.
───マスターや、起きなさい。マスターや……
「むにゃむにゃ……おからじゃないお好み焼き……うへへへ……」
───三大欲求に忠実なマスターや…起きないと二度と醒めない眠りになりますよ…
────具体的に言うと手足と角と尻尾を千切られただるまぞくに……
「ぽげぇえッ!?寝込みを襲うとは卑怯な!?しかも例えがエグい!って…あれ?」
謎の声に導かれて。
私、闇の女帝シャドウミストレスこと、
吉田優子は目覚めました。
けれど、目を覚ました場所は聖杯に与えられた下宿先のアパートではなく。
「ここ……夢の中…?」
私ではない誰かの夢の中でした。
「これ……誰の夢?」
───おいおいマスター、ボク、ちゃんと説明したよね。
君に協力してくれるかもしれない、君の能力を必要としてる子がいるって。
「この声は…アサシン君!?」
私を起こしたその声は、間違いなくアサシン君の物でした。
ですが、姿は見えません。そのままきょろきょろと辺りを見回してみます。
そこは、病院の廊下でした。前に入った私の夢の中に似ている気がします。
「ここは…その人の夢の中なんですか?」
───そのとーり。先ずは、友達になってくれるかもしれないこの子の事を知らないとね。
───そして、願わくば…この子の助けになってあげて欲しいんだ。
「助ける…?」
その言葉に、眠る前の記憶が少しづつ蘇ってきます。
眠る前にアサシン君は私に語りました。
連日の深夜徘徊の結果、私に協力してくれるかもしれない子を見つけたこと。
だけど、その子は少し困ったちゃんで、今の時点でちゃんと協力できるか怪しいこと。
だから夢の中にお邪魔して、その子の事を少しでも知った上で、助けてあげて欲しいということ。
語られた内容を思い出し、状況は飲み込めてきました。
でも、それと共に戸惑いや不安ももたげてきます。
先ず私は、この夢の主の事を何も知りません。名前すら知りません。
そして自慢ではないですが私はクソザコまぞくです、ゲロ弱です。
いや、最近は宿敵の桃色魔法少女のお陰でちょっと強くなってきたかも?
それでもやっぱり……私にできる事なのか、疑問です。
───心配しないで、マスターならできるさ。できなきゃこの子は何も始まらない。
───今は『待て、しかして希望せよ』よりも当たって砕けろだよ。
───失敗したって、骨は拾うからね!
「玉砕前提!!私木っ端みじんになるんですか!?」
───うん、具体的には今すぐ逃げないとあと二十秒くらいで。
へ?と。
その言葉にとっさに後ろを振り返ります。猛烈に嫌な予感がしました。
同時に既視感もです。前に夢の中に入った時、似たようなことがありました。
そして、そんな第六感は悲しいほどに当たっていました。
「うぎゃーッ!!ウサギとハムスターの真っ黒い化け物-ッ!!」
ふしゅーふしゅーと唸り声を上げて。
三メートルはある真っ黒な兎とハムスターの合体版みたいな怪物がそこに居ました。
ですが、これは二度目。経験を活かせば既にどうすればいいかは分かっています!!
「シャドウミストレス優子!危機管理フォーッッッム!!!」
最早慣れてしまった恥ずかしい格好に0,02秒で着替えます。
夢の中なら変身バンクも一瞬です。
そして回れ右前進!先手必勝逃げるが勝ちです!!退却撤退さようならッ!!!
桃に鍛えられたお陰でいきなり走っても横っ腹が痛くなりません。
確かな成長を感じます。
そのまま私は鍛えた健脚で華麗にハムうさぎの前から姿を…ってこのハムうさぎ早い!?
「う、うおおおおおお!舐めるなぁッ!!」
もう私はあの頃の私ではないのです。
宿敵にいぢめ抜かれて磨き上げた体力、見せつけちゃります!
あれだけ鍛えてハムうさぎに負けたら私の人生ミジンコですから!
気合を入れなおして、本気の全力疾走で昏い廊下を駆け抜けます。
そして、一番奥の部屋に飛び込みました。
飛び込んだ先の奥の部屋は、一際広く、一際薄暗くて。
隠れるのにはもってこいの場所でした。
ホールの様になっている部屋の、舞台袖の様な場所に身を潜めます。
すると遅れて入ってきたハムうさぎの怪物は、狙い通り見失った様子でした。
そのままきょろきょろと周囲を見渡して、廊下の方へと戻っていきました。
───お疲れ様マスター、良く逃げ切ってたね。捕まってたら数日昏睡だったよ。
「ぜぇえ…はー…ふー……フ、フフフ…舐めるな我が眷属よ…こ、の程度……」
背後のステージにもたれかかって、回復に努めます。
以前なら三十分はその場で動けなかったでしょうが、今なら五分もあれば復帰可能です。
息を整え、夢なのに何故かかく汗を拭った後。
アサシン君の声が、再び頭の中に響きます。
後ろのステージを見る様に、と。
昏いステージでした。それに何だか、辺りの空気がどんよりとしています。
以前は言った桃の夢の中と同じくらい、もしかしたらそれよりも酷いかも。
でも……何だか視線が吸い寄せられます。
───さぁマスター。丁度開演の時間だ。目をかっぽじって。
───ここから先は見逃しちゃいけない。
「目をかっぽじったら見れませんよ!?」
アサシン君と言葉を交わしながら、ステージ全体が見れるように後ろへ下がります。
すると、映画館の様に座席が並んでいたので、そこに腰掛けました。
直後、私が席に座るのを待っていたかのように。
ステージに、変化が訪れます。
ステージの丁度中央に、ライトの光が燈されて。
「Foooooo!!!!」
一番煌びやかなその場所に、彼女はいました。
スポットライトを全身に浴びて、その光の中で、踊り、歌います。
「………!!!」
圧倒、されました。
突然始まったその人パフォーマンスに。
息をのむことしか、私にはできませんでした。
きらきらと、宝石の様に輝いて。
弾ける様な汗と共に、彼女は笑っていました。
私なら、あっという間に息が上がって、へばっているほど激しい動きをしているのに。
でも、何故か。
その人の笑顔を見ていると…無性に悲しい気分になりました。
何故、そう思ったのかは分かりません。
でも、私の目にはその人が。
とても必死そうに。とても、哀しそうに。
無理やりに笑顔を浮かべているような、そんな思いを抱きました。
そして、そんな彼女の笑顔に。どうしようもなく。
「───────」
多分、その時だったんだと思います。
理屈じゃなくて。言葉も出てこなくて。
ゾンビ映画をみたら、倒されるゾンビの方に感情移入してしまう。
ミカンさん曰く感性がずれている私だけど。それでもはっきりと。
☆
その夢は、以前入った私や桃の夢の中とはずいぶん違っていました。
パフォーマンスが終わってからも、ステージは眩しいままで。
まるで映画やミュージカルみたいに。
さっきステージで踊っていた──“
七草にちか”さんの軌跡が伝えられます。
何時もと何だか勝手が違う、とアサシン君に尋ねてみました。
アサシン君が言うには、サーヴァントとマスターはお互いの夢を見ることがあるらしいのですが……
そんな特殊なケースと、私の闇の一族の能力が合わさった結果だと。
アサシン君は、何故か得意げに私にそう語りました。
その話を聞いている間にも、ステージの上でにちかさんの物語は続きます。
彼女は、必死でした。
アイドルの大会で優勝しなければ、夢を諦める。
そんな、厳しくて、お腹がキリキリする条件の中で。
にちかさんは、戦っていました。
───なみちゃんの靴を履いてなきゃ、誰が見てくれるんですか!私の事なんか!
───ただ立ってるだけじゃ、人ごみなんですよ私……!
ステージの向こうの彼女はとても一生懸命で。
とても……苦しんでいました。
アイドルになってすぐ浮かべていた笑顔は、無くなってしまって。
にちかさんが自分を傷つけるような事を言うたびに胸が締め付けられました。
違う。
そんな悲しい事言わないで。
吉田家(ウチ)の様にお父さんがいなくて。
お母さんも病気で。
それでもバイトをしながらお姉ちゃんと二人で支えあって。
さっきは、とても凄い歌とダンスを見せてくれました。
私はライブなんて見るのは初めてだったけど……
それでも、どうしようもなく心を動かされてしまいました。
貴女は、人ごみなんかじゃない。
何時の間にか、唇をかみしめていて。
強く、強く。そう思いました。
そして。
「―――――……い…………
プロ……………てま…………」
“その光景”を見た瞬間。
私のその思いははっきりと、実像を結びました。
「にちか、しっかり呼吸するんだ…!吸って、吐く………落ち着いて、しっかり―――」
記憶の中の彼女は、まるで命を燃やし切った様に苦し気で。
受け止める”彼”も、かつてない程焦燥を露にしていて。
「…………………どんな………かお………」
「無理に喋らなくていい、息をするんだ……!」
息をする事すらままならない、昔の私の様な状態で。
それでもにちかさんは尋ねます。
自分は今、どんな表情でいるのか、と。
「………どんな……かお…………わたし………笑えて………」
「……っ。どんな顔って……苦しそうだよ…………!
――――――けど、笑えてる」
今にも消え入りそうな、心と身体で。
優勝して、もう無理やりに作った笑顔を浮かべる必要も無いのに。
それでも、にちかさんは笑っていました。
「大丈夫だ。しっかり吸って、吐いて、落ち着くんだ……
これでもう……思いきり笑えるんだから――――」
その時の彼女が何を思っていたのか、私には分かりません。
けれど、確かなことがたった一つだけ。
その笑顔は。
にちかさんが身と心をすり減らして戦い抜いた後に手に入れた本当の笑顔は。
絶対に。絶対に。
人ごみなんかじゃない。特別な物でした。
だから。
だから、私は、
「アサシン君」
───何?マスター
「私、この人を眷属にしたいです」
───君もあの自称パティシエの話は聞いただろう?
───この聖杯戦争で生きて帰れるのはたった一人だ。だとしても?
未だ姿の見えないアサシン君は、私にそう尋ねてきます。
でも、もう私の答えは決まっていました。
「だとしても、です。私はまぞくとして欲張りに生きていくことにしたんです。
どうすれば帰れるかはまだ分かりません。でも、あのパティシエさんに土下座してでも帰る方法を見つけて見せます!!」
……この子の分もかい?
「勿論です!私が二人分土下座して聞き出します!!」
───地面にめり込んでそうだね
私だって、それがどんなに厳しい道のりかは分かっています。
でも、厳しいからって降りるつもりは毛頭ありません。
私はいずれ闇の一族の復興を遂げる者。
闇の女帝、シャドウミストレス優子なんですから!
───助けてあげて欲しい、なんて言っておいてなんだけど。
───マスターは、何でこの子を眷属にしようと思ってるの?
同情なら、やめておいた方がいい。
アサシン君のその声は、今迄で一番冷たいものでした。
それは、私を心配してくれているものだというのは分かったけど。
それでも、ぶんぶんと首を振って。
「私は、この人の追っかけまぞくになったんです。今決めました。
この人の歌が聞きたいんです。この人に、生きていて欲しいって、そう思ったんです」
まぞくとして欲張りに。自分に正直に。
この歌声に、消えて欲しくないと。
純粋にそう思ったから。それだけで、戦う理由としては十分でした。
───いい答えだ、マスター。いくら恐怖劇(グランギニョル)とはいっても。
───盛り上げる、音楽(コーラス)が無ければ締まらない。
───ならボクも、君の願いに応えよう。
アサシン君の、その言葉と共に。
部屋の入口に、気配を感じて振り返りました。
そこには、さっきのハムうさぎの怪物が立っています。
その赤い瞳は、じっと私を見つめていて。
身体はさっきよりも大きく、五メートルはあります、成長期?
逃げようにも、此処は廊下の一番奥の部屋で、逃げ場はなく。
まぁ、と言っても。
「シャドウミストレス優子───何とかの杖ッ!ずるい武器フォーム!!!」
逃げるつもりなんて、少しも無かったけれど。
お父さんから貰った杖を掲げて。
私は叫び、そして彼の姿をイメージします。
今の私にとって、一番頼りになる、ひょろりと細長い武器。
───呼べば来てくれるって、言ってましたもんね。
きらりと、手の中の杖が輝きを放ち。
ぴょんと、私の手から飛び跳ねる様に空中へと舞い上がって。
そのカタチを変えていきます。
───HO!HO!HO!
真に遺憾ながら聞きなれてしまった笑い声一つ。
それが響くとともに、杖はすっかり人の形をとって。
私の目の前に、降り立ちました。
シルクハットに、闇色のマント。そして長い手足。
「───お待たせ、マスター。それじゃあ、開演と行こう」
紅と蒼の瞳を煌めかせて。
飛び跳ねる者(スプリンガルド)。
バネ足ジャックこと、アサシン君は。
ゆらりと背の高い木の様に、私の前へと降り立ちました。
それを見た途端、ハムうさぎの怪物の様子が変わります。
警戒と敵意を露わにして。表情は可愛げがあった先ほどまでとは違ったモノでした。
でも、もう怖くはありません。
ハムうさぎが突っ込んできても、怖くはありません。
私を、つい最近体験した浮遊感が包みます。
アサシン君が私を抱えて、目にも移らない速さで跳んだのでした。
そして、その長い腕を振りかざし。
翳されたかぎ爪はきらりと光って───そこに、炎を燈しました。
───HO!HO!HO!
その場に再び笑い声が響き渡り。
ぱっくりと、ハムウサギの体が裂けたのは、その直後の事でした。
一発でした。五メートルはありそうなハムうさぎの怪物が。
アサシン君にかかればちぎ投げでした。
「……この怪物は、この子の嫌な記憶、恐怖や絶望が集まった物だ。
マスターも、知ってるんじゃない?」
「はっ、はい。一度私の無意識の中に入った時に…でも、こんなに大きくは」
「それだけ、今のこの子が助けを必要としてるって事なんだろうね」
その言葉を受けて。消えていくハムうさぎを眺めていると。
何というか…やってみよう、という気持ちが湧いてきました。
私とにちかさんはあったことも無い他人で。
私の様なゲロ弱まぞくがどこまでやれるかは分からないけれど。
二人で生きて帰るために。できる限りの事はしてみようと。
そう、思ったんです。
「さて!この子の事が理解(ワカ)ッた所で、目覚めの時間だ。
そろそろ、お暇しようか。次に会うのは、現実の世界でだ」
「……え?あ!ちょ、ちょっと角ハンドルはやめッ!」
「油を売ってる暇はないのさマスター。彼女と同盟を結べたら次はとびっきりに危険な橋を渡らなきゃいけない」
「え?きけんなはし…?」
「うん、氷の女王陛下と話をしに行くんだ。
切り裂きジャックと決着をつけるのはどの道夜になるしね」
「な、何ですかそれ!?ちょっとぉッ!!」
アサシン君は私の決意なんてどこ吹く風で。
今後の展望を私に告げつつ、雑に私を抱え上げます。
こん畜生、いつか眷属と主人の立場を分からせてやらねばなりません。
そして、色々話したいことも、心の準備をする間もなく飛び上がって。
夢から醒める独特の感覚が、肌を突き抜けていきます。
凄い速さで景色が下へと下がっていく中。
私は最後に、にちかさんの心の中を一瞥します。
よく見たら桃の夢の中の様にヘドロ塗れで。閑散としていて。
とても寂しい場所でした。
でも、それでも。
そんな彼女の心の中にも、輝くものは確かにありました。
「だから……いつまで、なんて言わないでください
此処まで無事でいたことを、間違いなんて思わないで」
私は、闇の女帝、シャドウミストレス優子は。
それだけは伝えたくて。
そして。
少しだけ、貴女の悲しみに寄り添えたら……
桃。
我が宿敵よ。私は頑張るので。見ていてください。
☆
この世界に来てから。
気持ちよく目覚められた日なんて、一度も無かった。
いや、ここに来る以前から。
思えば暫く、安らかな眠りも。健やかな目覚めも無かったように思う。
毎日毎日、バイトが終わった後に、足がもつれるまでレッスンして。
倒れる様に家へと戻り、最低限の家事を手伝った後、泥の様に眠る。
それでも追い立てられるような不安から深夜に目覚めるのはほぼ毎日。
WINGに優勝するまで、アイドルになるまで。そんな日々は続いた。
それでも優勝して──やっとアイドルになった矢先に、私は此処にいた。
眠れぬ夜は、此処でも変わらないかった。
きっと、私は遠からず死ぬのだろう。
私の引き当てたランサーは、お世辞にも強いとは言えなかった。
客が逃げ出すくらい下手糞で、才能以前の問題なくせに、それでも歌が好きで。
弱いくせに馬鹿みたいに自分を信じていて、憎たらしくて、羨ましくて、腹立たしい。
私にとって、彼女はそんなサーヴァントだった。
弱い所だけはいかにも私のサーヴァントだと、乾いた笑いすら出てくる。
雑魚は雑魚らしく、隠れていればいいのに。
今日もこれから懲りもせずに歌を歌おうとする彼女に付き合って。
そして、その内他のマスターとサーヴァントにぶち当たって、あっけなく死ぬ。
死刑を待つ囚人の様な、絶望だけが私の胸にあった。
でも…それでいいのではないかと思っている私がいた。
私は、この世界ではアイドルでは無かった。
283プロダクションは変わらずこの東京にあったけれど。
そこは私の知る場所じゃなかった。
少なくとも、脅迫監禁までしてアイドルになった大馬鹿は所属していなかった。
それが分かったのは“あの人”に会ってから。
そう言えば、事務所はどうなっているのだろうと足を運んで。
私の事を全く知らない様子の“あの人”に出会って。
あぁ、そうなんだ、と。
酷く納得してしまったのを覚えている。
ちなみにお姉ちゃんは休暇を取って旅行に行っているらしかった。
お姉ちゃんは時々突拍子もない旅行計画を立てるため、驚きは無かった。
まぁ、つまり。
私はこの世界ではアイドルではなく、人ごみの
七草にちかとして死んでいくのだろう。
七草にちかの最期としては、お似合いの最期では無いだろうか。
いや、そもそも。
アイドルになった事さえ、もしかしたら夢だったんじゃないだろうかとすら思える。
夢から醒めて。
この世界で何者でもない
