第二回戦無間地獄 月読茎五
名前 |
性別 |
魔人能力 |
不破原拒 |
男性 |
超科学的改造術 |
月読茎五 |
男性 |
倍にして返してやるぜ…! |
舘椅子神奈 |
女性 |
QWERTY-U |
採用する幕間SS
なし
本文
――第二回戦・控え室。
「「「―という訳で。第二回戦の会場は『無間地獄』です!」」」
進行役の比良坂三兄弟が、殺風景な広場で待機する出場者に告げる。
「「「ここは前後左右上下に無限に続く暗黒の世界ですねー。
というか、何もありません!己の体のみで戦ってください!」」」
「はいはーい、しつも~ん」
長身黒髪の少女がひらひらと手を挙げ、その場に起立する。その乳房は豊満であった。
「「「はい、舘椅子さん。何でしょうか?」」」
「前後左右上下に無限に広がるって言うけどさァ、リングアウトはあんのー?」
「「「ありません。ですから、自由に戦ってくださって結構です!」」」
「やっりィ」
舘椅子と呼ばれた少女はニヤリと笑い、どかっとその場に座り込んだ。
それに続き、部屋の隅で何かを握りながらじっと広場の様子を伺っていた男が三兄弟に質問をする。
「もう一つ確認します。その空間には、壁や天井なども存在しないんですよね?」
、、、、、、、、
「「「ですから、”なにもありません”。どうぞ、ご自由に」」」
その白衣の男は、幽鬼の如く長く伸びた黒髪の下で奇妙な笑みを浮かべると、更に続けて質問をした。
、、、、
「つまり、”床もない”…ということでよろしいですかな?」
「「「はい、不破原さんのおっしゃるとおりです!」」」
その回答を聞くやいなや、広場中央でゴロンと転がっていた月読茎五は飛び起き、
オニめいた形相で三兄弟に掴みかかった。
「ちょ、ちょっと待て!床がないってテメーらどういうことだ!?」
「「「いや、だから、そのとおりの意味ですけど…」」」
「ザッけんな!おい、テメエら!会場変えやがれ!」
「「「もう遅いですねー。では、第二回戦張り切ってどうぞ!」」」
直後、暗転。
確かに存在していた足元の拠り所は、一瞬にして奈落へと変化したのであった。
「冗談じゃねえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………」
「ウッヒヒヒ。こりゃあ、アタシの一人勝ち!ってかァ~?」
一人、無限の虚無空間を浮遊する少女・舘椅子神奈。
その股間には鉋が押し当てられており、それによって空中に浮遊していた。
『QWERTY-U』。彼女の能力の前では、この際限なく広がる空間は庭のようなものであった。
「残念ながら、そういうわけには行かないですネェー…」
神奈の左後方から、蝿のような耳障りな羽音。
不破原拒。自らの肉体を改造し、蝿のような羽を生やしたその姿は、まるで悪魔のようであった。
「第一回戦が『虫花地獄』だったのが幸いしましたネ」
「オゲェーッ、趣味わりィー…どうせ改造するなら美少女になってくれればいいのにさァー」
「その提案は非合理的故に採用しないヨ」
二人の間に見えない火花が散る。
お互いに様子見である。
その二人の間に、流星のごとく影が落ちる!
「…………ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおまえら、許さねえからなああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
…そして、流星のごとく遠ざかる影。
「何今の」
「月読茎五だネ」
(……女の子じゃないし、助ける義理はないねぇー)
(……ああいう手合いは、『改造』してもつまらんからネ)
「…ほっとこう」
「…そうするかネ」
(茎五を除いた)二人の空中戦は熾烈を極めていた。
「くらえーッ!これが『カンナサーカス』じゃーい!」
スカートの中から無数の鉋を射出!
まるで意思を持ったかのような軌道で不破原を狙い撃つ!
不破原は回避をする様子はない。
しかしその体は、黒光りする甲殻に覆われていた!鉋が弾かれる!
「ムムムムムムダだヨーッ!昆虫をベースに『改造』したこの体にはネェー!」
「そんじゃ直接!『カンナックル』を受けてみろやーッ!」
鉋のミサイル群にまぎれて高速接近した神奈の右手には、これまた鉋で作り上げたグローブ!
だがその動きを読んでいたかのように後ろに飛び退く不破原!
「昆虫の複眼をなめちゃいかんヨ」
「チィーッ!ブンブンと鬱陶しいヤローだねぇー!男だったら拳一つでかかってこんかい!」
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかネ」
そう言うと不破原は、自らの身体を再改造し始めた。
甲虫の羽に加え、禍々しくも美しい蝶の…いや、蛾の羽!
あたかも堕天使のごとく6枚の羽を生やした不破原が不敵に笑う!
「ポオオオオオオオオイズン!毒蛾の鱗粉は味わったことはあるかネ?」
「ゲェー、キモッ!こいつはとっとと逃げるに限るぜーッ!」
「実験の途中で離席とは感心せんねエエエエエエエエエ!」
叫ぶ不破原の口腔から白い糸が射出される!蜘蛛糸!
身を翻し飛び去ろうとした鉋の手足を絡めとる!
「うげっ、こりゃあかん!」
「さァ!おとなしくじぃっっっっっっっけんされなさイ!」
「…なーんつってな。『槍鉋』ァ!カモーン!」
スカートの中から長い棒!一回戦で見せた槍鉋だ!
それを使い拘束から逃れ、距離を取る神奈。
(うひー、ちょっと吸ったかァー?体が言うこと聞かないねぇー)
六翼の悪魔を前にして、神奈は近づいてくる死の足音を感じる。
(ああ、やられチッたらこの真っ暗な奈落の底に落ちてくんだよなー。コエー)
眼下に広がる無限の闇を、無間地獄を見下ろし、思考を巡らす。
(… … ! …ああ、そうか…クソッ。)
そして、神奈はあることに気づき、覚悟を決める。
、、、、、、、、
(しかたねぇーッ あたしも勝てないけど、コイツには勝たせたくないからなー)
「さて。覚悟は決まったかネ」
悪魔が微笑む。
その姿はもはや、人と言うよりは虫の王と言うべきだろうか。
「答えは『YES』だ畜生ーッ!」
「では実験しまス。
安心してください。先ずは痛みを感じないように上半身を切断し、その状態で能力が使えるか試しまショ」
「そいつは御免被るっつーの!だあああらっしゃああああああああ!」
最後の力を振り絞り、不破原の頭上高くへと上昇する神奈!
「雨雫ちゃん!技を借りるぜぇーッ!」
そしてスカートの中から大量の槍鉋を放出する!
「い……っけェー!『遅速降る』ーッッッッ!」
その声とともに、無数の槍が雨となって不破原に襲いかかる!
「ムッ…!」
たまらず回避する虫の王、だが槍鉋は大きな槍となってそれを追う!
朦朧とした意識の中で、不破原にだけ狙いを定める神奈の執念である!
「逃がすかよォー!」
(ならば、本体を叩く…!)
巨大な槍に追われながら、神奈の方向へと高速で突っ込む不破原!
神奈の至近距離まで近づき、右手の蟷螂の鎌を振り上げる!
その姿は、まるで死神の如し!
「これで終わりでス…!」
「ところがぎっちょん!」
鎌を振り上げたまま、無数の槍鉋に串刺しにされる不破原。…そして、舘椅子神奈。
「ば、馬鹿…ナ」
「フィヒッ…一緒に…地獄…に…」
「だが、惜しかった…ナ…」
右手と頭、羽が二枚のみが残った状態で、不破原はニヤリと笑う。
「自分の神経など…既に…改造済み…だヨ…」
激戦を制したのは不破原拒であった。
「フウ…さすがに…しんどいネ…
審判!早く、勝利アナウンスはまだでスか?」
何もない空間に、三兄弟の姿が現れる。
「「「それはできません」」」
「まったク…今はキミタチの遊びに付き合ってる暇は…」
「「「まだ試合は終了しておりません。生存している選手がいる以上は」」」
「な…ニ…?」
不破原は神奈を見た。が、彼女は奈落の底に落ちていったまま戻ってくる気配はない。
生存している選手など、自分以外には――
――奈落の底…?
「そ、そんナ…バカなことが…!」
、、、、、、、、
――ここは前後左右上下に無限に続く暗黒の世界ですねー。
「「「正解です。選手はまだ、この遥か下に一人いらっしゃいます」」」
、、、、、、、、、、
――前後左右上下に無限に広がるって言うけどさァ、リングアウトはあんのー?
「冗談ではなあああああああああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!」
、、、、、
――ありません。ですから、自由に戦ってくださって結構です!
不破原は残りの力を振り絞り、奈落へと飛び立つ。
だが、傷つき、体も残っていない虫の王は、まさに虫の息。
「「「そうですね~。だいたいお二人が1時間ほど戦ってらっしゃったので…
重力加速度9.8m/s^2として、単純計算で…6350kmくらい下にいらっしゃるでしょうか。」」」
(私としたことが…ッ!あの小娘に気を取られていた…!
実験対象にもならぬクズだと思って気にもとめなかった奴ガ…!迂闊…!)
、、、、、、、、、、
「「「ま。仕方がありませんねー。あなた達二人が勝利することができたタイミングは――
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
――最初に月読さんがあなた達の間に落下した一瞬しかなかったのですから。」」」
「こんな…!こんな終わり方…ッ!認めナイ…!」
限界を迎え、背中の羽がちぎれ落ちようとも、奈落へと向かって飛び立つ。
だが、その身体は、「もう一人の敵」にたどり着くことなく、終わりを迎えた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーッ!殺す!殺すーーーーーーッ…!?」
無限の暗黒を落ち続けていた茎五であったが、不意に床に這いつくばっていることに気づく。
「ゆ、床…だと…ハァ、ハァ…」
「「「おめでとうございます!月読茎五様、3回戦進出でーっす!!」」」
比良坂三兄弟の祝福も耳に届かず、まるで夢を見ているかのような虚ろな瞳で転がる。
「ああそうかよ…ハァ…冗談にしては悪趣味だな…
なンでもいいや、休ませてくれ…」
―完―
最終更新:2012年07月20日 12:27