夜が、明ける。
とは言っても遠慮がちな太陽の切れっ端がほんの少しだけ顔を見せただけで、辺りはまだどうしようもなく暗い。たっぷり2時間ほどは暗闇が続くだろう。
見渡す限り…とまでは行かないが、かなりの広さの平原の真ん中にいて視界は確保されているから、その暗さも…逃げる分にはマイナスに働くまい。恐らくは。
秋桜色の美しい髪を持った少女と、一際目を引く濁った蜂蜜色の髪の少女…
レナとバーバラは、もう数時間は動いていなかった。
動かない方がいいのだ。積極的でないのなら。
バーバラは動き続ける事を主張した。みんなに会いたい。早く。1秒でも早く、と。
レナも、そのつもりだった。怖かった。自分がここまで弱い存在だなんて思わなかった。姉…
ファリスと…
バッツに、会いたかった。
だが、その感情に理性がブレーキをかけた。隣で不安そうにしているバーバラを助けるためにも、そうせざるを得ない。
ゾーマの放送を聞いて、そう思った。
「今は動いちゃ駄目。なるべく安全になるまで、動くべき時まで待つの。大丈夫、姉さんが…バッツが絶対見つけてくれるから。」
安全になると言う事=人が死んでいくと言う事だと言う事は言わないでおいた。
知り合いが死んでしまうかも、とも言わなかった。
バーバラを守るためならそうせざるを得ない。今は、信頼することしかできない。
「朝だね…。」
疲れた顔で、バーバラが呟いた。一睡もしていないのだから当然だろうが。
「ええ…もうしばらくしたら、
旅の扉が出るって言っていたから…別の世界に出たら、また見晴らしのいい所で待ちましょう。」
バーバラを不安がらせないように、なるべく優しい声で言ってみた。だけど、彼女はもう限界だった。
「…ヤダよ!もしかしたらみんな死んじゃってるかもしれないんだよ!そしたらどうするの!」
「っ…!」
一瞬ならず絶句する。だけど、レナは、あくまでも優しく、諭した。
「私達が信じないで、誰が信じるの?大丈夫。貴女の知り合いも、私の仲間も、簡単に死んでしまうほど…弱くない。」
バーバラと自分に、言い聞かせる。強く、優しく。
「…ゴメンね。私ばっかり、わがまま言って。」
「いいのよ。私だって、同じ事を言いたくてしょうがなかった。多分、自分で言ってしまったら、どうにもならなくなってしまって他と思うから。」
バーバラとレナは顔を合わせてお互いに微笑して見せた。ちょっとだけ、空気が和らぐ。
「信じて待つだけって言うのは卑怯だと思う。でも、みんなで帰るために、最善を尽くしたいから。」
そう言った時だった。遙か遠く、もやに霞んだ塔の辺りから必至な声が耳に届いてきたのは。
「みなさん。聞いてください。今すぐ戦いをやめてください。こんなの、間違っています。
みんなで協力すれば、きっとうまくいく方法があるはずです。みなさん。塔に来てください。
ここに皆で集まってこれからのことを一緒に考えましょう。お願い。ここまで来て。」
遠く掠れたその声にレナとバーバラが振り返った。
始めに思ったのは、そう
呼びかけた人物に対する尊敬の念。
この状況下で人を信じる事が出来た人への。
だが、その声に関する考えは中断された。彼女らの意志によって。
振り返った時に見えてしまったのだ。右後ろに立っている男に。
幾つかの武器を身につけた、赤い髪の男。
フリオニール。
その瞳には、明らかな殺意。
「ひっ…!」
バーバラがか細い声を上げる。震えて…動けない!
「バーバラちゃん…つかまって!」
心の中の勇気を総動員して、レナが叫んだ。
荷物のザックとバーバラの腕を掴んで、走り出す。塔の方へ。
古の勇者の心、シーフの力を願う。レナとバーバラは、通常ではあり得ない速度でフリオニールの横をすり抜け、走りさった。
今が動く時だ。あの塔には人が集まってくる!多分バッツも!
フリオニールは、走り去ったレナ達を見ながら小さく舌打ちした。
早すぎる。仕留めきれない。
だがまあ、いい。
塔に人が集まっているらしい事は、分かる。それにあの放送はどうも不愉快だ。
フリオニールはゆっくり歩き出した。
-数時間後-
フリオニールは、塔の最上階を目指し進んでいた。
途中で2人の女性(
モニカと
グレーテ)
とすれ違ったが攻撃は控えた。
今はあの不愉快な放送を止めることが先決だ。
この上が頂上らしいな・・
フリオニールは神経を張りつめて階段の上の気配を
探ると、誰かが階段の近くにいるらしい。
気配を隠せないところをみると、相手は素人か?
強襲してもいいが、相手が複数だった場合
思わぬ不覚をとるかもしれない。
相手の不意をつかなくては・・
フリオニールは塔の窓から身を乗り出すと
塔の外壁を登り始めた。
【レナ@シーフ 所持品:
メイジマッシャー
第一行動方針:ナジミの塔に移動
第二行動方針:姉の捜索】
【バーバラ 所持品:
果物ナイフ
第一行動方針:ナジミの塔に移動
第二行動方針:仲間の捜索】
【現在位置:レーベとナジミの塔の中間地点の草原】
最終更新:2011年07月18日 01:18