七草にちかとして死んでいくのが、本当なのではないか。
そんな気さえしていた。
けれどやっぱり、死ぬのは恐ろしくて。
毎日毎日、目を閉じるのが怖くて。
ガタガタと震えながら、昨日の晩も残り滓の様な眠りにつく。
それなのに。
「アラ!どうしたのマスター!今日は何だかスッキリした顔じゃない!」
「それ、何時もはスッキリしてないって事ですかー…まぁ何だか、今朝は寝起きがよくて」
「それなら良かったわ!それじゃあ今日も何時から何処でライブをするか───」
「はいは~い、まずは朝ご飯摂ってからで~」
いつも騒がしいランサーさんを適当にあしらう。
相談と言っても今日は何処で騒音をまき散らすかという話でしかないし。
買い置きのカロリーゼロのコーンフレッグを安物の皿に盛り、ミルクを注いで。
普段ならけだるい朝なのに、不思議とさわやかな朝だった。
本選に進んだという通達から、死ぬ覚悟が決まったのだろうか。
限りなく後ろ向きな思考で、注ぎ終わったミルクを冷蔵庫に戻す。
今、この家に家族は誰もいない。
私が通っていた高校とも違う、『不動高校』という高校に通うため、姉とボロアパートで二人暮らしの苦学生。
その姉も暫く旅行に行っているため、実質一人暮らしの高校一年生。
それが私に与えられた役割(ロール)だった。
曲がりなりにも偶像(アイドル)に与える役目かと思うモノの、まぁどうせ遠からず死ぬのだ。
他の家族がいないのも、巻き込まれずに済む。
あぁ、何だ。むしろ聖杯は私に気を使ってくれたのかも。
自嘲気味に笑って、用意した食事を運ぼうとしたその時だった。
ぴんぽん、と。
おんぼろなインターホンが、来客を告げたのは。
当然、心当たりのない来客だし。そもそも今はまだ七時前だ。
こんな朝から、人と会う約束をした覚えはない。
ランサーさんと顔を見合わせて、無言のまま玄関へと向かう。
彼女が駆け寄ってきて、背後で身構えるのを感じながら、恐る恐るドアノブを握り。
扉を、開けた。
「あっ!あのあのあの!!
七草にちかさんですよね!!」
立っていたのは、私と同じ年ぐらいの女の子だった。
変な形に膨らんだ帽子を無理やり目深に被って、私を見上げてくる。
───不思議な女の子だった。
初めて会ったはずなのに、彼女と接すると心がひどく落ち着いた。
心が澄んでいくような、不思議な感覚だった。
その感覚から私の意識が戻る前に、彼女は私に何かを差し出してくる。
「あっ、あのっ!私あなたのファンで…!サイン、頂けませんか!?」
それは、何かの学習帳だった。
その白紙の見開きを広げて。
アイドルではない筈の私に、彼女は。
「…………は?」
【世田谷区 アパート/一日目・早朝】
【
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]健康、シャミ子の能力の影響(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]貧乏人
[思考・状況]
基本行動方針:自暴自棄気味
1.……は?
2.生きて帰りたいけど…
[備考]
283プロダクションは存在しますが所属していない設定の様です。
同居人である七草はづきは旅行に行っており不在です。
【
以津真天@太平記(ヨハネの黙示録)】
[状態]:健康
[装備]:スタンドマイク(天秤)
[道具]:なし
[所持金]: 貧乏人
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得?
1. 今日もファンたちに歌を届ける
2. マスター…流石だわ…!
【
吉田優子@まちカドまぞく】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]何とかの杖
[道具]なし
[所持金]貧乏人
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派
1.生きて帰る事の出来る方法を探す。
2.にちかさんと一緒に帰る事の出来る方法を探す。
[備考]
にちかの
夢の中へと入ったことで、彼女についての情報を得ました。
(感覚としてはWING編をプレイした情報量と思ってもらえればいいです)
【
バネ足ジャック(スプリング・ヒールド・ジャック)@史実】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:脱出派
1.取り合えず、夜になるまでマスターが生き残れるように動く。
2.切り裂きジャックは時が来たらボコる
3.にちか主従と朝コミュ後、氷の女王陛下(スカディ)に会いに行く。
[備考]
にちかの
夢の中へと入ったことで、彼女についての情報を得ました。
最終更新:2023年01月14日 12:58