霧竜

「ん…。」
どこかで不気味な声が聞こえた気がして、アリーナはゆっくり目を開けた。
髑髏の穴を風が通り抜けるような音。それに明確な『意味』が込められたら、こんな感じに聞こえるかもしれない。。
「…以上だ…せいぜい楽しいゲームを我らに見せてくれ…」
ゲーム…?そうだ、自分達は今、殺し合いをしている。それで、ギルバートが…ギルバートが死んで、リディアと一緒に歩いてて…。それで…!…っ!
アリーナは、未だぼんやりしている自らの意識に渇を入れて、思いっきり立ち上がろうとして…。
縛られた手足が意識に付いていかず、思いっきりこけた。
「いったぁ…。」
頭に出来た小さなコブをさする事も出来ずに、アリーナはそこらを転がった。いつもなら、クリフトが「大丈夫ですか」などと言いながら駆け寄ってきて…ホイミを使ってくれる。
だが、今、彼女の前に存在しているのは、彼女にとっての敵だった。
「あなた達…!」
彼女は縛られている手足を器用に扱い、しっかり起きあがって座り直してから『敵』を見つめた。
「あなた達…コレはどういうつもり?」
見つめる対象が発火しかねないほどの怒気を込めて『敵』…目の前に座る青年、バッツ=クラウザーを睨み付ける。
バッツはその瞳を真っ正面から浴びながら、手の中に残っていたパンの一切れを口に放り込んだ。
その後ろに隠れている子供二人も、口をもぐもぐさせながら、怯えた目でこちらを見ている。
「どういうつもり…って、縛ってる。暴れられたら困るしな。」
バッツは申し訳なさそうに言いながら、狭い部屋…封魔壁監視所の武器庫…の窓に歩み寄った。
晴れ渡った空を見て、呟く。
「ラナルータとか言う魔法が禁止になった。それから、夜から雨になるみたいだ。」
疲れたバッツの声音。回復呪文をかけてもらったとは言え、アリーナから受けたダメージは大きい。
その、疲れたバッツを庇うように、子供の一人…アニーが『本題』に入った。
「あの…どうして、私達を…その、殺そうとしたんですか?」

そのアニーの問いに、アリーナは少々動揺した。少なくとも、その内面で。
理由はある。コイツラが…ミネアを殺した『かもしれない』からだ。
だがその理由も、頭が冷めてみるとどうも乱暴な結論に思えた。
ソロでない、と言う保証は…残念ながら…無いし、雷撃呪文を使えるからと言って即座に『犯人』と決めつけるには無理がある。
それに、相手がやる気なら、恐らく自分はとっくに死んでいる。
…どうも、ギルバートの事で精神疲労が溜まっていたようだ。この、自分らしくもない思考の暴走の原因は恐らくソレだろう。
だが、確かめておく必要はあった。
「あなた…そこの男の子は…人を殺した?私の友達を殺した?」
「殺してなんか無いよ…まだ、誰も。」
「…本当に?」
すぐに答えを返した男の子…クーパーをアリーナは更に問いつめた。ソロがミネアを殺したと、信じたくないから。
クーパーは、天空の盾を掲げて応じた。普段は、剣を使っていたが。
「…この天空の盾に誓って、ボクはそんな事は…してない。」
そのクーパーの言葉に、アリーナは少なからず驚いた。
天空の盾?まさか。それはソロにしか使えないはずで…。
だが、すぐに納得する。広い世の中、もう一人か二人『天空の勇者』が居たりしてもいいだろう。
「…ゴメンね。勘違い…だったみたい。」
アリーナがそう言うと、バッツはため息を付きながら彼女のいましめを解いてやる。
「…ごめんなさいね。まだ、痛む?」
「傷はクーパーの魔法ですぐ治ったよ。魔法力も…いくらかは。」
そんな会話を交わすアリーナの目の前に、何か茶色いモノが突然現れた。丸パン。
「あの…これ、あなたのザックに入ってたものですけど…。」
アニーが、まだ少し怯えながら、手に持ったパンをアリーナに渡した。
アリーナはアニーを怖がらせないように笑顔を作り、ありがとう、と礼を言った。少し、場の空気が和らいだ。

「ふう…食べた食べた!」
大きめの丸パンを、あっと言う間に食べきったアリーナは、すっくと立ち上がると言った。
「ホントにゴメンね。私、仲間も探しに行かなくちゃいけないから…リディアはどこ?」
何気ない最後の一言に、和んだ場がぴきっ、と凍り付く。ハタから見てて面白いくらいに。
「ひょっとして…。」
「一緒に誰か…いたんですか?」
クーパーとアニーの呟き。それが、凍り付いた時間を一気に溶かし蒸発までさせた。
「あぁぁぁっ!あ、あなた達リディアおいて来ちゃったの?!何やってるのよ!」
「ってぇっ!そっちがいきなり襲いかかってきたのにそんなヒマなんて無いって!」
「は、は、は、早く助けに行かないと!」
「早く行かないと雨が降って来ちゃうよ!」
狭い武器庫が滅茶苦茶に混乱する。その混乱はひとしきり続き…いきなりばたんと開いた扉の音でいきなり収まった。
扉の開いた音に反応し、全員がさっと扉の方に振り向く。
そこには、緑色の髪の少女が一人、立っていた。
「リディア…。」
安心したように、アリーナがへたり込む。そう、ドアを開けて入ってきたのは、リディアだった。
ふう…と、全員が一斉にため息を付いた。さっきまで大騒ぎしていたのが馬鹿みたいだ。
そんな、色々と疲れたような顔をしているバッツとアリーナを見て、リディアは慌ててなにやら言い訳めいた事を口にする。
「あ、あの、その、お話は、外で聞いてて、怖かったから、外で待ってて…ごめんなさい!」
勢いよく謝るリディアを見て、バッツは苦笑し、アリーナはほっと胸をなで下ろす。
アニーとクーパーがリディアに駆け寄り、「一緒に御飯を食べよう!」と、子供らしい笑顔を浮かべた。
リディアも笑顔で双子に続こうとした、その時。

黒い爆圧と共に吹っ飛んできた男が、小さな武器庫を滅茶苦茶に破壊した。

「っててて…。」
ぶつけてしまった頭をこすりながら、ザックスは黒衣の男を睨め付けた。
あの野郎!いきなり攻撃してくるなんてどういう了見だ!ソルジャーじゃなかったら大怪我だぞ?!
両手でバスターソードを握りしめ、黒衣の男…セシルとしばし睨み合う。
ちらと後ろを見ると、男が二人と…おしとやかそうな女の子と謎めいた美少女、それによく鍛えられた体のスポーツ美少女が呆然とこちらを見ている。
「ここから逃げろ!ヤツはやる気だ!」
さすがに気の利いた台詞は出なかった。

リディアは呆然と、黒髪の男と向かい合うセシルを見ていた。男…ザックスの声など、耳にも入らない。
セシルがいる!今、目の前に!
「セシル!」
瞳に涙を溜めて、リディアがセシルに駆け寄る。よかった!生きていた!これで、助かる…!
セシルが、ためらいもなくリディアに剣を向けた。その切っ先にう゛ぉんと闇光が迸り…黒い濁流となってリディアを襲う。
リディアはそれも目に入らないかのように、真っ正面から濁流に突っ込もうとして…。
「危なぁぁぁぁぁいっ!」
絶叫と共に飛び出したクーパーに押し倒されて、何とか黒の濁流から逃れた。

クーパーに押し倒されたリディアは、呆然と青い空を見上げていた。
(今のは、何?セシルは、聖騎士になったんだよね…なんで、黒い鎧を着ているの?なんで、あの黒いのを撃ったの?なんで、私を殺そうとしたの?)
脳裏に赤が過ぎる。火の赤。燃える村。血の赤。倒れた母。黒い赤。暗黒騎士竜騎士…!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
リディアは、絶叫した。そして、それに次いで発生した物理的な何かが、覆い被さったクーパーを吹っ飛ばした!

吹っ飛んできたクーパーを受け止めてから、バッツは信じられない思いでリディアを見つめていた。アニーも、アリーナもザックスもセシルも。
リディアの身体から、なにか白い影が生まれていた。白い影…霧が、よく見知った生物の形をとる。翼を持った、ドラゴン。
「いゃぁぁあぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁっ!」
リディアの絶叫とともに生まれた火柱と雷撃、それに霧で出来たドラゴンのはき出したブレスが、魔封壁監視所をただの一瞬で廃墟に変えた。

「っ……!」
アリーナは、ただの一瞬で起こった破壊に目を剥いた。
稲妻は階段を一撃で吹っ飛ばし、立ち上がる火柱は監視所の小屋の一つを瓦礫に帰る。ブレスは今なおあらゆるモノをなぎ倒し続けている。
「何なんだよアレは…っ!」
バッツはクーパーを地面に下ろし、足下のアニーの頭を撫でてやると、きっ、と霧の竜を睨み付けた。止めなければ…!
バッツは両手を上げて呪を紡ぎ、唱えた。「スロウ!」と。
その魔法がリディアに届く一瞬前、ドラゴンの身体が紅く輝いた。暴走したリディアの魔力が『ヘイスト』の魔法を紡いだらしい。
…その二つの魔法が“時間差を持って”激突した場合、後から紡がれた魔法が優先される…はずだった。
しかし、この瞬間は勝手が違った。何しろ、二つの魔法は寸分の狂いもなく“同時に”効果を発揮したのだから。

リディアの周囲の時間が混乱した。進み、停滞し、停止し、そして逆回転をも始める。位相が反転し、時間軸がずれる。そして。

かっ、と言う閃光が目を裂いた。音も衝撃も熱もない爆発に、監視所が神々しく照らし出される。
「…っ。逃げるぞ!二人とも!」
そう叫んで、バッツは傍らのクーパーの手を握った。そしてクーパーも、傍らの小さな手を握りしめた。
アリーナも、すぐ近くにチラリと見えた手をがしっと掴む。
バッツとアリーナ、それにザックスは、それぞれがバラバラに、外に向かって逃げ出した。
…光が収まった時、そこに立っているのはセシルだけだ。
セシルはちっ、と舌打ちすると、彼らが逃げていったのとは逆の、封魔壁の方に歩き出した。
リディアを、追いたくない。そんな、セシルの良心の最後の抵抗だった。正真正銘、最後の。

谷を通り抜け、平原をしばらく走ってから、バッツはふうと息を一つ付いて座り込んだ。
「クーパー、アニー…大丈夫か?」
荒く息を付きながら、バッツは振り返り…目の前の光景に唖然とした。
自分の手はクーパーの右手を掴んでいる。では、クーパーの左手は…?
クーパーは、ぐっすり眠る緑の髪の小さな女の子の手をしっかり握りしめていた。

ちょうどその頃少し離れた場所で、アリーナは間違えて連れてきてしまったアニーと共に途方に暮れていた。


【バッツ@魔法剣士(アビリティ:時魔法、魔力消耗)
 所持品:ブレイブブレイド
 第一行動方針:封魔壁監視所へ戻る
 第二行動方針:レナとファリスを探す
 基本行動方針:非好戦的だが、自衛はする
 最終行動方針:ゲームを抜ける】
【クーパー 所持品:天空の盾、ロングソード
 第一行動方針:両親さがし】
【リディア(幼児化、気絶) 所持品:なし
 第一行動方針:???】
【現在位置:封魔壁監視所前の砂漠北側】

【アリーナ 所持品:イオの書×4 リフレクトリング
 第一行動方針:仲間を捜す
 第二行動方針:ソロを探す】
【アニー 所持品:マンゴージュ
 第一行動方針:クーパー、両親さがし】
【現在位置:封魔壁監視所前の砂漠南側】

【ザックス 所持品:バスターソード
 基本行動方針:非好戦的、女性に優しく。】
【現在位置:封魔壁監視所前の砂漠】

【セシル 所持品:暗黒騎士の鎧 ブラッドソード 源氏の兜 リフレクトリング
 最終行動方針:皆殺し(ハーゴンorエドガーを最優先 ただし遭遇すれば他のキャラでも殺す)】
【現在位置:封魔壁の洞窟近く】


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最終更新:2011年07月17日 22:11
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