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はるかなる故郷

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匿名ユーザー

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はるかなる故郷 ◆MobiusZmZg


 悔い改める? 冗談じゃないわ。
 私には、まだまだやりたいことがあったのよ。
 知らないことも、学んでいないことも、故郷にはたくさんあったのだから。
 戦士として生きてきた矢先、洞窟に発破をかけたのだという“魔法”に魅せられて、魔法使いになった。
 大魔王ゾーマの復活した世界で、私がやってきたことといえば、「夢を追いかけた」のひと言で説明できる。
 ついでに、「闇に覆われたアレフガルドを救いかけた」と付け足しても良い。
 そんな人間をいきなり呼び出して、今までなにをやってきたかと問うほうがどうかしているわ。
 知りたいことがたくさんあるなら、賢者になってみればどうだと言われたこともあったけれど、違う。

 納得できないことを残したまま、書物の力で迷いを拭い去る。
 そして、そのまま神に選ばれてしまうようなことは、最後の手段にしておきたい。

 少し気取っているけれど、自分の望んだことですもの。
 たもとを分かって久しい勇者様。希望に燃える少年に告げた言葉は思い出すまでもない。
 善意で渡された悟りの書を固辞したときの気持ちは、ノアとやらの掌に招かれても変わらなかった。
 だって、私が学びたいのは“呪文”ではない。火薬や望遠鏡のような、人が作り出す“魔法”なのだから。
 魔法の玉に詰まった火薬だけじゃない、もっと、あれの使った武器を生み出す発想も、知識も、欲しい。
 環境……ええ、確かに、食物がなくては生きられない。雨が降らなくては、地には草さえ生えないでしょう。
 けれども自然とともに生き、雷を天罰と恐れて思考停止するには、私のような人間は色々と手遅れだわ。
 あれが否定していた文明から遠ざかっては、私の見たい夢には一生かかっても辿りつけはしない。
 とはいえ、ここで生き残っても監視されるのなら、レムオルや消え去り草のような対策は必要でしょうけど……。

 それでもいい。
 夢を叶えるためならば、どれだけ苦労しようと構わない。どれだけ本気を出したって平気。
 自分の手で魔の道を究めて、新たな知識を開拓できるのなら――。
 私は、どんな犠牲もいとわない。

 *  *  *

「ええっと。自己紹介って……どういうふうにやったものなのかなぁ?
 魔王を倒した孤高の勇者みたいに言われましたけど、俺は全然、そんなヤツじゃなくてですね。
 最初、旅に出る前は、俺は俺で人は人って考えてたんです。俺の仕事を誰かに肩代わりさせちゃ悪いな、と思ったり。
 勇者の息子として育てられて、でも……親父は何年経っても、世界を救う旅から帰ってこなかったんですから。
 だから、アリアハンの王様は、息子の俺が旅立つときに、そのあたりを気にかけてました。
 仲間と協力するようにって、お金とか、色んな装備を餞別にもらったんですけど――」

 ぎこちなく息を継いだところで、少年の眉から力が抜けた。
 難しげな顔の、高い額をつくる一因であった眉間の皺が、青い宝珠の填まった環の下に消える。
 あどけなさの残る瞳に宿りかけた影を覆い隠すように、彼は逆立てた黒髪を音を立ててかきむしった。
「すみません、ロシェさん。
 久しぶりに誰かと一緒にいるからって、俺、ガンガンしゃべっちゃって」
「状況が状況だ。気にすることでもないだろう」
 勇者の息子は、ロシェと呼ばれた男性の言葉を聞いて再び眉根を寄せた。
 魔王を倒すまでの行程をひとりで旅してきたからか、若さゆえか。彼はなかなか器用に出来ているようだ。
 安堵と不安、羞恥といった感情をまとめて両立させた少年の瞳には、黙りこくった男の渋面が映りこんでいる。
「いや――巧くは言えんのだがな。
 アルス。お前の気分は、私にも心当たりがある。それに、互いの身の上を聞くのは苦にならん」
「……あ。俺はクイーンガードなんて知らなかったし、ロシェさんは魔王たちを知らなかったんでしたね……」
 互いの認識のズレを、ノアの謳った“別の次元”で片付けたのは、少し前のことである。
 神と名乗った帽子の男と、首輪で爆殺された別の男。二人の犠牲者を目にしたからか、“勇者の息子”がどこか思いつめた表情で城を歩いていたところを見つけたのは、もう少し前の話になる。
 殺し合いの開始からいくばくも経たずして、自分という他人を前に腰を引いたアルスをどうにか落ち着け――
 今はアリアハンなる国の花にあふれた庭園で、情報交換を兼ねてひと息ついているというわけだった。
「そういうことだ。話したいだけ話せば良い。お前のほうにひと段落つけば、私も事情を説明するさ」
 女王を護る騎士に向けて、若き勇者はゆっくりとうなずく。
 少しの間、対面の堀に湛えられた流水に目をやって、彼はふたたび口を開いた。

「身の上話は、さっきのあれでほとんどですけど……俺、まだ迷ってます。
 魔王を倒すの正しかったかどうかとか、そんなことじゃなくて、もっと別のことで。
 あなたと話しながら、ノアが言ってた、“今まで自分がやってきたこと”を考えてみてました。
 それと、あの人たちが死んだ時のことも思い返してみて。そしたら、なんか……なんだろ。
 俺がロシェさんに会ったとき、あなたのことが恐いと思った理由が分かっちゃった気がするんです」

 誰かを殺すのも嫌だけど、ここで死ねるような理由も無い気がしてきて。
 誠実な、人を疑うことを知らない、のではない。様々な事件に立ち向かってなお、誠実さを捨てないでいられたのだろうアルスの顔に、苦しげなものがにじむ。
 途方にくれたような、頬にかかるあどけなさを増す憂色は、初めて会った時にも彼が浮かべていた色だ。

「これから魔王を倒すってときに、俺は、誰も仲間にできませんでした。
 勇者オルテガの息子だからって、俺は俺なんだから、親父みたいな器を望むなって……。
 でも、それは違う。合ってる部分もあるんでしょうけど、べつに、他人がいたって不満じゃなかったんだ」

 ロシェさんがいてくれるおかげで、まだ落ち着けてる。
 ちいさく続けた少年は、自身に内在するものを確かめるように左の拳を固めた。
 握りこまれた小盾のベルトが、何気ないしぐさにも乾いた音を追随させる。

「でも、ずっとひとりで帳尻を合わせてきた俺は、自分の仕事をこなすだけで精一杯で。
 人に背負わせなかった代わりに、人の寂しさとか、優しさだって、背負ってやれはしないんです。
 だから、俺が寂しいって言えるヤツが傍にいなかったのは、俺が誰にも“言わせなかった”からだなって。
 ひとりの旅は俺が選んだんだから、母さんにもおじいさんにも、つらいとか苦しいとか、言ったことなんかなかった。
 そんなふうに考えてみたら――俺には。俺の心の中には、誰もいなかったような気がしてくるんだ……ッ!」

 拳にしぼられた革の音は、肉声が詰まると同時に高くなった。
 アルス自身は涙のひとつも流していないが、喰い締めた奥歯のふるえは慟哭、との形容を思わせて激しい。
 ノアと名乗った怪物の言葉を、殺し合いに招かれたという現実を、真正直に真正面から。
 そして、ある程度冷静に受けとり、じっくり咀嚼してしまったからこそ――
 騎士とともにある勇者は、十六年の人生の生んだ虚無と相対していた。

「……笑い話ですよ。ううん。笑っちゃ失礼ですよね、こんなの。
 誰かを守るための勇者だっていうのに。復活した大魔王を倒すために、ひとりでギアガの大穴なんかに飛び込んだっていうのに。……“ここ”で、誰も俺に笑っちゃくれない。俺だって、笑ったりできないんです。
 そんなんで、ひとりで死ぬのは――なにも見つけないうちに死ぬのはすごく、恐い」

