ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ラ・ロシェールにて-6

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ざまあ見ろ。これからが私の人生だ。  by檀一雄

地を抉るゴーレムの拳を避けながら、タバサは呪文を唱え杖を振り敵に向かって氷の矢を放った。
決定的な隙を見つけたわけではない。しかし決定的な隙を作るための牽制だった。
それによって相手はどう動くのか。どういった反応を見せるのか。それらをひっくるめて次はどう動けば良いのか。
それらを考えるための一撃だった。
強大な敵を倒すためには相手がどう行動するかが重大な要素になる。
つまり絶対に必要な一撃だった。
そのとき不意に足に衝撃と痛みが走りこけてしまう。
タバサが自分の足を見ると血が出ており、足元には拳大ほどの石が転がっていた。
別にタバサが気を抜いていたわけではない。ただ敵に集中しすぎていただけだ。
石は地を抉るゴーレムの拳の衝撃で飛んできたものだった。敵に集中しすぎていたため当たってしまったのだ。
これは偶然だった。敵もこんなことは意図していなかったのだから。
しかし敵にとってこけたものはいい的だ。
そしてすでに振り上げていたもう一方の拳を飛んでくる氷の矢を気にせずにタバサへと振り下ろした。
魔法を使っても間に合わない。立ち上がって走るなど間に合わない。
タバサには自分に向かってくる拳に対処する方法は無かった。
反射的に目を閉じる。そして体を強く押され吹き飛び、
「あぐぁ!」
短い悲鳴が聞こえた。
その声はとてもよく聞くなじみのある声だった。
目を開けるとそこにいたのは左足をゴーレムの拳に潰されているキュルケだった。
「キュルケ!」
「……あんまりぼさっとしてるとやられるわよ」
キュルケは苦痛を滲ませながらもタバサに笑いかけた。
拳がキュルケの足からどかされまた振り上げられる。
「ぼくの仲間から離れたまえ!」
そのとき、聞こえるはずの無い声が聞こえてきた。声のした方向をタバサ、そしてキュルケも見る。
そこいたのはギーシュだった。血まみれで今にも倒れそうになりながらも確かにそこに、潰されたはずのギーシュがいた。
ギーシュが杖を振るとギーシュのゴーレムが3体現れる。
「ぼくの仲間に傷をつけた罪は重いぞ!ワルキューレ!突撃だ!」
3体の青銅のゴーレムは巨大な岩のゴーレムに向かって走った。

不幸はナイフのようなものだ。ナイフの刃をつかむと手を切るが、とってをつかめば役に立つ。  byメルヴィル

「ヴェルダンデ!」
ギーシュは驚きの声を上げる。
間違えるはずも無い。ギーシュの隣にいた生物はギーシュの使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデだった。
見えなくてもギーシュにはそれがわかった。
なぜここにヴェルダンデがいるのか?
いる理由など簡単だ。出発の際、ギーシュはやはりヴェルダンデと別れるのが寂しかった。
だからこっそり連れてきたのだ。
ジャイアントモールはギーシュが言ったとおり地中を進むのは結構速い。
とは言っても休み無しでラ・ロシェールに来れるほどその速度が持続するわけではない。
ギーシュ自身休み無しでラ・ロシェールに行くとは思わなかったから大きな誤算である。
だからギーシュから1日遅れてラ・ロシェールについた。たとえ遅れてもその発達した嗅覚で追ってこれるのだ。
だからギーシュにとっては船が遅れるというのは嬉しい誤算だった。連れてきてしまいさえすれば何とか押し切ってアルビオンまで連れて行こうと思っていたからだ。
そしてその願いは果たされなかったが、ヴェルダンデを連れてきたのは間違いなく幸運だった。
ギーシュが潰される直前、ギーシュの危機を察知したヴェルダンデがギーシュを穴の中へ引っ張り込んだのだ。
といってもギーシュには何が起こったのかさっぱりわかっていなかった。
わかっているのはゴーレムの拳が目前にまで迫ってきていたこと、気がついたら真っ暗な所にいてヴェルダンデが隣にいたことだけだ。
それにしても息苦しい。
ここは一体何処なのだろうか?するとかぎなれた匂いが充満していることに気がついた。
ヴェルダンデに似ているような、でもそれよりもっと濃い匂い。土の匂いだった。
そして肌に触れる感触で確信する。土の中にいるんだと。
早くここから出なければ!こうしている間にもぼくの仲間は、仲間と言ってくれた彼女たちが死んでしまうかもしれない。
「ヴェルダンデ!ぼくを地上へ出してくれ!」
痛みを堪え歯を食いしばり叫ぶ。
それに応えるかのようにヴェルダンデは体を揺らした。ギーシュの上の土が落ちてきてぽっかりと穴が出来上がった。
ギーシュが思っているほど土は厚くなかった。
そして上に落ちてきた土を振り払い歯を食いしばりながら立ち上がる。
「あぐぁ!」
悲鳴が聞こえた。声の主に即座に気がつく。
自分が知っている声だったからだ。すぐさま穴から出るとそこにはゴーレムに足を潰されたキュルケがいた。
驚いている間にゴーレムはさらに攻撃を加えんと拳を振り上げる。
「ぼくの仲間から離れたまえ!」
とっさに声が出ていた。自分でも驚くほど自然にだ。
しかし言ったとたんに身も心も軽くなり、何かが繋がるような感じがした。
敵が自分の仲間を傷つけた。それは何よりも許しがたい!
杖を振る。そして3体ワルキューレを作り出す。作るのはもうこれが限界だ。
だがこれだけで十分だ。ぼくだけじゃ無理だけど、ぼくたちなら倒せる!
「ぼくの仲間に傷をつけた罪は重いぞ!」
許すわけが無い!罪は償わせなければならない!
「ワルキューレ!突撃だ!」
敵の注意をこちらに向けるため大きな声を出す。
そしてゴーレムに向かってワルキューレを突っ込ませる。
狙い通り敵はギーシュのほうを向きキュルケに振り下ろすはずだった拳はワルキューレに向かって振るわれた。
ワルキューレにそれを避ける指示する。ただし2体だけにだ。後に1体はそのまま突っ込ませる。
そしてその指示通り2体のワルキューレは拳を避け、1体はそのまま突っ込み叩き潰される。
避けさしたワルキューレに間髪与えず突っ込ませる。
そして1体を振るった拳に張り付かせた。
しかし敵はその張り付いたゴーレムを地面に叩きつけ打ち壊す。
そしてそのままの勢いで残りの1体に拳を叩きつけた。作り出したゴーレムは瞬く間に全滅してしまう。
けれど目的は果たした!
ゴーレムをその場から動かさないため、そして体勢を整える時間と呪文を唱える時間だ!
勿論ぼくがじゃない。
体勢を立て直すのはぼくがタバサたちを押すときに作り出したワルキューレ。
呪文はタバサが唱えるはずのレビテーションだ。
そう、感じなのはタバサだ。別に唱えてくれだなんて言っていない。
唱えてくれるはずという非常に曖昧なものだ。それを信じてやったのだ。もしかしたら唱えていないのかもしれない。
それでもどこか唱えているという奇妙な確信があった。
「タバサ!」
叫ぶと同時にワルキューレが浮き上がる。必ずそうなると信じていた通りに。
敵のゴーレムはそれには気がつかずこちらに近づこうとする。
だが近づかせるわけには行かない!それに既に対処はできている!
ゴーレムが一歩踏みしめた瞬間に踏みしめた部分が深く沈む。ヴェルダンデに踏みそうな場所を掘らせたのだ。
しかしそれだけじゃ少し体勢が崩れる程度だ。わずかな足止めにしかならない。
そしてそのわずかな足止めで十分だった。
すでにワルキューレは敵の場所まで浮かび上がったいるからだ!そしてワルキューレで敵に思いっきり抱きつきゴーレムの肩から敵を落とした。

生命のある限り、希望はある。  byテレンチウス

落ちていく。身が潰れるほどの重りをつけ谷底へと落ちていく。
そんな感じがした。
思えばどうしてこんなことになったのだろうか?今はもう思い出すことすらできない。
ただ何もかも壊したい。そう思っていたのは覚えている。
でも本当に全てを壊したかったのか?壊したかったはずだ。壊したくないものもあったのではないか?
……あったかもしれない。いや違う。かも知れないではない!あったのだ!いや、ある!
心に広がっている闇の一部から微かな光が見えた。
その光の中は眩しく目をまともに開けていられない。
しかしその光の中には様々な光景が広がっていた。自分の大切な、守りたいといつも思っている光景だった。
そしてその光景の中には様々な人間がいた。自分の大切な、守りたいと決意した人たちだった。
それらを見ながら理解する。もう二度と環には戻れないんだと。
もし自分が盗賊なんていう悪事をしていなければこんなことにはならなかっただろう。
苦労しながらでも必死に働けばこんなことにはならなかったはずだ。しかしそれじゃあ守れない。
やはり悪事に身を染めるしかなかった。悪事に身を染めたものは真っ当に生きれるはずが無い。
自分がいい例じゃないか。こんな風になってしまったんだから。だからと言って後悔をするのか?するわけが無い。
後悔したら今までの自分の重いが嘘だったことになる!
光から目を逸らす。後悔なんてしない。
わたしは守るんだ。罰なら全て受けよう。守るべきものが守れるのなら。
守るべきもののために罪を犯そう。それで守れるのなら。
守ると決めたそのときから、後悔なんて無いはずだから。
マチルダ・オブ・サウスゴータは落ちていった。落ちきる前にゴーレムは崩壊を初め、落ちる罪人に岩を降り注いだ。

終幕

「なんじゃこりゃああああああああああ!?」
ギーシュは自分の怪我を見て気絶してしまった。
さっきまでの雄々しい姿は何処に行ったんだか。
「まったく、変な奴」
そう思いながら笑みがこぼれた。怪我はしたが全員が生き残れたという事実はとても嬉しいことだ。
誰か一人でも欠けてしまっては笑みなんて出ては来なかった。
「大丈夫?」
タバサが呟くように聞いてくる。その顔には心配の色がありありと浮かんでいる。
もっともあたしぐらいじゃないとわからないだろうけど。いや、ギーシュももしかしたらわかるかもしれない。
「大丈夫よ。ヒロインに悲劇はつきものよ。タバサのせいじゃないわ」
苦痛を我慢しながらタバサにできる限り優しく言う。
しかしタバサの顔色は変わることは無い。
今タバサには『治癒』の呪文をかけられるほどの精神力は残っていない。
何もできない自分が嫌なのだろう。もしくは責めてほしいのかもしれない。
でもそんなのはお断りだった。自分でそうしたいからしたのだ。誰かを責めるつもりなんてまったくない。
だってあたしの我侭だから。でもタバサの気持ちが晴れないのなら仕方が無い。
「タバサ、一人じゃ立てないから手を貸してくれない?あんたはあたしに肩を貸す。それで十分よ」
仕方なく諦めてもらおう。

背の高い女が背の低い少女に寄りかかりながら歩く。その隣を止血された少年が浮いている。
ゴーレムだった瓦礫を背に彼女たちは水のメイジを求めて歩いていった。
そして誰もいなくなった。



瓦礫がわずかに動く。
誰もいなくなった……のか?


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