ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-4

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匿名ユーザー

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あの衝撃的な殺人から暫らくして、舞台はまた形を変えていた。
男は会社で働いていた。
真面目にそつなく仕事をこなしている。どこにでもある普通の光景の一部。
多くの一般群衆の中にいる1人。背景の一部。
そう思えるほど男は影が薄い。
周りの人間のそう評価していた。しかし、それは男の上辺だけに過ぎない。
しかし、舞台から見ている私にとっては男が恐ろしくて仕方がなかった。
影が薄い?背景の一部?一般群衆の1人?
どれもこれも全く違う!
男は、奴は殺人鬼だ!
この光景に移り変わるまでに何人の人間を爆破というありえない方法で殺し、その手首を奪ってきたことか。
私のように仕事で殺人を犯すのではない。ただ自分の欲求を満たすためだけに殺している。
何の恨みがあるわけでもなく、ただ殺したいから殺す。それを異常と呼ばずしてなんと呼ぶのだろうか?
少なくとも私は知らない。
そんな異常を抱えている男は、こともあろうに『平穏』に暮らしたいと願っている。
男が直接それを口に出したわけではない。だが、私にはそれが解るのだ。
男は本気で平穏な生活を目指している。目立つことがないよう、騒がれることのないよう、ただただ普通であり続けようとしている。
この舞台のタイトルは『日常に潜む男』と隣の女は言っていた。
なるほど、まさに題名の通りだ。
これほどふさわしい題名があるだろうか。
そんなことを私は必死の思いで考えていた。
なぜこんなことを必死になってまで考えるのか?それは私が少なからずあの男の考えを理解できるからだ。
何故解るのか?そして、何故殺人鬼などに恐怖を抱くのか?
私にはわからない。いや、解りたくない。結論を出したくない!
心が結論を出すことを拒否し、考えを凍結させる。
しかし、舞台に見入ってしまう。男が何か行動を起こすたび、凍結させている考えが動き出す。
舞台を見なければきっと考えなくてもすむのだろう。だが、舞台から目を背けることが、私にはどうしてもできなかった。
指一本動かすこともできず、吐息一つ吐くこともできず、ただただ見詰めるしかできない。まるでなにかの呪いのようだ。
見ていると男は仕事を終えたのか、鞄を持ち会社から出て行く。
「吉良さん……あのォ、吉良さん!」
会社から出てどこかへ行こうとする男を3人の女が呼び止める。
「吉良さん、よろしかったら……、あたしたちとお昼ご一緒しませんか?」
呼び止められた男が女たちのほうを振り向く。
その目には女たちに対する感情はこれっぽちも浮かんではいない。
「すまないが……、遠慮するよ…」
男は鞄を女たちに見せるように持ち直す。
「これからこの『書類』を届けなくてはならないんだ……。それでは」
男は女たちにそう言うと早々にその場から立ち去った。
歩き向かう先は、看板にサンドイッチと掲げられた店だった。おそらくパン屋だろう。店名はSt.GENT……サンジェルマンか。
サンジェルマン……、どこかで聞いたことがある。しかもつい最近のことだ。そうだ。誰かが言っていたじゃないか。カツサンドがうまいって。
男は店内に入っていく。
男が店内にがいると同時に舞台が暗転し、すぐさま明かりがつく。
すると舞台はすっかりサンジェルマンの店内であろう場所に変わっていた。
「おいおい。何を怒ってすねているんだ?」
店内に入った男は小声で誰かに話しかける。
そしてトレイを持ちサンドイッチを取りに行く。
「新入社員の女子たちにお昼を誘われただけじゃあないか……」
男はまた優しく宥めるように誰かに喋りかける。
相手はおそらく……
「君とお昼を食べる約束していたのに一緒に僕が行くわけないだろ?すぐに断ったのを聞いていたろう?僕が君を一人ぼっちにさせたことがあるか?ン?
さ……、心配いらないから一緒にサンドイッチを選ぼうじゃないか」
男はそう小声で言って自分の懐から『恋人』を取り出した。左手の薬指には指輪が嵌められている。
他の人間には男自身が死角になっていてその様子が見えていない。
男は取り出した『恋人』でサンドイッチを撫で回す。
「ほら…、どれが食べたい?とてもやわらかいパンだね?この店のサンドイッチはいつもお昼の11時に焼きあがったパンで作るから評判がいいんだ。
午後1時過ぎには売り切れるんだよ。ラップの上からでもホカホカしているね。このカツサンドのカツもあげたてでサクサクしてるんだよ」
やっぱり、この店のことを私は聞いたことがある!
知っているのではなく、聞いている!一体どこで、誰から聞いたものだったのか、それが思い出せない。
男がサンドイッチを『恋人』を押し付けていると、『恋人』はサンドイッチを包んでいたラップを突き破ってしまった。
「ん……」
『恋人』は少しサンドイッチの中を探ってしまう。
「しまった…、ラップを突き破ってソースをしみ出させてしまったぞ。…………いけない子だ…」
男は『恋人』をサンドイッチから引き抜く。
サンドイッチの中に突っ込んだため、『恋人』にはサンドイッチのソースがベトベトと付着していた。
男はそれを暫らく眺めていたが、何を思ったのかおもむろに『恋人』のソースが付着した部分を口に銜え、嘗め回しはじめた。
シャブシャブ……チュバチュバ…………………ペロン…ペロンペロン…………
その光景に吐き気がしてくる。わけもわからず叫びたくなってくる。何もかも認めたくない。
しかし、そんなことを思おうと体は何も反応しない。
クソッ!大体回りは何故何も反応しないんだ!さっきから舞台以外から物音が一つもたたないぞ!
こんな光景に何も反応しないなんて皆どうかしてやがる!
私はそこが夢だということも忘れて、心の中でそう喚き散らした。
男は満足したのか『恋人』を嘗め回すのやめる。
「しかし、このサンドイッチは穴があいたから、その下のやつを買おうね……」
男がそう言うと舞台は再び暗転し、例のごとく明るくなる。
今度は一気に光景が変わっていた。
あたり一面真っ暗だった。明るくなったというのに暗いというのもおかしいがとにかくそんな感じなのだ。
おそらく舞台は今夜なのだろう。
そんな中、舞台の中央には一人の青年が立っていた。
年は若く、おそらく18,19歳ほどだろう。そして、気がついた。
こいつはさっきの男だ。間違いない。随分若くなっているが面影はありありと浮かんでいる。
その手にはよく見えないが何かが握られている。
それを確認している最中、男は前に向かって歩き出す。今気がついたが男の目の前には家が存在していた。
男は門を開き、その家の敷地内へと入っていく。表札には『杉本』と書かれていた。
……この夢は一体私に何を伝えたい?


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