第一回戦色欲触手地獄 雨竜院雨雫
採用する幕間SS
本文
林立する人の背丈ほどの触手の多くは居もしない獲物を求めてくねくねとその白い体を踊らせ、中には触手同士で互いを求め合う番もいる。巨大な肉の洞窟とでも呼ぶべき空間は地面のみならず周囲の壁、天井をも触手がまばらに覆い、彼らが分泌する淫液の雨がポタポタと降り注いでいる。ここは淫欲触手地獄。現世で邪淫に耽った者が堕ち、本能に根ざす肉欲に苛まれる地獄。
「うん…基本的には変わらないな…」
試合会場に召喚された雨竜院雨雫は会場全体を見渡してそのように感想を漏らした。死後地獄に堕とされてから二年、慣れ親しんだ光景と今眼前に広がるそれはほぼ同じであった。
違うのは、自分がいた地獄は果てしなく広大であったのに対して今いる空間は広くはあるが目に見える範囲で制限されている点、そして責め苦を受ける亡者たちの姿が無い点だ。
今この地獄にいる人間は自分と、他2名の対戦者のみ。そしてそのうち二名は地獄行き。無論自分以外の二名である。
「負けるなら俺ぁ此処がいいなぁ!けっこう気に入ってるしよ!」
「なら今抉り取ってやろうか?私は勝って生き返る」
肩でケタケタと笑う兄を武傘「青蓮華」の石突で小突く。そんなやり取りをしながらも雨雫は感覚を研ぎ澄ましていた。今のところ周囲に敵らしき気配は感じられない。
雨雫はミニスカート程度の丈のあるレインコートに手を入れると、股間を覆う純白の下着を下ろす。茂みと下着の間に引かれる銀の糸。レインコートのなかで起こるそれを確認出来たものはいない。
「フィーヒヒヒヒッ…さ~どこにいるのかな~雨雫さん♪」
上空10m程の高さから舘椅子神奈は森を見下ろしていた。彼女を宙に浮かせているのは無論魔人能力「QWERTY-U」である。魔女の箒のように鉋に跨り、更に両足をそれぞれ鉋に乗せて安定性を確保している。
戦闘において上空が優位であることは言うまでもない。敵の一人「蝦魯夷にゐと」の能力は飛行には関係ないし、雨雫の能力も、彼女の在学中に見せてもらったことがあるが、能力の応用で空中に留まることは出来ても「空を飛べる」とまでは言いがたい。
上空にいることで敵からは丸見えであるが、いつ襲ってくるかわからない触手の森に潜む
より安全であると彼女は考えた。
「あ~なんかいい気持ちになってきちゃった~早くおけけ剃りたいなあ」
天井から降る淫液と恥部への刺激、地獄全体に立ち込める瘴気じみた淫臭に恍惚となりながら彼女は索敵のため森を見回す。
「ん?」
眼下の触手の森の一部が不審な動きをしていることに彼女は気づいた。森全体がうねうねと動き回っているのは知っているが、それらとはどうも違うのだ。空を飛ぶ自分の斜め下、距離にして十数m程の地点に生えた数十本の触手達がまるでこちらに狙いを定めるかのように、その先端を向けている。
「えっ…何?まさか私を狙ってる?こんなところまで伸びたりするの?」
希望崎にも触手はいるが彼らの生態を詳しく知っているわけでは無い。況してや地獄の触手である。そんなことがあっても不思議では無いかも知れない。鉋の上で身構える神奈だったが、実際に触手がしたのは彼女の想定外の動きであった。
上空の神奈へ照準を合わせるかのように体を伸ばした数十本の触手達。その先端部分がにわかに膨らんだかと思うと、そこにある穴から高圧で淫液を噴射したのである。
「いっ!?」
高速で迫る数十条の淫液の束。予想外の事態に神奈はやや反応が遅れた。回避を試みるが、この飛行は機動力に優れているとは言いがたい。避け損ない、半分ほど食らってしまう。
「痛ッ!」
