ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神-8

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 意味不明な決闘から数日経った。
 その日の晩にした、念入りなお仕置きが功を奏してか、アヌビス神はうっかり目を離しても誰かを勝手に操るといったことは無かった。
 通りすがりの人や使い魔に頼み込んだり、動物を操って(此方は別に禁止はされていない)何処かに出かけることが出てきた。

 ルイズは正直気になった。だって剣だ。剣がなんで散歩などする必要がある?
 生意気に剣の癖して人脈も広がり、知り合いも増えているようだ。正直ルイズより知り合いが多い様にすら見える。その事に気付いた晩には、指が滑ったふりをしてスープを上に零して続けて踏み付けてぐりぐりとやって念入りにすり込んでおいた。
 後で良い笑顔で謝って綺麗に洗っておいたけど。


  ルイズ日記 ○△月▽□日
 ある日アヌビスが食堂のコック長の親父に『我等の剣』とか生意気な呼び方されてるのを偶然聞いた。
 何それ。ちょっと生意気じゃない?アヌビスに問い詰めても『たいした事じゃ無いです、へへへ』とか更に生意気な返事をしてきた。これは調査をする必要がありそうね。

  ルイズ日記 ○△月▽○日
 アヌビスがフレイムを使って移動を始めた。今から後を追おうと思う。
 外に出たところで通りすがりのギーシュとモンモランシーにバトンタッチ。あの二人結構良い雰囲気で話しながら歩いてたのよ?流石に空気読みなさいよと思ったわね。
 途中でタバサにバトンタッチした。妙に親しそうだった。あまり接点は無いけどあの子のあんな表情は初めて見た。
 そのまま厨房に向う。タバサは何か食べ物を貰っていた、そう言えば結構食べるわあの子。厨房周りに人が多いので今日はここまでにしようと思う。

  ルイズ日記 ○△月▽△日
 今日は窓からシルフィードを利用して移動開始。どうやら意外と使い魔コミニケーションがしっかり取れている様ね。
 厨房での挙動が気になるので先回りして隠れておく事にする。
 ちゃんと厨房の窓の下に隠れる為の樽も昨日用意しておいたんだから!
 中々来ない。ちなみに今樽の中。
 まだ来ない。何してんのよあいつ。
 しまった寝てたわ。気がついたらコック長のマルトーが『また頼むぜ我等の剣』とか言ってるのが聞こえた。
 隙間から見るとヴェルダンデを使って帰っていった。ホント交友範囲が広いわねアイツ。
 樽から出るところをシエスタに見付かった。笑われた。

  ルイズ日記 ○△月□□日
 シエスタにそれとなく聞いた感じ、来る時間はある程度決まっているらしいわ。ちなみに今日はクヴァーシルが窓から運んでいった。
 流石にちょっと重たいんじゃない?と思ってたら、やっぱ重かったみたいね。途中で落とされてたわ。池の側で男に囲まれてたキュルケの側に落ちて地面に突き刺さって混乱を起こしてたわ。これは加点30って所ね。
 池で泳いでたロビンに何か頼んでるのが見えた。バカね無理に決まってるじゃない。
 ロビンがモートソグニルを呼んで来たわ。流石学院長の使い魔、使い魔界の相談役なのかしら。
 モートソグニルが仲間のネズミを呼び出してアヌビス神を運び始める。そろそろ厨房側のアジトに潜むべく動く事にするわ。
 今アジトで待機中よ。
 中に入り込んだ様ね。話し声がするわ。今から視認による調査を開始するわ。
 あまりに馬鹿臭くて疲れたので続きは後日纏めることにするわ……。

