フラットレイは、焦っていた。
封魔壁へと続く谷で、フラットレイは崖にぱっくり開いた穴の中に身を潜めていた。
殺すのは一人でいい。最後の一人だけで。だから、今は隠れている。
だが…。
(外を歩いている…誰がだ?)
足音がする。二人か、三人。何事かを話しながらこっちの方に歩いてくる…。
(落ち着け。殺し合う必要は…無い。)
そう思った。最後の一人でいい。だから、隠れてやり過ごせば…。
汗をかいていた。極度の緊張から。首筋を指先でぬぐうと、冷たい感覚が触れた。あの、忌々しい首輪。
コレが爆発したら、まず死ぬ。だが、逃げたり、アイツラに明確な反抗の意志を示したりしなければ、そんな心配は皆無だ…。
その時、フラットレイの脳裏に
エビルマージの言葉がよぎった。
“また、24時間以内に誰も死ななかった場合も、爆発だ。”
…最後に人が死んでから、どれくらい経った?最悪の場合、時間は後十時間と少し。
やる気のヤツらはいるらしいが、もしもそいつらが後十時間、人を見つけられず、殺せなかったら…。
フラットレイは、ダイアソードを握りしめた。時間を稼がなければならない。
フラットレイは、穴の中から弾丸のような勢いで飛び出した。
「大丈夫?
アリーナ…。」
隣を歩く
リディアの心配そうな声…そう言えば、会ってからずっと心配そうな声ばかり出している気がする。この子は…に、アリーナは笑顔で答えた。
「へーき、へーき。大した怪我、してないし。」
そう言って、軽い調子で手を振る。そう、ちょっとした切り傷や擦り傷だけで、大した怪我などしていない。
ただ、精神的な疲労が激しかった。ソロが
ミネアを殺してしまったかも知れないと言う事。そして何より、
ギルバートが死んだ事だった。
あの時は、妙に落ち着いていたので…そして、考えがあると言っていたので任せてしまったが…。
付いていっていれば良かったのではないか?一緒にいれば死なずにすんだのでは?
彼を弔った後、それを考えずに済ますためにアリーナは歩いていた。とても早く、ただリディアが追いつける程度には押さえて。
いつの間にか、内陸部に入り込んでいた。右の方に崖が見える。
そして彼女らの耳に、剣と剣がぶつかり合う音が響いてきた。戦いの音が。
「…!」
剣戟の音が聞こえた次の瞬間には、疲れ切っていたアリーナの精神は覚醒していた。
横を歩いていたリディアを引っ張って抱きすくめて、少し遠くに見える谷に、崖の真ん中に
ナイフで切り込みを入れたような谷の入り口に向かって走っていた。
「戦ってる…?」
リディアが小さく呟いた。谷の真ん中で行われている戦いを見て。
そう、戦っていた。見知らぬ誰かが。
片方は男。二十歳くらいの茶色い髪の男だ。少し後ろに紫色の髪の子供が二人いる。
もう片方は…なんだ?アレは?ネズミの顔をした男…男かどうかは分からないが、とにかくネズミ人間だ。
どちらも剣を握って、戦っている…と、今の今まで後ろで見ているだけだった子供の一人が動いた。右手を掲げ、アリーナに取っては信じられない一言を言い放つ。
「ライデイン!」
子供の手から紫電が迸る。凄まじいイカヅチがネズミ人間の傍らを焼き尽くした。
ネズミ人間はその一撃に驚いたようで、戦いを放棄して逃亡を始めた。目の錯覚かと疑うような跳躍力で崖を上っていき、その向こう側へと消えていく。
だが、アリーナの意識は別の所に飛んでいた。
雷撃呪文?まさか。アレは勇者の血統…ソロにしかあつかえないはずだ。だが、今のは間違いなく…。
“男の子が、雷の魔法で女の人を…”ギルバートはそう言った。
目の前のあの子供とソロはずいぶん年齢が離れているが、“男の子”と、ひとくくりに出来る年齢差だ。まさか…あの子供が?
思考が、固まっていく。ソロがミネアをが殺すはずがない。あんな呪文を使えるヤツだってそんなにいるはずが無い。だったら…。
アリーナが、立ち上がった。ゆっくりと、怒気を込めて。
「アリーナ…?」
リディアの問いかけ。アリーナはそれに、走り出しながら答えた。
「アイツラがミネアを殺したかもしれない…!」と。
ふう…と、
バッツは小さく
ため息を付いた。強かった…。
逃げるフラットレイを見送って、バッツは自分にかかっている魔法を解除する。
あの、妙な機械だらけの基地みたいな所を出る時に“アビリティ”を時魔法に変更していたのが幸いした。魔法の力が無かったら、今頃は…。
「助かったよ、二人とも…。」
そう言いながら、首を巡らせる。視界の端に紅いマントが映った。
(え?)
と思う隙もあればこそ、バッツはいきなり腹部に重い一撃を喰らって宙を舞った。
今更のように、「危ない!」という
クーパーの声が聞こえてきた。
背筋がゾクリを冷えるような怒気を放ちながら、アリーナはクーパーを睨め付けた。
ひっ、と声を上げて
アニーがへたり込む。
クーパーは、やはり怯えながらもアリーナを睨み付け返す。
天空の盾とロングソードを構えて。
…この時、クーパーがアニーと同じように怯えて戦う意志を放棄していたら、アリーナは攻撃を止めていただろう。だが、クーパーはほんの少しだけ、意志が強すぎた。
ぎりっ、とアリーナが歯を食いしばる。そして。
烈風のような拳がクーパーめがけて突き出され、それはかろうじて天空の盾に受け止められた。
「ぐ……。」
地面にはいつくばったバッツは、ジンジン痛む腹部を押さえて立ち上がろうとした。骨格や内臓に損傷はないようだが…。
ぐっと顔を上げると、クーパーがさっきの赤マント…どうやら女のようだ…と戦っている!
「くそっ…!」
バッツは口から一筋の血を流しながら、魔法の詠唱に入った。
何度も強烈な拳を繰り出しながら、アリーナは歯がみした。
自分の攻撃がことごとく防がれている!それも、なにか『盾が勝手に防いでいる』ように見える。
焦るクーパーの腕を盾自身が導いて、防がせている…!
がしっ、とアリーナの腕が盾を掴んだ。そのまま盾を引っ張って、クーパーの防御をがら空きにする…!
(この子が、ミネアを…!)
アリーナの頭に血が上り、拳が振り上げられ…。
脇腹に弾丸のような衝撃を受けて吹っ飛ばされた!
「あ…。」
目の前からアリーナの姿が消えたとたん、クーパーはその場にどっかと座り込んだ。緊張の糸が、切れた。
「大丈夫…?」
ようやく立ち上がったアニーが、クーパーに走り寄ってくる。
ごめん、ごめんと謝るアニーに「いいよ、大丈夫だから。」と答えて、ぐるっと辺りを見回した。
右の少し離れた所に、アリーナが倒れている。そして自分の前には、バッツが。
「バッツ兄ちゃん?!」「バッツさん!」
クーパーとアニーは、慌ててバッツに駆け寄った。
「ああ、二人とも…無事だったか…。」
衰弱し、ボロボロの身体を引きずってバッツは立ち上がった。
今の瞬間、バッツはクイックと言う“時間停滞魔法”を使い、アリーナに思いっきり体当たりしたのだ。通常の時間軸から見れば凄まじい速度で。
その代償として、その魔力の大半を使い切ってしまったが。
「大丈夫?!」
「ん…まあ何とか生きてるけど…少しきついな。スタートの場所に戻って…少し休むか。」
そう言いながらバッツは、少し遠くで倒れているアリーナを抱き上げた。息はある。気絶してるだけだ。
「その人、どうするの?」
「連れてくよ。気が付いたら、説得してみる。」
バッツはそう言って封魔壁監視所に向かって歩き出した。無論、双子もそれに従った。
リディアは、連れて行かれるアリーナをじっ、と見つめていた。
まさか、三対一とはいえ、アリーナが倒されるとは思わなかったから。
でも、あの人達は“トドメ”を刺さなかった。ひょっとして…。
リディアはゆっくりと、バッツ達の後を追い始めた。
【アリーナ(気絶、クーパーをミネア殺しと勘違い) 所持品:イオの書×4
リフレクトリング
第一行動方針:???
第二行動方針:ソロを探す】
【バッツ@魔法剣士(アビリティ:時魔法)
所持品:
ブレイブブレイド
第一行動方針:封魔壁監視所へ戻る
第二行動方針:レナと
ファリスを探す
基本行動方針:非好戦的だが、自衛はする
最終行動方針:ゲームを抜ける】
【クーパー 所持品:天空の盾とロングソード
第一行動方針:両親さがし】
【アニー 所持品:マンゴージュ
第一行動方針:両親さがし】
【現在位置:封魔壁へ続く谷間】
【リディア 所持品:なし
第一行動方針:バッツ達を追う
第二行動方針:仲間を探す】
【現在位置:封魔壁へ続く谷間】
【フラットレイ 所持品:
ダイヤソード
第一行動方針:時間を稼ぐ
基本行動方針:どこかに潜伏する】
最終行動方針:最後の一人を殺して生き残る
【現在位置:封魔壁へ続く谷間から離脱】
最終更新:2011年07月17日 22:10