 盾に合わせて握るべき棍棒を放した右手の親指で、アルスは自分の胸を指した。
 極論にちかい、けれど彼にとっての真実である結論をぶちあげた瞳には、涙がにじんでいる。
 誰かを守るための勇者。ある意味では自身と正反対の位置に立つ男を、少年は兄かなにかのように見据えた。
 疲れたような瞳の、底にある輝きが、ロシェに言葉をうながした。

「誰かを守るため、か。勇者とは騎士と変わりのないものなのだな。
 では……きみは、守るべきものがあれば、死ににいけるというのか」
「大丈夫だとは言えません。俺だって、“死ぬ”ときはいつも恐い。
 だけど……このまま死んだら、俺は色々、納得できないと思います」

 “そんなことないよ”などと言っていたら少年は救われただろうかとは、あえて考えない。
 ぽっかりと胸に空いた穴を実感した者にこそ、平易な否定は慈雨のように染み渡るものなのだろうが……。
 自分が言ったとおり、こんな状況なのだ。苦痛を伴っても、アルスが納得できる方がまだいい。
「分かった。参考になるかどうかは分からないが――
 私も、女王陛下とドゥーハンの民を守る騎士のひとりだ。こちらの身の上を話してみよう」
 しかしながら、こうなってみるとロシェにもアルスの気持ちがよく分かった。
 対面で話すことに戸惑いを覚えた右手は所在なげに動いて、なにか支えになるものを探す。
 ……これでは仲間の侍が言うところのラクゴ、というものになるのだったか。
 あえかな六つ花の描かれた扇で膝を叩くに至り、騎士は初めて苦みの混じった笑みを浮かべた。
 疑問の表情を浮かべながらも、つられて口角を上げたアルスに向けて、最初の一句をつづる。

「私の守りたいものは、すでにこの世から喪われた。
 だが、喪われてしまったからこそ、私はそれを守りきらねばならないと思っている」

 美しいままに。“最後まで”。
 締めくくりの五文字を聞いた勇者の顔が引き締まるさまを、男は揺れない視界に収めた。


 ――不浄の地、ドゥーハン。
 生ある者も死した者も怨み、悲しみ、業を背負う地が、ロシェの故郷の成れの果てだ。
 一瞬の閃光がドゥーハンの民と街を滅ぼし、大地を死の灰色に塗り替えたのである。
 光のもとは、古代のエルフが興したという文明・ディアラントの遺した巨人型兵器“武神”。
 禍つ神とさえ形容されたモノに救いを求めたのは、街の大司教の座にある、たったひとりの男だった。
 光あれ、との言葉で世界が生まれたという話もあるそうだが、この場合は逆だと……言えるのだろうか?
 冗談のような形でもたらされた人生の終わりはあまりに突然すぎて、街の誰もが気付けなかったのだから。

 そして、死んでもなお滅びを知らぬままに異界へ囚われた魂。
 ドゥーハンの廃墟に縛られた者たちを解き放つのは、剣と魔法、加えて絆の力である。
 女王陛下の魂を贄にして召還された破壊の巨人を解放するのもまた、人が生む破壊の手――。
 そうだとしても、自分や仲間は、ドゥーハンで過ごした日々を美しいままで散らそうと考えていたのだ。


 それが、ロシェにとっての最後の仕事。
 クイーンガードとして、女王や“彼女”の愛したドゥーハンを守ることであった。
「でも、武神を倒して魂を解放すれば、みんな“死ぬ”んですよね?
 いくら存在のしかたが歪んでいたって、あなたの仲間も、街の人も生きてるっていうのに」
 アルスの危惧はもっともであったが、少なくともロシェや仲間に、悔いは無い。
「それでも、ドゥーハンの街やオティーリエ女王陛下、それに」
 あるとすれば、遠い日となってしまった、すでに喪われたものに対する憧憬であった。
 もう一度歩きたいと願った、エルフの女僧侶。彼女の、愛を意味する四文字の名前を――

