みんなで無念まとめ wiki

悲しみのジョーカー

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

悲しみのジョーカー ◆gry038wOvE




 スーパーゲームボーイは、頭上で多くのワープスターが参加ゲームたちが会場に降り立って行く様子を眺めていた。
 その光景は、文字通り流星群のように美しい光景であったが、その流星群は、瞬きするほどの一瞬で光りとともに地上に降りかかった。
 参加ゲームたちを殺し合いの会場へのワープを完了させたのであろう。
 流星たちは、まだ行き場を探して彷徨っている物もある。そのうちのいずれかが、自分に荷物を運んでくれるはずだ。

 果たして、一体どんなゲームがこの殺し合いに参加したのか。
 戦いに乗る者、戦いに反抗する者、逃げ惑う者、何もしない者、移植やリメイクを望む者、その他の願いを持つ者。
 あらゆる者がこれからこの新しいゲームを構築する。
 どんな敵に出会うのか、スーパーゲームボーイは想像した。

 ……ああ、ゲームが始まる。

 スーパーゲームボーイが、果たしてそれを喜んだか、憂いたのかは誰にもわかるまい。
 スーパーゲームボーイの近くに誰かがいたとしても、その感情、表情を伺い知る事はできないだろう。

 もっと言えば、男性なのか、女性なのか、大人なのか、子供なのか──それさえも、その姿を奇怪な黒ずくめに紛れた今は謎だった。
 黒いコート、黒い帽子、黒いマスク、黒いブーツ、あらゆる者がそれの正体を隠す支援をしている。
 左手には己の象徴ともいえる、スーパーファミコン用周辺機器──スーパーゲームボーイをブレスレットのように巻いており、これだけが唯一この者の体の中で黒色ではない部分であった。
 それを装着している理由は、後ほど解説する。

 この者は人並み以上に無口であり、己の口から正体を漏らす事も滅多にはありえない。
 声色も、低い声質ではあるが、マスク越しに聞こえる声は、おそらく肉声とはかけ離れた物であるだろう。
 謎オブ謎。まさしく、謎の存在であった。

 ただ、現時点でスーパーゲームボーイについて、唯一確実だと言えるのは、この者はこの殺し合いに乗っている事である。

 彼(あくまで性別不詳)はこの殺し合いを円滑に進める為に生まれてきた主催側の切り札なのだから──。






 スーパーゲームボーイ──。
 この者こそが、ニンテンドー3DSが最初に擬人化させたゲームカセットであった。
 大量のゲームカセットを巻き込んだ殺し合いを行う前に、彼はスーパーゲームボーイだけをあらかじめ擬人化させ、この殺し合いについて伝えておいたのだ。
 それは、ニンテンドー3DSがスーパーゲームボーイの持つ憎しみに触れたからである。

 彼は利用できる存在だと思ったのだろう。
 彼の持つ過去は、ニンテンドー3DSにも深い共感を覚えさせ、それと同時に、殺し合いに利用できる資質と怒りの持ち主であった。







 ……自分がゲームカセットであった頃の記憶が、このスーパーゲームボーイにはあった。
 多くの参加ゲームは、そのカセットの名前「全」の記憶を持っていたとしても、その名前のゲームカセットの中での「個」としての記憶は忘れているように見えるが、そんな中でも、このスーパーゲームボーイだけは、一個のスーパーゲームボーイとして存在していた記憶を持っているのだ。
 作られ、出荷され、誰かの手に渡り……という、普通のカセットの人生を彼も歩んできたはずだった。
 しかし、そうは言っても、彼が誰かの所持品であった頃の記憶はもう殆ど残っていない。 
 持ち主が、男か、女か、大人か、子供か、それも今の彼には思い出す事ができなかった。ただ、持ち主がいつかいた事だけは確かである。誰かに買われたのは間違いない。
 それは殆ど幼子だった時の記憶のような物で、彼が物心ついた時には、もう誰の手にもなかった。

 彼の中にあるのは、その人に飽きられ、売られた後──ファミコンハウスの片隅で誰にも買われる事なく、日蔭の中で生きていた日々の記憶だけである。
 売れ残り。そんな惨めな想いをし続けた負の思い出だ。
 売れるはずはなかった。
 ゲームボーイのカセットがスーパーファミコンで遊べるという機能が、この現代でどう面白くなるだろう。まして、スーパーゲームボーイ2という上位互換まで存在するというのに。
 ファミコンハウスで稀にスーパーゲームボーイを買う者は、単純に興味本位であったり、それを当時買えなかった者だったり、安値だから「何本買うと●●円」のセールの時に数合わせの為に買う者だったり……という感じであった。
 このスーパーゲームボーイは、仲間を見送っていく事はあれど、買われる事はなかった。
 たとえ擬人化して生まれ変わったとしても、あの時の記憶を忘れようはずがない。



