準決勝貪欲者の地獄 夜魔口工鬼&夜魔口断頭


名前 性別 魔人能力
夜魔口工鬼&夜魔口断頭 男性/女性 グレムリンワークス
安全院綾鷹 男性 禁止句域

採用する幕間SS

なし

本文


雨が降り注いでいる。
黄金色の雨、虹色の雨、透き通る輝きの雨。

亡者たちが作った雨避けの建造物が無残に崩れ去り。

亡者たちを打ちのめす。
欲望と狂気に満ちた嗤い声が木霊する。

「ヒャッハハハハハァッ!!金だッ!!金だァ!!全部ッッ!!全部俺のモンだ!!金だ!!金だ…!!か…ね…!!」

しかし、その声も次第に聞こえなくなる。

雨が止み、亡者たちはのそのそと起き上がり、金銀財宝で小屋を作る。

財宝の雨から自分たちを守るために。

無駄だと解っていながら。

自分たちはこんな物に執着していたのか。

そして、誰かが空を指さす、金色に輝く空を。

雨が降る。

翠玉の雨、紅玉の雨、青玉の雨、藍玉の雨、黄玉の雨、瑪瑙の雨、水晶の雨、琥珀の雨、金剛の雨、白金の雨、銀の雨、金の雨、珊瑚の雨、雨、雨、雨、雨、雨…黄金色の雨、虹色の雨、透き通る輝きの雨。

けして終わらない雨が、降る!!

ダンゲロスSS 準決勝 貪欲者の地獄


もう一瞬の猶予もならなかった。
ラスコーリニコフは斧を取り出して、ほとんど無意識のまま両手で振りかぶると。
ほとんど力も入れず機械的に、金貸しの頭をめがけて斧の峰をふりおろした。
ドストエフスキー「罪と罰」


「アハハハハハ!!金だなァ、工鬼!!」

財宝の雨に打たれて銀髪の女が笑った。
彼女には両腕が、無い。
胸は大きく脚のラインはは美しい。
頭にはヘルメット代わりの王冠があり頭部へのダメージを避けている。
アイルランドの夜の妖精「デュラハン」の名を持つ魔人ヤクザ。
財宝の雨に打たれていても堂々と夜魔口断頭は笑っている。

「そうでスねェ、いてて。」

同じく、財宝の雨に打たれて、少し痛そうにしながら。
近代の夜魔「グレムリン」の名を持つ魔人ヤクザ。
金髪にアロハシャツ、そしてサングラスといったチンピラの風体の男は相槌をうつ。
彼の頭にも細工が施された兜が装着されている。

「先輩は金が好きでスからね。」
「そうだな、私は金が好きだ。金は力だ、金で買えないものはあるが、金で買える物もある。そういう金で買える力は、確実で強い。」
「先輩の能力は使えないんでスか?」
「まだ無理だな。金があれば、私の裁量で調達できる物は調達できるのだが…」
「うっきき、力が使えない先輩も可愛いでスよ」
「うるせえ、死ね。それよりどうだ?」
「現在広域索敵中でスね。まあその辺の冠とか被って行かせたので若干、機動力は落ちますが隠密性は高いでス。財宝を隠すなら財宝の中ってね。めたるぎあー。」

夜魔口工鬼の能力は使い魔を使った情報収集である。
地獄の各地でメタルギア的に様々な財宝に隠れたスネーク的なサルにも似た小悪魔たちが動き回っている。
夜魔口工鬼はゲーム好きであった。

「上出来だ。今回の敵はやっかいだ。使えもしない金などクソの役にも立たない。」
「いえあー。でも、どうするんでス?」
「まずは私が出よう。サラリーマンとの商談にはお前は向かないからな。」
「ええー?先輩を守るのは俺の役目でしょう?戦闘は任せてくださいよォ。」
「いや、まずは私だ。それと最低限を残してサルをこっちに寄越せ。戦闘員モードでだ。」
「ええ?ヤでス!!俺も先輩と一緒に…」
「おい、ちょっと其処に立て。」

