まとめwiki ~ 「♀29匹のボックスに♂1匹を入れてみた」

03話 - 適応力

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f29m1

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 今までの境涯を考えると、決して僕は女の子が苦手な訳ではない。寧ろ雌と間違えられて育てられたあたりそこらの雄と比べればだいぶ雌のポケモンに慣れているし、話を合わせるのにも困らない。
 だがそれは同じトレーナーのもとで苦楽を共にするチームメイトに限ったことだ。
 雌しか居ないという条件に知らないポケモンという前提が加われば話はだいぶ違ってくる。

 そう、今のように。



マニューラ
「――で、あいさつはまだなのかな新入りくん?」

 ユウラさんがまたニヤニヤしながらこちらを見てくる。

サーナイト
「え、ああ! はい。皆さん初めまして。サーナイト♂のナズナと言います。こ、今後ともよろしくお願いします」

 目まぐるしく判明する状況に追いつけず、僕はかなり硬い物腰であいさつをしてしまった。

マニューラ
「にゃっはっはっは! おう、よろしくね! 聞いてのとおりアタイはマニューラのユウラ! ってかいいってそんなに構えなくても!」
サーナイト
「そ……、そうですか?」

 硬質化した物腰は割とすんなりと砕かれた。……一体なんなんだこの人は……。

ビークイン
「ごめんね、ナズナくん。ユウラちゃんすぐ人をからかうから……。えーと、さっき聞いててくれてたと思うけど私はビークインのハニカム。よろしくね」
サーナイト
「はい、よろしく」

 握手を求められたので僕は慌てて手を差し出した。やわらかかった。
 ハッ! いや、僕は一体なにを考えてるんだ。

マニューラ
「うるさいねぇ、自己紹介ってなぁすっこしばかり強気にやった方が印象に残るだろー!」
ビークイン
「だったらからかう必要なんてないでしょ、もう!
 で、私の横に居るのが……」
サーナイト
「グレイシアのキサラさんですね、よろしくおねがいしま……」
グレイシア
「……しく」

 ぼそりと消え入りそうな言葉を口にしたあとキサラさんはそっぽを向いてしまった。

サーナイト
「あ、あの……」
ビークイン
「ああ、彼女に悪気はないから気にしないで。ちょっと無口で恥ずかしがり屋さんなの」
サーナイト
「はあ……」

 この分だとハニカムさんは普段から気苦労が絶えないんじゃないだろうか。



サーナイト
「そういえばロデアさん定例会議に行くっていってましたけど、何の会議なんですか?」
マニューラ
「えーとね、要は他のボックスの寮長とのミーティングさ。生活の規律改正とかそーいうメンドクサイことを話し合うわけよ」
ビークイン
「野生に返された場合、生活が人間任せになってちゃ生きていけないでしょ? ここでの生活で自足力と協調性を高めようってことね」

 あながち僕の予想は外れてなかったらしい。

ビークイン
「あと1時間もすれば戻ってくるんじゃないかな。そしたらすぐに夕食の時間に……。あ、いっけない今日の夕食当番私たちじゃなかったっけ?」
マニューラ
「あー……、そんな気もするな」
ビークイン
「じゃあ、せっかくだからロデアさんが帰ってくる前に準備すませちゃおうか」
マニューラ
「アタイは気がしただけだ。当番だとは一言も断言してないからパスね」

 清々しいほどの屁理屈である。

ビークイン
「えぇぇ~! そんな~、いじわる言わないで手伝ってようユウラちゃん。30匹分用意するの大変なんだよー!」
マニューラ
「へへーんだ。アタイ知らなーい♪」

 さすが「悪」と「氷」タイプ……。底冷えた性根の悪さだ……。
 ハニカムさんが半ば泣きそうになっている……、となればここはこう言うしかないじゃないか。

サーナイト
「えーと、なんなら僕、手伝いますよ……?」
ビークイン
「そんな悪いよ。
 ついさっきここに来たばっかりなのにそこまでさせちゃ……」
サーナイト
「いえいえ、これからお世話になる身ですからお手伝いくらい当たり前ですよ。それにこう見えても家事は得意ですから」
ビークイン
「そ……、そう? じゃあ、お願いしていいかな……?」

 僕はその問いに笑顔で返した。

ビークイン
「ありがとう! それじゃ、食堂に案内するね!」
マニューラ
「準備できたら呼んでつかさーい!」

一同
(一時間後に食堂へ行けばいいだろ……)



 僕は食堂へ案内され、台所へと通された。食器棚には皿やお椀などポケモンに応じた種類の食器が並んでいる。

ビークイン
「はい、これエプロン」
サーナイト
「あ、どうも」

 エプロンを付けて準備を始める。どうやら今日の夕飯メニューはカレーのようだ。


 準備をしているうちに、ふと気になったことがあるのを思い出した。

サーナイト
「……そういえば、ロデアさんエプロンしてましたけど、ガルーラならお腹の袋にお子さんがいる筈ですよね……?」

 その質問を口にしたと同時に、ハニカムさんの手が止まる。

ビークイン
「え、と……、そのことね。えと、簡潔に言うと今はもうロデアさんのお腹の袋にはお子さん居ないの」
サーナイト
「……僕今凄く悪いこと聞いちゃいましたよね……」
ビークイン
「ああっ! 勘違いしないで! お子さんは預け主のトレーナーさんの元で元気に暮らしてるから! ただ、ちょっと、事情がね……」
サーナイト
「そうですか……。すいません不躾な質問しちゃって」
ビークイン
「ううん、私もどう切りだそうかって思ってたの。どうしても気になっちゃうことだし遅かれ早かれ説明するつもりだったから」

 あまり本人の居ないところで立ち入った話をするのは悪い気がしたので僕はその言葉を聞いただけで多くは聞かないことにした。
 全てのポケモンが同じ境遇で育ったとは限らないのは僕自身がよく知っている。

ビークイン
「さ、早く準備をすませちゃおう! ナズナくんは食器の準備お願いね」
サーナイト
「はい!」

 気を取り直すように僕らは食事の準備に戻った。
 食堂の方を見ると既に何匹かのポケモンが集まっているようだ。

サーナイト
「……仲良くなれるといいなぁ……」

 ここでの生活は始まったばかり、僕は今頃になって今更な願望を抱いていた。
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