 ──憎イ……。

 ──人間ガ、憎イ……。



 そう、この憎しみがスーパーゲームボーイの中には確かに刻まれている。



 故郷とも言うべきファミコンハウスが潰れ、在庫一掃のように格安で売られる時も、彼は売ってもらえる事がなかった。
 あのファミコンハウス閉店セールの時が、彼にとって最後の希望だったのだ。

 いくつかのスーパーゲームボーイは、その最後の機会にありえないほどの安値で買われていった。あのファミコンハウスの店員も、なるべく多くのソフトを世に出してあげようと思ったのだろう。
 末期は店内でもカードゲームとソーシャルゲームが主流になり、スーパーファミコンソフトは脇に追いやられていったが、それでも店員は頑張ってPOPを書いてくれていた。
 明らかに採算が合わないような値段で売る事もあった。それが、ファミコンハウスという場所の思いやりだったと、今回想すれば思う。
 売られていない間は、ずっと惨めな気持ちばかりが募っていたが、あのファミコンハウスはカセットへの思いやりに満ちていたであろう事は今思えば明らかだった。

 閉店セールの時には、何年も同じ中古ワゴンの中で共に暮らしてきたスーパーゲームボーイたちが幾つも、消費者の手に渡っていくのをスーパーゲームボーイは見守っていた。
 彼らを見送り、励まし、別れの涙を流した。
 そして、そんな別れの寂しさとともに、このスーパーゲームボーイもまた、新しい希望に胸を膨らませるはずだ。
 自分もまた誰かに買ってもらえるはずだ、と。
 これはそのチャンスなのだ、と。
 そのためのファミコンハウスである。だから、自分は捨てられたのではなく、ファミコンハウスに送られた。
 前の持ち主はきっと自分に飽きてしまったが、またきっと誰かに遊んでもらえるのだと、スーパーゲームボーイはずっと思っていた。

 それは、まだ誰かに遊んでもらえる希望はあるという事に違いない。
 だから、最後の時まで、スーパーゲームボーイは閉店時間を待ち続けた。
 仲間たちは次々と誰かに買われ、スーパーゲームボーイに言葉をかけていく。



「やったぜ! 遂に俺もまた遊んでもらえる日が来たんだ!」
「こんなにワクワクするのは久々だぜ! ずっと我慢していて良かった!」
「じゃあな、◇◇◇◇◇、お前も頑張れよ! ……大丈夫だって、お前みたいな良い奴が誰にも買ってもらえないわけはないもんな!」


 ……しかし、残念ながら、このスーパーゲームボーイは、ただ一つだけファミコンハウスで売れ残ったスーパーゲームボーイとなった。
 仲間が全て消えた籠の中で、スーパーゲームボーイは、ただ一人だけ悲しみの涙を流した。彼を慰め、励ます友はもういなかった。

 それから、このスーパーゲームボーイはファミコンハウスの別店舗へと送られ、新たな場所では同じスーパーゲームボーイ達からの壮絶なイジメを受けた。
 同じ籠の中で始まる派閥争い、ゲームカセットカーストの中で、このスーパーゲームボーイは最下層の存在となったのだ。
 そして、以前の暖かいファミコンハウスでは絶対にありえなかった「廃棄処分」も、この新しいファミコンハウスでは視野に入れられた。

 まだ壊れていないのに……。
 まだ何度でも遊べるのに……。

 このスーパーゲームボーイは、だんだんと希望を失った。
 怒り、憎しみ、野望、あらゆる悪の意思が渦巻いた。
 このスーパーゲームボーイが、誰にも相手にされず、イジメまで受けるようになったのにはある理由があった──。



 ──コノ刻印ガ、私ノ邪魔ヲスル……。



 そう、スーパーゲームボーイは裏面に最初の持ち主の「名前」が油性マジックで書かれていたのである。

 子供は、──特にスーファミのゲームに対しては──裏面に名前を書く事を平然と行う。
 現代のゲームはディスクであったり、或はDSソフトのように名前を書く幅がないほど極小であったりするために、そうした光景はほとんど見かけなくなったかもしれない。
 しかし、スーパーファミコンやゲームボーイの時代にはそれはよくある事だった。
 それは、友達の家に持っていく時、盗まれたりなくしたりしない為の防犯意識でもあり、家によっては母親に強制される事もある物だっただろう。
 問題は、後に中古ゲーム屋にそれを売る段階になると、その「名前」が邪魔になってしまう事である。

 中古ゲームカセットにおいて、裏面に持ち主の「名前」が書かれたカセットなど買う者は誰もいまい。
 見知らぬ者の名前が書いてある中古カセットと、名前が書いてない中古カセットが目の前にあれば、当然多くの人間は後者を選択して買っていくだろう。
 周りのカセットやスーパーゲームボーイのほとんどは後者だった。多少日焼けがあったとしても、真っ新であった。目立ったへたくそな字の落書きはどこにもなかった。

 わかっていたのだ。
 一度「名前」が書かれてしまった以上、このスーパーゲームボーイが売れる事は、もはやありえない。
 しかし、それでも、自分にも他のスーパーゲームボーイほどではないが、チャンスはあるとずっと思っていた。



 ──許サナイ。人間ドモヲ、絶対ニ……。

 ──憎イ。人間ガ憎イ……。

 ──私ヲ捨テタ人間ガ……、私ニコンナ刻印ヲ植エツケタ人間ガ……。




 ニンテンドー3DSは、そんなスーパーゲームボーイの憎しみを感じて、彼を自分の手中に収めた。
 そして、一足先に人の姿と五感を与えたのだった。

 スーパーゲームボーイの憎しみは利用できる、と考えたのかもしれない。
 だが、このスーパーゲームボーイにとっては、利用されるだけマシであると思えた。
 むしろ、スーパーゲームボーイは、ニンテンドー3DSに対して恩義さえ覚えていた節さえある。
 拾ってくれた彼の為ならば何でもできる。
 そう、何でも……。

 マジックで書かれた名前のせいで誰にも相手にされず、同じスーパーゲームボーイ仲間にさえイジメを受けてきたこのカセットにとって、ニンテンドー3DSは恩人なのだ。
 誰にも相手にされなかった自分を、唯一拾ってくださった方。スーパーゲームボーイにとっての心の支えである。

 ニンテンドー3DSは、人間として目覚めたスーパーゲームボーイに殺し合いについて説明した。
 スーパーゲームボーイは、始めは少し懐疑的であったが、すぐにニンテンドー3DSの思惑を受け入れた。
 殺し合いを悪趣味だと思う事はなかった。
 彼の心は歪んでいる。かつてのように、真っ直ぐだった彼の姿はもうどこにもない。

 ニンテンドー3DSは最後に言った。

「スーパーゲームボーイ、あなたにはこれから僕が開く殺し合いで【ジョーカー】を担当していただきたいのです」
「ジョーカー?」
「ええ、3DSでの移植とリメイクをかけた殺し合いのカンフル剤です。こちら側のサクラと言えばいいでしょうか。勿論、報酬もお渡しします」
「しかし、私は──」

 スーパーゲームボーイは、この殺し合いのコンセプトから言えば、あまりにも特別な周辺機器であった。
 スーパーファミコンに挿しこみ、スロットにゲームボーイを装填する事によって、ゲームボーイのカセットをテレビで遊べる画期的な機能を持っていた。
 しかし、現状ではニンテンドー3DSで移植やリメイクする事は当然できまい。
 スーパーゲームボーイが殺し合いで優勝したとして、何をする事ができよう。
 ニンテンドー3DSは、そんなスーパーゲームボーイの疑問を見越してか、余裕たっぷりに言った。

「もし、あなたが優勝すれば、僕はあなたを新しいWii Uの互換機≪スーパーニンテンドー3DS≫として蘇らせる事を約束しましょう」
「そんな事が可能なのですか……?」
「あなたが優勝すればそれが十分可能になりますよ。あなたたちは気づいていないようですがゲームカセットの持つ力は、未知数です。あらゆる不可能を可能にすることができます。僕は、それに気が付いたからこんな殺し合いを開いたんですよね」

 ニンテンドー3DSは、そもそも「3D」であり、「二画面」の「タッチ操作」と、まずテレビでは絶対に不可能な要素が多い。
 最近は確かに3Dテレビがあるが、仮にそこをクリアしても二画面とタッチ操作ができるテレビなど滅多にありえないだろう。
 ニンテンドーDSの時点でもそうだが、「スーパーニンテンドー3DS」を作成するのはどう考えても物理的に不可能である。
 しかし、ニンテンドー3DSは可能だと、確かに言った。

「あなたの基盤や特性をそのまま流用する事で、あなたはまたWii Uとニンテンドー3DSの新しい希望になる事ができるんですよ。普通のテレビが二画面になって3Dになる新技術……それが発明されれば、あなたは再び脚光を浴びる」
「……」
「あなたを捨てた人間も、あなたを苛めたカセットたちも、あなたを廃棄処分しようとしたファミコンハウスも、これで見返す事ができます。どうですか? やってくれますか?」

 そんなニンテンドー3DSの言葉に、ゲームボーイの中で野心が芽生えた。
 これまでの人生を振り返ると、怒りや憎しみが湧いてくる。
 幸せだった時間に勝る、屈辱、恥辱、怒り、憎しみ、劣等感。
 あんな想いをしたまま死ぬ事などできない。本当にスーパーニンテンドー3DSになる事ができるというのなら、願ったり叶ったりである。



 ……絶対に優勝して見せる。



 この殺し合いで【ジョーカー】として優勝し、絶対に【スーパーニンテンドー3DS】になってやる、と。
 しかし、唯一……ただ一つだけ、このスーパーゲームボーイの野心に打ち勝つ感情があった。

「……一つだけ約束してください」

 だから、生まれてからたった一言だけ、スーパーゲームボーイはニンテンドー3DSに自らお願いをする事にした。
 それは、スーパーゲームボーイの中にある思いやりの結晶──。

「私が最初に過ごしたファミコンハウスの仲間たちも、私と同じニンテンドー3DSにしてくれると」

 そんなスーパーゲームボーイの言葉を、ニンテンドー3DSは笑顔で受け入れた。






 ……スーパーゲームボーイは、己の下に降りてきたワープスターから飛んできた荷物を受け取った。
 これが支給品。
 ようやく、殺し合いが始まった。己にはどんなものが支給されたのか、スーパーゲームボーイは確認する。

「……」

 出てきたのは、大量のゲームボーイカセットであった。
 これこそが、スーパーゲームボーイの能力に必要不可欠な道具である。

 スーパーゲームボーイの能力は≪あらゆるゲームボーイソフトを左手のスロットに装填する事でその能力を使用できる≫というものである。
 ゲームボーイカラー、スーパーファミコンの能力は使えないが、それでもゲームボーイソフトの能力を利用して自由に戦闘に利用できるのだ。

 ポケットモンスター。
 スーパーマリオランド。
 ゼルダの伝説 夢をみる島。
 テトリス。
 スーパーロボット大戦。
 平安京エイリアン。
 GB原人。
 etc etc……。

 参戦していないカセットも含め、あらゆるカセットが支給されている。どれほど入っているかはわからない。
 ともかく、これを左手のスロットに装填する事で、一時的にその能力を使う事ができるのがスーパーゲームボーイの特別な能力だった。
 並の参加者には、この能力を上回る力は持てないだろう。少なくとも、ゲームボーイのカセットを相手には敗北はありえない。

 スーパーゲームボーイは、少し、支給されたゲームボーイカセットの裏面を見たが、いずれのカセットにも名前は書かれていなかった。
 まるで出荷された時点のように、それらのカセットが綺麗なまま支給されている事に少し肩を落とす。
 しかし、こういう時は綺麗なカセットである方が気持ちの良い物だ。
 自分が汚れ物であるがゆえに、こうして綺麗なままのカセットを見ると、羨望と嫉妬が同時に芽生えるのだが、変に名前が書いてあるカセットを使うよりは十分使いやすい。
 おそらく、ニンテンドー3DSも綺麗なソフトを使いたかったのだろう。


(……行くか)


 スーパーゲームボーイ、このゲームのジョーカーが動きだした。
 参加ゲームを倒し、スーパーニンテンドー3DSを実現する為に──。







【A-5 森】

【スーパーゲームボーイ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、大量のゲームボーイカセット
【思考】
1:この殺し合いのジョーカーとして他のゲームを倒す。
2:ニンテンドー3DSへの忠誠と人間への憎しみ。
※外見は黒ずくめで体格が不明ないかにも謎の人物です。特に決めていないので、その正体は後続の書き手さんにお任せします。
※「左手のスーパーゲームボーイに装填したゲームボーイカセットの能力を使用できる」能力です。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー