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神社のお祭りが終わって数日。
伊吹君、さゆりちゃんに告白したかな…。
最近、何となくその事ばっかり考えていた。
さゆりちゃんの状況を考えると…、きっと駄目だったと思うけど。
気になる…、だけど何となくきくいちには行きづらかった。
伊吹君の事は気になるけれど、さゆりちゃんに会うのが…ちょっと気まずいっていうか…。

告白されるまで全く気付かなくて、無神経な態度ばっかり取っていたし…。
さゆりちゃんが気にしてないなら良いけど…、そう思うのも何だか無神経な気がして。

僕が悩んでうだうだしていた頃、伊吹君が家にやってきた。
この間貸した着替えを返しに来た、と伊吹君は言った。

「この間は色々お世話になりました。ありがとうございました、これ」
「あ、うん…。どういたしまして…」
「あと色々買ってきたんで、今日は俺がご馳走しますね。この間のお礼に」
「う、うん…」

そう言って台所に向かった伊吹君は、別段いつもと変わらないように見えた。
どうだったんだろう、駄目だったと思うけど…。なんか聞きづらいな…。
僕は何も言えなくて、ただ伊吹君の後ろ姿を見つめていた。

伊吹君が僕の家の台所に立つ――それを見るのは二回目だった。
何となく複雑な気分だ。そこは美咲の場所だったから。
伊吹君が立てる調理の音で美咲の事を思い出す。
それは嬉しいような寂しいような、美咲の場所を盗らないでって言いたくなるような…。
色んな感情が渦巻いて、なのに何の言葉も出てこなかった。

伊吹君が作ったご飯はカレイの煮付けと揚げ茄子、肉じゃがにご飯とお味噌汁、と豪華ではないけれど、温かみがある和食だった。
それは僕には暫く口にしていない物ばかり。だって、僕には作れない物ばかりだから。
ご飯は固すぎず柔らかすぎず、お味噌汁はしょっぱくない。
僕が作ったのとは全然違う…。凄く美味しい。
嫌味…?いや、そんな風に思ったら失礼かな。

「どうですか?」
「うん、凄く美味しい…」
「それは良かったです。まあ、これが普通なんですけどね…」
「…僕の作ったご飯が普通じゃないみたいに言わないで欲しいんだけど」
「普通はあんな風にはなりませんね」

やっぱり嫌味…!?僕だって好きであんな風に作った訳じゃないのに!
伊吹君を軽く睨み付けると、彼は楽しそうに笑みを浮かべた。

最近伊吹君はよく笑う。
いや、他の身近な人と比べられたら、それは多くはないけれど。
少し前――伊吹君に嫌われていた頃に比べたら、凄くよく笑うようになったしよく喋ってくれるようになった。
伊吹君は凄く格好良いから、笑うと何だかドキドキしてしまう。

「あの、何かついてます?」
「え?」
「じっと見て何も言わないから…」
「い、いや、何にも!ただ格好良いなって、それだけ」

そう言って僕が手元の料理に視線を移すと、伊吹君は何も言わなくて。
あれ?と思って、もう一度伊吹君を見ると何だか怒っているように眉間に皺を寄せていた。
それから、ため息を一つついて目を逸らされる。
…え?怒られるような事言ってないつもりだけど。

「ど、どうしたの?怒ってるの?」
「…あんたって結構そういう人なんですね」
「え?そういう人って?」

尋ねても伊吹君は何も言わない。
怒ったような顔のまま、ため息を一つ。
ど、どうして怒ってるのかな…。謝るべき?
でも、何の事か分からないのに謝るのも…。
僕は話を変えるため、別の話題を探した。

「そういえば、伊吹君さゆりちゃんに言った?」
「え?」
「あ、ほら、約束したじゃない…」
「ああ、はい。しましたよ」

言ってから後悔した。聞き方を考えるべきだった。
駄目だった筈だ。それなら、きっと落ち込んでる。
どうして僕はこう、無神経なんだろうか。
でも…、あんまり落ち込んでるようには見えないな。

「あの、えーと…、どうだったの?」
「振られました」
「そっか…」

伊吹君は意外とあっさりそう言った。
その表情はやっぱり落ち込んでるようには見えないけれど…。
駄目だったんだ…。むしろ僕の方が気分が沈んでしまう。
伊吹君とさゆりちゃん、お似合いなんだけどなぁ。
でも、こればっかりは本人達の問題だし、さゆりちゃんが上京を決めた以上仕方がない事なんだけど…。
何となく、悲しかった。



「…そんな顔しないで下さいよ」

ご飯を食べ終わって伊吹君に麦茶を出すと、そう言われてはっとする。
伊吹君は苦笑いを浮かべていた。

「そんな顔って?」
「いや、何だか瀬野さんの方が落ち込んで見えます」
「ああ、うん…、なんかちょっと悲しい、かな」
「良いんですよ。分かっていた事だし、だから俺、さゆりさんの答えを聞かなかったんです」

答えを聞かなかったって…?どうして?
僕が不思議そうな顔をしていたのか、伊吹君は言葉を続けた。

「瀬野さんの時と同じですよ。さゆりさんに答えを求めても、さゆりさんは何も言えなかったと思います。だから、聞かなかったんです」
「あ…、そっか…」

確かにさゆりちゃんは何も言えなかっただろう。
イエスと答えてもノーと答えても、さゆりちゃんは東京に行ってしまう。
伊吹君の気持ちを考えたら、そのどちらも言えなかったんだ。
何も言えない――それはノーだという事だけど。
それは正しいと思うし、僕もそうだったから何も言えない。だけど…。
本当にそれで良いの?本当に諦められるの?
さゆりちゃんが困っても答えを貰った方が良かったんじゃ…。

「それに…」
「それに?」

伊吹君は僕の顔を見つめて、何かを言おうとして黙った。
何を言いたかったのか、僕には全く分からなかった。
ただ、長い沈黙の後に伊吹君が発した言葉は全く違う内容のように思えた。

「俺、振られたんですよ」
「え、あ、うん…」
「慰めてくれます?」
「え?」

次の瞬間、強い力で腕を引かれて。
気が付けば、僕は伊吹君の腕の中にいた。
え、何?これはどうすれば…?
伊吹君の身体は体温が高くて、温かいどころが少し熱い。僕の身体まで火照ったように熱くなっていく。
でも、そんな事よりもこの状況をどうすれば良いのかを考えなくちゃいけなくて。

「慰めて下さい」

その答えが見つからないまま、伊吹君は僕の耳元に静かな声を注ぎ込んだ。


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最終更新:2011年11月27日 02:22