バランスが崩れ、転落しそうになるが足を乗せていた鉋になんとか掴まり体勢を立て直した。全て食らえば人間なら重傷、魔人の彼女でも気絶していたかも知れないのだからまだマシであろう。
「た…助かった…触手ってあんなこともするの…?」
第二射を警戒して上昇しつつ、その触手達の生えた地上に目を凝らすとそこには先程までなかった人影があった。スリーピースのスーツ、眼鏡をカチューシャのように頭に乗せた胡散臭いスタイル。端正な顔立ちにギラついた笑顔を浮かべ、紅い双眸をこちらへ向けている。蝦魯夷・モザイク・ナマラヴィッチ・にゐとだ。
「初戦(オーバーチュア)からラスボス(フィナーレ)だぜ」
手にしたタクトを大きく振ると触手達がそれに合わせてまた神奈を狙う銃身のように体を伸ばした。ラスボスでありレイプ王たる彼にとってレイプのために生まれた触手を従えるなど造作も無いことである。
「あんなことをする触手は見たことが無いな…蝦魯夷にゐとが何かしたのか?」
今の神奈の様子を見ていた雨雫は淫液の発射地点に向かって駈け出した。距離は600m程。平地ならともかく襲って来る触手を躱しながらでは恐らく数分を要するだろう。
雨雫は焦っていた。
「2人の戦いを傍観し、漁夫の利を狙うつもりなのだろう」
「戦慄の泉」から観戦していた者たちの多くは彼女の様子を見てそのように考えるが、彼らにはわかっていない。今の雨雫は、蝦魯夷を何としても自分が倒さねばならないと考えているのだ。だって彼はラスボスだから。それが魔人能力「俺が敵だ」(ワンターゲット)。
「チンポついてる分際で…調子に乗るなーッ!」
そしてそれは神奈も同じである。スカートを大きくはためかせ、股間から飛び出してきた鉋が5個。彼女の周囲に滞空するそれらはまるで使い魔の如く映った。神奈が地上の蝦魯夷を力強く指さすと一直線に彼へ向かって飛んでいく。神奈が認識出来ていないために空気抵抗を無視したそれらは形状に見合わぬ速度でラスボスに迫る。
「ヴォンッ!」
両手を広げ、ノーガードのまま鉋の集中砲火を浴びる。避けられる前提で追撃をかけようとしていた神奈はその素振りも見せなかったことに驚いたが更に驚くのはその次であった。1kg以上の高速で飛ぶ鉋を5発一度に浴びたのだ。常人なら間違い無く死んでいる。が、彼は膝をつくどころか直立の姿勢を崩すことも無い。
「ヴァッヴァッヴァ…愚か…こんな玩具で俺は殺せな…」
嘲笑する彼の首筋を鉋が高速で撫でていった。皮膚が大きく削り取られ、筋肉が露出している。頸動脈からは血が噴水のように噴き出していた。
「何が玩具だって?致命傷負ってんじゃんバーカ!」
「致命傷?ラスボスを舐めるなよ」
蝦魯夷が首筋に力を籠めると、噴水のような出血が瞬時に収まり、そして自身の首筋を削りとった鉋を捕まえ、へばりついた表皮を剥がして露出した断面に貼り付けると、数瞬で跡形も無く元に戻ったのである。治癒能力でもなんでもなく、純粋な回復力で。そして捕まえた鉋を尋常ならざる握力で粉砕すると、あたりを浮遊していた残り4つの鉋までも神奈がまずいと思うより早く手刀・足刀で叩き割って見せた。
「嘘…」
「ヴァッヴァッ…しかしあそこまで高く飛ばれると水鉄砲じゃ届かんな…」
不敵に笑い、再度タクトを振るとすぐ近くの触手2本がバネの如くにその身を縮める。彼は跳び上がり、それぞれに両足を乗せる。
「ヴァンッ!」
触手が全身(?)のバネを使って蝦魯夷を上空に打ち上げる。その瞬間彼は触手を両足で力いっぱい蹴り、2つの力によって神奈の上空を取るほどに跳躍した。
「高っ!」
