全員が集まっていく。
サマンサの立っている場所へ。
「
ライアン、あの2人がいません!連れてきてください!
残りは全員固まって!
アルスの盾になるんです!」
サマンサは杖を振りかざして全員に指示を出す。
彼女の指示に、全員が的確に動く。
この最悪の状況を打破出来るかも知れないと言う期待が彼らを動かす。
「「サマンサ…」」
暗闇の雲の周りに広がる色のない空間、ソレを見つめながら、2人の男がサマンサに声をかけた。
1人はロトの勇者、1人は黒い貴公子。
「……僕はやれる事をやる。だから、頼むよ!」
「自信が有るようだな…必ず成功させて見せろ」
2人の激励の言葉を受けて、サマンサが頷く。
その顔は、こんな状況にもかかわらずどこか嬉しそうだった。
「どうした!何がッ……!」
ライアンと共に部屋に駆け込んできた
エドガーは、己の色が抜け落ちた事に絶句した。
部屋の中に、色がない。使い終わったパレットを水で洗い流したかのように、色が抜け落ちている。
それは、エドガー自身ですら例外ではない。部屋に踏み込んだ瞬間、彼の身体は一瞬で白と黒の2色に塗り替えられる。
「おいっ!なんなんだよこいつは!」
エドガーの後ろから
デッシュが飛び出し、ピサロに詰め寄る。
しかし、彼の身体は途中でサマンサの腕に遮られた。
「逃げますよ。全員こっちに来てください」
彼女はキッパリ、そう言った。
全員が、アルスの周りに立っていた。色のない世界で彼らは暗闇の雲と相対している。
すでに神殿全体の色は抜け落ち、目が痛くなるような白黒の世界が広がっている。
しかし、その光景を誰も見てはいない。
アルス以外の人間は、暗闇の雲しか見ていない。儀式の行われている部屋の中心にわだかまる雲、じっと見つめている。
アルスはじっと目を瞑っている。彼の口から漏れるのは呪文。真を暴く、零に返す。その呪文。
雲が蠢く。敵を睨め付ける。呪文を唱える。色が消える…。
ソレが数十秒続いた。彼らにとっては、ほんの一瞬の事としか感じられなかったが。
アルスの口から小さく漏れだしていた呪文が、止まる。
サマンサの叫びは、ソレとほとんど同じタイミングで放たれていた。
「全員、お互いにしがみついてください!アルス、呪文を!」
真っ直ぐに雲を睨め付けたままサマンサは叫び、ソレが終わるよりも早くアルスは呪文を解き放っていた。
全員がお互いの身体を掴んだのはその直後。閃光に目を焼かれながら、だった。
「マジャスティス!」
アルスの凛とした声が響く。部屋に、神殿に、ロンタルギアに、世界に。
ざぁっ、と、色の抜け落ちた空間内に黄金色の光が満ちる。
暗闇の雲のプレッシャーと足下の確かな感覚が同時に消失するのを感じながらサマンサは自分の用意していた呪文を唱えていた。
「ルーラ!」と。
「む…?」
寒風に吹かれながら、
オルテガふと振り向いた。軽く手綱を引いてチョコボを止める。
祠の孤島。
旅の扉まで後少しと言うところで、彼は見た。
遙か遠くから…神殿がある場所から、光の柱が空に向かって伸びていく。
目の覚めるような、神聖でも邪悪でもないニュートラルな零の光。
「クェェェ…」
チョコボがその光を見て鳴いた。その鳴き声には、恐らく意味はなかったが。
オルテガは、じっとその光を見つめてからふいと正面に向き直った。
気にはなる。が、時間はない。
それから十分ほどして、オルテガは何の問題もなく旅の扉に飛び込んだ。
そして、神殿があった場所には…すでに、もう、何も、無かった。
黒いポッカリとした穴が空いているだけで、もう何もなかった。
現世にある無を『穴』と単純に表現して良いのならば、ソレは間違いなく穴だ。
実際には、ソレを指し示す言葉など存在はしないのだけれど。
【神殿が丸ごと消失しました】
最終更新:2011年07月18日 07:11