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02


また来た――あの人が来た時、最初に思う事がそれだ。
昨日も来た、一昨日も来た、俺の覚えてる限りでは一週間は連続で来てる…。俺だって、そんなにはここのラーメン食ってない。絶対コレステロールが溜まって早死するタイプだ、あの人。
きくいちのラーメンは少しでも身体に良い物を、という店長の配慮で殆ど添加物が使われていない。…それでも毎日食べたら身体に悪いだろ。栄養が偏るし、太りそうだし。

そんな事を店員の俺にすら思われてるのが、自称作家の瀬野さんだ。
これだけラーメンを食べてるのに、全然太ってないのが憎たらしい。いっその事ぶくぶくに太って、少しはここに来るのを控えてくれたら良いのに。

店長やさゆりさんと話をしているあの人を、湯気の向こうからちらりと見つめる。
楽しそうだ、何を言っても言われても。
綺麗な顔をしてるとは思う…、女の人みたいだけど。でも、いつも同じ顔で笑っているように見える。
穏やかで優しそうな笑み。なのに何でだろう、あの顔を見てると苛々する…。掴みどころがないというか、何を考えているのかの全く分からない。
でも、あの人が嫌いな理由は、そんな事じゃなくて…。

「瀬野さんっ、お冷は注ぎます?」
「あ、うん。お願い」
「瀬野さんさー、たまには景気良くビールでも飲んだら?ぱーっと!」
「昼間からビールはないでしょ。それに、貧乏だからお金の無駄使いは出来ないの!」
「もーっ!ホントに貧乏くさいんだから!昼からビール飲めるくらい売れるようになってよー!」

俺があの人を嫌いな一番の理由は彼女――俺の同僚、さゆりさんがあの人の事を好きだからだ。
あんなよく分からない男のどこが良いんだろう…とは思う。まあ、人の想い人を悪く言うつもりはないけれど、自分の想い人が別の男に入れ込んでるのを見て面白くないのは当然だろう。
勿論そんな子供っぽい嫉妬だけで、あの人が嫌いなわけじゃないけど。

俺とあの人はろくに話した事がない。たまに二人きりになる時に二言三言、そんな感じだ。
あの人はいつも同じだから、俺が一方的に避けてるだけなんだけど…。それでもあの人の態度は変わらない、それはいっそおかしいんじゃないかって思えるほどだ。
あの人だって、俺が自分の事を嫌っているって分かってると思う。それなのにいつも同じ笑顔で、いつも同じ態度で。
嫌いな相手がそんなだから、苛々するのも多分仕方がない事だろう。

店長があの人に気を使ったのか俺に気を使ったのか、『あの人が書く小説のモデルになってやれ』と言ってきた。
すっぱりと断ってやった。俺としては多少はすっきりした…んだけど、やっぱりあの人の顔も態度も変わらなくて余計苛々した。
何を言ったら、何をやったら、あの人は変わるんだろう。俺はそんな事ばかり考えていた。

どんなに嫌いでも、俺にとっては『招かれざる客』であったとしても、俺はあの人が来たら『いらっしゃい』と『ありがとうございました』と言わなくちゃいけない。それは俺の仕事だから。
だけど、『またお越し下さい』だけは絶対言わない事にしている。また来て欲しくないからだ。
本当に二度と来なきゃ良いって思ってる。そんな事、俺に思わせるのはあの人だけだ。
俺がそんな事を思っていても、あの人は明日も来るんだろうな…。そう思うと、深く溜息が零れて、

「これ、伊吹まで!どいつもこいつも辛気臭いねぇ」

店長に怒られた…。いや、顔が笑ってるから別に良いんだけど。

どうでも良いけど、あの人と一緒にしないで欲しい…。それがどんな事であっても、胸具合が悪くなってくる。
あの人とは仲良くなれる気がしない。そう思った。


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最終更新:2009年12月09日 23:56