バラモスゾンビとオル……あらくれ仮面の戦いは激しさを増した。
一撃一撃がとてつもない破壊を伴った暴風のようなもの。
その狭間で、二つの化け物たちが踊り狂う。
今のところ、戦力は拮抗している。
身体能力を強化する覆面のお陰もあったが、長時間にわたる戦闘で確実にバラモスゾンビの能力は削られていた。
それが忌々しくもあり、愉快でもある。魔王である自分をてこずらせるのは小賢しいが、彼奴らの腸をブチまけるのはさぞかし快感であるだろう。
負ける事など考えていない。それは、魔王なのだから。
「やるではないか」
バラモスゾンビの言葉に、
「悪に誉められても嬉しくない」
あらくれ仮面は素っ気無く返す。
「受け取っておけ。冥土の土産ぐらいにはなろう」
「そなたの、か?」
バラモスゾンビは笑ったようだった。あらくれ仮面も笑った、ようだが覆面に隠れて見えない。
そして――――
「ゴォォォォォォォォォ!!」
「フゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」
人のものとは思えない……まあいろいろな意味で人ではないのだが……雄叫び。
ほぼ同時に床を蹴り、お互いがお互いに突撃する。
刹那の交錯、一瞬の激震。力と力のぶつかり合いが周囲を揺らし
……そして消えた。
「よもや、ここまで、とはな」
バラモスゾンビが己の体を見下ろしながら呟く。
「………ふん」
あらくれ仮面……
オルテガはその状況に素っ気無く鼻で笑った。
バラモスゾンビの体には、
グレートソードが突き刺さっている。
左肩から心臓のあたりまで切り裂いて、そこで刃が折れて止まっている。
オルテガの体には、バラモスゾンビの腕が生えている。
例えどんなに屈強な肉体であろうと所詮、人。
筋肉だけで魔王の腕を防げるわけもなく、胸から背中へ、腕は突き抜けていた。
バラモスゾンビは腕を引き抜き、ゆっくりと振り上げる。
オルテガは吐血を堪えながら、それを睨みつける。
「オレはお前に破れる。だがお前も終わりだ。若者たちがお前を打ち滅ぼすだろう」
「そうか、では息子にその正体を知られぬまま死ね」
それはある意味恩情であるかもしれない、とオルテガは思う。
覆面の誘惑に耐えきれず醜態を晒し続けた自分が、どうして名乗り出る事ができようか。
自分の正体を知る者は一人として生き残らず、そして自分は死ぬ。
しかし一つでも置き土産が出来たのだから、それは無駄ではなかったと思う……
人が、人として、生きることができる、そんな理想の世界を求めて、戦ってきた。
それは、果される事はなく、無念ではあるが、不安ではない。
後を継ぐ者が、いるのだから。自分が、駄目ならば、次が、きっと、果す、だろう。
人は、弱い。だから、そうして、命を、繋いで、未来を、作ってきたのだ。
だから、後の事は、頼む――――
アルス。我が息子よ。
バラモスゾンビは、もう動かなくなったそれを一瞥すると、廊下の向こうを見た。
状態は悪い。
ゾンビ状態なので痛みもなく正確なことはわからないが、
蓄積したダメージはけして軽くはない。骨は所々ヒビが入り、グレートソードの刃は抜けない。
歩くたびにパラパラと、体から何かが抜けていく。
だが、それが何だというのだ。だから負けるという事はありえないのだ。
廊下の向こうから宿敵が現われる。その手には先程とは違う剣が握られている。
淡く光る白銀の刃、翼を広げた鳥の意匠の鍔、その中央には真紅の玉石が輝く。
それは彼の剣だった。世界に平穏をもたらした伝説の剣が今、現実に戻る。
敵が走る。自分も走る。
交差は一瞬、音もなく、ただ振るわれた武器が熾した風のみ残る。
それで全ては決した。バカな、と思う間も無く、全てが終わった。
先程の戦闘とは比べ物にならないほど、速く、性格で、鋭い一撃は、
オルテガの一撃をなぞってグレートソードの刃を砕き、バラモスゾンビを両断したのだった。
アルスはバラモスゾンビが塵に帰るのを確認すると、一つ息を吐いた。
ティーダから譲ってもらった剣は相当のものだったし、連戦で相当弱っていた。
特に、グレートソードが突き刺さっていた左肩は動かないようだった。
それらが重なって生まれたのが、先程の一撃だ。
「やったっスね。さすがアルス」
駆け寄ってきたティーダに、アルスは首を横に振る。
「いや、ティーダが来てくれなかったら危なかったよ。
僕だけじゃ勝てなかった。みんながいてこその勝利だよ」
他人の剣である
天空の剣でこの結果を引き出せたかどうかはわからない。
重さも重心も、全てが自分の好みであるこの剣も勝利の一因であることは間違いない。
倒れている男の様子を見に行った
エアリスは、アルスたちに首を横に振る。
チョコボは悲しそうに鳴き、アルスは溜息をつく。
割と正体不明だったが、自分を助け、バラモスゾンビに決定的なダメージを与えたことだけは間違いない。
だから感謝とお礼がしたかったのだが……
何故だろう。この胸を過ぎる寂寥感は。自分はまた、間に合わなかったのか。
また? アルスは眉を顰める。
ゾーマから渡された紋章、時折感じる違和感、この剣を握ったときの感覚。
自分は大切な何かを忘れている……そんな気がした。
【オルテガ 死亡】
【バラモスゾンビ 消失】
【残り 21人】
最終更新:2011年07月18日 08:32