ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

故郷! 魂の眠る場所 その①

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
故郷! 魂の眠る場所 その①

もしも運命というものがあるのなら……まさにこれは運命だった。
承太郎がなぜ、何のために、どんな理由で、ハルケギニアに召喚されたのか?
それはまだ誰にも解らない、しかし――。
決まっていたのかもしれない。
承太郎がこの世界に来た瞬間から、それはめぐり合う運命だった。
承太郎が元の世界の情報を求めていたから。
コルベールが伝説や歴史を研究していたから。
シエスタがただの平民でありながら引き継いでいる他とは違う血統が。
彼等が出会ったのは偶然なのか? 彼等が引かれ合ったのは必然なのか?
偶然にしろ必然にしろ、それらはめぐり合った。めぐり合ったのだ。
重要なのはその一点。
運命に導かれた証かもしれない。

何の変哲もない一日のように思えた。
ルイズは詔を考え、キュルケはタバコの銘柄を考え、タバサはタバ茶を考える。
ギーシュはモンモランシーとよりを戻そうと必死だ。
しかし変哲をもたらす者が二人いた。

コルベールは歴史や伝説だけじゃなくエンジンをはじめとする機械の研究をしている、
しかし今日は朝から学院長室に赴き休暇届を提出していた。
シエスタは前々から休暇に帰省する話をしていて今日故郷のタルブの村に出発する。
そして承太郎に挨拶してから行こうと厨房の近くで待ち合わせている。

コルベールとシエスタ。
ハルケギニアから元の世界に帰る可能性の鍵を握っている二人が、
同じ日に行動を起こす事になったのはまさに運命とも言えよう。

「う~ん……う~ん……」
廊下を歩きながら、始祖の祈祷書を抱きしめているルイズ。
いくら考えてもいい詔を思いつけず、気分転換に歩きながら考えてみる事にした。
そして休日の学院の中を歩き回っている。
するとやけに嬉しそうなミスタ・コルベールが廊下の反対側からやって来た。
「おや、ミス・ヴァリエール。よい所で会えた」
「え? あの、何か御用でしょうか?」
詔の事について何か言われてきたらどうしよう、という心配は杞憂に終わる。
「実はジョータロー君を探しているのだよ。ぜひ彼に報告したい事があってね。
 彼はミス・ヴァリエールの部屋にいるのかい? そうなら呼んできて欲しいのだが」
「いえ、ジョータローはメイドの見送りに行ってると思います」
「メイド?」
「ジョータローに毎日ご飯を食べさせてるメイドが、
 休暇を利用して実家に帰るらしくて、その見送りに行ってるみたいです」
「そうか! ではさっそく会いに行くとしよう」
「あ、あの!」
意気揚々と歩き出すコルベールを、ルイズは呼び止める。
「ジョータローにいったい何の話ですか?」
「ふむ。話してもいいが、できるだけ早く知らせに行きたいのでね。
 二度手間になるのも面倒だし、よかったらついてきたまえ」
「はぁ……。では、そういたします」
こうしてルイズはコルベールと一緒に廊下を歩き出した。
いったい何の話だろ?
あの『えんじん』とかいう意味不明のおもちゃの話だろうか?
もしくは新しい紙タバコができたとか、そんな話かな?
たいした話じゃなさそうだと、ルイズは気楽に考えていた。

厨房からやや離れた洗い場のあたりで承太郎とシエスタは歓談をしていた。
「ラ・ロシェールを越えなきゃならねーのか、結構遠いな」
「でも馬で三日程度ですから。もっと遠くから奉公に来ている方もいますし。
 草原がとても綺麗で、ジョータローさんにも一度見てもらいたいくらいなんですよ?
 それから村に伝わるシチューで、ヨシェナヴェっていうのがあるんです。
 とってもおいしくて、村の名物になっているくらいなんですから」
「ほう、そいつはうまそうだ」
「帰ってきたら作って差し上げます。二人分ご用意すればいいかしら?
 時々ギーシュ様もご一緒しますし……」
「故郷の名物なんだろ? だったらシエスタも一緒に食えばいい。
 三人……いや、四人分用意すりゃ足りるはずだ」
「四人分、ですか?」
「……タバサがまた何か企んでくるかもしれねーからな。
 あいつに料理に関して何か頼まれても、絶対に聞く耳持つなよ」
「はぁ……」
タバサを嫌っている訳ではなさそうだが、なぜそうも警戒するのか、
事情を知らないシエスタにはサッパリ解らなかった。
――と、そこにコルベールがルイズを連れてやって来る。
「やあジョータロー君。よかった、まだいたか」
「コルベール? 何かあったのか」
ルイズが一緒にいたため、何かやっかい事でも起きたのかと承太郎は思った。
しかしコルベールが持ってきたのはやっかい事どころではなかった。
「竜だよ。君が私にエンジンや機械の話をしてくれた時の事を覚えているかい?
 あの『ガソリン』という血を持っていた竜の居場所を突き止めたのだよ」
「……間違いないのか?」
驚きと緊張を感じながら、承太郎は確かめるように問い返した。
「うむ、今度こそ間違いない。二匹の竜のうち、一匹が舞い降りた地を特定した」

コルベールの言葉を聞き、反応したのは二人だった。
「それはどこだ?」
「タルブの村ですか?」
一同の視線が地名を口にしたシエスタに集中する。

学院の廊下をキュルケとタバサが並んで歩き、その後ろをギーシュが歩いていた。
「お国のために決死の旅に出ていたのに、
 モンモランシーは浮気旅行だと勝手に思い込んでるんだ」
「それは日頃の行いのせいじゃない?」
「だから君の口から何とか誤解を解いてもらえないか?」
「あれってアルビオンの王党派と関係あるんでしょ? 皇太子らしき人物がいたし。
 正直に話したら結構ヤバいわよ、黙っといた方がいいわね。
 それよりダーリンはどこかしら? タバコの銘柄の意見を聞きたいのに。
 ところでタバサはどっちがいいと思う? ふたつまではしぼれたのよ。
 ツェルプストー・サラマンダーか、ヘル・アンド・ヘヴンか」
「ヘル・アンド・ヘヴン」
ちょっぴり強めにタバサは答えた。どうやらそっちがお気に入りらしい。
――後に彼女は『煙草王誕生!』という歌の作曲をする事になる。
そんな風に三人が平和を謳歌していると、承太郎の声が聞こえてきた。
「間違いないのか、シエスタ」
三人の視線が洗い場の方に向けられる。
承太郎、ルイズ、コルベール、それからメイド。
いったい何の話だろう、と三人は植木に隠れてこっそり近寄った。

シエスタは少し焦っているような承太郎に戸惑いながらも、
自分の村に伝わる――というか、自分の身内の話をしていた。
「二匹の竜ですよね? 私の村じゃ知らない人は誰一人いません。
 一匹は日食の中に消えて、残ったもう一匹の竜に乗っていたのが、
 私のお爺ちゃんだったそうです。私が幼い頃亡くなりましたけど」
それを聞き承太郎は珍しく戸惑いを見せた。
竜の正体はガソリンを動力に動く何かだ。
空を飛んでいたという事は飛行機の類だろう。
だが、それに乗っていた人間がこの世界で子供を残し、
そしてまさかシエスタがその血を受け継いでいるとは。
「コルベール。あんたはタルブの村に竜の調査に行くんだな?」
「あ、ああ。そのつもりだが……」
「丁度いい、三人で行こう。シエスタが村につくまでの護衛にもなるしな」
「えっ、ええ!? ジョータローさん、来るんですか? 私の家に!」
驚き喜び大混乱のシエスタ。
一方ルイズは話がハイスピードすぎていまいちついていけてなかった。
いきなり二匹の竜とか、それに人が乗っていたとか、お爺ちゃんとか。
そんな混乱中のルイズにさらに駄目押しの一言。
「という訳で、俺は二人と一緒にタルブの村に行ってくる」
「え、あ、待ちなさい! かか、勝手に出かけるなんて許さないんだから!」
「てめーが何と言おうが、俺は行くぜ」
「あ、その、そうじゃなくって、わ、私も一緒に行くって言ってるの!」
パニックになった頭で言ってから、何でこんな事をと疑問に思う。
ミスタ・コルベールはともかく、メイドと一緒に里帰りだなんて、なんか、その。
理由は解らないけどダメ! 絶対!

という訳でルイズ、承太郎、コルベール、シエスタの四人は、
タルブの村へ竜の調査に向かう事となった。だが。

「ちょっと待った!」
キュルケが現れた! タバサが現れた! ギーシュが現れた!
「ダーリンが行くなら私も行くわ! 抜け駆けなんて許さないわよルイズ」
「事情はよく解らないが何やら大変な様子。友として見過ごす訳にはいかないな」
邪魔だ、と承太郎が目で語っていた。
タバサは使い魔を呼んだ! シルフィードが現れた!
「馬より速い」
馬より速いシルフィードに乗せてって上げるから一緒に連れてって、という意味。
それを理解した承太郎は、一刻も早く竜の正体を確かめたい事と、
どうせ断ってもこいつ等は勝手についてくるだろうと予測して、
だったら最初から一緒にシルフィードに乗っていった方がいいと判断した。
「やれやれ……解った。連れてってやる。四十秒で支度してきな」
「短ッ!?」
しかし特に用意する物もないのでみんな四十秒以内にとっととシルフィードに乗った。
シエスタは初めて空を飛ぶ竜に乗るという事で不安がり、
落っこちたりしないようにと承太郎の腕にしがみついていた。
その承太郎の反対側の腕には、シエスタの荷物が入った鞄が握られている。
承太郎の両手をシエスタに占領され、ルイズとキュルケはちょびっとイライラした。
こうしてシルフィードが学院を飛び立った。
が、ちょっと速度が遅い。
「重い」
タバサがシルフィードの気持ちを代弁する。
まだ幼いシルフィードには少々荷が重いようだ。
でも一応ちゃんと飛べているのでタバサは構わず「タルブの村へ」と命令。
「きゅいきゅい~!」
シルフィードの抗議の悲鳴は全員に黙殺された。
そして――タバサは承太郎に見つからないよう、小さな水筒をマントの中に隠していた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー