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何だか変な事になっちゃった気がする…。
同じベッドで眠る、なんて。
別に他意はないし、ただ単に僕も疲れて寝ちゃっただけなんだけど。
こんなに気になるなら、面倒がらずにちゃんと別の布団を敷いて寝れば良かった。
伊吹君は大して気にしていない、気にしてるのは僕だけなんだけど。
だけど、何だか変な気分なんだ。
同じベッドで眠った次の日の朝、彼がうちのお風呂に入ってる事が何となくいやらしい事を連想してしまいそうになる。

「うわわわわっ、伊吹君ごめん…」

とにかく伊吹君は気にしてないんだから、僕も気にする事ない。
そう自分に言い聞かせながら、僕はタンスからあまりサイズが関係なさそうなスウェットのズボンとTシャツを取り出した。

洗面台に入ると聞こえてくるシャワーの音に、また考えてしまいそうになる。
それを振り切るように、俺は着替えとタオルを置いて早々と洗面台から抜け出した。

駄目だ、変な事ばっかり考えてしまう。
…そうだ!伊吹君、きっとお腹空いてるだろうし、朝ご飯作ってあげよう!
――気を効かせたつもりのその考えに、僕が後悔するのは十数分の事。



「…目玉焼きをここまで焦がす人、初めて見たんですけど」

お風呂から上がった伊吹君は僕の作った朝ご飯を見て、呆れたようにそう言った。
うう…、酷い…。確かに目玉焼きもハムも焦げてるし、ご飯は固いし、お味噌汁はしょっぱいけれど!
そこまで言う事ないじゃないか!

「嫌なら食べなくても良いよ!僕が全部食べるから…」
「…頂きます」

食べなくて良いって言ってるのに。
伊吹君は両手を合わせると箸を手に取る。
食べてくれてる…。それは嬉しいんだけど。

「このご飯、芯がしっかり残ってますね」
「……………」
「味噌汁…、出汁取りました?塩辛いだけで何の味もしませんね」
「……………」
「…で、この目玉焼き、どれくらい焼いたんですか?」
「………もう!嫌なら食べなくても良いってば!」
「いえ…、ただ本当に料理の『り』の字も出来ないんだな、と」

…酷い言われよう。確かに美味しくないから仕方がないんだけど。
本当に美味しくない…。そういえば伊吹君が作ってくれたとんかつは美味しかったなぁ。お店で食べるとんかつみたいだった…。
それに比べたらこれは…、ある意味罰ゲーム並みだよね…。

「…本当に食べなくても良いよ?」
「いえ、頂きます」

文句ばっかり言うのに、伊吹君は箸を止める事なく食べ進める。
気が付けばご飯もお味噌汁も殆どなくなっていた。
伊吹君はそんな風に、変な風に優しい。何だかんだ言っても、僕を助けてくれる。
重く暗い僕の心を軽くしてくれる。
それは僕にとって心地好いものだった。
人と関わるのは苦手なのに、伊吹君といるのは楽だ。何だろう…、この気持ち。

そんな事を考えながら、僕ははっと思い出した事がある。
僕は昨日、伊吹君と約束をした。伊吹君はさゆりちゃんに告白するって約束してくれたんだ。
でも、途中から記憶がないって…。僕と約束した事も覚えてないのかな…。

「ねえ、伊吹君。昨日の事、全部覚えてないの?」
「え?」
「ほら、昨日さゆりちゃんに告白するって約束したじゃない…、したんだけど忘れちゃった?」
「ああ、そこは覚えてますよ。大丈夫です、ちゃんと言いますから」
「そっか」

良かった、ちゃんと覚えていてくれた。僕はほっと息をついた。
…だけど、あの時伊吹君は何か言いたそうにしていた。

『だから…』

だから、何?あの時、伊吹君はどんな言葉を続けるつもりだったんだろう?

「『だから』って…何?」
「…え?」
「あの時、約束するって言った後に伊吹君、『だから』って言ったけど、何を言おうとしてたの?」
「…いえ、何でもないです」
「な、何でもないってどうして?何か言うつもりだったんでしょ?」
「…俺が言ったら、瀬野さんが困ると思うから今は言わないです」

…な、何なんだろう?
僕が困る?今は?――意味が分からない。
だけど、何となく聞けなかった。聞いたら本当に困りそうで怖かった。
そうだ、昨日だってそうだったじゃないか。聞くのが怖かったから逃げたんだ。
伊吹君が寝ちゃったのって、あの後直ぐだったっけ。覚えてるのかな、僕が逃げるように立ち上がった事…。

「ご馳走様でした」

そう言って伊吹君は箸を置いた。
テーブルの上にはご飯粒一つ、目玉焼きの焦げも残っていない皿達が残っていた。
綺麗に全部食べてくれてる…。

「あ、お粗末様でした…」
「いや、本当に…」
「もう!だから、食べなくて良いって言ったじゃないか!全部食べておきながら酷い!」
「だって、俺のために作ってくれたんでしょう?」

伊吹君のためっていうか…うん、そうなんだけど。
伊吹君はお腹空かしてるだろうし、今日もこれからバイトだって言うし、昨日のお礼も込めて作ったんだけど。
だけど、こんな風に言われるために作ったんじゃないのに!

「違うんですか?」
「違わない…けど」
「けど、何ですか?」
「そういう風に馬鹿にされるために作ったんじゃないよ!」
「馬鹿になんかしてませんよ。ただ、俺は嘘がつけないだけなんで。不味かったけど、腹はいっぱいになりました。ご馳走様です」

伊吹君が嘘をつけないのは知ってる。真面目で律儀で正直者なんだ、伊吹君は。
だけどさ、だけどね?一言多いっていうか…、感謝してるんなら『ご馳走様』だけで良いじゃないか。

「意地悪だよね…、伊吹君って」
「そんなつもりないですけどね、でも…」
「でも?」
「あんたを怒らせるのはちょっと楽しいです」

…は?
僕を怒らせるのが楽しいって!?何で!?
伊吹君を睨むように見ると、伊吹君は何だか楽しげに笑っていた。何が何だか分からない。

「何それ!どういう意味!?」
「分からないですか?分からないでしょうね…。まあ、良いですけど。俺、一度家に帰りますね。お邪魔しました」
「伊吹君っ!」
「あ、この服洗濯して返しますね。その時、何か美味しい物でもご馳走します。これのお礼に」

これ、と言って、伊吹君は空になった食器を指して。
僕の睨みつける視線なんか全く気にする事なく、家を出て行ってしまった。

僕は何だか複雑な気持ちになっていた。
伊吹君が変な事ばっかり言うからムカついたっていうのもあるけれど。
それ以上に気になったのは…。

『…俺が言ったら、瀬野さんが困ると思うから今は言わないです』

伊吹君が何を言いたかったのか、全然分からない。だから、気になってしまう。
何が言いたかったのか、知りたくて仕方がないんだ。
聞くのが怖いのに。聞いては駄目だともう一人の僕が言っているのに。


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最終更新:2011年11月27日 02:12