  ルイズ日記 ○△月□○日
 アヌビスが厨房で何をしていたかを簡単纏めるわ。
 肉切り包丁をやってたわ……。コック長のマルトーが『どんなぶっとくて骨の太い肉でもお前がいれば簡単に切れちまう。本当に助かるよ』とか言ってた。
 アヌビスが『たまにはどんな物でも肉とか骨を斬らないと感覚が鈍っちまうからな、気にしないでくれ』とか言ってたわ。
 どうやら斬りたいのは自重して無いようね。捌け口探して工夫はしてる様だけど。そりゃ確かに『我等の剣』だけどホント馬鹿馬鹿しすぎるわ。

  ルイズ日記 ○△月□▽日
 ばれていたわ!あのアヌビスに!私の行動がばれていたのよ!生意気すぎるわ。
 『折れた剣先が部屋に置かれてるけど、あれもおれだから』とか言ってたわ。さっさと直してくっ付けた方が良さそうね……今度の虚無の日に町の武器屋で相談してみようかしら。鞘も用意したいわ。
 達観した様な口調でわたしの事を子供扱いしてきたから、フレイムの火の息で炙ってやったわよ。


「これを見る限りルイズは……」
 主が居ないルイズの部屋でキュルケとタバサは一冊の日記を見ていた。
「…多分城下町」
「どうする?追いかける?」
 タバサはこくりと頷いてかえした。
「間違えた直し方する前に捕まえた方がいい」


 その頃ルイズは城下町への道を馬で進んでいた。
 腰には破片と一緒に布でぐるぐる巻きにされたアヌビス神がぶら下っている。
「一緒にお出かけって何?」
「あんたの鞘買うのよ。後修理頼める人が居ないか聞くの」
「ご褒美?ご褒美?」
「違うわよ!剥き身の剣を持ち歩くわたしの身になってみなさいよ!」
「常に戦闘準備完了で良い感じ」
「河に捨てに行くわよ?」
「じょ、冗談だよ。ところで修理って学校で先生に相談するんじゃなかったのか?」
「忙しくて忘れてたわ」
「ストーキングに?」
「海って塩分が多くて金属が錆び易いらしいわ。海に行きたいわね」
「ゴメンナサイ」
「ま、そういうことだから鞘買うついでに武器屋で聞こうと思ったのよ」
「だ、大丈夫か?それで(おれタバサに相談したんだけどなー……)」
「わたしより詳しいわよきっと」
 ぐたぐた話してる間に町に到着した。

 トリステインの城下町をルイズは歩いていた。アヌビスが『前を見たい前を』とか言うからアヌビス神は抱き抱えられている。
 ルイズはアヌビス神を抱き抱えた途端『尻肉も良いが、胸も良いね。ご主人さまの胸サイコー』とかまたトンチキな事を言い出したのでゲシゲシしてやろうかとも思ったが、胸をここまで無条件に褒めちぎられたのは初めてだったので何となく許した。

「城下町つってたからどんなものかと思ってたんだが」
「どう?」
「エジプトの裏通りみたいだな。はっきり言って狭い」
「これでも大通りなんだけど……」
「これで?」
 道幅は五メートルもない。そこを大勢の人がごった返している。『こりゃ暗殺には最適だね』とアヌビス神は思った。
「ブルドンネ街。トリステインで一番大きな通りよ。この先にトリステインの宮殿があるわ」
「つまりは宮殿に斬り込みかァ?」
「馬鹿な事言ってるとくず鉄として売るわよ」
 本当に馬鹿な話しをしながら武器屋へと向う。
「オイ」
「何よ」
「今ご主人スられたぜ、スリだなスリ」
「へ?」
「財布をスられたよご主人さまーと言ってる」
「気付いたならどうにかしなさいよ、どうにか!」
「おれ自分じゃ動けないし」
「……」
「相手覚えてるぜ?」
「ど、どどどどどうしたらっ」
 ルイズは慌ててオタオタしている。
「おれに身体を貸すんだ。一発で捕まえて取り返してやるぜ!」
「へ、変な事しちゃダメよ?」
「じゃあ適当な布を顔に巻いて覆面にしとこうぜ」


