準決勝焦熱地獄 月読茎五
採用する幕間SS
なし
本文
槍が閃く。
拳が空を切る。
灼熱の炎に身を焦がし、二人の狂戦士が対峙する。
準決勝 焦熱地獄
戸次右近太夫統常 VS 月読茎五
一閃。
ニ閃。
三閃。
大身の槍からは想像できない程の鋭い攻撃が繰り出される。
茎五はその槍を躱さずに前に出る。当然、被弾覚悟である。
(ってェー…が、近づいちまえばこっちのもんだ)
右脇腹に槍をかすらせつつも至近距離に近づき、ショートアッパーの体勢に入る。
…が、戸次はそれを読んでいたかのように槍を回転させ、石突で脇腹を狙う。
茎五はとっさにアッパーを中止し、防御に切り替える。
致命的な一撃は防いだものの、再び距離を取られてしまう。
(コノヤロー、恐ろしく闘い慣れてやがる)
茎五自身もストリートでの戦闘経験はそれなりに豊富であったが、
目の前の敵は、まるでブレーキを破壊したバイクのように、ただ闘うためだけの存在に見えた。
「母上、兄弟たちよ…」
目の前の戦闘機械が唸るような声を上げる。
「見ているか。戸次の戦いを」
「…てめー、マジで何なんだよ…本当に人間なのかよ」
[感情を力に変える]能力を持つ茎五は、(無意識ではあるが)相手の感情を感じながら戦っていた。
だが『それ』は、『戸次右近太夫統常』という名の戦闘機械は。
感情など。人であることなど。死ぬ前に既に捨てていたのだ。
ただ一つ、「戸次の名を上げるため」。それだけのために戦い続ける。
(クソッタレ、コレならまださっきの不破原とかいうオッサンのがマシだぜ
…まともに戦っちゃあいねーけどな)
「…推して参る」
再び戸次が駆ける。
ただ目の前の敵を斃すためだけに。
「ふざっっっ…けんなーッ!!!」
戸次の猛攻に、攻めきれずに槍を受け続ける茎五。
致命傷はなんとか避けてるとは言え、状況は徐々に不利であった。
「クソが…!テメーみてーな奴に負けてたまっかよ…!」
怒りで拳に力を込める。
「テメーみてーな、最初っから死んでるような奴に…!」
閃く槍を踏みつける。
「俺は!テメーを倒して!生きる!」
その勢いのまま跳び膝蹴り!首を捻って避ける戸次!
追い打ちの後ろ回し回転蹴り!戸次はガード!
さらに体を捻って、頭頂部への蹴り!そのまま額で受ける戸次!
そのまま戸次は力任せに槍を振り上げる!
「ナメんじゃ、ねえー!!」
力任せに槍を殴りつける茎五!
一瞬でもタイミングを間違えば死んでいたが、
茎五は怒りによって身体能力が上昇していたため、神速の槍をも見切ることができたのだ。
体勢を崩した戸次に、拳を叩きこむ。
怒りのエネルギーを込めた、強力なコークスクリューブロー。
―それはかつて修羅界で対戦した
ロダンに食らった必殺ブロー、『地獄の門』に酷似していた!
「俺は、生きるために、闘う!」
パンチの勢いで5メートルほど吹き飛んだ戸次に向かって、決意表明のように叫ぶ。
―手応えはあった。さすがの戦闘機械といえどひとたまりもないだろう。
「や、やったか…?」
それは、まるで怨霊の如く。
それは、まるで幽鬼の如く。
それは、まるで人形の如く。
いくつもの魂が、いくつもの心が、いくつもの執念が
ひとつの『戸次』を作り上げるような、そんな精神の奔流。
「な…何なんだよ…ッ!”お前ら”は…!」
『戸次』は槍を持ち、一直線に『敵』の元へ
「く…来るな…!来るんじゃねぇ…!」
『敵』の胸元に槍を構え、振り下ろす―
その瞬間。
地面から上がる火柱。
地獄の戦闘機械は、地獄の業火によって、焼きつくされた。
―
――
「クソッ、ダッセェ…俺。またこんな勝ち方かよ」
最終更新:2012年08月08日 23:37