準決勝貪欲者の地獄 安全院綾鷹


名前 性別 魔人能力
夜魔口工鬼&夜魔口断頭 男性/女性 グレムリンワークス
安全院綾鷹 男性 禁止句域

採用する幕間SS

安全院・綾鷹の人間関係②
(夜魔口組、何か見落としに気づく…。安全院は苦境を予感。そして比良坂兄弟は何かを用意)

本文

【???】◆BLACK JOCK◆

tlllllllllllllllllllllllllllll…tlllllllllllllllllllllllllllll…
Pi…
「はい、濁りが決め手の綾鷹です。
―――
――

いやBOSS、今更ですがこの合言葉の”符号”ホントどうにかならないですか。
え、駄目、気に入ってる?そりゃよかった。
こちらの進捗状況は8割完了、あとは詰めだけです…が今、少し蹴躓いてます。
ええ、物理的にです。現在絶賛、取り込み中です(だから電話かけてくんなよ)
はぁ別件?
部下が逃げだした?”逃げられた”の間違いでしょ。何回目だ。アンタ。
で人員補充したい。ふむ…で候補は?」
…Pi…
「(絶句中)マジか、企業イメージとか全然考えてないだろ、あんのくそ上司…
OH! MY GOD!
やれやれ、今回もとんだBLACK JOCKだ。」

◆◆BLACK JOCK◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆
◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆
◆◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆
◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆


『冥界準決勝 第2試合「貪欲者の地獄」』


【1】置き去りの過去
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「うんしょ、うんしょ、彼らが、どう頑張っても
その大きなカブをどうしてもぬけません。

おじいさん達はついに根を上げてこういいました。
『流石HONDAのスーパカブ、世界に誇るニホンの技術だ。』

ハハハ、おとぎ話でもしてると思ったか?残念、今回はそういう話だよ」

 ( ”暴観者”雲類鷲殻*1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
†††

[回想] 2001年
[場所] ウルワシ製薬 社長室
[NEXT] それでも俺はお前を愛している。

―12:00 迎賓室―
「そうだな。綾鷹くん、協力要請に関しては受けさせて貰おうと思う。」
「ただ勘違いしないで欲しいのは。私はAA計画自体や老人達のくだらん
既存利益確保にはさほど興味がないということだ。」
「これはね、強いていえば君への投資だ。
これからの時代、私たちやその子供たちの時代だと思うのだよ。」
「『おお、神は、ヒトの進化を強く望む。』
我々に求められているのは強化より進歩、進歩より進化。なのだよ。
君にも娘がいただろう、今度、うちの娘とも顔合わせさせたいな。
ひょっとしたら劇的な出会いになるかも知れない。」
そういって男は組んでいた手を開く。
「終わった先、終末の先の更に先の先(more ending story)に果たして
何があるのか?私はそれを君に見てきてもらいたいんだ。なにせ
能力補正込みとはいえ、私とまともに話せるのはキミくらいのモノだからな。」

◆◆BLACK JOCK◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆
◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆
◆◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆BLACK JOCK◆



【2】N19×E19
――――――――――――――――――――――――――――――
『SUMMONING THE GURDIANS!』
 『LAYING OUT PTROL AREAS!』
 『SETTING UP THE TRAPS!』
  (Wiz#4)
――――――――――――――――――――――――――――――

「ダンテもそこにあり」。
神曲でもそう謳われる地獄の第四圏『貪欲者の地獄』は吝嗇と浪費の悪徳
を積んだ者たちが、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る地獄だという。
彼らは『免罪符』となるたった一枚の真なる金貨を求め、奪い貶め合う。
皮肉なことに幸運にも手中にしたとして誰も使いこなせないという。
何故ならその使い方というのが『投げ捨てる』という代物であるからだ…。

さて、その地獄を模した1km四方の試合会場は石畳が敷かれた古式豊か
な建造物。ミノスの迷宮か、はたまた、黄金に満ち溢れていたという
インカ帝国の遺跡を彷彿とさせるシロモノであった。
通路は横幅10mにもおよび、吹きさらしの天上は…だが青空を見せず、
時折、滴のように金貨や宝石がなだれ落ちて来ている。ただ無尽に…
そして無人。無尽にして無人。

