかかるだろう。
そしてそこに丈太郎が携わることはない。

丈太郎は空を渡る者であり、いかな事情があれ今回の旅は許可を得ない違法滞在に変わりはない。
明日にでも旅立つことになるだろう。
そのことを皆には伝えてあった。
今は今井商事の有間社長が提供してくれた宿舎のベットで巨体を横たえ、これからのことを考えていた。

そんな彼を夜更けに訪ねてきた人がいる。
扉を開けると山乃端一人、ハジコだった。
夜更けに男女となどと思ったが、先ほどまで女性の体の自分が行っても説得力があるのかないのか
ひとりは椅子に座り、これからのことを尋ねてきた。

「『精子災害』に当たろうかと思う。天国派として。箱舟派がなくなっても、
あれらが幾つもの世界を壊してまわっとる事実は変わらん。」

もう一緒に入られない。
それぞれの道を歩むしかない。


がちゃりと内側から鍵をかけた。

驚く自分を彼女はベットへと押し倒す。

「無理に振りほどいたら、私壊れちゃうかも」

見つめ合う。
出会いは突然で、過ごせた日々は短い。
それはボタンの掛け違いであったかもしれないが、
二人の間には他の間には入れる想いがあったのも事実だ。

丈太郎は自問する。今までもこれからも
これほど愛せる人はいるだろうか
山乃端一人は自問する。
これほど自分を愛してくれた人はいただろうか。

「どうする?」

殺し文句に。この世界最強の存在は一切の抵抗を諦める。
彼の牙城を崩すのに、手管も策略もいらなかった。ただ今は

最弱が、最も最も最も


――愛おしい。

こうして空渡丈太郎の旅ちは出会いと同じようにいささか締まらないものとなったところで
二人は一端、目を閉じる。そう、熱い口づけをかわすために

長き孤独で傷を負った二人が、忘れえぬ新たな傷を互いに刻むために

そして


夜が明けた。

そして

あんじゃーーーこりゃーーー

目が覚めると丈太郎は元の女の子の姿に戻っていた。正しく、あんじゃこりゃである。

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翌日の朝、朝食の時間になると人数が増えていた

今井商事の面々に山乃端姉妹とアヴァの山乃端一家に加えて、徳田愛理が合流
あと見知らぬ、金髪の大男とブルマ姿の美女(?)の姿がある。
美女は一人と愛理の顔を見るとにこやかに手を振った。学園絡みの知り合いらしい。
彼ら二人も知らぬところで共闘を演じていてくれたようだった。

「それでね、凄いんですよ。実は先輩が、なんと―――痛。」

調子に乗って色々話そうとする後輩をハッピーさんが拳骨で黙らす、
その件は彼らの前でしゃべる必要のないことだったからだ。いずれ別の機会で話すことになるだろう。

「うわ、女の子に戻っちゃたんだ。あと宇宙ひも理論の件なんだけど」
「いや、それも朝になったらすっかり忘れちょてな。その件も含め、両方、師匠に確認する。」

丈太郎の師匠が現れたのは昼前だった。一同は外にで青空を見上げる。彼は空に映るでっかい映像として現れた。
色々バタバタしてたんでごめんねと前置きをした後、彼らの疑問にあっさり答えた。

「能力が消えたのと性別が戻ったのは全然関係ないよ。
元々オーバースペックだったから、出力が今現在1万分の1くらいに落ちているだけ。
性別に関しては『崖っぷちの漢気』の召喚条件「呼び出した物品に所有者がいた場合、使用後、持ち主の手元に戻る。」が適用されたのだと思う。
アレは、確かに君の者だけど、所有権はオトメちゃんのままのはずだから、使ったらから元に戻った(、、、、、、、、、、)んじゃないかな----さて、内弟子。なにか心当たりとかあるかな?」