「隠したからって無茶を許可する訳じゃないわよ?」
 しかしその言葉もむなしくルイズは城下町で大乱闘を展開する事になった。
 一人のスリを倒す筈が、アヌビス神が調子に乗ってスリグループを一網打尽にする事に!
 しばらくブルドンネ街では、魔法を使わずに布を巻いた棒を振り回してスリグループをコテンパンに叩きのめす正義の覆面貴族の噂が流れる事になった。

 ルイズは新金貨を500手に入れた。
 ルイズは新金貨を100取戻した。
 ルイズはエキュー金貨を200手に入れた。
 ルイズは新金貨を50手に入れた
 ルイズは銀貨を80手に入れた
 ルイズはエキュー金貨を703手に入れた。
 ルイズは銅貨を267手に入れた。
 ルイズは古ぼけた懐剣を手に入れた。
 ルイズは傷薬を手に入れた。
 ルイズは錆びた短剣を手に入れた。
 ルイズは鏃を手に入れた。
 ルイズは金のペンダントを手に入れた。
 ルイズはミスリルの指輪を手に入れた。
 ルイズは御禁制の秘薬を手に入れた。

「ふ、ふふ、増えてるわよっ?」
「増えてるな」
「ど、どどど、どうすんのよ?」
「貰っとけ」
「ば、馬鹿なこと」
「届けたら取調べが長いぞ?」
「……」
「スリどもの心読んだけどよ。心配すんな、足がつきそうな物品はそりゃ随分昔に取ったものでもう大丈夫だ」
「き、貴族たるものは」
「貴族がスリと疑われて良いのか?
 もしくは今日の覆面貴族とばれて良いのか?」
「財布捨てられた小銭なんざ届けられても役人が使い込んじまうだけだっての」
「小銭ってアンタこのお金合わせたらちょっとした家が買えるわよ家がっ!」
「気にせずおれの修繕費に当ててくれ。おれが稼いだ金!」


 ルイズの心が折れた。
「ぶ、武器屋に急ぎましょう!」
 錆びた短剣をプラプラさせながら歩くルイズ。その様子を伺いながらアヌビス神が言う。
「決闘の時から気になってたんだけどな。おれを持ってる奴が他にも何か武器持ってると妙な感じなんだ」
「妙って?」
「スタンドのパワーが増える感じ」
「ふぅーん、気の所為じゃないの?
 っと、確かピエモンの秘薬屋の近くだったから……」
「あれじゃね?」
 アヌビス神の言葉に周りをきょろきょろと見ると、一枚の銅の看板を見つけた。
 剣の形をした看板、間違い無い。
 ルイズはそそくさと石段を上がり、羽扉をあけ、店の中にさささーっと駆け足で入った。

 薄暗い店の奥でパイプをくわえていた五十がらみの親父が、入ってきたルイズを胡散臭げに見つめ、そして紐タイ留めに書かれた五芒星に気付く。
 パイプをはなし、ドスの利いた声を出す。
「貴族の旦那。うちはまっとうな商売をしてまさあ。お上に目をつけられるようなことなんかこれっぽっちもありませんや」
「客よ」
 ルイズは腕を組んで言った。
「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」
「どうして?」
「いや、若奥さま。坊主は聖具を振る、兵隊は剣を振る、貴族は杖を振る、そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」
「……別に剣を買いにきたんじゃないわよ」
「冷やかしで?」
「違うわ」
 言うとルイズはアヌビス神をどさっとカウンターの上に放り出す。
「これの修理の相談と、直した時の大きさに合う鞘を探してるのよ」
 主人は布を解いてなるほどと思った。確かにこりゃ平民が手に出来る様な品じゃない。これは折れていなければエキュー金貨一万でも足りないねと思った。
「こ、こりゃ何と見事な……。ですがこうもポッキリ折れてちゃ、そこいらの職人じゃ治せませんぜ?先を詰めるしかない」
「そうもいかないのよ。わたしは詰めても良いと思うんだけど、どうしても直せってのがいるのよ」
「長い剣が欲しいってのなら買い直してはどうです?」
 主人は商売っ気をだす。修理しても鞘だけ売っても大した金にはならない。お得意様なら兎も角始めての客相手に手間だけの商売をしたくない。
「丁度良いのがあるんで。ちょいとお待ちを」
 ルイズが止める間も無く主人は店の奥へと消えた。
「いくら勧められても要らないのだけど……」

 主人は奥で適当に在庫を引っくり返しながらぶつぶつと言う。
「どうせ壁に飾るんだろう」
 立派な剣を油布で拭きながら、主人は現れた。
「店一番の業物でさ。かの有名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー郷が鍛えた逸品でさ。魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。
 ごらんなさい、ここにその名が刻まれているでしょう?
 エキュー金貨で二千。新金貨なら三千ですが、その折れた剣とでしたら交換でも良いですぜ」
 主人は捲し立てるように一気に言う。
「別に新しい剣は要らないわ」
「そうは言いますけどね旦那」
 そこにカウンターの上から声が割って入る。
「騙しは良くねえな親父。そんなの厨房のナマクラ包丁以下だ。そんなのと交換とは片腹痛いな」
「五月蝿いぞデル公……ってあれ?」
 親父は謎の名前を口にした所で困惑した表情を浮かべる。
「ま、まさか……」
 カウンターの上を見る。そこには一振りの折れた剣があるだけだ。
「なんならそのナマクラ、おれが真っ二つに斬ってやろうか?なんなら親父、お前事な!」
 アヌビス神が店の主人に凄んでいると、乱雑に積上げられた剣の中から、低い男の声がした。
「おでれーた!お仲間かよ」
「へ?」
 ルイズが声の方を向く。
「あ?」
 アヌビス神も声の方を注目する。
 なんと錆びの浮いたボロボロの剣から、声は発されている。
「ど、どういうこったデル公?」
「へっ。そいつも俺と同じインテリジェンスソードってこった」
 親父はあちゃぁーと手で額を押さえた。正直これ以上喧しい陳列物が増えたら面倒だ。幾ら見た事も無いような業物でも勘弁して欲しかった。
「剣に向って剣で騙そうっても上手く行く訳ねえな!」
 デル公と呼ばれた剣がゲラゲラ笑う。
「も、もしかしてあんた結構苦労してない?」
 ルイズは主人に耳打ちするように話しかける。
「わ、判りやすか旦那」
「そりゃね……」

「そりゃーどういう意味だ!」
 しっかりとそれを聞いたデル公と呼ばれた剣が口を挟む。
「そうだ、そうだ!」
 なにやらアヌビス神まで調子に乗って合わせて抗議してくる。
 ルイズは無視して続ける。
「兎に角わたしは別に新しい剣は要らないわ。
 欲しいのは鞘。でもって修理のアテよ」
「そう言われても困りまさぁ。鞘の方は紹介できても修理は多分ゲルマニアの方へ流さないと無理でさ」
 まだなにやら二本の剣がブーブー騒がしい。
「うるさいうるさいうるさーい!」
「いい加減にしねえかデル公!お客様に迷惑じゃねえか!」
 ルイズは主人の目を見、大丈夫と判断してアヌビス神をデル公とやらに投げ付けた。
「あんたらはそこで黙ってなさい!」
 主人、苦労を知ってくれる初めての客で妙に嬉しそうだ。
「まったくいったい何処の魔術師が始めたんでしょかねえ、剣をしゃべらせるなんて……」