円柱の上に現れた一組の男女の姿がいる。金髪・銀髪が対象的な二人だ。
金髪のほう…アロハシャツの男は、女に先駆け、石畳の床に飛びおりる
と何某の声を上げる。
「ウキキキキ」
すると彼の周りに小さな影が湧きおこる、奇声と共に影は四方に散った。

そして男は女を見上げる。とても眩しいもの*2を見るように。
彼女には”まだ”両腕がなかった。この戦いに勝利すればあの白魚のような
腕も戻るのであろうか?その相方の想いを知ってか知らずか、夜魔口断首、
円柱に留まった銀髪のスーツの女性は肩に乗った小鬼―グレムリン1号に
顔を近づけ、冷徹に囁いた。
「調子はどうだ。工鬼。」
その囁きに即座に反応する男。名は夜魔口工鬼、彼は親指を立てた。
「デュラちゃん先輩、テレパス受信良好です。金貨の音がウッセー以外は
特に問題ありません。」

彼らの付き合いは長い。ほとんどの場合、連携は阿吽の呼吸で済ませられ
るが、指示出しが必要な場合、彼の使い魔によるテレパスが緊急時の
インカム代わりとなる。
この場合、伝達は断首から工鬼らへのほぼ一通となるが、その一方的な
関係で特に問題なかった。指示を出す者、実行する者、お互いの担う立場
は明確に分けられているからだ。

「使えそうなものはあるか?」
「この先、中央の広場に財宝が超山積みになってます。ちょっとしたバベルの塔っす」
「そりゃいいな。そこ工作用に3匹潜ませておけ。」
矢継ぎ早に指示を加える。その采配には微塵のゆらぎもない。
そして、そこに入る緊急通信。
「デュラちゃん提督!
敵と接触しました。前方300m先の通路です。V3と2号が同時に消滅…
撃沈っす、どうやったんすかね。」
「早いな。捕捉できるか。」
「もうしてます。MAP中央方向に向かって動いてます。攻撃手段も判明。
“シダン”ですね。」
報を受け、ストンと提督(アドミラル)が地に降り立つ。
「好都合だ。というか向うにして見ればカミカゼアタック以外、手がないか。
ブラック、アマゾンは安全院の現れた先、例のブツの存在を確認させろ。
他、斥候と工作班以外は手元に呼び戻せ。うちらもでるぞ。」

「YES!SIR! デュラちゃん女王陛下!さーちあんどですとろい!」
うっきぃーー×13
そして弩級戦艦『グレムリン』を擁するディラちゃん艦隊が発進する。

†††
一方、特攻カミカゼとの評を受けた対戦者、安全院綾鷹は迷宮の中心地と
思われる方角へと、ひた走っていた。
自らの動きが、拙攻であることは彼も十分理解はしているのだが、それ以前
の問題として今回はあまりに手数が違いすぎる。
対戦相手は小鬼グレムリンを10体以上使役(実際は13体)することができ、
そしてそれを耳目同然手足同然に扱う。対して自分は1機のみ。これは

眼でいえば2対30。
足で数えても2対30。
腕の数は2対28 ということだ。有ろうことなき大差だ。

情報戦を担う斥候、トラップを仕掛け、解除する役目を担う工作兵を大量に
相手はかかえているのだ。しかも指揮は頭脳明晰な夜魔口組の断頭が取る。
頭が回る相手にフリーハンドを与えて良いことなど、何一つない。
ただ刻一刻、自身の不利になっていくだけだ。

故に本陣への直接対決(ダイレクトアタック)をかける。
とはいえ読まれやすい行動だ、制空権は”トマホーク”と断首の能力を
考慮すれば彼らにあったし、地上戦でも単純な武力では工鬼が勝っているだろう。
つまり、
「八方塞がりという訳だ。『見落とす・な』」
自身に注意力を喚起する禁止句域を課す、そして走りつつ範囲型の句域も展開。
「隠れる・な」
それにより領域内に姿を隠せず棒立つとなってしまった小鬼に対し礫を打ちこむ。
稲妻のように煌めく金貨。
『指弾』。
高速でコインを指で弾き、敵を貫く業。
現在の手持ちは金貨20枚ほど。弾は現地調達、この戦場では幾らでも調達が効く。
「いつも通りのことだ。」
5m先にいる僅か5cmの対象を打ちぬけるのは単純に彼の技量によるものだ。
振るう腕と走る今がある。
彼はあっさり圧倒的不利という現実を受け入れ、走り続ける。

