「あった、
旅の扉だ」
とんぬらは、青く淡い光を放つ泉の前に立った。
実際のところ、捜すまでもなかった。通路は一本道で、
広間の真中で光っているのだから、気付かないほうがどうかしてる。
「…あの人はどうしたんだろう」
とんぬらはあれから暫く洞窟内を探索していた。
その途中、長髪のどこか飄々とした男とすれ違った。
こんな異常な環境なのに、まるで散歩のように歩いている男の姿に、思わず身を隠してしまったのだが…
悪い人には見えなかった。声をかけてみても良かったかもしれない。
まあ、もう遅いわけだが…
「とりあえず、隠れてないで出てきなよ」
とんぬらは部屋の隅に置かれている魔神像に向かっていった。
「出てこないなら…こちらから行かせて貰うだけだよ」
のそり、人影が現れる。
金色の髪が靡く女性。薄暗いが、眼帯をしているのがわかる。
そして、その手には…血に塗れた剣があった。
「………」
とんぬらは
釘バットを構えた。
女性も剣を構える。と同時に襲い掛かってきた。
だが、とんぬらは落ち着いていた。
考えてみれば、これまでの自分の人生は唐突の繰り返しだった。
幸せも不幸もお構いなしやってきて、自分は戦ってそれを切り抜けてきた。
今回も同じことだ。鋭敏になった感覚の中で、とんぬらは思った。
女性の剣は速さも鋭さもなかった。
とんぬらは一歩下がってそれを交わすと、女性の体に釘バットをたたきつける。
剣を離し、女性は壁の端まで吹き飛ばされていく。
それで、終わった。
とんぬらはその呆気なさに拍子抜けした。
これでは、殺してしまったのと大差ない。
攻撃を仕掛けたのは向こうで、自分に落ち度がないことは理解できるが、それでも後味が悪い。
そう思いながら、とんぬらは女性が持っていた剣をとろうとした…
「やめておきなさい…」
女性が、ゆっくりと身を起こした。
叩きつけたほうの左腕が、奇妙な方向に曲がっている。
「あなたに、大切な人がいるなら…その剣に触れてはいけない」
襲い掛かってきた時とは様子が違う女性にとんぬらは少し戸惑ったが、状況は理解できた。
つまり…この剣はそういう代物なのだろう。
とんぬらは剣に伸ばしていた手を退くと、代わりに足で蹴っ飛ばした。
何度かそれを繰り返して、像の影までそれを移動させる。
女性は満足げに、儚い笑みを浮かべた。
「それで、良い。さあ、私を殺してくれ」
「何故?あなたはこの剣に操られていたのでしょう?」
「それでも、己の仕出かした事だ…私は、守らなくてはいけない人を、この手に」
女性は、表情を歪める。あの剣の血は、彼女が守らなくてはいけない人のものなのだろう。
その悔恨が、先ほどのような自殺行為に走らせた。剣に呪われながらも。
「もう、生きる必要もない…」
「だから、僕に裁け、と?」
「私はお前を殺そうとした。理由は十分だろう?」
「確かにね。でも、僕は無益な殺生は嫌いなんだ。そんなに死にたいなら、自分でやればいい。僕は…嫌だ」
「…そんな予感はしていた。お前は、私を殺してくれないと」
「………」
「だが、あの剣を処分してくれた事には礼をいう…」
それだけ言うと、女性は出口のほうへと歩いていった。
武器も持たず、左腕を破壊された、そのままで。
…そして、
ベアトリクスは再び地上に上がった。
痺れる腕を抱えながら、森の中へ入っていく。
その先には。紅く濡れた木々と、その中央に、もう動かない人の形があった。
ここに来て最初に出会った人であり、そしてここに来る以前からよく知っていた人である。
「
ガーネット様…」
その側にしゃがみ込む。もう、目を開くことも口を訊くこともない主の姿に、ベアトリクスは泣いた。
【
とんぬら 所持品:釘バット
第一行動方針:状況整理
第二行動方針:
パパスと会う】
【現在位置:いざないの洞窟B1、旅の扉の前】
【ベアトリクス(左腕が潰れている) 所持品:なし
行動方針:放心状態】
【現在位置:いざないの洞窟側の森】
※
皆殺しの剣:いざないの洞窟B1の魔神像の影に隠される
【ガーネット 死亡】
【残り 85人】
最終更新:2011年07月18日 02:29