ごねる工鬼を断頭は無理やりに立たせる。
両足が戻った断頭は小柄な工鬼に対して少し背が高い。

「だって、先輩まだ斧が持てないでしょ?戦闘力的に…むぐッ!?」

瞬間、断頭は工鬼の唇を塞いだ。
何をもって?
男の口を塞ぐのは女の唇でしかあり得ない。

夜魔口断頭は夜魔口工鬼にキスをしたのだ。


「ヤクザ者相手の交渉か、久しいな…」

スーツ姿の長身の男。
サラリーマンである安全院綾鷹にとって魔人ヤクザと相対する事は、日常ではないが、初めてではない。
チンピラヤクザ相手から親分級まで、過去に何度か相対した事が、ある。
能力は言霊を使い動作を禁じる事。

「落とす・な」

やや小降りとなってきているが財宝の雨は綾鷹をも打ち据える。
しかし、彼の頭の上には絶妙なバランスでアタッシュケースが乗っており、雨の直撃を防いでいた。
サラリーマンとしての宴会芸の極致の一つ、頭に物を載せてバランスを保つ、例のアレであった。
更に言葉で行動を封じる「禁止句域」を自身にかける事によって芸術的なレベルでそれを保っているのである。

「こちらの居場所は掴まれたか、情報収集は向こうが上手のようだ。」

先ほど不自然に動く宝を見つけた。
宝石の雨の中は視界が悪い。
「見逃す・な」を用いて見つけたが相手の動きは早く、また5mの範囲には入ってこない、そして逃げ去って行った。

「相手の戦いも見させてもらった。あれは、相当なものだ。」

戦い方を考えなければならない。
時間は多くない。
対処方は、ある。

ざりっ。

金銀財宝を踏みしめて何者かが歩く音が聞こえる。
この地獄では、足音は隠せない。隠せないのか?

じゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃらじゃら!!

金銀財宝が降ってくるのだ。
当たり前の事であるが凄まじい音が鳴り響いている。
普通の魔人では判別はできまい。
しかし、綾鷹は聞き取れる。
注意深く伺うのは日本のサラリーマンと基本的な美徳であるからだ。

「隠れる・な」

綾鷹の声は轟音の中でも染み入るように良く通る。
ジャパニーズビジネスマンは声が命だ。
戦場での商談も、ある。
隠れるな、姿を見せろ。

「良い声だ。この騒音の中でも良く聞こえる。くくく、言われなくても私は逃げも隠れもしない。」

女が、一人。
崩れた小屋の影から歩み出る。
銀髪で長身の美女、両腕は、無い。
女は上体を低くし上目使いで、綾鷹を見つめる。

「御控えなすって!!」

この轟音を物ともしない良く通る声。
聴く者の心に冷たい闇が刺す、これもヤクザハウリングである。

通常のヤクザハウリングは大きな声で相手を怯えさせる動の恫喝!!
しかし古式ゆかしいヤクザの挨拶は大声で罵声を浴びせるでもなく、しかし身を凍らせる。
静かなる恫喝の恐怖が相手を束縛する。

「私、生まれは魔、育ちは夜。性は夜魔口、名は断頭。人呼んで首切り騎士のデュラハンと申しますチンケな極道者で御座います。」

「自分は安全院綾鷹だ、よろしく頼む。」

綾鷹の声は落ち着いているが、その内には気迫がこもる。
二十四時間戦う裂帛のジャパニーズビジネスマン魂が恫喝術を無効化する。
真のビジネスマンは恫喝には屈しない!!
サラリーマン交渉術「暴対法」である。

綾鷹の声も轟音の中染み透るように聞こえる。
挨拶に挨拶を返す、これもジャパニーズビジネスマン的な美徳。
しかし先手はこちらがとる。

「避ける・な」

綾鷹は空から降ってきた宝剣を掴み投擲する。
この地獄において武器の数に限りは無し!!

宝石の雨が両者の体を打ち据える。


「手前ぇ!!何してくれとんじゃ!!」

綾鷹が口を開く瞬間、断頭も吠える。
動のヤクザハウリングは音の暴力だ。
遠距離の言霊はヤクザハウリングによる金縛りに近い。
言霊はヤクザハウリングでの相殺を。

(くッ、やはり技術と能力ではなッ。万全には打ち消せるほど甘くはないッ。)

距離!!
財宝の雨による轟音!!
ヤクザハウリング!!
僅かに体は、動く!!

ズシャッ!!

断頭の肩口を剣が掠める。
血が、流れた。
万全であれば致命的な傷を負う可能性もある。

「ハッハァーッ!!いきなり攻撃とは仁義が無いなァ、ビジネスマン!!」
「御冗談を、ご用件を伺いましょうか!!」

「避ける・な」

パーティ会場で遠方の顧客に対して名刺を投げるが如く、宝石を投擲する。

「舐めんなよ、コラ!!」

断頭が地面に降り積もった財宝を蹴りあげる。
ヤクザキックだ!!

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『ヤクザキック』
ヤクザは実際、物をよく蹴る。
何故か?物を蹴る事で暴力性をアピールして交渉を有利に進めたり、相手に苦痛を与える為である。
車を蹴り、バーカウンターを蹴り、ドラム缶を蹴り、人を蹴る。
しかし、考えなしに蹴ってばかりでは足を痛めてしまいかねない。
それゆえの技術としてのヤクザキックである。
ヤクザの革靴などが蹴りで破損しては見栄えが悪い。
だから、ヤクザの靴には鉄板が仕込んであるのが常識だった。
洗練された蹴りの技術と強化された靴によって成しえる。
それがヤクザキックだ!!
単独の破壊力も勿論だが、何かを蹴り飛ばして攻撃する運用も凶悪である!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

断頭の強化ヒールが宝石を凄まじい勢いで蹴りあげる。

(避けはしない、防ぐ!!)

投擲された宝石の礫は撃墜。
その隙に一振りの宝刀を手に綾鷹が迫る。
「避ける・な」の言霊はまだ有効か?
危ない!!

「聞ク耳持タ・ヌ!!」

断頭が叫び、体操選手の様なバック転で距離をとる。
これは言霊ではない。
ヤクザハウリングを利用した自己暗示。

「おんどれ舐めとんのか!!我ェ!!」

爆裂的なヤクザキックが散弾銃の如き宝石の弾幕を浴びせかける。
指先でクルクルと回転させたアタッシュケースを盾にして綾鷹は攻撃を捌く。

ヤクザハウリングは「禁止句域」の下位互換的な技術だ。
もしかすると、その派生の基は同じであったのかもしれぬ。
ヤクザの交渉の基本は相手の言い分を聞かない事だ。

能力を打ち消すことはできない。
しかし、外国人相手に日本語の言霊が通じにくいように、意図的に意識を遮断する事で軽減しうるのである。
これは、幹部級ヤクザである断頭にできて、工鬼にはできない事である。

宝石の雨による騒音では止められない。
ヤクザハウリングの大音声で相殺できない。
ならば、ビジネスマンが裂帛の気合いで精神をコントロールするように。
ヤクザにはヤクザの精神コントロール術がある。
相手の言い分を聞かない。
しかし、これで「避ける・な」は打ち破れたのか。
今は後ろに退いて時間を。

「距離と時間を稼ぐ、ヤクザのやり口だな。」
「時間をかけてじっくりと話そうや、ビジネスマン」

「退る・な」

綾鷹の言霊は一撃必殺ではない。
何かをさせないだけだ。
だからこそ、その場の的確な判断で、相手の選択肢を奪う。
可能性を潰し、敵の思考を縛る。
更に死地に踏み込んだ綾鷹が前に出る。

「退けないのなら、前に!!」

宝石の雨に打たれながら断頭も一歩前に!!


綾鷹は居合の構え。
右手首の怨念との戦いで見せた刀術と能力が、ある。

断頭はヤクザキックの構え。
斧も、腕も、能力も使えない。

「その美しい脚を斬るには忍びない、助けを呼ぶのも選択肢だと提案しよう」
「かかってきな、相手してやる。ビジネスマン風情が。」

綾鷹は音もなく滑るようにジリジリと移動する。
奥ゆかしきサラリーマン的歩法!!
だが!!

「ヤッチマイナー!!」
「「「「「うっきーッ!!」」」」

睨み合いを破ったのは断頭の号令。
財宝の陰からサル達が襲い掛かる。
サル達の武器は工鬼の身に着けていたアクセサリー、すなわち斧!!
(一度にこれだけの不規則な攻撃を止められるかッ!!)

ギィィィン!!
小悪魔一号の攻撃を刀で受け流す。

ガッ!!
小悪魔アマゾンの攻撃をアタッシュケースで防ぐ。

ザシュッ!!
小悪魔ブラックの攻撃を紙一重で避ける。頬に傷が。

「従う・な!!」

綾鷹のその一言が響いたとき。
今まさに襲い掛かろうとしていた小悪魔達が一斉に。
糸の切れた人形のように動きを止める。

「ハッ!!土下座して靴でも舐めろ!!」

宝石の雨の中、流星の様なヤクザキック!!


「良く、これ程の手を積み上げたものだ。」

綾鷹は刀を大上段に構える。
隙はない。

「蹴る・な!!」
「ぬうううッ?!」

攻撃手段を封じられた断頭は空中で回転して後方へ着地。
宝石の雨が断頭を打つ。

「終わりだ」

一気に間合いを詰めた綾鷹が刀を振りぬく。
一流の腕前だが魔人レベルの超一流の刀術ではない、避けられ…。

「避ける・な」 避けられない!!ならば防…。
「防ぐ・な」
「退く・な」「蹴る・な」
「避ける・な」「叫ぶ・な」「しゃがむ・な」
「見る・な」「話す・な」「蹴る・な」「振り向く・な」
「飛ぶ・な」「走る・な」「蹴る・な」「動く・な」「回る・な」
「避ける・な」「叫ぶ・な」「走る・な」「蹴る・な」「しゃがむ・な」
「見る・な」「話す・な」「蹴る・な」「振り向く・な」「飛ぶ・な」「走る・な」「蹴る・な」「動く・な」「回る・な」
「退く・な」「蹴る・な」「飛ぶ・な」「走る・な」「考える・な」「話す・な」「蹴る・な」「振り向く・な」「飛ぶ・な」「走る・な」「蹴る・な」

言葉の、雨!!


凄まじい言葉の連続。繰り出される斬撃。
効果に疑問のある無体な強制もある。
しかし、次に何を封じられるのか、解らない。
禁句の奔流。

「禁言絶句」

綾鷹の刀術は戦闘魔人のなかでそこまで優れているとは言い難い。
良く見て並みレベル。
しかし、避ける事を封じられれば?
一瞬でも視界を奪われれば?
逃げる事も、攻撃する事すら封じられれば?
達人でもこの攻撃を防ぎきる事は難しい。
次に何を封じるのか、言葉を発する綾鷹にすら解らない、だから相手にも読めない。
自身すら制御を放棄した言語集積からのランダムワード!!

ドシュ。
「おっとと、痛いじゃないか。いやホントに洒落にならんよ、痛てて。」

断頭の右足が斬りおとされる。
それでも案山子のように片足で立つ。

断頭は笑みを浮かべヤクザキックの構えを解かない。片足ですら!!
綾鷹の表情は変わらない。刀は大上段に構えられる。

「その対応力見事だとしか言いようがない…感嘆に値する。時間稼ぎに徹したとしてもその防御技術。」
「どーも、お褒め頂き光栄の至りだ、コラァ。」
「しかし、もはや『一瞬の猶予もない』。『金貸しの頭』は早急に断ち『割らねば』ならないな。」
「罪と罰か!!ドストエフスキー!!なるほど言霊で斧を制御しようというのか!!くくくッ!!」
「君たちの強さは貴方の精神力と対応力に負うところが大きい。jokerがまだあるにせよ、プレイヤーは貴方だ、夜魔口断頭。時間はもう稼げない。」
「切り札ねぇ、私が切られたンだ。」

「うっきゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

財宝の積もった地面から、夜魔口工鬼が飛び出し、安全院綾鷹に襲い掛かる。

「おいおい、声がデケーから奇襲になってないじゃなか、アホンダラァ」


「むうっ」
「うきゃあああ!!」

余りにも派手な工鬼の第一撃は避けられる。
この男財宝の下を潜って近づいて来たというのか?

「どうも冷静さを欠いている、それでは貴方の姉貴分の策に失礼だ」
「うきゃきゃかかかッ!!」

突進する工鬼
早い、が大振りな斬撃。
大きく振り上げた斧が綾鷹に迫る。

「振りおろす・な」

ザクッ。

「ぐぬっ?」

工鬼の斧が綾鷹の胸部を抉り斬る。
更に一撃が。

「見る・な」

一瞬でも視界が奪われれば、隙をついて避けるも良し、反撃する機会も得られる。

グシャ。

そのまま、綾鷹めがけて振りぬいてくる斧を辛うじて左手を犠牲にして致命傷を避ける。
綾鷹の左腕が斬りおとされる。

「うきゃあああきゃああ」
「これはッ!?」

綾鷹の能力は万能ではない。
だからこそ、距離とタイミングを計れば強いのだ。
何故通じない。
言葉を聞かぬという対処法は、知られている。
当然だ、公開情報なのだから。
綾鷹が自ら公開したのだ。
何故公開したのか、それで聞かぬふりをできる理路整然とした人間が、本当に人の言葉を遮断できるのか?
耳を潰すという選択肢もあるが、それでも相手の意識に語りかける話術を綾鷹は隠し持っている。
ツー・カーと呼ばれるジャパニーズビジネスマン話術!!
言わぬでも通じる。
だが先ほどの言葉にそれを込めても通じない。
聞く耳を持たないという対処法は言うほど簡単ではないのだ。
断頭レベルでも難しい、この頭の悪そうなチンピラにできるというのか?
聞かないという意識を持てる相手は逆に「禁言絶句」に捕らえられる。
全ての言語を、取捨選択して意識的に遮断できるか?
無理だ。
獣のように振る舞っても言葉を遮るなどと、悟りでも開かぬ限り無理だ。
何故だ。
だがあり得ない事は考えない。
安全院綾鷹のjokerはまだ破られてはいない!!
禁言絶句。
片手で刀を振るい安全院綾鷹は再び死地に踏み込む。

「振り下ろす・な」
「退く・な」「蹴る・な」
「避ける・な」「蹴る・な」「防ぐ・な」
「見る・な」「話す・な」「蹴る・な」「振り向く・な」
「飛ぶ・な」「走る・な」「蹴る・な」「動く・な」「回る・な」
「避ける・な」「薙ぎ払う・な」「しゃがむ・な」「走る・な」「しゃがむ・な」
「見る・な」「叩き割る・な」「蹴る・な」「振り向く・な」「斬る・な」「走る・な」「蹴る・な」「動く・な」「回る・な」
「唸る・な」「叫ぶ・な」「喚く・な」「吠える・な」「狂う・な」「来る・な」「振り下ろす・な」「従う・な」「斧をふるう・な」「来る・な」「来る・な」

ザクッ。グシャッ。ドチュ。

「かッ!?あ?」

「はッ!女の子がキスまでしてお願いしたンだぜ?言うのもアホらしいが、そのアホは童貞でアホで私のいう事は絶対だ。今の状況でおっさんの言葉なんぞ耳に入るかよ!!」


少し前の事である。

くちゅくちゅぬぱぁ。

断頭が唇を離す。

「あけ?」
「おい、工鬼。お前はもうサルだ、おサルさんだ。とっておきのディープキスだ、クソが。」
「うき?」
「お前地面に潜ってついてこれるか?」
「うきゃ?」
「来れるよなあ!!昔、女子寮に穴掘って侵入しようとしてたよな?ボケ。あー、もう。」
「うき」
「ホントにアホだな、死ね。」
「うきゃけ?」
「まあいい。私がヤバくなったら、私を傷つけた奴を殺せ!!いいな?」
「うきゃあ」
「もう人間の言葉なんぞ必要ないな、私だけを見ていろ私の言葉以外理解するな。他の言葉は…」
「うきー」
「もう聞こえてねえなコレ、どうしよう。元に戻るのか?」


「という事があったのさ!!今考えると恥ずかしいなあオイ!!」
「貴方達はアホですか」
「うきー、うきー。」
「オラ、工鬼!!ええ加減元に戻れやぁ!!」

バキィ!!

「ありがとうございますッ?」

両腕が戻った断頭のコークスクリュー的なヤクザパンチが工鬼を吹き飛ばす。
ズタボロになって体も動かせない状況の安全院綾鷹が呆れた顔をする。
斬りおとされた脚を小悪魔達が包帯を巻くなどして介抱している中、器用に片足で断頭は歩く。

「ドストエフスキーまで引っ張り出して来たというのに全く。」
「罪と罰か。思いつきは良いンだけれど、ラスコーリニコフは斧の峰で相手を殴るからな、致命傷にはなりにくい。しかも金貸しは女だ。横槍さえ入れれば殴られるのは私になるから、工鬼はどうせ止められないよ。」

「先輩どうでス?ご褒美にもう一回チューなんてのは?激しいヤツをプリーズ。」

バキィ!!

「ありがとうございますッ!?」

「さて、ビジネスマン。質問の時間だが、痛いのと自分から話すのはどっちが良い?」
「無難に、痛くないほうでいいですよ。」
「大会の主催者については?」
「詳しい事は解りません。しかし、趣味の悪い事には金が絡むのが常だと思いますが。生き返れるのは本当らしいですよ。まああの兄弟を信じるならですが。」
「信じられると思うか?」
「極めて怪しいとしか言えませんが。この手の大会はルール上の嘘をつくと魔人の格が下がる。そういう意味で優勝者が生き返れるのは本当だと思います。他の生き返る方法はなさそうです。」

「ハッ。まあやるしかないという事だな。工鬼!!」
「いえあー。何でスか?」
「止めを刺してやれ」
「ここで恨み言を言って『 愛する・な』 とか呪いを懸けるのも一興ですが?」

くっくっく、と綾鷹が笑う、ビジネス的な笑いではない、気楽なオフの笑い。
ニヤニヤと断頭が不敵に笑う。
へらへらと工鬼は気楽に笑う。

「ははは。そりゃ清々するが。まあコイツの場合半分は童貞の性欲だ。」
「えーそんなこと無いでスよォ。」
「じゃあなビジネスマン。縁があれば商談に乗ろうじゃないか」
「くっくっ。ヤクザと関わるとロクなことになりませんから、できれば遠慮したいですな」

グチャ!!

「おっと、脚がくっついたぞ、怪我が治るってのはホントだな」
「先輩の全てが戻って俺も嬉しいでスよ、っさ、ご褒美に両腕で抱きしめて…」

バキィ!!ゲシゲシゲシ!!

「さて、ソロソロ残りも少なくなってきたなあ」
「そうでスねえ。先輩。」
「「「「「うっきー」」」」」


夜魔口組は地獄の深淵に進んでゆく



最終更新:2012年08月08日 23:43