セシルは這うようにして、剣へと向かっていく。
手足が縛られた状態ではちっとも動けない、
おまけにちょっとでも動くと荒縄が体に食い込む。
どうすればこんな入念な縛り方が出来るんだ…
額に脂汗を滲ませながらセシルは思う。
暗黒騎士なんてやっている割りには、セシルはそのテの知識をまったく持ち合わせていなかった。
それでも長い時間をかけて、何とか剣の近くまで寄ることが出来た。
さあ、縄を切ろう――――
「何をやっているんだ?」
ヘンリーは
アグリアスと別れた後、急激に下がってきた気温を考慮して、寒さを凌げる場所を探していた。
そして日が暮れて、ようやく見つけた洞窟に先客がいた。
怪訝そうにセシルを見る。と、地面に無造作に投げ出されている手紙を見つけた。
手紙を拾い上げ、中を確認する。そして、
「くっ、くっくっく、はははははっ!何だこれ、面白すぎるぞ。傑作じゃないか!」
ヘンリーは笑い出した。洞窟内に甲高い笑い声が木霊する。
セシルは、それを何の感情もなくただ、雑音として効いていた。
「すごいよな、死んでも知ったこっちゃないとか言いながら、体を休めろとか無駄に命を散らすなとか。挙句には正道に立ち返れだとさ。格好いいなぁ、正義の味方ってのは」
ヘンリーは悠々と歩き、セシルを追い越して
ブラッドソードを引き抜く。
「単に結論を先延ばしにしてるだけじゃないか。殺したって事実を背負いたくないだけだ。
自分で殺めなきゃオテテは綺麗なままだと思ってるのかねぇ?」
ガキッ!
振り向きざま、セシルの首元にブラッドソードを突き立てる。
「俺が思うに、巨悪ってのは、まさにこういう奴だと思うんだよ。
テメーがどんだけ酷いことしているのか気付きもせず、正義漢を気取ってるやつこそが、正義の名の元に他人をコキ使って最後には死に至らしめるのさ。
この手紙を書いた奴は、自分は正しいことをしたと悠々としていることだろうよ」
セシルは呆然と、ヘンリーを見上げた。
認めざるを得なかった。自分は負けたのだと。
現われたこの男は自分を助けてくれるようなお人よしではないということを。
自分はここで終わるということを。
ギリ、食いしばった歯から音が漏れる。
自分はいい。どの道助かるつもりなどない。
だが、こんな所で終わったのなら、これまで殺めてきたことは何になる?
仲間の少女を傷つけ、遂には殺め、たくさんのものを
裏切り、愛しい人も救えない。
それだけは、認められなかった。
「まだ、僕は…死ねない!」
「ふん?」
セシルの全身に力がこもった。
手首を縛る荒縄が食い込み、血が滲み出す。顔を真っ赤に紅潮させ、もがきくねる。
「僕には…やらなきゃいけないことがある!こんな所で…!」
「信じれば願いは叶う、か?ハッ!それなら誰も死にやしないさ。
こんな腐ったゲームなんて続きやしないさ!
人が死に、二度と返らない、助けもお約束もない、それが現実だ!」
わかっていた。そんなことはわかっていた。
だが、認めたくなかった。認めたら、自分は自分でなくなってしまう。
セシルはびくともしない荒縄に、それでも力を込めつづける。
いつしか瞳に涙が浮かび、視界を滲ませていった。
「くっ…くっそぉぉぉぉ!」
絶叫。そして、現実は訪れた。
…ことを終えた後、ヘンリーは物に成り下がったそれを極寒に外に放り捨てた。
洞窟の奥にそれの持ち物が残っているのを発見し、必要なものは回収する事にする。
まず、
暗黒騎士の鎧と
源氏の兜は重いし装備できそうもないので捨てる事にした。
食料は全て回収し、ブラッドソードと簡素な弓矢、
リフレクトリングは何かの役に立つかもしれないと、袋の中に放り込んでおく。
「こいつは…なんだ?」
ヘンリーは
ギガスマッシャーを取り上げた。何かの武器のようだが、使い方がわからない。
持っていても意味がないから捨ててもよかったが、もしかしたら強力な道具かもしれない。
もしこれが使える者に拾われたら…
「そうだな、壊しておくか。幸い朝まですることもない」
ヘンリーは一つうなずくと、適当な石を拾い上げ、ギガスマッシャーを壊し始めたのだった。
【ヘンリー
所持品:食料多、支給ランプ×2(リバスト・アグリアスから回収)
ミスリルアクス イオの書×3
まどろみの剣 なべのふた
スリングショット ブラッドソード リフレクトリング
弓矢(手製)
第一行動方針:とんぬら達を追う(遭遇すれば他のキャラも倒す)
基本行動方針:皆殺し
最終行動方針:全てが終わった後、
マリアの元へ逝く】
【現在位置:大陸北部山脈・西の湖近くの洞窟】
【セシル 死亡】
【残り 44人】
最終更新:2011年07月18日 06:53