「ほォ、悪くない材質だな、デル公とやら」
 カツンとぶつかったアヌビス神が言う。
「ちがうわ!デルフリンガーさまだ!」
「けっ、偉そうなこった。だが憶えたぜ。お前程度じゃおれには勝て無いね」
「何だと!折れてる癖にナマ言いやがって」
「錆びてる奴に言われたくないね」
「何だとこの若造」
「これでも500年生きてんだ。若造呼ばわりされる憶えは無い」
「たったの500年かよ、若造じゃねえか」

「五月蝿いわよアヌビス!」
 ルイズは店中に響く声で大喧嘩始めたアヌビスに怒鳴り付ける。
 店主は苦笑いだ。

「そうかアヌ公か」
 デルフリンガーがぷっと笑うように言う。
「アヌビス神様だ!」
「ん?ちょっと待て……。
 なんてこった。おでれーた、こいつはおでれーた。本当におでれーた。
 何で剣のてめーが『使い手』なんだ」

「どうやったらあれ黙るのかしら?」
「鞘に完全に納めると黙りまさァ。そちらは?」
「こっちは鞘が無いからその辺は判らないわ。けどちょっと踏んでスープをかければ黙るわよ?」

 つかつかと歩いてきたルイズにデルフリンガーは鞘に納められ黙らされ、そのデルフリンガーでアヌビス神はしこたま殴られた。

「あ、忘れてたわ。これ買い取って貰える?」
 ルイズはさっさと手放したいので先程の短剣等の妖しい物品をカウンターに並べた。
「……この短剣は銅貨30枚って所です。いや、この紋章は……こりゃーエキュー金貨で4000はいきますぜ。
 ん?この懐剣は……こりゃぁ見事だ。流石貴族の旦那。少なく見積もってもエキュー金貨で1500ってとこか」
 ルイズは脂汗を流した。『ま、ままま、また、ふ、ふふふ増えたわ』
「そ、そそ、そう、その値段で良いわ」
「良いんで?出すとこ出せば倍は付くかも知れませんぜ。
 あとこの指輪とペンダントは後で紹介する鞘の職人の店の方が良いと思いまさ」
「気にしないで。
 で、指輪とかは幾ら位か判る?」
「んー……指輪はミスリルですがこの大きさと細工だとエキュー金貨で200ってとこですね。使ってるミスリルが少ねえがデザインは悪くない。
 ペンダントはエキュー金貨で15ってとこかな?」
「じゃあそれはさっきの短剣とあわせて仲介料って事で取っといて」
「へ?良いんで?」
「ちょっと他人と思えないし取っといて」
 親父は苦笑して答えそれを懐に入れた。
「この鏃は?」
「見た事も無い材料なんでちょっと判別しかねます。
 秘薬屋なら面白がって買い取ってくれるやも知れませんね」
「そ……じゃあ帰りに回ろうかしら。
 あ、そうそう。あと柄もちょっとボロボロなの直したいんだけど」
 主人は地図と紹介状を書きながら答える。
「鞘の時に一緒に直して貰える様に紹介状に書いておきまさ」
「悪いわね」
 言ったところでルイズは更に思い出す。店への道中でのアヌビス神との会話を。
「最初に剣は要らないと言ったけれど……」
「お買い上げいただけますんで?」
「ええ、ちょっと頼まれてたの思い出したの。
 片手で持てるぐらいのが良いわ」