そして彼は新たな禁止句域を発動。
「当てる・な」
両者が中央の広場に足を踏み入れたのはほぼ同時であった。
綾鷹、動じ・ず。

【3】瞬間、声を揃えて
―貪欲中央広場―
両者の戦いは大方の予想を裏切り正面からのぶつかり合いとなった。
開戦は夜魔口工鬼VS安全院綾鷹。

突撃してきた工鬼に対して綾鷹は指弾を立て続けに放ち、金貨を打ちこむ。
だが、この暗器による奇襲は小鬼の斥候の眼により既に対戦相手に露見している。
大斧を盾にし防ぐと構わず突っ込んでくる。轟!そのまま振るわれる大斧。
綾鷹は背中から”刀”を取り出すと『ニ刀路』の”鞘”で、その斬撃を
綺麗に受け流した。
「鞘まで頑丈かヨ!鬼無瀬時限流!」
「工鬼。中身の刃はない。受けだけだ。攻め続けろ」「イエッサー!ソイ」
「…ッチ。」

断首の指示により工鬼より投擲されるマリーアントワネットの断頭斧。
そのトマホークミサイルをサイドステップでかわした綾鷹は、そのまま相手に
とり死角の位置となる右手側に回り込む。

―右に行った、恫喝GO―
だが、断首がこれを見逃すはずがない。警告を受けたサングラスがぐるりと彼を睨む。

「ザッケンンァゴラァァ!!!」

ヤクザハウリング(恫喝衝撃)が真正面から彼を襲う。
畜生界の猛獣すら怯ませる咆哮。だがその咆哮は、柳に風、彼は全く『動じ・ず』
そのまま工鬼の脇腹に鉄鞘を叩きこむ。
これを消防斧で辛くも受ける工鬼。ガードするも横腹に加わった圧力に軽く咳き込む。

そして弧を描き、後方から舞戻る断罪の斧―絶対必中を謳われたトマホーク―は
二人の真横を通過し、地を転がる。…まさかの大外れ。

「…フッ。」
「トマちゃん必中の幻想―早速アウトッォォ。しかもなんかリアクション薄ぇ」

既に『見落とすな』『隠れるな』は別モードに切り替わっている。
工鬼の軽口に綾鷹は答えなかった。
無言のうちで振るわれた綾鷹の鞭打が、地を転がっていく斧を追う。
が、斧はホップして逃げる。
否、断頭斧に取りついていた小鬼が、工鬼のほうに戻そうとライダーキック
をかましたのだ。
交通地獄で有村を仕留めたのはグレムリンズによる軌道操作の結果であったのだ。

だが今回は『当てる・な』という広範囲に広がった禁止句域が彼らにも及んでいる。
故の大外れ。柄に取りつき斧を操作してたグレムリンワークスは計3匹だっ
たが、うち2匹が綾鷹の鞭を喰らい、四散する。

「…っち。」
工鬼は冷たい目で予備用の消防斧を1本構え直す。そう一本だけ。
(…?二本目は…)
悪寒、自ら勘に従い綾鷹はしゃがみ、二本目の斬撃を躱す、黒髪が幾房か宙に舞う。

二本目は提督(アドミラル)の手中にあった。
正確には首だけの銀髪美女が柄に結び付けた紐を咥え先に付いた消防斧を振り子の
ように振りかざしながら飛んで来たのだ。しかも背後からの不意打ちでもって。

OH!NO!なんという戦慄的風景。
「今のは”避け”だよな。『当たり』そうだったじゃないか?安全院。
まあ、これは”当てる気”でなく”殺す気”で”振った”結果だろうがね。」

金髪の鬼は断頭の斧をゆうゆう拾うと構えなおす。不沈戦艦は健在。
その後方には首を戻し不敵に笑う、不敗の銀髪の女提督。強襲は不発に終わり
艦隊による包囲戦が始まる。