丈太郎と一人、両者は同時に赤面した。
同時に

( ( これは・・・・) )
(やったか)
(やったな)
(やったっすね)
(まあ、この場合はしょうがない)
(男を見せたかカカカ)
(???何に使ったのかな)
と、
全員が事情を察知。
全員が了解。
山乃端唯一だけが勇者(ピュア)。

「あ、用件は以上かな。こちらからは、おめでたい知らせと、とてもよい知らせの二つがあるんだけど。どちらから聞きたい。」

顔を見合わせる一同。それに関してはどちらでもお好きにという感じだった。
ふつうは良い知らせと悪い知らせというパターンだが…。白帽子が笑顔でつづけた。

「じゃ、おめでたい知らせから。
実は先ほどまで識家未来予測部を総動員して演算作業をしていたんだが
丈太郎くん、ひとりちゃん、君たちが昨日作成した受精卵は三日後99.7%の確率で着床するとの結果が出た。
文字通りのおめでただ。」

なに人の情事に首突っ込んでるんだ、このグランドくそ野郎。隕石にでもあたってくれないかなと皆は思った。いや、めでたい話だけど。
朝っぱらからそんなことに駆り出された識家の未来予測部はないていいと思う。

「そして、続いて、とても良い知らせ。その結果を受け、精子災害の『最終処理』に入る。
具体的には現在対応できていない別宇宙の精子全て三日後を目標にこの世界に誘導、消滅させる。
宣言はまだ先だけど、精子災害はこれで事実上の終結だね。」

多田野精子のプロフィールが映り、白帽子が教授鞭で該当箇所を示す

一人の淫魔人を発端に、どの世界においても「山之端一人を想い射精された精子」は全て
『山之端一人を着床させるために進撃する性質』が付与される。

精子には精子のルールがある。受精し子宮にたどり着いたものだけが生き残り、
他は死滅するという厳しい鉄則が。
本来、心の底から「山之端一人を想い射精された精子」であればその他の精子たちは
その受精を祝福し自らの運命を受け入れるはずでここまで大げさになるはずなかったんだけど。
たぶん『虐殺』と『謎』が悪い影響をあたえてたんじゃないかな。

そして空渡丈太郎君、この件で君には特別任務が割り振られることになった。
この後、この世界に様々な精子が合流する。ほとんどは無害化するだろうけど変異種など発生する可能性も存在する。
なので念のため、母体対象の護衛任務をお願いしたい。これは識家からの正式な要請だ。」

空渡丈太郎は、自分の師匠を見た。

「契約なくして転校生なし、今から新たなこの世界での「契約書」を送るから受け取って欲しい
とりあえず任期は1年間くらいか。それからのことは改め考えよう。
それでいいんじゃないかな。
ただ、この契約書は紐でもない糸でもない、今度はしっかり握って手放さないように。
それじゃ…よく頑張った。
君が最初の教え子でよかった…誇りに思う。それでは君たちにとってよい船出となることを」


その言葉を最後に白帽子の映像はぷつりと消え、『一枚の用紙』のみが空に残った。

やがて

二人のもとにたどり着くであろうそれを彼らはじっと見上げる。

いまいち状況を飲み込めない唯一にアヴァは「送り出し」が中止になった旨を説明し始めた。

ブルマニアンが鼻をすすり、

ハッピーエンドにハッピーさんが滝のような涙を流し、

今井商事の新社長は仲間たちと静かにハイタッチを行う。

やがて


皆が見守る中、空から舞い落ちた贈り物を二人は受け取る。


そして

「転校生」空渡丈太郎と書かれた

その契約書(プロフィール)には最後に、こう付け記されていた


『山乃端一人との関係:熱愛。』と。




                        (「JO嬢の奇妙な純情」~完~)


==転校生=登録番号30==========
氏名
空渡 丈太郎

性別

能力名
『崖っぷちの漢気』

生年月日
20XX年04月01日

上記の者は、本世界の人物であることを証明する。
XXXXXXXX XXXXXX学園学校長。
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最終更新:2022年04月23日 23:45