「物には拘らないけど出来れば頑丈なのが良いわ」
 決闘で青銅の両手剣が砕けたのを思い出して言う。
「うーん……」
 主人が顎に手を添え考え込む。
「片手っつーとここらにあるのはこんなレイピアなんですがね」
「駄目ね。そんなのじゃ軟過ぎるわ」
 最初は騙してやろうと考えていた主人も買取りで随分とはずんで貰った為、上機嫌で親身になって考える。何より妙に親近感が涌いている。
「うちで今ある片手で振り回せる剣で一番丈夫なのと言えば……あれでさ」
 申し訳なさげにデルフリンガーを指す。
「ああ見えて、頑丈さだけはピカイチなんで」
「ほ、欲しくないわね物凄く」
「一応インテリジェンスソードなんで魔法も掛ってますしね」
「厄介払いしようとしてない?」
「そんな滅相も無い。あんだけはずんでもらって嘘はつけませんで。
 お疑いになるなら、あいつでうちにある目ぼしい剣順番に叩いて貰っても結構です」
 ルイズは悩んだ。凄く悩んだ。小一時間悩んだ。
 悩んでる間店主が茶と奮発したお菓子を山盛りで出してくれた。それを口にしながら只管悩んだ。
 カリカリカリカリカリカリカリ
 コリコリコリコリコリコリコリ
 主人も一緒になってお菓子を齧り始め、齧る音が二重奏になる。
 カリカリカリカリカリカリカリ
 コリコリコリコリコリコリコリ
 ポリポリポリポリポリポリポリ
 ふと気付いたら三重奏になっていた。
「え?」
 とルイズが音のほうを振り向く。
 タバサが居た。
「い、何時の間にっ。こいつは失礼しました。いらっしゃい……ってまた貴族の旦那で?」
「な、なんであんたが」
「お知り合いで?」
 驚くルイズに主人が問い、ルイズはそれに答える。
「一応」

「買うべき」
 タバサは簡潔にぽそりと言った。
「け、けどこれ以上五月蝿いのは……」
「あれだけの剣は滅多に無い、幸運」
 その言葉を聞いて主人もここぞとばかりにアピールする。
「さっきはずんでもらった分もあるんで只でも良いぐらいでさ。
 まぁ旦那なら新金貨で10で結構で」

 またルイズの心は折れた。妙に熱心なタバサの視線に負けたとも言う。
「じゃ、じゃあ頂くわ」
 金貨を10枚ちゃりんとカウンターに置く。
「毎度っ!」
 主人はデルフリンガーを手に取るとルイズに手渡した。

 店から出る時にタバサがまた話しかけてきた。
「修理出してない?」
「まだだけど」
「良かった。あれは手間とコツがあるから街より学校の方がいい」
「それにしてもアヌビスあんた、何時の間にタバサなんかと」
『良い男はもてるんだよ』とアヌビスが答えたので鞘に入ったままのデルフリンガーで全力殴打しておいた。
 店の主人は苦笑いしていた。
「ま、デル公。幸せにやんな。仲間も居るし多分良いご主人だぜ」
 主人は小さな声で見送った。答えるようにデルフリンガーが少しカタカタと揺れた。

「また来てくだせえ、勉強しますぜ」
 愛想の良い親父の声を背にルイズ達は店を出た。
 今年は半分遊んで暮らせるわ。貴族って気前良いなァと主人は早速秘蔵の上物の酒を開けた。


「あ、タバサ、ルイズは見付かった……って」
 店から出たところで、キュルケが此方へと丁度歩いてきた。タバサの姿を見つけ、その横にルイズの姿を確認し……。
 腹を抱えて笑った。
「ふ、増えてるじゃないのあなた」
 2本の剣をぶら下げたルイズの姿に。
「しかも喋る」
 タバサがデルフリンガーを鞘から少しずらす。
「景気良く喋ってる時にいきなり閉じ込めるんじゃねえ!」
 いきなり喋りはじめるデルフリンガー。
 激しく噴出したキュルケは立っていられずにしゃがみ込んで笑った。
「ちっ、ちっ、ちっ」
 アヌビス神が何度も舌打ちの様に喋る。
「面白い」
 タバサの一言が今の彼女には追い打ちとなりキュルケは転がって大笑いした。
 ルイズは頭を抱えてぷるぷるとふるえた。


 続けて裏の方の秘薬屋に行き、二人を外に待たせ怪しげな御禁制の秘薬と鏃を売る。
 秘薬はエキュー金貨3000、鏃は何故かエキュー金貨70000になった。
『ま、まま、また増えたわ。しかも尋常じゃなく』ルイズは更に脂汗を流した。
 店を出る時に店主が鏃で怪我をしたらしく『いてっ』と声が聞こえた。

