降りしきる雨の中

「ピピンっ!ピピンっ!」
必死なエーコの声が、リノアの耳に届いてくる。
(え…ピピンって、あの兵士の服を着た人で…ソレで今、何か飛び込んで…)
「っ…!」
遊離していた意識が、思考の過程で現世に戻ってくる。
自分が…そしてピピンとエーコも危機にある事を思い出し、がばっと起きあがる。
その拍子に美しい黒髪がひとふさ、瓦礫の隙間に奪われてしまった事にもかまわずに。
「ピピンっ!」
リノアは絶叫し、エーコの声が聞こえてきた方に駆け寄る。
瓦礫に何度も足を取られて、それでも全く止まらずに。

さほど離れてはいない所に、エーコとピピンはいた。
エーコは瓦礫の山の真ん中で座って泣いていた。破壊の瞬間を受け入れられずに。
その足下にピピンはいた。
その気弱そうな顔を苦痛に歪めて、右の脚を瓦礫の山に埋めて。
「なんて事…。」
リノアは驚きながら、さっと後ろに振り返った。今突っ込んできたのは、一体…?
答えはすぐ知れた。だいぶ離れた道の真ん中で、3人の人間が戦っている…!
さっき突っ込んできたとおぼしき銀髪の男が刀を振えば、黒衣の男が爆発波を撃ち出す。黒衣の男の仲間らしいとんがり帽子の女が閃光を撃ち放つ。
その激しい戦闘に背を向けて、リノアはピピンの救出を始めた。瓦礫にロッドを突っ込んで、てこの原理で持ち上げる。あっさりと、ピピンの脚が自由になった。
「っく…すいません…。」
恐らくは骨折しているであろう脚を押さえて、申し訳なさそうにピピンが立ち上がった。くずおれそうになったその身体を、エーコが必死に支える。
「そんな事はイイから、早く逃げよう!」
リノアは叫び、戦いが起こっている道とは反対方向に走っていく。
無論、ピピン達もそれに習った。

「はっはっはっはっ…!」
走る。走る走る走る!ピピンとエーコの手を引っ張って、走る走る走る!
ざあざあと降りしきる雨の中、リノアは走った。スコールに会うまでは…死ぬわけにはいかないから。
「だい…じょう…ぶ?」
ぜぇぜぇと息をあえがせながら、リノアが後ろの二人に問いかける。
エーコはまだ小さいし、ピピンは脚に怪我をしている。そろそろ休憩しないと…。
そう思いながらリノアは後ろを振り向く。豪雨の中、自分の右手を掴んだピピンが苦痛にあえぎながら走っているのがかろうじて見える。
そしてエーコは…と首を回した所で、リノアの歩みは唐突に止まった。
自分の意志で止まったのではない。いきなり何かにぶつかって、そのまま地面に倒れてしまったのだ。
「いったた……。」
濡れた地面に思いっきりオシリを打ち付けてしまったリノアは、痛むお尻をさすりながら立ち上がる。
(今、何にぶつかったんだろ…木かな……でもこんな所に木なんて生えてたっけ?)
雨に打たれ続けたせいでぐらぐらする頭を押さえて、リノアは正面を見据えた。
分厚い雨のカーテンの向こう側に、何かが…いや、“誰かが”立っている!
「あ…。」
エーコが恐怖に怯えて一歩下がる。ピピンが激痛を訴える脚を引きずって何とか立ち上がる。
だが、リノアは動かない。目の前に立っているのはひょっとして…?
あの真っ黒な髪は?あの額の傷は?目の前に立っているのは、ひょっとして…!
「スコール…?」
もはや、雨のカーテンが視界を覆い尽くす事はなかった。雨の中でも、ハッキリ見える。目の前に立った愛しい人が。
「スコール!」
信じられないと言った風に、リノアが声を上げた。スコールがいる。これからはスコールが一緒…。
スコールが、こちらに歩み寄ってくる。ゆっくりと。
「スコール!」
リノアは駆けだした。スコールに向かって。
どむっ!
リノアがスコールに抱きついた瞬間、何か嫌な音がした。
…リノアの腹にスコールの拳が突き刺さってから、リノアが気絶するまでには1秒もかからなかった。

凄まじい速度で振われた拳が、雨粒を弾き飛ばして空を切る。
リノアが倒れると同時にピピンに回し蹴りが入り、ピピンが倒れ伏す前にはエーコの首筋に手刀がたたき込まれていた。
最後にエーコが倒れた所で、スコールは動きを止めた。
降りしきる雨のなか、倒れたリノアの姿が目に飛び込んでくる。
(…………リノア?)
浅い思考の中で、その名前が浮かぶ。ただ、その名前が持つ意味…彼にとっての彼女の存在は、まるで脳裏にも浮かばなかったが。
スコールは倒れたピピン達にとどめを刺すためにそこらの地面から手頃な大きさの石を持ち上げた、とその時。
「……すこーる…?」
後ろから声がした。振り返れば、殴り倒したはずのリノアが立ち上がっている。
「…殺すの?殺して、生き残るの?」
リノアの唐突な問い。しかし、人形のように虚ろな状態のスコールはソレに反応する事は無かった。
…リノアの問いに、スコールは反応しなかった。ただ、なにかの拍子に…首が縦に動いた。
「…そう。」
リノアは頷くと、石を握りしめたスコールの手に、自分の手をそっと重ねた。
「でも、この人達は止めて…今は。」
リノアはスコールの手首を握りしめ、明後日の方向へと歩き出した。

スコールがおかしい事くらい、リノアにだって分かっている。
だけど、スコールも頼れなくなったら自分はどうすればいい?
誰も頼れないなんて嫌だ。怖い、凄く怖い。
(……だから、何だってする。スコールと、一緒にいられるなら。人殺し…だって。)

【スコール(負傷、人形状態?) 所持品:なし
 第一行動方針:リノア達の方に移動
 最終行動方針:皆殺し】
【リノア 所持品:妖精のロッド 月の扇 ドロー:アルテマ×1
 基本行動方針:スコールと行動する】
【現在位置:アルブルグの街外れ】

【ピピン(右足負傷) 所持品:大鋏
 第一行動方針:???
 第二行動方針:ジタンを探す、できれば他の仲間にも会う】
【エーコ(気絶) 所持品:なし
 第一行動方針:???
 第二行動方針:ジタンを探す、できれば他の仲間にも会う】
【現在位置:アルブルクの街外れの家】


←PREV INDEX NEXT→
←PREV スコール NEXT→
←PREV リノア NEXT→
←PREV エーコ NEXT→
←PREV ピピン NEXT→

最終更新:2011年07月17日 17:38
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。