――――――――――――――――――――――――――――――

タネのない魔法は存在しない。
それが夜魔口断頭の持論だ。
徹底した現実主義の彼女にとっては考え続けること、疑い続けることは生き続ける
ことと同義だ。だからこの大会に参加した後も、裏の意図を探り考え続けている。
そして「必ず出し抜いてやる」と誓っている。必ず”二人で”生き残るために。
銀髪を靡かせ『先輩』は嘯く。
「まあ原理が判っていれば対応策ナンゾ、幾らでもとれるよな。お互いに。」
そして工鬼は反対に万事何も感じないし、考えない。それは考えることが
彼の敬愛し信奉する女神の領域であると理解しているからだ。
彼らは言葉より心で繋がっている―故に―彼女はこのJOKERを切る。
「『魔法の言葉』を使わせて貰う、工鬼、よーく聞け。」
「あい。でゅら唯一神様。」
彼女は専用インカムにそっと口づけをした。

「全力でいけ。オメーは無敵だ。勝ったら、すっごい『チュー』してやるよ。」


その瞬間、彼、夜魔口工鬼の心に静寂が訪れた。


――――――――――――凪――――――――――――――


凪の状態のち、スィィィイィッィイィィィィィィンと何かが収束する。


そして


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしゃしゃぁああああああああああああああ!」

 \\\\\ ドゴーーーーーーーーーン!! /////

何かが爆発した(ここまでのタイム0.05秒)。
”ウィン”ウィン”ウィン”ウィン”ウィン”

「ってぇ、まてオイ。」
向かい合っていた綾鷹が思わず、何事かとたじろく。百戦練魔の彼が
たじろくほどの熱量をそれはもう何か理不尽なほど、伴っていたのだ。

”ウィン”ウィン”ウィン”ウィン”ウィン”

一歩。
踏みこまれた一歩分、後退する綾鷹。
綾鷹はここに至って敗北の予感の正体を知る。
真に警戒すべきは断頭ではなかったのだ、そして工鬼“だけ”でもなかった、
それは二人の関係性の中にあったのだ。

金髪を逆立てて無敵のオーラを纏ったそれは、まさに伝説のスーパーグレムリン。
黄金のオ―ラは安全院の禁止句域の呪縛を易々と弾き返していた。

「…弾かれたか。こいつ句域の天敵(てんねんばか)じゃねぇか」



夜魔口工鬼は馬鹿であった。
出会った先輩に一目ぼれし、先輩が入っている斧部に即日入部するくらいの
馬鹿であった。
告白して断られるがそれでも諦めずに部活に励み、
斧部のレギュラーになってしまうほどの馬鹿であった。
卒業後に先輩についていくためにヤクザになるくらい馬鹿であった。
そして
先輩がチューしたるぞ無敵になれといわれれば『実行』してしまうほどの馬鹿であった。

「ホワァァ」

馬鹿の一念が×石の上にも3年、その掛け算がどれほどの効果を生み出すのか。
綾鷹にも、そして実は断頭にも、それを測ることはできなかった。
賢いヒトタチに、そんな人達に、馬鹿の気持ちなんてとても判んないだからあぁ。

「ホワァァァァァァァ」

先ほどの数倍の鋭さを持つ踏みこみ。尋常ざる脚力。
そこから繰り出される斬撃を、彼は前のように受け切れなかった。
門松の竹のような綺麗な断面図を作りつつ、二刀路の鞘は二つに絶ち切れたのだ。
とても斧の切れ味ではない。
そして勢い余って当然のように叩き割られる石畳。

「トミマツ*3かよ。お前ら。」
「誰がカドマツだ。ゴラァ!!」
ぼやきつつ、広場の石畳を蹴り距離をとる綾鷹。
句域をかけようとするが、その手が止まる。やるだけ無駄と判断したのだ。

禁止句域は動作を制御する言霊だ。
『動作』は意識無意志に関わらず、その人間やモノが発する思考に起因する。
なので思考が最初から制限されまくっていたり、精神状態が万全の相手には事の
”引っかかり”が発生しない。
平たく言うと『ゾーン』に入った人間には通用しないのだ。


チュウ
チュウ
勝って
初めてのチュウ。Iwill give you all my love”

今の彼の心理状態を表すとこういう感じだ。馬鹿の一念、岩をも通す。
ブレーキをかけようと思うのも馬鹿らしいほどの「超集中」状態がそこにはあった。

(帰りてぇー)
とはいえゾーンは長時間維持できるものでもない。逃げの一手で凌ぐしかない。
襲い来るスーパーグレムリン。
その後三度、石畳が叩き割られる。そのたびに這う這うの体で逃げ回る綾鷹。

(そして挟み込まれる…。)
前後を工鬼と断首に取られる。攻撃が誘導なのは判っていたが避けるだけで手一杯。
挟まれた瞬間、左右に手を広げ右と左*4に『金貨』を1枚づつ打ちこむが、
明らかに一手遅い。

「「ゴリヨウアリガトゴザィィヤシタァァァァ!!!」」」

挟み込んだ二人の闇金の声が綺麗にハモッる。

≪ 恫喝の二重唱和(ダブル・ハウリング・ゼット)≫

金貨*4が何処かへとはね、落ちてゆく。
2人の齎した共鳴は物理的な破壊力をともなった、まさに破壊的歯音。
喰らえばまともには済まない。
最少ダメージとなるよう身を屈め、特撮アクションのように地を転がる。

―嵌ったな―それを見た断首が、インカムを通し伏兵に合図を送る。
彼には見えていない。転がる先に何があるかを。
そこに魔物(グレムリン)が潜んでいることを。

「逃走経路はない。チェックメイトだ」
ウキキキキィッィ
それは財宝が積み重なったバベルの塔。工作班が崩れやすいよう内部で進めていた
中抜き作業も既に完了している。ハウリングによって揺さぶられた塔は起動係の
グレムリン達のラストスローを切っ掛けに音を立てて崩れ去り、雪崩を引き起こした。

安全院用に豪勢な棺桶を作るため。そして、その轟音に紛れるように、

TTTTTTTTTTTTTTT

携帯の着信音がなった。


【4】!!!!!!!!!!!!その時!!!!!!!!!!!!!!!
―――――――――――――――――――――――――――――
「 時よとまれ、お前はいかにも美しい」
 (『ファウスト』よりファウスト)

――――――――――――――――――――――――――――――

何も起こらなかった。
そう特に何も起こらなかった。そして
綾鷹は転がり込んだ先で、財宝の雪崩に飲みこまれ、逃げ場を失った状態で
斧に切られ敗北。マリーアントワネットの後を追い、断頭台の露と消えるはずで
あった。工鬼の視点では。断頭の思惑では。

だが、神はここで一度だけ、安全院をエコひいきをする。
あまりの戦力差に見かねたのか、もしくは最初から決められていた”鬼引き”
であったのか。ともあれこれはご都合主義と誹りを受けても仕方がないだろう。

転がった綾鷹は雪崩地点にいきつく前、近くにあった財宝の山に手を伸ばし
偶々、飛び出ていた『柄』を掴んだのだ。

本当にこれは偶々だ。

掴んだものが意外としっかり固定されており、彼の態勢を丁度立てなおすのに
非常に都合良かった。

偶々だ。
立てなおした瞬間、ずッぽりとそれは抜ける。
偶々だ。
それは儀式用の黄金の斧だった。彼はそれを勢いに任せ迷いなく工鬼に投擲する。

素人の手斧である。普段なら難なく撃ち落としただろうが、これも偶々、
その不安定な投擲と金製という重心の悪さが、性質の悪いジョークを工鬼に齎す。

「うおっ」
ジャイロめいて大きく揺らぎ、すとんと落ちたのだ。結果、彼は目測を誤らせ、
「ぐぉぉぉぉ」
左足に致命的な一撃を喰らう。あまりに意外過ぎる、この成り行きに綾鷹以外の
視線がその一点に集中した。
「工鬼ツツツツツ」
斧を咥え、フォローに向う断首。

そして一瞬の紛れを逃さず、この機に放たれる禁止句域、
「―時を―『感じる・な』―」

―禁止句域の効果は対象による。
広がったその言葉は、先ほどまで―にいた彼の中の“時に対する”体感を
僅か奪う。そして僅かに加速した世界において彼は鞭を振るう。
揮われた鞭の先は一度、地を叩くと、ついで空を舞う。そして…
ソレは空を斬り裂き、突き刺さった。
「先輩!マズィ!」
先に、その”先”に気づいたのは工鬼であった。
情報の送信先は1号だが、テレパスでの発信と察知が、僅かに遅れ・た。

突き刺さるスカッドミサイル。倒れ伏すのは、夜魔口断頭が本体。
「先輩!!」
工鬼の動きに呼応するように、再び、地を叩き、空を斬り裂く鞭。
そして、それは戦場において致命的な隙を見せた―即ち敵に背を向けた
戦士に放たれた。背中から心臓を一突きに刺されたスーパーグレムリンは
その一撃にて絶命する。

二つの超高速ロケットの正体。
それは安全院綾鷹の鞭先端より発射された『右手の怨念』の忘れ形見。
工鬼が切断した二刀路の鞘、その鮮やか過ぎる切り口が鋼鉄の竹槍となり、
二人の胸を貫いたのだった。


【5】-BLACK JOCK-
―――――――――――――――――――――――――――――
「正真正銘、最後の一枚さ。この世界のどこの国のものでもない。
これはアイデアの語源でもあるイデアの世界の金貨だ。」
 (真野風火水土)

――――――――――――――――――――――――――――――

「ようまだギリ生きてるかい。」
「長くはないがな…しかしお前、馬鹿だな。私達は既に死んでいるんだぞ。」
夜魔口断首に発射されたミサイルはギリギリのところで急所を外していた。
最後の瞬間、常に彼女と共にあった1号が身を呈し命がけでその進路を
ずらしたのだ。そして女はため息をつく。
「…最後の展開…ありゃなんだ…一体…どんな魔法使ったんだ…」
「あれか、残念ながら私にもわからない。急にいいア・イデアが湧いたというか
天啓と言うか。胡散臭い“何か”が起こった。」
女は噴き出す。
「なんだそりゃ…切り札と思いきや…ゴフッ、そりゃ最悪に…性質の
悪い冗談(blackjoke)だ。」
男は肩を竦めた。神ならぬ身、全てを知ることなど叶わない。
ましてやそれが比良坂兄弟が余興として、今回一枚だけMAPに用意した
地獄の第四圏「貪欲者の地獄」専用の免罪符“真なる金貨”であり、彼が
それを引き当て、なおかつ発動条件を満たしたがため、『理想の世界』が
実現したなど、誰が予想できるだろうか。
もっとも、この波乱の展開に試合の賭け主たちは歓喜し、ゲスい欲望の発露を
十二分に謳歌しているかも知れなかったが。
「ここでいいか」
「ハッあとは自分でやるよ。」
男は慣れた動作で女が咥えた煙草に火をつけてやる。
「最後に一つ聞いていいか? お前達は、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どう、あるべきだ。」
「私達は…一蓮托生だ。一人でも二人でもない二人一組の存在だ。まあ、
そういうことだ。賭けどきがあるなら…迷わず二人分の魂全額ベットさ。」
そういって視線を自らの膝元に落とす。
「本当に馬鹿だな…男ってのは」
それだけ確認できれば彼にとって十分だった。あとは決勝で事の始末をつけるだけだ。

「それじゃ”またな”夜魔口。」
「嘘つきめ、”くたばれ”安全院。」
別れの挨拶をした男に、彼女はシャフ度でそう答えた。

◆◆BLACK JOCK◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆
◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆ ◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆
◆◆◆◆◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆
◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆BLACK JOCK◆◆◆ ◆◆ ◆◆

====================================
(準決勝「貪欲者の地獄試合」結果)
夜魔口工鬼:貪欲者の地獄界戦にて轟沈。
夜魔口断頭:貪欲者の地獄界戦にて自艦と共に運命を共にす。

安全院綾鷹:地獄に1枚だけ現存する『イデアの金貨』を引き当てる。十万分の一の確率。
 神ドローにより決勝進出。

他、どさくさに紛れ【剥奪 LV-2】⇒【剥奪 LV-1】にランクアップ。記憶ほぼ復活。


(注釈)
*1:ウルワシ製薬の会長。だいたいこいつのせい。本日のミスリード。
社員は元気爆発四散ガンバルゾーといってヤ―さんの事務所に突っ込むほど元気、明るい職場環境。
*2:その視線の先、彼女の胸は豊満であった。
*3:80年代に放映された「噂の刑事トミー&マツ」のことと思われる。門松の誤字ではない
*4:“大当たり”


最終更新:2012年08月15日 23:46