「これまで、生き抜いてきた者の遺志と魂を護ることは出来る。
 仲間の侍の台詞を借りておくが、“散り遅れた花は見苦しい”のさ」

 ロシェは口にしなかった。
 雪の灰色とは無縁らしい城の土を彩る花に、左の指を伸ばしかけてやめる。
「だが、散る時でない花を手折るのも――悲しいな」
「ええ。そう、ですよね」
 せつなげな面持ちをした“勇者”の微笑に、しかして“騎士”は笑いを返せなかった。
 笑えると知っているのに、体が笑わせてくれないという状態は、なかなかにつらいものだ。
 ドゥーハンの地下を彷徨ううちに笑い方を忘れた自分の現身(うつしみ)が、妙にうらやましくなる。
「……現在の脅威ではなく、想い出を守るという行為は、滑稽か?」
「いいえ。故郷のことも思い出すヒマもないって状態より、よっぽどマシだなと思います」
 低きに流れるような考えを留めた思いは、憎まれ口に変わった。
 けれどもアルスは、喪わなければ気付けなかった者の生き様を語るさまから、なにか受けとったのか。

「俺にもそういう理由があったら。ううん、見つけられたら――!」

 彼はとっさに体を捌き、手にしていた小盾でもって扇を受け止めた。
 六つ花がもたらす魔浄の冷気は、盾に張られた角竜の甲殻によってはばまれる。
「な、なにを」
 デイパックをつかみながら横転し、立ち上がる動きで、篭手を狙った二撃目も避けられた。
 さすがに、たったひとりで魔王とやらを倒したというだけのことはある。
 声こそ動揺しているものの、倒すことより生き延びることに重点を置いた身のこなしには隙が無い。
「私の理由は、今、ここでお前が死ぬ理由には……ならんのだろうな」
 それに比べて――
 六人で連携することを基準としてきたおのが刃の、なんと鈍ったことだろうか。
 閉じた状態で棍棒を模しているにせよ、扇など使ったことがないという点を差し引いても甘さが残っている。
 右手に棍棒を構えられてしまう前にと、みたび閃かせた扇はひるがえした厚手のマントでもっていなされた。
 命中率を上げる“魔戦の護符”。魔法によって不慣れな体さばきがカバーされている実感がまったくと沸かない。
「それが、あなたの騎士道ですか!? 俺ッ、俺は――あなたとならノアに抗えるかもって思えたのに!」
「莫迦を言え。魂を縛る異空からでさえ人間を喚べた者に、どうやって立ち向かう!」
 ついに、アルスが抜剣した。
 飛竜の牙が釘のように突き出した棍棒の描く円弧に、閉じた扇の面をあわせる。
 金属と竜の骨が散らす火花と、扇の紋様に刻まれた魔力によって生まれる雪の香がぶつかり、きしんだ。
 そんな希望を臆面も無く口に出来るから……お前はきっと、“勇者”と呼ばれていたんだ。
 子どもの片手にひときれ。親に渡されたパンで三日以上を過ごして、はじめて彼女に捨てられたと理解した俺と、お前は違う。
「最初の一日で、誰も死ななかったら! 満足して自害に走れるとでも!?」
 クイーンガードとなってから身につけた言葉の装飾が、剥がれ落ちてしまいそうだった。
 ロシェ。姓など知らないただのロシェが、勇者の輝きを取り戻しかけたアルスに気圧されかけている。
「ノアは監視のもとに生き残らせると言ったけど、俺たちの故郷に返してくれる保証もないじゃないか!」
 理不尽な事象に、そして自身に。真っ向から向き合おうとつとめる少年の言葉は強かった。
 しかし、“ロシェ”には届かない。最後のクイーンガード、すでに喪われた者の影を求める“騎士”には響かない。
 誰の言葉だったか。強い絆は、剣でも切れない。それは、言葉とて同じことだ。
 あの真っ白な廃墟を。蹂躙された魂を知らぬ者のそれであるなら――

 同じことだ!

「アモーク!」
 反射的とも言えるひらめきの直後に、詠唱は終わっていた。
 延々と状況を繰り返させることで、こちらの疲弊を狙ったのだろう。
 扇を使った攻撃を回避しつづけていたアルスの体を、薄緑をした空気の刃が包み込んだ。
 騎士となってから身につけた僧侶魔法。自分を救ってくれた、もう一度歩きたい癒し手が修めていたわざ。
 その中でも貴重な攻撃の呪文をこそ、救うためには壊すことしか出来ないロシェは迷わず選びとる。
 高貴なるものの拝命に従う騎士の、ときに鋼の強さと剛直さを併せ持たねばならない精神。
 愚直な解けない魂でもって、滅びと曖昧な救いを同時に伸ばしたノアの手をこそ……取ってみせる。
「っあ、ああああぁああ――」
 風車のように回転しながら、真空の刃はアルスの周りにとどまっていた。
 ひとりでいれば、勇者らしく痛みに堪える矜持は必要なかったということだろうか。
 少年らしく、含むところのなにもない絶叫が、マントの切れ端とともに庭園に満ちていく。
 抵抗に失敗しても、しなくとも。風の壁が破られた瞬間に、輝こうとする魂を魔の扇で凍らせる。
「ロシェ……っ」
 うめきのまじったアルスの袈裟斬りを、騎士は無言で受け止めた。
 常ならば腰の入っていたであろう一撃は、しかし、裂傷のために浮いてしまっている。
 剣と違って均整のとれない棍棒の扱いに苦慮したのか、破壊力を上げる竜の牙さえ取り回しの邪魔となる始末だ。
 扇を引っ掛けて、そのまま引くにも押し切ることもかなわなくなった状況で、少年は“微笑んでみせる”。

「ルーラ!」

 わずか一節の詠唱が、苦みばしった表情に追随した。
 それが呪文であるとロシェが認識するより速く、アルスの体が宙に浮かんだ。
 魔術師が得意とする、迷宮脱出の魔法。それとも、瞬間移動のほうが近いのだろうか?
 吹き抜けの高空を翼持てるもののように翔んでみせた勇者は、派手な縮地術の痕跡すら庭園に残さない。
 振り上げた扇が断ち切ったのは、血のしぶき。紅い珠は雪のように凍るが早いか、あたたかな土へ解けてゆく。
『甘いな』
 恐怖に食いつぶされそうになっていた勇者。
 間違えようのない弱者を、有無を言わさず殺さなかった自身を、ロシェは端的に評価した。
 騎士道という名のわがままを通すと決めたわけではなく、彼と同じものを抱えていたと理解できるがゆえに。
 もう一度、あなたと歩きたい。歩きたい者に、そうと言えなかった自分のふがいなさを胸中で振り切る。
 二十四時間以内にひとり。まずはそれだけでいいのだから、慌てる必要もないだろう。
 失策の代償は、アルスを通じて自分の存在を喧伝されるというところだろうか。
 だが、それもここで地形を把握するなり、罠を仕掛けるなりすれば幸運に転ずるはずだ。
 かつての物乞い崩れだった盗賊の勘も、思い出した騎士としての知識も、隠身や城の用途の理解に役立つのだから。
 進入禁止のエリアに設定されたときは骨だろうが、もしもを並べても始まるまい。

 とにかく、あんなふうに喋ってみせるのはこれで最後だ。
 散るべきでない、手折るべきでない時に、花を折ってゆく……悲しみ?
 六人を統率する自分がいなければ、剣でも切れない絆さえ、脆くも崩れてしまったではないか。
 ああそうだ、本来ならば唾棄すべきであろうノアの箱舟に乗って、喪われた故郷を、美しく葬るために。
 自身の安寧を求める、傲慢な精神など――

 この花とともに散らせてやる。


【D-3/アリアハン城・庭園/日中】
【ロシェ(男主人公)@BUSIN~wizardry alternative~】
[状態]:MP消費(小)、疲労(中)
[装備]:魔浄扇@真・女神転生if...、魔戦の護符@BUSIN
[道具]:基本支給品、不明支給品×0~1
[思考]:優勝狙い。女王と民草の魂を解放するために生き残る
1:城を拠点にしつつ参加者を殺す。まずは地形の把握
[参戦時期]:異空で主人公の本体と出会った後~ラスボスと戦う直前
[備考]:人間/職業・盗賊→騎士(Lv5までの魔術師魔法・すべての僧侶魔法使用可)/善属性/性格・正義感。


 *  *  *

 大地の上から大空へ。
 高空から、再びかの地に。
「っは、はっ、……かはッ、」
 激しい上下移動を強いられるルーラの効果を前に、アルスは強いめまいと吐き気を味わった。
 気圧とやらの変化で、失血が深まったことだけが原因ではない。着地した体が重いわりに、足もとがおぼつかないのだ。
『殺し合いに、これだけ向かない呪文もない――からか?』
 ロシェと確認した地図を見る限り、舞台は懐かしきアリアハン大陸であった。
 戦闘用に簡略化した術式が術者の故郷を示すという前提があったからこそ、ルーラを使えたようなものだが……。
 レーベとアリアハンを往復できる呪文・ルーラ。数々の洞窟や、ナジミの塔から脱出できる呪文・リレミト。
 殺す側から逃げるというときにそんなものが普通に使えてしまっては、殺し合いなど成立させようがない。
「――ベホマ」
 とりあえず、耳慣れない呪文で負わされた傷を塞いでおく。
 失血も気になるところだが、街の入り口で食事や手当てをするにもいかないだろう。
 それに……自分は、久しぶりにアリアハンの街へ戻ってきているのだ。城にいた時には緊張や違和感が勝っていたが、見慣れた街並みを目にすると、胸にはこみあげてくるものがある。
 勇者の母として、死ににいくかもしれない息子を送り出した母。自分たち親子を誇りにしていた祖父。
 肉親だけではない。アリアハンの王や、宿や道具屋、武具屋の主人。遠くに見える井戸の中にいたのは、メダルおじさん。
 戦いにかまけて、自分はいったい、どれほどの郷愁を忘れてきたのか。どれほどの思いを無碍にしたのか。
 後悔が胃を揺らしにかかるほどに、自分は、ここに、帰りたかった。
 故郷へ帰るために努力をする、そのためになら、命を投げ出せるような気がした。
 ロシェのように故郷を消すのではなく、故郷とともに、自分たちが生きていくために。

「まさか……サマンサ!?」

 そんな思いを、彼女も抱いていたのだろうか。
 ルイーダの酒場で、顔を見るだけは見た魔法使いの面影が、アルスの視界を奪い去った。
 緑の帯で彩られた、黒のとんがり帽子。広いつばの下で外側に跳ねた短髪。襟を立てたマント――
 ともに行けないと報告するためだけに見た彼女のいでたちさえ懐かしい。
 自分の声に応じて振り向く、杖の代わりに斧を携えた彼女が人違いであっても構うものか!
「……あら。名前を知られているなんて、私も有名になったものだわ」
 だが、彼女は自身を見限ったに等しい勇者を近づかせることなどなかった。
 口の中でなにごとかつぶやかれると同時、アルスは収束する熱源に向けて盾を構える。
 直後に現れたのは、一条の細い焔。それが方々から集まって奔流をなし、魔力を秘めた扇の一撃さえ受け止めたはずの竜の甲殻が、形成された炎球の衝撃をいなしきれずに――
 力が、弾けた。

『今のは、メラじゃない』

 メラゾーマ。火球を生み出す最上級の呪文。
 書物で目にしたことがある、魔法使いの本気の証拠だ。
 左腕を大きく開き、一歩退くことで呪文を受けたアルスは、再び戦慄にとらわれる。
 自分の立っている場所が、向かうべき目印があやふやになる感覚。
 ひとり旅で何度も覚えた感覚が、どうしてか、二人になった今でも強く揺り起こされた。
 目の前では、魔法使いという職業に似合わぬ膂力を発揮したサマンサが、三日月のような刃をもつ斧を構えている。

「寂しがりやな勇者様のことだから、自分の家に帰りたがると思っていたのだけど……ハズレだったわね。
 でも、勇者様とよく似た……あなた。私が今日という日を生き延びるために――」

 死んでちょうだい。
 アルスの目の前で、薄桃色の紅を引いた唇が蛇の鱗を思わせて艶めいた。


【D-3/アリアハン・勇者の家付近/日中】
【アルス(男勇者)@ドラゴンクエスト3】
[状態]:裂傷複数(処置済み)、MP消費(中)、疲労(大)、やや失血
[装備]:クギバット@モンスターハンター
[道具]:基本支給品、不明支給品×0~2
[思考]:ひとりで死ぬのは、怖い
1:サマンサに対応する
2:殺してでも生き残るための理由か、命を捨てても構わないような存在が欲しい
[参戦時期]:ゾーマ復活後。アレフガルドに到達している
[備考]:バラモスをひとりで打倒しています。

【サマンサ(女魔法使い)@ドラゴンクエスト3】
[状態]:MP消費(微小)
[装備]:ルーンアクス@魔界塔士
[道具]:基本支給品、不明支給品×0~2
[思考]:優勝狙い。魔の道を究めるために生き残る
1:24時間ルールを解除するため、アルスを殺す
2:ノアの監視を振り切るための手段を探す
[参戦時期]:ゾーマ復活後
[備考]:戦士→魔法使いの順に転職しています。


【魔浄扇@真・女神転生if...】
ロシェに支給された。
凍結を追加効果にもつ扇。装備すると力・速・運が1ずつ上昇する。

【魔戦の護符@BUSIN】
ロシェに支給された。
高名な魔術師が念を込めた護符。装備者の命中率を上昇させる。
道具として使うと、奇蹟を起こす魔術師魔法『ニルヴァナ』の効果を発揮する。二回使用で破損。
※ニルヴァナ…七種類の奇蹟のうち、ランダムでひとつを起こす。代償として術者は気絶。
 奇蹟一覧:「何も起こらない」「敵を異次元に飛ばす」「敵の魔法を封じる」「パーティの魔法を強化」
 「パーティのHP全快+MPを1回/Lvずつ回復」「パーティ全員の防御力・回避力上昇」「パーティの直接攻撃を強化」

【クギバット@モンスターハンター】
アルスに支給された。
角竜ディアブロスの角を荒削りにした先端部に、竜の牙を埋め込んだ棍棒(片手剣)。小盾は角竜の背甲製。
いささか原始的なつくりだが、骨加工職人は“これこそ勇者の武器”と語っているようだ。

【ルーンアクス@魔界塔士】
サマンサに支給された。
斧の一種。自分に向かってくる魔法を一定確率で跳ね返す。


【参加可能者 残り19人+α】

013:各自で名前を付ける企画です    ※しかし名乗れるかは限らない 投下順 015:超重甲! ビーファイター!(タイトルに意味はない)
013:各自で名前を付ける企画です    ※しかし名乗れるかは限らない 時系列順 015:超重甲! ビーファイター!(タイトルに意味はない)
初登場! ロシェ 036:この剣に懸けて
初登場! アルス 043:血も涙も、故郷(ここ)で乾いてゆけ
初登場! サマンサ



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