上空を取られた神奈に新たに鉋を生成する余裕は無く、股間を乗せていた鉋をそのまま射出する。ぬらぬらと濡れた鉋が蝦魯夷の顎を綺麗に撃ちぬくが、次の瞬間蝦魯夷は大きく開いた口で鉋を捉え、固い樫の木の鉋をせんべいのように噛み砕いてみせた。
彼はにやりと笑って再び彼女を見下ろし、その頭部を砕くべく右手を振り上げ、落下しながらの鉄槌打ちを食らわそうとする。
そのとき彼は奇妙なことに気づいた。落下の勢いを乗せた鉄槌打ちを食らわすはずが、自分の体が落ちないのである。鉋のアッパーでわずかに体が持ち上がったその高度で空中に静止している。鉋が自分の体を持ち上げているわけでは無い。
「(これは…もう1人の魔人能力…?)」
絶望的な表情で自分を見上げていたはずの神奈は今、「あっ」とでもいうような表情で、視線は自分より上に向いている。その表情で何があったか悟った蝦魯夷は上半身を即座に反転する。ハッとして後退した神奈の額を脱力して重力のまま振り下ろされた鉄槌打ちが掠めたが、蝦魯夷はその感触を気にも止めない。
振り向いてまず目に入ったのはめくれ上がったレインコートの裾から覗く、丸見えの秘所であった。秘所を覆う深く濃い叢に、女性の陰毛を味噌汁に入れて食す彼は思わず目を奪われかけるがすぐに視線を上げる。そこにあったのは今まさに彼の頭部へ青蓮華を突き立てようとする雨雫の姿。
雨雫にとっても驚くべき反射速度で彼女に向かって左手を突き出すと、スーツの袖から触手が急速に伸びていく。手懐けた小型の触手を懐に忍ばせ、己の武器としていた。彼女の腕を締め上げろと命令した蝦魯夷だが、触手はそれを無視して思わぬ方向へと突き進んでいく。
「ヴァン…コ…!?」
触手が目指したのは剥き出しになった彼女の秘所。触手は全身を犯そうとするが、その中でも優先順位が高いのはやはり女性器である。剥き出しの秘所を前に腕に巻き付けなどという命令を無視するのは当然と言えた。それを2年の地獄生活で知っていた雨雫は、脅威となるだろう触手の動きを絞るために最初からショーツを脱ぎ、レインコートの下のボタンも外して動けばすぐに秘部が丸見えになるようにしていた。まさかこの土壇場で役に立つとは思わなかったが。
膣内に触手が侵入し、処女膜が破れても彼女は表情1つ変えない。触手が適度に深く入り込むと膣をぎゅっと締め上げる。並の男性器ならば潰れてしまうほどの膣圧はそれ以上の触手の進行を阻み、同時に抜けなくさせた。山田風太郎が作中で描写する通り女性が膣を武器にするのは当然のことだが、地獄で責められ続けるうち雨雫は自然にその極意を会得していた。そして膣で固定した触手が伸びてくる元、蝦魯夷の左腕に足を絡ませ、動きを封じる。
「ヴィッチ!」
「捕まえたぞ」
「愚かだな小娘…俺が捕まえたとも言えるだろう…」
腕を絡めとられた状態から強引に雨雫の体を引き寄せ、ガラ空きの腹を狙い右の拳を突き出す。
「(疾い…!)」
先に入ったのは流石に雨雫であった。脳天を狙って「離した」傘は能力によって数十cmの距離で急激に加速し、蝦魯夷が上体を反らしたために額に突き刺さった。
「ヴァ…ンッ!」
「うっ…!」
仰け反りながら繰り出した拳を雨雫は上体を強引に捻ったことで脇腹を掠めた程度で済んだが、その威力は凄まじく、レインコートの掠めた箇所が裂けて肉を削られ、肋骨が折れるのがわかった。まともに食らえば腹を貫通していただろう。踏み込む大地も無い空中でこの威力。恐るべき膂力である。
一方傘が突き刺さった蝦夷魯の額からは激しく血が噴き出しているが、その刺さり方からして脳には達しておらず、頭蓋骨で止まっている。とはいえ、鉄板を楽々貫通する威力があるこの技。魔人とはいえ食らえば脳まで一気に貫かれて即死のはずだ。なんという頑強さか。
「怪物め…っ」
蝦魯夷は拳が掠めた脇腹を狙い裏拳を繰り出そうとする。今度は体勢からして避けるのは不可能だ。が、その刹那、雨雫の魔人能力で宙に留まっていた蝦魯夷の体が今度は急速に落下し始める。雨雫が脚を解き膣圧を緩めるとズッポリと触手が抜け、2人の体は高速で引き離されていく。
そして数mの距離が出来ると蝦魯夷の体は再び静止する。彼は額の傘を引き抜こうとするが雨雫はこの機を逃さなかった。今度は自身が高速で落下し、落下のエネルギーを集中させて青蓮華の柄を蹴った。衝撃が肋骨に響くが、青蓮華は止まっていた箇所から更に奥深くに突き刺さり、突剣の部分が完全に額の肉に埋まった。今度は確実に脳に達しているはずだ。
「ヴォッ…ォッ…」
青蓮華を引き抜こうとした手もだらりと脱力して垂れ下がり、ぐるりと白目をむく。それを確認して雨雫が柄に足首を引っ掛けて能力を解除すると突剣が抜け、蝦魯夷の体は通常の重力に従い地面へと落ちていく。
雨雫は襲い来る触手の1つをバラバラにした肉片を放って能力で空中に留め、それを足場にここまで跳んで来ていた。その「階段」もまた、雨雫が能力を解除するとバラバラと地面に落下していく。
「ん?うおっ!」
鉄槌打ちが掠めて数瞬意識を飛ばされた神奈だったが、意識が戻ると落下の真っ最中であることに気づいた。幸い真下に触手は無いが、今はむしろ不運である。このまま叩きつけられれば柔らかい肉の大地とはいえダメージは免れない。慌てて股間で鉋を生成し、ぎゅっと太腿で挟み込み支えとした。運動エネルギーを加味すると50kgを超える負荷のために鉋はずるずると落下するが、なんとか無傷での着地に成功する。
するとその直後、やや離れた触手の群れの中にドチャッと派手な音を立てて蝦魯夷が落下し、再び声をあげて驚いた。額から大量に出血していて、恐る恐る鉋で触れてみるが反応が無い。
「わっ…私が落ちてる間に勝負ついちゃったんだ…でもまだ私は死んでない!おけけが剃れる!」
グッと拳を握る神奈から10m程離れた位置に雨雫は軽やかに舞い降りた。
「ありがとう、君が彼の気を引いてくれていたおかげだよ神奈ちゃん」
「そんな。雨雫さんがいなければ私死んでましたし。むしろ、ありがとうございます。でも、始まる前にいったように遠慮はしませんよ。つるっつるにしてあげますからね!」
「…ああ、寂しいけれど、ね…」
生前畢から聞いた通りの確かにボーボーだった雨雫のアソコを思い出し神奈はこれは剃りがいがありそうだと鼻息を荒くする。鉋を更に三つ生成し、スカートから呼び出す。互いが死ぬ前、あの文化祭の日と同じく両者は向き合っていた。あの日は近づきすぎて敗れた。でも今日は遠距離で戦える。勝つ。いつの間にか淫液の雨も止んでいるがもしかすると勝利の兆しかも知れない。そのとき、
「ずいぶん無防備だな…俺(ラスボス)でも無いのに…」
「えっ」
地表を突き破り、飛び出して来た触手が程よく濡れた神奈の無毛の股間へと突き刺さる。ハードレズの彼女は、しかし挿入経験は無く今膜を破られたのだが、彼女に起こった事態は処女喪失どころでは無かった。触手は膜を突き破ると恐ろしい勢いで膣内を突き進み、子宮に到達する。童貞の妄想とされていた「子宮(おく)に当たっている」状態が実現したのだがそこには苦痛しか無い。更に触手の先端は子宮すら突き破り、体内を陵辱、人間ではありえない量の精液がぐちゃぐちゃになった内臓器官を汚していき、最後には腹を突き破って体外に顔を出す。
「らめああああああああああああ……っごっふっ」
「神奈ちゃんっ!」
神奈は血の混じった泡を口や鼻から吹きながらぴくぴくと痙攣し、ぶびゅるっと汚い音を立てて血に染まった触手が膣から抜けるとその場にぐしゃりと崩れ落ちる。膣から溢れだす大量の血と白濁液、漏らした小便が交じり合い毒々しい色の水たまりが広がっていく。
流れ出ていくそれらは、そのまま彼女の命を象徴してるかのようだ。
「どうじっで…世界は…平和になる…ならないのか」
触手たちに囲まれ、男がゆらりと勃ちあがる。絶頂の後に訪れる限りなく深い虚無。だが、この触手たちのように犯すことしか知らなかった人間の頃から、答えにたどり着くのはいつもこんなときだった。
「それ…っは俺(ラスボス)不在故…」
眼鏡は砕け散り髪は乱れているが瞳は毒々しい輝きを増し、血で赤く染まった笑顔に雨雫は傘術の師である父の言葉を思い出していた。「笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である」と。
脳にダメージを受けているのは明らかで、足はふらつき、話すことすらおぼつかない。しかしそのことが、脳を損傷しても立ってくる怪物性と相俟って不気味な迫力を増して見せていた。
「ヴィッ…卑怯…か…?」
「いや、当然のことだ。殺せたと思って油断した私や彼女の落ち度さ」
あのとき、脳をぐちゃぐちゃに掻き回すことも出来たはずだ。そうすれば完全に勝負有りだった。
「ヴァヴァヴァッ…うれっし…ねえ…」
「ヴィイイイイイイイイイイイイイッシ!」
ビリビリと大気を震わす咆哮と共に、その身を包むスーツがはじけ飛んだ。鍛えぬかれた鋼の肉体と左腕とほぼ一体化した触手、コテカの下の天を突く剛直。顔を濡らす血を右の掌で拭うと、それで目元と口に紅を引き、垂れた前髪を後ろに撫で付ける。「裂帛の気合」などと形容するには強大過ぎる闘気に、雨雫は迫りくる巨大な壁を幻視した。
蝦魯夷がにいっと口角を吊り上げたとき、雨雫は大地の下に蠢くものを感じた。足下を突き破り、さらに四方からも触手が襲い来る。蝦魯夷にリミッターを外されたのか、雨雫が体験したことのない速度で。各々の触手が自分の意志で襲ってくるのでは無い。今やこの触手地獄の触手全てが眼前の男の支配下にあり、自身を犯そうとしている。
「(これは避けきれないな…)」
「ヴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイッップ!」
宙へ逃げた雨雫へと蝦魯夷は左腕の触手で横薙ぎの攻撃を繰り出す。今も恥部は丸見えであるが、完全に支配された触手はそこに向かうこと無く、彼の望むまま鞭の如くに長い体をしならせた。
「遅速降る」で高速落下すれば鞭は躱せるが、その下ではまた触手が膣に狙いを定めている。一度膣で触手を止めてはいるが、ただの挿入でなく神奈にしたようなキリングファックを止められる程には自分の膣圧に自身が無い。仕方なく鞭を受ける選択をする。右手に持った青蓮華で左側から来る鞭を捌く余裕は無く、肘と膝でガードするが弾きとばされた。肘が砕ける感覚があり、パチンコ玉を入れた巾着袋が裂けて中身が宙を舞う。
「ぐうっ!」
数m吹き飛ばされた雨雫だったが、地面に叩きつけられるかと思いきや、青蓮華を突き立ててそれを軸に回転しながら華麗に着地し、衝撃を最小限に留めた。蝦魯夷は着地の瞬間を狙って追撃をかけようとしたが、降り注ぐパチンコ玉の雨がそれを阻む。
体勢を立て直した雨雫は銀の雨を受けて出来た蝦魯夷の隙を突き、攻勢に出る。右腕だけでの雨竜の構えから濡れた大地を滑るように駆ける傘術の走法「蛟」で突進する。
「(どっちだ…さっきと同様頭か…心臓か?)」
全速力で突進しながら突きを放っても、落下する全運動エネルギーを乗せたさっき以上の威力にはならないはずだ。骨はともかく額の傷も塞がっている。受けられる。そして傘を手刀でへし折り、自身でキリングファックしてやる。触手などにくれてやるには勿体無い。
そのとき、上空から予想外の衝撃が襲った。それは淫液の雨。雨は止んでいたのでは無く、雨雫が上空に留めていたのだ。本来は神奈に食らわせるためだったが。小雨とも言えない雨でも数分かけて降る雨量を一気に叩きつけられるとまるで滝である。その衝撃を彼は意に介さなかったが、大量の水飛沫は目眩ましとなり、雨雫にとっても予想外の物の接近に彼が気づくことを許さなかった。
それは、高速で飛来する鉋。蝦魯夷の側頭部に激突し、自身が砕け散る程の衝撃を生む。先ほどまでなら一笑に付していただろう。だが脳にダメージを負ったうえ不意を突かれた形で受けた衝撃に一瞬彼の意識は遠のく。その刹那の隙を雨雫は逃さなかった。
「…ンヴァッ!?」
30cm程の至近距離まで間合いを詰め、蝦魯夷の上顎を狙って斜め下から突き上げるように刺突する。口中への刺突が前歯を穿ち、上顎に突剣が突き刺さった瞬間雨雫は引き金を引いた。ガス圧で石突を射出する奥の手である。上顎骨の隙間を狙って射出された石突が脳を貫き、それに伴う衝撃波が頭蓋骨の内側で反響し、脳を粉砕する。頭部は歪に変形し、主だった穴から液状になった脳漿が流れだした。筋肉の痙攣か、脳を破壊されたはずの蝦魯夷は奇妙に口角を吊り上げるとその場に崩れ落ちる。
雨雫はガクリとその場に膝をつき、能力を全て解除する。あたり一帯にバケツをひっくり返したような雨が降り注いだ。
「勝ったの…?雨雫さん…」
「ああ、最後の鉋…君のおかげだ」
虫の息で地面に伏す少女の傍らに跪き、謝辞を述べる。まさか負けたら地獄行きのこの試合で敵を助ける者がいるとは思わなかった。
「へへ…この体じゃどっちが勝ってもどうせ殺されるだけだし、なら雨雫さんがいいやって…」
「神奈ちゃん…」
神奈の力の無い笑みは雨雫が見たことのないモノだった。このあと彼女を待つのは永劫の責め苦。それも自分とは違いもはや救済の機会など訪れないだろう。これも愛しい者たちに再会するため、そして神奈の方もリスクを承知で参加したのだと覚悟はしていたが、その事実はやはりこの上なく重い。謝ってはいけないが謝りたかった。
「ねえ…雨雫さん、私の鉋あります?最期にお願い…聞いて欲しいな…」
その言葉に神奈の意を汲み取った雨雫は無言で頷いた。
「フィ…ヒヒ…おけけを剃るのはやっぱり気持ち…いいなあ」
血まみれの鉋が陰毛を剃り落としていく。神奈が弱々しく握った上から自分もぎゅっと握り、自身の股間を優しく滑らせた。地獄の底で、最初で最後の共同作業。
色白の雨雫の裸体において異様な存在感を放っていた黒々とした股間の茂みは生々しいエロスを湛えていたが、しかし今その茂みが剃り落とされ、徐々に面積を拡大していく白い丘には神々しい輝きがあった。ジョリジョリ、ジョリジョリと刃が毛を剃り落とす音が雨雫の耳には雨音のように優しく響く。
「神奈ちゃん、つるつるだよ。君の見たがってたつるつるのアソコ」
「…」
全ての恥毛を剃り終え艶々と煌めく秘部を見ると、神奈は何も言わず満足気に微笑むとそのまま目を閉じ、鉋を握る手から最後の力が抜けていった。「せめて、彼女とのこの絆を現世に持ち帰ろう」。そう誓う雨雫の頬を伝い、無毛となった丘へと涙雨が降り注いだ。
最終更新:2012年06月19日 10:52