 続けて武器屋の主人の地図にそってかかれている店へと向う。そこはちょっとした細工品等が並んでいる店だった。
「へぇ、中々良い物が揃ってるじゃないの」
 キュルケが並んでいるアクセサリーを手にとってうっとりと見つめる。
 何故か店の奥にはギーシュが居た。
「げ、げェー、なんでキミ達がここにっ!」

「あんたこそ何してるのよこんな所で」
「こ、ここは僕が贔屓にしてる穴場なんだ」
「ああ、二股相手の女の子釣るための道具揃えるのに――――」
「失敬な!愛しいモンモランシーにプレゼントする為の……あ、モンモランシーにはまだ言わないで」
 ギーシュは絶対に秘密だからなーとか言って逃げる様にして出て行った。
 休まらない日だわ、何でこう見知った顔に会うかなとかルイズは思いながら店主に紹介状を見せる。
 丁度良い具合の材料が揃ってるので小一時間でどうにかなると言われ、装飾をどうするか聞かれる。
 妙なお金は嫌なので全部使ってやれと金貨の山を作り、これで出来るだけ可愛くと言ったらアヌビス神が『イヤァー』と絶叫した。
 それを見たデルフリンガーはゲラゲラと笑い出した。
 じゃあこっちの味気ない鞘と柄も可愛くとデルフリンガーも差し出しておいたら、デルフリンガーも『イヤァー』と絶叫していた。
 店主はかなり失笑していた。
「その見るからに可愛らしいの移殖するのはやめてェー」
「こ、コラ、よせッ。そのキラキラしたのはよせッ!」
「そのカラフルなのはらめェー」
「乙女チックなカラーリングを鞘につけんなァー」
「アーッ!」
「アーッ!」
 こんなに喧しい仕事は初めてだと店主は語った。

 タバサがかなり楽しそうにその光景を彼女なりの表情の変化でニヤニヤしながら見ていた。
「両方とも男の子」


  ルイズ日記 ○△月○□日
 今日はアヌビス神の鞘の手配と修理の相談に城下町へ。
 道中あった事は割愛
 何故か現れたタバサに勧められ喋る剣が一本増える派目に。
 キュルケにかつて無い程笑われた。忌々しい。
 腹が立ったので五月蝿い二本の剣を精神的にいたぶる。
 帰り道は二本ともとてもぐったり静かだったわ。


  タバサ日記 ○△月○□日
 ルイズの使い魔は面白い。
 明日からはおそらくもっと面白い。
 面白さ二倍。


  キュルケ日記 ○△月○□日
 思ったよりルイズはあの使い魔と上手くやっている様子。一安心ね。


  ギーシュ日記 ○△月○□日
 何時もの店でルイズ達に出会ったよ。慌てて逃げる様に店を出てしまったけど、丁度良い物が無かったし問題はなかった。
 丁度探していた様なデザインのミスリルの指輪が、逃げてる時に偶々入ってしまった武器屋で何故か売っていたので購入したよ。
 きっとモンモランシーに似合う。突然のプレゼントで喜ばせるんだ。
 泣かせてしまったケティにもお詫びの品として綺麗なペンダントを一緒に買っておいた。
 武器屋の店主が貴族が何度も珍しいと言っていた。何だったんだろうね。
 後店主にまさか『ギーシュさん』?と聞かれたけど知らないふりをしておいた。噂は怖いね。
 噂と言えば帰り道、警備兵が慌しく駆けて行った、あれはモンモランシーもたまに使う裏の秘薬屋の方だったかな?うーん物騒だね。嫌な事件が起こらなければいいね。


  マリコルヌ日記 ○△月○□日
 最近朝目覚めると必ず全裸だ。何故?




7<         戻る

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー